宇宙での稼ぎ方
一通り兵装の話をしてからメリナと買い物に行くことになった。
主に生活必需品と、船の内装として足りないものだ。
「濾過装置はさすがに旧式というか、化石みたいなものですね。これじゃ長期間の航行には耐えられないです」
「そうなのか?」
「えぇ、ワープ系統のドライブなんかは高性能ですが長期間補給無しとなると濾過装置が生命線ですから。文字通りの意味で」
それはそうだ、人は水を飲まなければ生きていけないのだ。
他にも衛生面という心配がある。
結局のところ人は何かをするには水が無ければ生きていけないのである。
そもそもの話ゲーム時代は濾過装置なんてものは内装システムに無かったからな、当然のごとく俺は知らなかった。
「あとはお風呂ですね。トイレには気を向けたのに何でそっちおろそかにするんですか」
「そんなに悪い品じゃないと思うが?」
「あれも化石ですよ? 少ない水で全身くまなく綺麗にしてくれるお風呂を用意しなきゃ」
「そんなのがあるのか」
ホワイトロマノフにのっていた風呂は普通のバスタブだ。
ジャグジー付きでいいものだと思っていたが、どうやら旧世代の遺物レベルらしい。
「ふと思ったが、その辺の物って博物館辺りに売りつけられないか?」
「できなくはないですね。この手の品を今更作るのも手間ですし、再現にすぎないという意味では味気ないですから。現役で使用されていたというのもセールストークになるでしょう」
「じゃあ取り外した風呂と濾過装置は貨物室にぶち込んでおくことにしよう。引き取ってもらうよりは有用だろ」
「ですね。けど……」
「どした?」
メリナがなにやら考え込むように顎に手を当てた。
「傭兵らしからぬ稼ぎ方だなと思いまして」
「あー、まぁ普通は宇宙海賊相手にドンパチが基本だしな。それがスタンダードであり、一般的だと思われがちだが宇宙での稼ぎ方って結構色々あるんだよ」
「そうなんですか?」
「あぁ、まず御存知の傭兵。さっき言った通り宇宙海賊とか、たまに軍の依頼で敵対国家との戦争に参加。あとは軍人相手の模擬戦なんかがあるな」
俺の言葉にうなずきながら端末をいじり始めるのはメモを取っているのだろうか。
模擬戦というのは二種類の理由があり、傭兵といういざという時の戦力がどれくらいなのかを図るという意図。
もう一つは宇宙海賊相手を想定、あるいは傭兵が稼げなくなり宇宙海賊になった時の対処法を学ぶためのものだ。
「次によくあるのはハイエナと呼ばれる行為だが、戦場跡地で残骸から使えそうなパーツ引っこ抜いて売りさばくこと。意外と金になるし、技術があれば手間もそんなにかからず安全な仕事だ」
「あまりお行儀のよい仕事とは思えませんね……」
「まぁな、遺体を保管して遺族に高値吹っ掛ける奴もいる。ただやってることはデブリ帯で鉱石採掘と同じようなものでこれ以降の内容に比べたらまだ大人しい」
「えぇ……?」
「これは犯罪だが宇宙海賊行為なんかがそれに当てはまるな。バレなきゃいいんだから適当な船をぶっ壊して通信できない状態で皆殺し、そんで貨物を丸々頂いてとんずら。当然足がつかないようにブラックマーケットとか使わなきゃいけないしリスクもデカいがリターンもデカい」
ちなみに俺はこの手の仕事は一切してこなかった。
ゲーム時代でも宇宙海賊行為はリスクがでかすぎたし、それ以上に各種派閥からの依頼が受けられなくなったり、クルーの友好度が下がり敵対関係になったりとデメリットが多すぎた。
「それは……」
「ちなみにこれとハイエナを掛け合わせて自作自演なんかもあるが、貨物を売りさばくよりローリターンだったりする。まぁ撃墜記録をどうやって消すかが問題だけどな」
船には基本的にどんな相手をロックオンして、どんなタイミングで射撃したのかという記録が残る。
それがすっぽり抜け落ちているというのは不自然極まりないので、ハッキング系の技術ツリーを伸ばす必要があった。
俺はほどほど、せいぜいが電子キーを解錠するのが精いっぱいでそこまでのスキルはない。
ちなみにちょっと試したがメリナの部屋のロックは簡単に解除できた。
後で死ぬほどぶん殴られたが。
「あとは救助と宝探しだ」
「救助は分かりますけど……宝探し?」
「あぁ、宇宙空間には乗組員が何かしらの理由で全滅して漂っている船というのがある。俗にいう幽霊船だが、これは法律上でも発見者の好きにしていいと言われているのは知っているな?」
「はい、法的には乗組員の死因に直接関与していない場合。そして内部トラブルを解決した場合はその船舶、あるいは貨物を自由にしていいという取り決めがあります。ただし病気などの理由で遺体を自身の船内に持ち込めない場合を除いて犠牲者の保護は必要になりますが。あとその場合は船舶の破壊も同様です。記録を取ってから破壊することが義務付けられてますね」
「そういった船を探す方法があってな、まぁこれは経験がものをいうんだが基本的に船団や個人旅行船、クルーズ船なんかの航路を探って行方不明になった船を探すんだ。そんで中から貨物なりを頂戴して、問題ないなら船ごと曳航するなんてこともある。メリットとしては儲けが一番でかいこと、デメリットとしては妙な病原菌を船に持ち帰ったり危険生物と戦う事になったりと最高に危険だという事か」
「そんなに危ないんですか?」
「あぁ、ぶっちゃけるなら軍隊くらいならこいつ一隻で簡単に対処できる。宇宙怪獣なんかが数百万単位で襲ってきても逃げるだけなら簡単だし、破損前提なら潰す事もできる。けど乗り込む時は生身だ。船外服を身にまとって消毒をしたところで気休めにしかならない場合だってあるし、小型宇宙怪獣なんかの巣になったアトラス級に乗り込むとか自殺と変わらん」
「それは……たしかに」
「他にもいくつか稼ぐ方法があるが、それはおいおいという事にしておこう。それより腹減ったしなんか食おうぜ」
「そうですね。この先に美味しいお店があるのでそこで食べましょう。いいフードカートリッジ使ってるみたいですよ」
「そりゃ楽しみだ」