作戦不備
作戦に従事するにあたっていくつかの注意事項を申しつけられた。
俺達傭兵の仕事は主に最前線で敵を追い込むこと。
当然戦闘が発生するし、その際に撃破するのは一向にかまわないが傭兵同士の揉め事に介入することはない。
つまり横殴りで獲物ぶんどられたとしてもお前らで勝手に喧嘩してろと言う内容だ。
まぁ度が過ぎれば処罰の対象になるとも言ってたから殺し合いにまではいかないだろうし、横殴りは傭兵の間でも特級のタブーだったりする。
要するに相手の獲物を横から奪う行為だからな。
船団を組んで敵を追い詰めるようにしてからというなら常套手段だが、そうじゃない個々人の傭兵を集めた場合は大問題になる。
ゲームでもよくこの手のトラブルはあったから覚えているが、俺の場合横殴りされる前に消し炭にするからあまり関係ないんだよね。
それから万が一こちらの攻撃、流れ弾であろうとも軍に向けての攻撃が確認されたらイエローユニットとして認識するという事。
レーダーではグリーン、イエロー、レッドが基本的な表示方法となっている。
順番に味方、あるいは護衛対象と始まり、同じ敵を相手にしているけど殺しても構わない相手、敵だから絶対に殺せとなっている。
つまりはうっかりだろうと軍に攻撃してくるような奴はぶち殺してもいいよという話になるらしい。
また軍艦に損害を与えるような、例えば反物質ミサイルみたいなもんをぶち込んできた場合は即座にレッド扱いで全砲門集中砲火を覚悟するべしとのこと。
というわけで今回ホワイトロマノフはその辺の反物質系装備を全面封印しての戦闘を決めた。
まぁ主に使うのは副砲と対空砲くらいだろう。
それだけでも十分ハリネズミになれるだけの武装なので落とされることも無いし、敵を倒すのも十分、むしろ主砲とか使うとオーバーキルで戦利品無しなんてことにもなりえるのだ。
「あとはこれが厄介だよな……」
「どれですか?」
「この部分、敵本拠地攻撃になるわけだけど一機も逃さず、本拠地への攻撃は最小限にってやつ」
特殊なジャミングでワープなどは封じるらしいが範囲外に出てしまえば簡単に逃げられる。
それをさせないために軍が包囲網を敷いて、俺達傭兵は猟犬として敵を追いかけて潰すのが仕事なんだろうけれど……流石に数が違いすぎる。
宇宙海賊は装備は大したことが無い。
短期任務遂行がメインで、あわよくば獲物の宇宙船と乗組員持って帰れたらいいなーくらいな扱いだ。
だから逃げ足に特化していると言ってもいい。
それを一機も逃がすなとなると少し難しいのだ。
陽動なんかされてみろ、傭兵は馬鹿じゃないがまぬけが多い。
餌が固まっていればそこに飛びつくことも珍しくない。
だからこそ分散させて配置されているのが渡された作戦図からも読み取れるのだが、それでも敵の配置によっては偏りができて包囲網に穴ができるだろう。
「メリナ、悪いが今日一日部屋にこもる」
「それは構いませんが……軍からの連絡にはなんて応えればいいですか?」
「キャプテンは英気を養っているとでも言っておけ」
「はぁ……」
いぶかしげなメリナをよそに、部屋へ足を向ける。
ふむ、とりあえず図面を見る限り敵本拠地は小惑星……と言っても全長からして10㎞を優に超える人が生存可能な場所だが、こいつを根城にしているらしい。
表面には対空砲やミサイルの発射口が設置され、いくつかの発進口も用意されているようだ。
数は26個、上下左右四方八方どこからでも発進できるように作られている。
そして対空砲はともかくとしてミサイル発射口が厄介だ。
作戦ではこの発射口と、発進口をいくつか軍の戦艦が焼いてから始まるらしいが、そこからして問題もある。
攻撃を控えろと言った理由はいくつか想像できるが、要人が囚われているとかよりも面倒な内容だろう。
そもそも宇宙海賊はそんな身代金目的の仕事をすることはない。
やるなら奪って殺して、たまにやばい物を作って売りさばいてだ。
作戦上完全な包囲が不可能と見なして発射口の8割を焼くと書かれており、残った場所から出てきた船を傭兵が叩くという算段になっている。
けど見落としがあるとすれば……ここだな。
一か所、装備の薄い場所がある。
無論軍も警戒してそこそこの数を配備しているが、そこは緊急時に小惑星を動かすための噴射口が取り付けられた位置だ。
つまりは動力炉に最も近い、あるいは推進剤が多く用意されている場所とみるべきだ。
これが切り離し可能だったら。
噴射口はあっという間に爆弾に変わる。
シールドさえあれば並の船でも問題ないし、軍艦ともなれば直にその爆発を浴びても装甲が少し焦げる程度で済むだろう。
だがそれは船そのものの問題であって、細かな物、例えばレーダーなどの計器は簡単に焼かれる。
そうなったらこっそり逃げ出す奴らがいてもおかしくない。
その事を作戦書に記して次の問題点を探る。
傭兵を固めておいておくのは構わない。
しかし本拠地への攻撃を許さないというのは再利用を考えているのだろう。
宇宙海賊の作る設備というのはお世辞にも使いやすいとは言い難いが、1から小惑星を改造するよりも接収して軍で整備しなおした方が移動拠点としては使いやすいのも事実。
だからこそ適度に壊して、適度に使いやすくするのが目的というのはわかる。
けどなぁ、今回ばかりはそう悠長でもなさそうだ。
調べたところ今回の相手はかなり面倒な、つまりは悪い意味で仕事が得意な宇宙海賊だ。
悪知恵なんていくらでも働くだろう。
もし殲滅を望むなら拠点を手に入れられるかもしれないという期待は捨てるべきというのが持論であり、どうしてもというなら表面を焼いたうえでパルス弾でもぶち込んで中にいる連中にもダメージを与えるべきだ。
パルス弾は主に電気によるダメージが大きい武器で、こいつが直撃したら並大抵の船は一切の操舵を受け付けなくなる。
一発でこれなのだから数発打ち込めばあの程度の小惑星はその機能のほとんどを停止させるだろうし、そんな電気が人体を通過したらと考えるだけでも恐ろしい。
運が良ければ肉片くらいは残るんじゃないかな……。
と、まぁ余計な内容も含めて書いておこう。
いや、重要な事だけどね?
血液ってコロニーや移動拠点といった密閉空間においては最強の感染症の源になりうるから。
最後に今回の作戦における目的があやふやな事。
敵の殲滅、それは書かれている通りなんだろうけど、最優先事項がはっきりしていない。
拠点の奪取なのか、中にいる誰かを助けたいのか、それとも単純に宇宙海賊を殲滅したいのか。
似ているようでどれも違う内容になってくる。
それを書き記した上で、傭兵は言われた仕事をしていればいいというのであれば失敗も視野に入れてもらうと書いておいた。
あとは敵の逃げ道になりそうな場所と、予想される逃走ルート、自分が宇宙海賊の立場なら使うであろう方法と傭兵の動かし方等俺が知る限りの方法を書き記したレポートもどきを用意した。
そんでもってついでに俺が持ってる骨董品レベルの、つまりはゲームで使ってた武器類の詳細なデータと個人的に説明しておくべき注意点、取り扱い方法を含めた愉快な使い道なんかも記載して添付して軍に送信。
これでひとまずできる事は終わりかな。
「アナスタシアさん、軍から絶対に出ろという名ざしの通信ですよー。どうにも今送ってきた物について聞きたいとかです」
……早くない?
送ってからまだ30秒もたってないけど?