大勝利
『やばい! 抜かれた!』
警戒はしながらものんびり休憩をしていた俺達の所に突如無線が飛び込んだ。
この声どこかで聞き覚えがあるな……あぁ! 傭兵ギルドで銃の撃ち方教えてやった若造だ。
まぁ初心者なら目先の敵に集中しすぎて抜かれるってのはよくあることだ。
「こちらアナスタシア、対処する」
レーダーを確認しながら敵機の位置を捕捉、割と近いのと味方が密集している場所があるので砲撃はできそうにない。
「どうします?」
「こうする」
機体の角度を微調整しつつ前進、同時に隠し武器の一つであるブレードを展開する。
武器名はコテツ、重量に余裕があるなら積んでおけと言われるブレード系装備の中でも実体剣に分類されるものだ。
特徴としては船の質量と速度で威力が変わる。
最大級の船が最高速でこいつを展開して突っ込んできたら大抵の船が爆発四散するが、あいにくホワイトロマノフは小型に分類されるため大した威力を発揮することはない。
ただしそれはあくまでも通常時の場合であり、何事も例外はある。
「おらよっと」
コテツが敵船に触れると同時に船を旋回させる。
ギャリギャリとシールドを削る音、続けざまに機体に刃が食い込んでいく音と悲鳴が接触回線で聞こえてきた。
最高速を出せず、敵が回避運動を取りながらのろくさ逃げてきているだけとなれば一撃必殺は難しい。
なら削ればいい、コテツの他にも実体剣はいくつか存在するが、その中でもずば抜けた強度を持つのがこいつだ。
無論限度はあるが、敵を削るような使い方をしてもこいつは簡単なメンテナンスで元通り使えるようになる。
予備も持っているし、比較的安価なのも嬉しい所だ。
ちなみに実体剣は全部日本刀の名前を冠しているが、このコテツは新撰組の近藤勇が使った方である。
いわゆる本物のコテツは切れ味が抜群によくて、耐久力が少ない設定なのに対してこっちはその逆だ。
初心者から熟練者まで使える良い武器と言える。
そしてビーム系の剣は基本的にイギリス王室の名前を冠しているのだが、エネルギー消費と破壊力こそ群を抜いているが整備が面倒くさい初心者殺しの武器である。
「はい、いっちょあがり。戦闘中は目の前だけじゃなく周囲にも気を配れよルーキー」
『すまない、次から気を付ける』
「おう、次があるうちに学んでおけ」
「アナスタシアさんも十分ルーキーなはずなんですけどねぇ……」
メリナの小声は聞こえなかったことにしよう。
こっちじゃルーキーでもあっちの世界じゃランカーだ。
とはいえ、そんな驕りが死につながるので気を引き締めておこう。
「さて、そろそろ潮時か?」
「敵機の7割が全損、残り3割も破損しています。あとは殲滅戦でしょう」
「だろうな、流石にこの数はオーバーキルだし」
「いえ、初手の砲撃が一番効いたのでは……? あれが無かったらもっと苦戦していた数ですよ?」
「その辺のマージンとってやってるからオーバーキルになるくらいがちょうどいいんだが、分け前でもめそうだなと思っただけだ。とはいえ俺の取り分は少なくないだろ?」
「えぇ、初手の砲撃でかなりの数を潰したようです」
コンソールに表示された宇宙海賊の賞金額を見ていくと半分以上は最初の砲撃で消え去ったようだ。
この辺は撃墜記録として機体に自動的に登録されるようになっているのでありがたい。
「ついでにルーキーの練習にもなった、俺等も懐が温かい、ギルドの覚えもよくなったと得したな」
「その分また国のお偉いさんから目をつけられるでしょうけどね。少なくともあんな狙撃ができるとか反則です」
「これは純粋な技術と技量だから。できる奴探せばいるだろ」
「まぁ……でも持っている兵装が問題ですよ?」
「だからそこも解析させてある。つまり俺に眼をつけている連中はいい顧客になりそうだという事だ。ただ軍からのお誘いは断れよ? 軍属になる気はないから」
「それは契約書で拒否しているので大丈夫です。強いて言うなら義勇兵としての参戦くらいは求められるかと」
「金になるなら参加する。ならないなら参加しない。それだけだろ? なら問題なし!」
適当に買ってきたオレンジフレーバーのジュースを飲みながらもう一度レーダーに視線を移す。
残りの敵も消えていき、こちらの損耗は軽微。
というかむしろ皆無と言っていいほど被害が出ていない。
せいぜいがちょっと被弾しましたくらいなもので戦闘に支障のないレベルだ。
あのルーキーがやらかした事を除けば大勝利と言っても過言ではないだろう。
「さて、じゃあとりあえず帰るか」
「ですね。これ以上の仕事はなさそうですし記録だけ取ったら撤収しましょう……とか言ってたら最後の一機が落ちましたね。作戦終了です」
「よし、機体反転。コロニーに向けて帰還だ」
長い入港列に並ばされる前にな!