ディストピアの取引なんてこんなもんよ(偏見)
ハンガーに到着したという表示が部屋のモニターに映し出されると同時にインターホンがなった。
それに応じたのはメリナ、一方で俺はソファーに寝転がっていた。
「ちょっとはシャンとしてくださいよ……」
「いーのいーの、通しちゃって」
「はい……」
メリナが不機嫌そうに唇を尖らせる。
こういう所は歳相応と言った感じだな。
「よーこそ、悪いね。寝坊しちまって」
「いえいえ、こちらも良い取引ができるという事なので多少の無礼は目を瞑りますよ。多少はね」
「おいおい、履き違えるなよ? 主導権はこっちにあるんだ、お前らに売る必要はないんだぞ?」
ピクリと、入ってきたおっさんの顔が引きつる。
この程度の口プロレスで顔をしかめるとかまだまだだな。
「とりあえず後ろにいる物騒な連中はさっさと部屋から出てもらおうか。光化学迷彩か? あとあんたも懐の物騒な物をテーブルに置きな」
「……わかりました」
「聞き分けのいい取引相手は好きだぞ、おっさんは嫌いだが」
「随分嫌われてしまったようですね」
「そりゃ嫌いにもなるさ。足元見てくる取引相手なんかな」
金額で見ればおっさんが提示してきたのはかなり、というか控えめに言っても冗談みたいな金額だった。
悪い意味でな?
ゲーム内でその技術を売り買いするなら桁が三つほど違ってくる。
そこを突いて、ついでに条件も上乗せしてようやくトントンといった状態。
だというのにやばげな武装集団を引き連れてきた。
見えなかったけど気配はあったし、衣擦れの音とかが結構しててすぐにわかった。
戦闘のプロかもしれないけど、隠密に関しては素人同然の相手だから助かったわ。
多分私兵とかそういうレベルなんだろう。
軍を大っぴらに動かせるほどの立場じゃないのか、それともそこまで話が行っていないのか。
恐らくは両方、立場が弱くて手柄が欲しいから焦ったというのが正しい見方だろうな。
「で、金は用意してきたんだろうな」
「こちらに」
用意されたのは一枚の紙に見える代物、小切手のように使える電子マネーカードだ。
「メリナ、ウィルスチェック」
「え?」
「いいから早くしろ」
軽く指示を出すとメリナはマネーカードをチェックし始めた。
そしてすぐに顔色が変わる。
「追跡ソフトにトロイ? それにこれは……どういうことですか、ミヤガさん」
このおっさんミヤガって言うのか、覚える気はないけどいざという時の切り札になりそうな情報を貰えたな。
「さっきの言葉そのままお返しするぞ。多少の無礼は目を瞑ってやる。だがこれはどういう事かな?」
「……………………」
「沈黙は肯定と見なす、それが俺達のやり方だ。額で煙草吸うコツを教えてやろうか」
懐から銃を取り出して突きつけると面白いように脂汗を流し始める。
最初からバレバレな行動をとっているからそうなるんだ。
信用ってのは大切だからなぁ。
「いつから気付いてましたか」
「最初から。これから商品売ってもらおうって相手にメールボムぶちかます間抜けが、私兵をぞろぞろ連れていた。私兵なんだろうけど急遽用意したであろう光化学迷彩で姿隠しながら入ってきた。挙句の果てにこんなもんを仕込んでた。メボムの時点であんたの底は知れてるんだよ」
「ぐ……」
「あとな、私兵を連れているのはおかしくはないがこっちがそれを指摘した時に狼狽しただろ? それが馬鹿なんだよ。相手がどんなのかわからないから警戒していますって伝えればこっちだって納得した。その程度の事もわからない奴相手にまともな取引ができるとは思ってない。つーわけで、今回はご縁が無かったという事でお帰り願おうか」
「……よろしいのですかな? 私を追い返したとなればあなたは危険人物として扱ってもいいと」
「そんな指示はないだろ? なにせこの話はあんたの所で抑えようとしているはずだ」
「なにをばかな」
「奇麗に隠れすぎているんだよ、この一件。俺が傭兵になった時も話題に上がることはなかった。見慣れない女が街中散策しても誰も噂をしていない、どころか見知らぬ船が入ってきたなんて情報も出回ってないんだ。どこかでストップかかっていたのは簡単に見抜ける」
まぁメリナに頼んで色々探ってもらったのもあるけどな。
俺一人じゃここまで確信もって動くことはできなかった。
「解ったらさっさと帰って上に話し通してこい。自分の出世目当てで独断行動して相手の機嫌損ねました、尻拭いお願いしますってな」
「……では、こうしましょう」
おっさんが指を鳴らすと同時に部屋に設置されていた防犯機器、銃火器の全てが俺とメリナに銃口を向けた。
「多少の無礼は目を瞑ると言って、大人しく帰ればそれでよしと思っていたんだがなぁ……」
「そうはいかないものでしてね、こんな失態がバレたら上になんと言われるやら」
「上ってのはどっちの上だろうな。政府か、それともあんたの裏の取引先か」
「はてさて、なんのことでしょうか」
「メリナ、さっき見つけたソフトにあった言葉濁したやつ。正規品じゃないだろ? 恐らくは宇宙海賊がよく使うようなハッキングツールの……あー、なんていうんだ? バックドア? そういうの仕込むやつ辺りか?」
「いえ、もっと直接的なものです。こちらの情報や金銭の諸々が勝手に流れるような類のもの、当然禁制品です」
「マジか、そこまで思い切ったってことは遠からず始末する気満々だったわけだ」
「でしょうね、このやり口からしていつ消されてもおかしくなかったと思いますよ」
「で、この対応と来れば……やっていいよな」
「証拠は全てそろっています」
「そうか、じゃあひと暴れしようかね」
こちらを向いた銃口、それが光を放つ前にソファーごと床に伏せ、防御態勢を取った。
メリナも家具を盾にいつでも応戦できるように身構えたようだ。
まったく、退屈しないな!
新作投稿しました!
今回はホラー、今年はいろんなもの公開していきますぜ!