臨検終了
「誠に申し訳ございませんでした!」
「流石に気にするなとは言えませんし、物が物だけに今後の入手も厳しい。幸いというべきか非殺傷武器だったのが幸いですね。ただ抗議するほどじゃないとだけは言っておきます」
アルマさんが部下共々本気で頭を下げてきたのでこちらも相応の対応を見せる。
まぁスタングレネード一個くらいなら、と思うけど今後の入手が困難なのは事実なんだよな。
一応その手の武器製造所が船にはあるんだが、稼働させるにも作るにも資材が無い。
そうなってくると適当な惑星やらをスキャンして、お目当ての物質を掘り起こしに行かなきゃいけないから。
そんなことするくらいなら現行品を店で買った方が早い。
「質問を何度も重ねる様で申し訳ないのですが、あれはどういった兵器だったのですか?」
「スタングレネード、光と音で気絶させたり前後不覚にするのが目的の物体ですよ。ちなみに殺傷力のある物だった場合あそこにいた全員が死んでますね。やりようによっては鉄板くらいなら破片が突き刺さる代物ですから」
ちなみに本当にやばい物は酒の裏の棚、その更に奥にある隠し金庫に保管してある。
反物質グレネードとかな。
もしそれが爆発してたらこの船はもちろんの事、臨検で搭乗している船も巻き込んでの大爆発になっていただろう。
なんでそんなものを持っているって?
浪漫だよ、滅茶苦茶高額で使い道がないけど持ち歩いているだけで抑止力になるゲーム内で最強の防具扱いされてた物品だから。
ゲーム内だと、というよりもこの宇宙空間でも一番危険なのは船を降りているときだ。
少なくとも船に乗ってれば相応の自衛はできるが、生身で街中を歩いているときが一番危険だったりする。
上位プレイヤーを狙って暗殺をするような遊び方していた奴もいたから。
その中で一番確実なのは傭兵プレイをしている奴らを一網打尽にする【傭兵ギルド大爆発作戦】だったりする。
文字通り依頼受注ができるギルドを爆破して、中にいるプレイヤーを全滅させる方法だ。
当然犯罪だし、いろんな方面から追われるリスクはあるが結構引っかかる奴はいた。
対処法は特殊なスキャナーで安全確認をするのが一般的だが、そのスキャナーを潜り抜けるものが作られたりと鼬ごっこだった。
最終的に船から直に依頼を受注できるようになるのでこの方法じゃどうにもならない相手もいるが、無頼漢を気取っている奴はよくギルドにたむろしていたからカモだっただろうな。
結局対策として打ち出されたのは反物質グレネードを持ち歩いて、爆破したらコロニー巻き込んで大惨事を引き起こすというものだった。
殺された側は持ってても問題ない武器を携行していただけ、それを誘爆させたやつが悪いという事でコロニーぶっ潰した犯人は初犯であろうともレッドゾーンまっしぐらなレベルの指名手配を受けることになるから。
意趣返しとしては上々でギルド爆破大作戦は下火になっていったな。
忘れた頃にやる奴がいるけど。
「……部下には改めて厳しい教育を施します。またこちらからは謝罪として相応の額を支払う事をお約束しましょう」
「受け取りましょう。代わりと言ってはなんですが、未開惑星で一般的な武器兵器の一覧を後でデータで送ります。注意事項などは手書きになりますがそれは勘弁してください」
「御厚意感謝します。実のところ軍はその手の情報があまり出回っていないので……」
「そりゃ意外だ。危険物に対してはプロフェッショナルだと思っていたんですがね」
「現行品と世代遅れの品に限る、という但し書きがつきます」
なるほど、一般的な危険物に対してなら知識はあるが古すぎる……骨董品レベルとなると流石に知識が追い付かないか。
まぁ銃も爆弾も性能こそ跳ね上がっているが、安全性以外はそんなに変わってないからな。
強いて言うなら今回のスタングレネードよろしくピンを抜くだけで爆発するか、生体認証でボタンを押さない限りは爆破シークエンスに入らないかの違いだろう。
「骨董品なんてのは誰でも使えますからね。例えば普段から持ち歩いてるこれなんかここを押し上げるだけでトリガーロック、おろせば何時でも誰でも発砲できるって代物ですから」
コルト社の中でも特に古い銃を見せる。
ゲーム内では人気の銃だったが、性能はいまいちと言った感じだった。
ただ見た目がね、凄くかっこいいのよ……。
「そんな簡単に……」
「購入だって子供でも何か月かお小遣い貯めれば買えるくらいのもんでした。そんだけ未開惑星は危険が多かったということでもあるんですけどね」
暇さえあればプレイヤーがドンパチやってたからな。
特に犯罪者を追いかける事を目的としたハンターなんて呼ばれるプレイヤーは目標を見つけたらどこでもぶっ放してた。
中には念入りに、子供っぽいアバターで油断させたりしてたな。
まぁAI相手だから騙されることはないけど、ロールプレイの一環だったんだろう。
「……もしですよ? 私達が未開惑星に降り立ったらどうなると思いますか?」
「んー、友好的な態度でいたとしても警戒はされますね。少なくとも武器に近い位置に手を置いておくくらいはするでしょう」
「……そうですか」
「流石にすぐにぶっ放してくるような輩はいないはずですが、歓迎されるかは別問題です。圧倒的な武力を持っているというのはそれだけで恐怖心を煽りますし、仮にそうなったら少数精鋭での惑星降下、国家上層部との密談、衛星軌道にて最低でも師団クラスの艦隊を並べておくといいかと」
そこまですれば大抵の相手は諦める。
ただし血の気の多い奴らは喜んで艦隊に突撃ぶちかますだろう。
俺もやるからよくわかる。
「あとは早々に不可侵協定なり、相互条約なり結んで手出しできないようにするべきですね。双方争いが不利益となるとなれば相手も安心しますから」
あくまでも安心するだけで武器から手を放すことはないけど。
「それと武装解除はさせない事。不安かもしれませんが、未開惑星ってのはたまにとんでもない技術持ってますからね? 下手な要求を突きつけると噛みつかれますよ。私なんかだとこの船一隻でも師団相手に半数は打ち取れます。あとはもう運任せになりますが、私と同等以上の相手がダース単位でいると思っていただければ」
「……つまり武器や船を取り上げるのは悪手ということですか?」
「そうですね。少なくとも傭兵にとって船は家、それを無理やり奪うような真似をすればぶちぎれるでしょう? 未開惑星じゃ自衛は基本ですから家も武器も取られて丸裸にされるくらいなら一矢報いると考える奴がいてもおかしくない。だったらその手のは監視しつつ、政府とかから武器兵器の情報を貰う方が得策です」
「なるほど……貴女の話は本当にためになりますね。謝罪金の他に謝礼金も出すよう上に取り計らっておきます。これを持って臨検を終了、今後の作戦に従事していただきたい」
「喜んで」
思わぬ収入にガッツポーズを決めそうになったのをこらえてアルマさんと握手を交わす。
まったく、なかなか大変だったな。
現在体調不良につき一切の身動きが取れません。
今後急に交信が途絶えた場合は何かあったと思っていただければ幸いです。
多分情報発信が一番早いのはTwitterかと思いますが、ドクターストップかかった場合は活動報告にも記載させていただきます。