バ艦長
「あー、キャプテンのアナスタシアです。先ほどお送りした内容についてのご連絡とのことですが」
「こちらは今回指揮系統を一任されている軍艦グルーシスの艦長を務めています。アマネ・ミソラと申します。単刀直入にお伺いしますが、今回の作戦に対する不備が多いとのことでしたが詳しくお聞かせ願えますか?」
願えますかじゃねえだろ、話さなきゃぶっ殺すぞてめぇって顔つきで睨んでやがる……。
美人さんだがそれが逆に怖い。
見るからに額に青筋浮かんでるんだもん。
「いや、ほぼ但し書きの通りですよ。ブースター詰んでるけど切り離せるなら爆弾になる。それを承知で無傷で制圧しろと言われても無茶です。しかも相手の懐にどんな罠があるかもわからない。宇宙海賊の拠点ってのは隠し通路とか、数カ月単位で居住可能な隠し部屋なんてのはざらにあるんで」
ゲーム時代には敵拠点制圧なんてものもあった。
この時厄介だったのはトラップと、隠し通路と隠し部屋だ。
制圧したなーと思ったらそこから出てきて蜂の巣にされるやつを何人も見てきた。
まぁさすがに傭兵に乗り込めとまでは命令しないだろうから、今回痛手を受けるのは軍人だけだろうけど。
向こうとて拠点に改築するなら傭兵に情報を与えるような真似はしたくないだろうしさ。
「つまり、作戦は穴だらけで使い物にならないと?」
「言葉を濁さずに言うならその通りですね。見通しが甘すぎるし、罠とかへの警戒が薄すぎる。はっきり言って考えた参謀は僻地に送られるレベルです」
「ふ、ふふふ……その作戦を考えた私の前で僻地送りと言いますか……」
お、やべっ。
やらかした。
口が滑ったわけじゃないけど、本音で話しちまった。
いや、実際作戦が穴だらけだったのは事実だし、杜撰極まりないというのも本当だ。
傭兵なんて肉盾程度にしか使えないと思っての作戦で、本音は軍人として役に立ちたいという所だろう。
ただ如何せん経験不足が過ぎる。
教本頼りというか、そのまんまというか……もっと臨機応変に動けないと宇宙じゃ死ぬんだよ。
「あー、お気に障ったのならいくらでも謝りますがね。流石にこんな作戦に命を懸けるほどこっちも馬鹿じゃないんで。もっと美味いやり口があるぞって上申しただけです。敵拠点に乗り込むのは軍人さんのお仕事でしょう?」
その言葉にアマネ艦長がピクリと眉を動かす。
ポーカーフェイスくらい覚えろよ若手艦長さん……。
「その際に部下が蜂の巣にされようが、敵味方問わず内部から反応弾で大爆発起こして全滅しようが傭兵には関係のない事なんで。なにせ仕事の内容は宇宙海賊の殲滅と拠点確保となっているので半分は達成してますし、そちらの犠牲は知ったこっちゃない。そもそもこれ軍の主計部から金払われる仕組みになっているからあなた方が死んだところでこっちは問題ないんで」
「ほ、ほほう? 大きな口を叩きますねぇ。 ではお聞きしますがどうするのが一番だと?」
「敵拠点に反応弾ぶっ放す」
「それでは拠点も吹っ飛ぶじゃないですか!」
「軍人さん諸共か、宇宙海賊だけかの違いですよ。あんだけデカい拠点ともなれば炉に反物質使っててもおかしくない。というか最低でも核動力でしょうから」
「ぐっ」
「それに敵拠点への攻撃は最小限にってのも杜撰です。奴らの使ってる対空兵器なんか再利用不可能なくらいのゴミですよ? そんなもんのために命をかけろと言われましてもねぇ……。発進口にしたってゴミみたいな設備ですから一から作った方が楽です。わざわざこんな所で拠点を奪取したところで役に立つものでもないですし……もしかして近場でどっかの国と戦争する予定でも?」
「なっ!」
だからポーカーフェイスくらい覚えろって……しかしマジかぁ。
わざわざ拠点なんてもんを欲しがる理由なんてそのくらいしかないんだよな。
どこの国とドンパチやるか知らんが、傭兵を雇っている辺りベルセルクじゃないだろう。
ってことは帝国か宇宙海賊国家か?
