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荒事

「……ナンパならお断りだぜ」


 ギルドを出てすぐ数人の男に囲まれた。

 軽口をたたいているが、さてどうやって抜け出したものか。

 メリナがいればパワーと権力でごり押しできたんだがな。

 あいにく船の方で待たせている。

 シールド張ってれば侵入はできないけど、何かしらの方法でちょっかいかけてくる奴がいるかもしれないから見張りと警備を兼ねてな。


「あんたいい船持ってるな。俺のと交換してくれよ、そろそろ年季が来ててな」


「ことわる」


 一言お告げてその場から去ろうとして、肩を掴まれた。

 ……世紀末ヒャッハーな格好とガタイだったが、意外と弱いな……いや、バイオニクスナノマシンで俺が強いのか。


「この状況で断れると思っているなら大したタマだなぁ」


 ねっとりとした視線、そしてか弱いながらも力が込められる手、うーん、面倒だ。


「お前らじゃ使いこなせないし、雑魚だから乗り込まれて一瞬で全滅だろう? そんな奴に船をくれてやるつもりはない」


 まぁどんな相手でもくれてやるつもりはないけどさ。

 政府にデータ取らせたのだって規則とか色々面倒だったから渋々だ。

 打算もあるけど。


「はっはっはっ、良い度胸じゃねえか。少し顔の形を変えてもそのスタイルならお相手願いたいくらいだしちょうどいいか?」


「暴力か? 大好きだぞ、暴力は」


 ニカッと笑みを浮かべてから男の手を取る。

 そしてそのまま、技も何もない力任せの方法でぶん投げた。

 地面はコンクリ……に酷似した石っぽい何か。

 少なくともコロニー内で使われるくらいには頑丈なものだ。

 そんなところに人間を叩きつけたら……。


「ガッ!」


 畳の上での乱取りどころじゃない怪我を負う。

 背骨、あばら骨、尾てい骨、骨盤、その辺りが折れる位の威力はあるわけだ。

 考えてみてほしい。

 2mの高さ+体重+投げた人間の力が加わればどうなるか。

 骨で済めばいい、下手したら内臓にもダメージが行く。

 呼吸できない? 馬鹿を言うな、7割死ぬ威力を持つ。

 のこり3割は運よく、あるいは運悪く生き残ることになる。


「てめぇ!」


 ナイフを抜いたチンピラが突進してくるが遅い。

 ついでに連携もなっていない。

 遅れてから数人が慌ててナイフを取り出したが、最初に突っ込んできた男だけが突出している形になっている。

 つまりは、実質一人ってことだ。


「下ががら空きだ」


 力任せにしてはいけない、人間を真っ二つに蹴り裂ける力があるので加減をしながら股間を蹴り上げる。

 何かが潰れる感触が足から伝わり、そのままクッキーを砕いたような感触に変わった。

 崩れ落ちる男、それを一瞥してからナイフを持った男たちを見れば後ずさりしている。

 一歩近づけば、向こうは一歩下がる。

 そんな攻防戦が続くかと思ったところで一人が懐に手を入れた。

 咄嗟に身をかがめる。

 さっきまで頭のあった位置を光線が通り抜けると同時に、かがめた身をバネに接近して顎を撃ち抜いた。

 パキパキと歯が砕けたであろう手応え、死にはしないだろうけど一生ステーキは喰えないだろうな……。


「まだやるか?」


 拳を鳴らしながら今度は構えを取る。

 俺、知ってる。

 このタイミングでこっちも武器を出せば蜘蛛の子を散らすように去っていくだろうことを。

 ただその代償として取調室に連行されるんだ。

 そう言うフラグがびんびんなんだ。

 さっきからギルド前についている監視カメラがこっちを追いかけるようにして動いているのが音でわかる。

 俺達……途中からは俺をメインに追いかけている。

 つまりはそういう事だろう。


「逃げるなら追わない、だが立ち向かってくるならこうなるぞ?」


 今しがたぶん殴った男の顔面がよく見えるように髪の毛を掴んで持ち上げる。

 俺からはよく見えないが、アッパーで潰した顎と砕けた歯、ぼとぼとと落ちる血液は恐怖心を煽るには十分だろう。


「この……」


 1人の男が自棄になったのか、グレネードを手にした。

 ただの爆弾じゃない、プラズマグレネード。

 それも大型のものだ。

 船内で爆発させ、動力炉に誘爆させればこれ一つで船も沈められる代物であり、コロニー内でなんか使ったら何かしらの異常が起こってもおかしくない。

 咄嗟に男を投げ捨て、グレを持った男に近づいて両手を粉砕すると同時に危険物を取り上げる。


 それと同時だった。


「全部見させてもらったぞ蛆虫共! 神妙にお縄につけ。さもなくばここで射殺する!」


「教官!」


「よくやったカメムシ! 今日から貴様は一人前を名乗ることを許す!」


「はっ! ありがとうございます!」


 ギルドからは武装した兵士達、そしてあの鬼教官が出てきた。

 うんうん、やはり武器を使わなくてよかった。

 だけどさ、何で兵士さん俺にも銃向けてるの?

 なんで俺に手錠かけてるの?

 なんで他の奴らより厳重に、そんで明らかに硬そうな物質で作られた奴なの?


「悪いがお前も当事者なんでな、連行はさせてもらうぞ」


「……教官がそうおっしゃるなら」


「なに、丁重に扱ってやる。貴君ら、そいつは安全だ。そこまでの拘束はいらん」


 おぉ……この人情に熱い人だ。


「お言葉ですがコロニー運営の管轄です。ギルドとは無関係ではないとは言いませんが、こちらで対処する以上この方法が必要不可欠です」


「暴れる口実を作らせたいなら有用な方法かもしれんが、その手の輩は思惑通りには動いてくれないぞ。普通にもてなした方が益のある話もできるだろう。それでもというのならば止めはせん。好きにしろ」


 あ、違うわ。

 ただ現実主義なだけだった。


「そういう事だ。大人しくついてこい」


「あー、船にいる仲間に連絡とっちゃダメか?」


「ダメだ、それはこちらで手配する」


「そうか、その話違えたら……ちょっと怒る」


 暴れるつもりはないのでね。


「……脅しか?」


「いや、怒るだけだって。別に暴れないし何もしない。文句を言って、怒って拗ねて、それで終わり。話すべきことはちゃんと話すし。それに教官、先程までこちらを記録していた映像と音声は提供していただけると考えてよろしいでしょうか!」


「うむ、既にコピーは用意させている。貴君に託すぞ、この隊の長とみた」


「お預かりします。さて、3人は病院へ、1人は取調室、残りは監獄コロニー行きの船だ。全員迅速に動け!」


「「「サーイエッサー!」」」


 これ、またメリナに怒られそうだな……。

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