プロローグ2
「シーカー! ワンツースリーってな!」
中型船の武装は思ったよりも充実していた。
ミサイルポッドが4門、うち1つは少々トラブルを抱えていたので問題がなさそうなのだけを使う。
他にもレールガンや対空タレットもあったが流石に旅客機の近くでぶっ放すには物騒すぎる物体である。
レールガンの余波ってのは結構馬鹿にできないもんで、宇宙空間で飛び回るためにデブリやらから船を守るシールドを数発でぶち抜ける威力の弾丸をぶっ放す物体だ。
既にそのシールドをはがされてブリーチング……どてっぱらに穴あけられている船の真横で撃ったらクライアント諸共旅客機もドカンである。
対空タレットは今発射したミサイルなんかを迎撃するためのものだが、これも四方八方についているので操作を間違えると旅客機に風穴を開ける事になるし、ついでに音速で飛び回るデブリと大差ない質量なので文字通り豆鉄砲でしかない。
宇宙海賊と違ってこっちは命が惜しいんでね、いつ暴発するかもわからない武器なんかおっかなくて使えたもんじゃないから安全第一で。
「しっかし……動きにくいな」
今しがたこさえたばかりの死体の山、艦内で発生している疑似重力のおかげで血が飛び散ることはないが計器かシステムの一部がいかれているのか少々身体が重い。
ついでに銃火器の整備がお粗末な連中の船なんてのは言わずもがな、動いていることが奇跡のレトロカーみたいなもんなので慎重に扱わないとどうなるかわかったもんじゃない。
デカブツのくせに滅茶苦茶繊細な動きが要求されるのだ。
クライアントの意向に従って同乗する形になったが……こんなことなら自前の船で護衛してればよかったな。
「お、意外といい動きするじゃないのやっこさん」
2機は潰せた、しかし1機は撃ったシーカーミサイルの網を潜り抜けこちらに接近してきたのである。
見たところ武装は平均的なビーム兵器が3丁、非実弾兵器は何かと便利だ。
実弾兵器と比べて弾薬が不要、シールドを飽和させやすい代わりに船体の装甲を焼くには少し物足りない、それでも当て続ければいずれは爆発四散させられる代物だ。
それを三つも持っているという事は客船のシールドを飽和させる切り込み隊長的な立ち位置だったんだろう。
捨て駒に乗らせるにも船は貴重だからな、使うならあんな上等な装備は与えない……と言ってもやっぱあれも整備不良で本来のスペックの3割も発揮できてないが。
「ほらよ、プレゼントだ」
ミサイルポッドに新たな弾薬を装填する、先程までの敵味方を識別して追いかけてくれる―――ちょっとした細工で簡単にその識別の書き換えもできる位にはセキュリティが甘かったが―――ようなものと違ってただ直進するだけのものだ。
ついでに信管も不活性にしてあるそれを二発撃ってやれば大きく迂回して回避行動を見せた。
気付いたように船首をこちらに向けるがもう遅い、ワンテンポ遅らせて撃った一発がシールドを貫き、そのまま船体をスクラップに変えた。
離れた位置にいたなら爆破させても問題なかったけど、この距離だと危ないからな。
それに客船を盾にされたりしたら面倒だったが直情的な馬鹿で助かった。
「さて、あとは星系軍のご到着をゆっくり待ちますかね」
ヘッドショットぶちかました宇宙海賊の懐から煙草とライターを取り出して一服、現役時代じゃ考えられなかったがSF世界の煙草は便利でいい。
依存性は薄く、精神安定作用があってタールで歯が汚れることもない。
仮に何かあっても医療用ポッドに入って数十分もすれば奇麗な肺に元通りとくれば愛煙家のパイロットが多いのも納得というものだ。
「っと、のんびりしてたら戻れなくなっちまうな」
血だまりに吸殻を投げ捨て、なかなか質のよさそうなライターをポケットに突っ込んでその場を後にする。
ゆっくりと、なんて言ったが客船に戻ったらクライアントからのお説教とブリーチングでぶち空けられた穴の修復作業が待ってるんだろうねぇ……やっぱ自前の船で来ればよかったわ糞が。
「アナスタシア! まだ終わらんのか!」
あぁ、もうほら、クライアント様のお怒りの声だ……万が一負けてたら今の声にぶちぎれた宇宙海賊が乗り込んでその頭ふっ飛ばしてるぞ馬鹿野郎。