どっちでもいいけどさ。
「お……私なら戦争中にハイエナしてくるそいつらを狙い打ちますね。そんで手薄になった拠点にパルス弾ぶち込んで中身一掃したところで戦場で物漁りしてる連中を殲滅。それこそ包囲陣を布いてというパターンを狙います」
「それでは宇宙海賊と帝国に挟まれます!」
「ほー、今回の敵は帝国か」
「あっ……」
「言っちゃ悪いがあんた指揮官向いてないよ」
もうこうなったら怖いものなしだ。
こっちとしては意見具申したら向こうが勝手に機密情報ポロポロ漏らしてきてるようなもんだし。
軍法会議に掛けられたとしても俺の所属は傭兵、つまりは傭兵国家ベルセルクにある。
外国の人間であり、ついでに誘導尋問とかせずに勝手にしゃべったアマネ艦長がアホなだけだ。
「まぁ本題に戻りますが、何にせよ敵拠点は破壊した方が後のためです。どうしてもというならパルス弾大量にぶち込んで中の人間を蒸し焼きにするのが一番ですが、それができない理由があるとお見受けします。どっかのお偉いさんでも捕まったんですか?」
「それは……」
艦長の顔が歪む。
はいはい、やっぱりそう言う事なのね。
今回は人質救出作戦と同時に、あわよくば宇宙海賊の拠点を奪って補給路を作ろうという内容なんだな。
筋書きを考えたのは上層部なんだろうけど、現場指揮官のアマネ艦長がババを引いたという事だ。
もしかしたら全責任を彼女に押し付けてという思惑もあるのかもしれないが、そこに関してはどうでもいい。
「もう全部ぶちまけますが、宇宙海賊に囚われた時点で死んだも同然。無事ことを済ませるには殺されてました、だから報復で反応弾ぶち込んで軍の恐ろしさを教えてやりましたってのが一番妥当なところだと思いますよ?」
「そんなことができるわけないだろ! 姉上を助けるためには……」
「あー、お姉さんでしたか。じゃあなおさらご愁傷様。死ぬよりつらい凌辱の日々でしょうし死んだ方が本人の名誉も守られて幸せでしょう」
「黙れ! 砲兵! あの船に砲門を向けなさい!」
「お? やる気ですかい?」
「ここまで侮辱されて、そのような口ぎきをされて黙っていられると思いますか!」
「思うんだなぁこれが」
そう言って見せたのは懐にしまい込んでいた端末である。
通話状態のまま維持していたのだ。
「というわけで、歩兵隊隊長のアルマさん? どう思いますか?」
「100回軍法会議やってもキャプテンアナスタシアは無罪ですし、逆にアマネ艦長は有罪でしょうね。最低でも禁固刑かと。怒りに任せて部下となる傭兵に砲門を向けろと命令、機密情報の暴露、あと傭兵はベルセルク所属なので戦争誘発の恐れがあるとして最悪の場合は銃殺刑もありえます」
「だ、そうですよ?」
「ちなみにこの音声は既に本国に向けて送信されています。勝てば官軍負ければ賊軍、アマネ艦長。ご決断を」
俺とアルマさんのやり取りに顔色を変えたアマネ艦長。
あのなぁ、いきなりコールかけてくるような相手にこっちが何の準備もしてないわけないだろ。
結んだ縁は使うし、こっちが相応の態度をとるってことはそれだけの後ろ盾があるってことだ。
「ってなわけで、アマネ艦長にはご退場願うのがいいかと思いますがどうします? アルマさん」
「そうですね、彼女にはまだ早かったようです。というわけでここからは私が代わりに指揮を執りますが、作戦についてのすり合わせを再度行った方がいいでしょう。専門家の意見も交えてね?」
専門家ってほどじゃないんだが……俺がまいた種でもあるからな。
「あぁ、ブリッジクルーは全員営倉へ。あなた達は代わりに席に着きなさい。っと、失礼しました。では改めてモニターで応答させていただきます」
「はい、ちなみに通話はこのままでいいですよ。音声本国に送ってるんでしょう?」
「ふふっ、ブラフですよ。流石に今送ってすぐに届くわけじゃないですから。まぁ近場のコロニーには届けてますけどね」
はっ、やっぱり上に立つのはこういうしたたかな人の方がいい。