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超長距離射撃

 なんやかんや雑談をしながら一通りの生活必需品の準備と、船内環境の整えが終わったので一服しながらコックピットでくつろぐ。

 今まで生活してきた部屋丸ごと船に乗せるとかできるもんなんだなぁ……。

 たしかにホワイトロマノフの私室は簡素なベッドとテーブルと椅子が一組置いてあるだけでくつろげるとは言い難い空間だったが、まさかスペース的には問題ないという理由で一晩できっちり組み換えを終えてくれるとは思わなんだ。


 なおその一晩は俺もメリナも適当なホテルで過ごしたが、特に何もなかった。

 そもそも手を出す気はないというのが本音なんだけどな。

 なんというか……向こうはバッチコーイな感じなのが逆にこっちのやる気を削ぐ。

 そして未成年というのもあってちょっと抵抗がね……。


「さて、久しぶりの愛機なわけだが今回は簡単に慣らし運転だ」


「はぁ、その割には大掛かりな仕事に見えますが?」


 既にコロニーを出て宇宙空間を航行している俺達、仕事は既に始まっている。

 周囲には艦隊とも呼べる量の船が隊列を作っていた。

 今回の仕事は単純明快、宇宙海賊の巣を潰すものだ。

 はっきり言ってホワイトロマノフの火力なら一隻で殲滅することも可能……らしい。


 らしい、というのはあくまでもメリナの主観であり、ゲーム時代の事を考えると安全マージンがとれていないのだ。

 具体的に言うと死にはしないだろうけれど痛手を負うレベル。

 手痛い反撃というのは結構あるものでなぁ……あいつら非合法の武器とか平然と使ってくるからこっちのシールド、イースターエッグだろうとぶち抜いてくることがあるんだよ。

 当然普段は使ってこないんだが窮鼠猫を嚙むとも言う、あるいは鼬の最後っ屁か?

 ともあれ鹵獲できないならぶち殺せが基本な連中だ。

 こちらも相応のマージンを持っておかないと命がいくつあっても足りない。

 俺はあくまでも上位ランカー扱いされてただけの配信者であり、格闘技の選手だった。

 それでも船が使い物にならなくなるという事態は多発していたのでまともな方法で挑むつもりはない。


 常に策を練り、相手の意表をついて、想定外の攻撃を加えつつ防御は堅実にというのが基本だ。

 毎度毎度トップを走ってたアホとは違ってこちとら普通のおっさんだったからなぁ……ちょっと動体視力がいいだけで。


「でもコロニーの近くに潜伏しているものなんですね」


「そりゃ職場は近い方がいいだろ? あいつらも撤退時なんかは欺瞞で迂回したりしてくるが攻める時は一直線だ。どこがどう狙われたか、そういう情報を持っていればある程度は予想できる」


 そして予想されやすい事を知っている連中なんかは複数の拠点を持っている。

 転々とするか、あるいはチームをわけるかといった方法を使うがそもそも資源の無い連中だ。

 そこまでの規模になると軍隊の出番となる。

 俺達のような傭兵だけで済むというのは小さい仕事と言って差し支えないだろう。


「あー、全艦に通達。こちらホワイトロマノフ艦長、アナスタシアだ。先のブリーフィングで話した通りこれより単独行動に入る。各種センサーから目を離さずタイミングを揃えて突撃してくれ」


『了解だ子猫ちゃん』


『今度お茶でもどうだい?』


『宇宙の塵にならないことを祈っておいてやるぜ』


「子猫はやめろ、背筋に鳥肌立ったわ。あとお茶はうちの可愛いオペレーターとするから断る。以上、通信封鎖。システムアナスタシア起動」


「システムアナスタシア、起動完了しました」


 通信を切ってから指示を出すとメリナが即座にステルスシステムを発動してくれた。

 傭兵ってのはなんとも品が無いというか、逆にらしいというか……。


「それにしても、自分の名前をシステムに組み込むとかなかなかのロマンチストですね」


「あ? あぁ、逆逆。俺の名前がシステムにあやかってるの」


 ついでに言えばその伝説に。

 アナスタシア・ロマノフ。

 ロマノフ王朝において最後まで行方が分からなかった女性だ。

 その逸話は遺骨が発見されたことで崩れたが、システム的にはあやかってあらゆるセンサーに反応しなくなるというものがある。

 これは光学センサーや熱源センサーはもちろんのこと、目視もできないようになる。

 つまり完全なステルスなわけだが、問題が二つあった。

 一つはラスプーチンという規格外な装備を持ってしても継続可能時間は1時間と言ったところだろうか。

 つまり普通のエンジンでは数秒で露見してしまうという事。

 もう一つはシステム強制解除、つまりはエネルギーを使い切った場合一時的に航行不能で戦闘も不能となってしまう。

 並大抵のエンジンではまともに使えないというべき武装なのだ。


 ちなみに俺がその名にあやかったのは生存説の方にである。

 生き残ってどこかの国へ亡命していたのでは、といった話まで出てくるほどだった彼女のしぶとさに惚れ込んだと言ってもいい。

 まぁ、入れ歯をして写真を撮ったりとなかなかユニークな人物だったようだが……。


「時間が無い、さっさと始めるか。目標を射程内に収めつつ微速前進」


「微速前進。……って、これロックオンしたら狙ってるのばれますよね」


「そりゃそうだ。だからこうする」


 コックピットシートの真上についているカメラを手に取り、トリガーに指をあてる。

 何もロックオン以外が敵機撃墜の方法じゃない。


「主砲、構え」


「え? あ、はい。構え」


「進路そのまま、一ミリも機体を傾けたり逸らしたりするなよ……今!」


 引き金を引けば後は簡単、大質量の反物質が砲撃として放たれた。

 そして宇宙海賊の巣と思われる小惑星……と言ってもコロニーサイズのそれを貫通してぽっかりと穴をあける。

 同時に後方から他の傭兵達が群がるようにして突撃していくのをシステムを解除しながら見守った。

 俺の仕事は最初の一発、あとは火力過多のため後方待機である。


「え? 今なにしたんですか? 目標をロックオンせずに……」


「光学スコープを除いて、自分の眼で照準合わせて撃った。少しでも機体がブレると当たらないから結構大変なんだが、ナイス操舵だ。メリナ」


「あ、ありがとうござ……いやいやいやいや、このクッソ広い宇宙で、距離にしたらコロニー何千周するような所を、ここから見ても豆粒程度でしかない的に一撃ってどういうことですか!」


「このくらい出来ないと良い事も悪い事もできないからな。なかなか大変だぞ? 法のグレーライン突っ走るのって」


「グレーなところに足を踏み入れないでくださいよ……」


「ま、こいつは長距離戦に向いてる分近距離はそんなに強くないんだ。死ぬ気で努力して身につけた技の一つだな。他にもあるがお披露目は今度ってことで」


 次々と逃げ出しては撃ち落とされていく宇宙海賊を見ながらお茶を一口。

 いやぁ、いい仕事したもんだ。

 腕も訛ってなくてよかったぜ。

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