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チェスボクシング未経験

「さて、説明してもらおうか」


 俺の前でジョッキ片手に凄んでくる無愛想、同じくジョッキ片手にそれを聞いているがこっちに来てから支給された端末でゲームをやりながらである。

 いやこれハイテクだな、性能だけで見ても地球にいた頃使ってた100万単位のゲーミングPCより上だわ。


「おい」


「あ? あぁすまん、聞いてなかった」


「お前……」


「美味い酒、美味いつまみ、仕事は上々、ついでに面白いゲームを見つけたとなればそりゃ気も散るさ」


 なお酒と言っても身体に毒になるようなものではない。

 ナノマシンで酩酊感を演出するだけのもので未成年でも注文可能、またこちらの意思でいつでもその感覚を解除できるし最長で10分もすれば素面に戻るドリンクだ。


「……ならもう一度言ってやる。説明しろ」


「なにを?」


「全部だ! あの状況、いつからそれを知っていたか、どうやって撤退させたか、全部だ!」


「あー……面倒だな」


「その奇麗な顔に穴をあけられたいのか?」


「お? 奇麗って認めるのか? お前の好みのタイプだったりする? いやー、ごめんな、お前好みじゃないんだわ」


「ぶっ殺す」


「やるか?」


 ガシャコン、という音を聞いてそっと座りなおす俺達。

 ダメだな、パブロフの犬になってる。


「で、どうなんだ」


「順番にこたえるとするならいつからという質問になるが、最初から怪しいとは思っていた。愛機ではない出撃、まずこの時点でおかしい」


「おかしい?」


「あぁ、これから活動するにあたって自分と愛機の実力を見るというのが合理的だ。だというのに向こうが用意した機体、ジェネレーターの交換は不可能、なら必然的に武装も限られスラスターなんかもいじる余地はない。そうなると別の状況を想定していると考えるのが普通だ」


「確かに……」


「ついでに受付のお姉さんの言い回し、敵を倒すだとかあの辺も引っかかっていた。というよりもあの説明で確信したと言ってもいい。恐らく傭兵に仇成す存在、もっと広義の言い方ならば一般人にとって不利益な存在になった場合の危険度を図るという意図があるんじゃないかと思ったね。要するに宇宙海賊落ちってやつだ。金のない傭兵にとって一番手っ取り早く金を稼ぐ方法は商船だのを襲う事だからな」


「だがそんな事をするつもりは……」


「お前に無くても前例さえあれば警戒する、それが国家であり組織だ。私達がどれだけ危険なのかを知っておきたかったというべきだろう。特に同期の二人が組んだ場合の危険度、今回は敵殲滅こそできなかったがその6割を撃破して撤退に追い込んだ。たったの二機でだ。片方は馬鹿だがもう片方は頭が回るうえに小細工もできるとなれば危険度は跳ね上がるだろう。想像通りならこの後同じようなシチュエーションでもう一戦、最後に愛機を使った状態で二戦してからまともなシミュレートをさせられるだろうさ」


「まともな……っておい、誰が馬鹿だ!」


「この程度の事にも気付けず目の前の敵と言われた相手だけをぶち殺そうとする馬鹿の事だ。私はそれも読んだうえでミサイルなんて弾数制限のある武器を選んだ。機体特性も確認したうえで使える手段を全て使って、そしてやりとげた。危険度をランク分けするならお前は中堅か上の下、操縦技術も狙撃技術も大したものだがそれだけだ。対する私は最上級の要注意人物、裏を読み、敵も味方も利用して最大限の成果を出す。危険だが手元に置いておきたい人材として見られるだろう。お前も別の意味で手元に置いておきたい人材だろうから船が全損するようなことがあっても傭兵ギルド側は最大限のフォローをしてくれるだろう。多分船と武装の貸し出しくらいまでなら融通してくれるだろうさ」


「くっ……」


 ギルド側としても腕が立つ傭兵に落ちぶれられても困るだろう。

 ましてや、そんな傭兵がはした金で宇宙海賊や犯罪者の仲間入りしたなんてことになったら面目丸つぶれだ。

 だったら船の一隻や装備なんてのは安い投資、むしろ利子だのを考えれば大きなリターンが見込める美味しい話だ。

 そう考えると大型ブラスターもろくに撃てなかった少年なんかは何かしらの方法で才能を見出された可能性もあり得るな。

 白兵戦は傭兵の好むところじゃない、むしろ可能な限り避けるべき分野だがどうしても必要な事もある。

 そういう有事に備えた訓練でもあるのだろうけれど、あれはいくらなんでも貧弱すぎた。

 だというのに講習参加を認められているのは、そういう事なのだろう。


「もし」


「ん?」


「もしお前が自前の機体を先の戦闘で使ったらどうなっていた」


「3秒、お前諸共敵が全滅するまでの時間だな。ただあくまでも自分で禁止している武器を使った場合の時間でまともにやり合って……30分くらいか?」


「なぜ使わない武装を乗せている」


「そりゃ企業秘密だ。教えてやる義理もない。ただ言えるのは副砲ですらお前が使ってた光学兵器よりも高威力で連射可能だぞ」


 船に積んである副砲は大口径光学銃、ダンゴムシが乗せられるクラス4のものと比較するなら最大クラスの5を飛び越えて8くらいの数値に達するだろう。

 その辺纏めてクラスEXなんて呼んでいるからややこしいが、EXなんてのはふり幅がでかいからな。

 主砲は間違いなくEXの中でも上位に入るようなものだろうけれど、こっちは威力を絞らないと使いにくい。

 最大火力ぶち込んだりしたらアトラス級とか言われるような、コロニーよりでかい戦艦も一発で消滅させられる。

 ちなみにジェネレーターであるラスプーチンや封印しているワープビームなんかと同じくユニーク装備だ。

 破壊力の身を探求した物品を改造して無段階制御が可能、最大出力でなければ連射もできるようにした。

 はっきりいってインチキ装備である。

 当然そんなもん全力でぶっ放せば一撃であの群れも大半が消し炭になるだろう。


「……やはり金持ちの道楽か」


「ちげーよボケ、こちとら未開惑星出身者だ。それだけ覚えておけ」


「……という事はオーパーツや遺物の所有者なのか?」


「さぁな、それも教えてやる義理は無い。ただ一つ言えるのは馬鹿なこと考えた瞬間」


 けたたましい音と共に背後で爆発音がする。

 ちらりと視線を向ければ受付のお姉さんがブラスターをぶっ放し、それがすぐ近くの席で物騒なものを取り出そうとした奴の腕をふっ飛ばしたようだ。


「こうなる」


「OK、俺は何も知らないし知る気もない」


「それが一番利口な生き方だ」


 ホワイトロマノフはほぼほぼユニーク装備で固めてるから盗んでも一発でばれるし、そもそも盗めない位にセキュリティが硬い。

 ばらして売ったとしても唯一無二というのは足がつきやすいからリスクばかりがでかい。

 そして今あの船を管理しているのはこのコロニー、ひいては国家である。

 金額にすればとんでもない値段になるだろうけど解析しているならそのうち買えるようになるかもしれないというのを考えると、まぁやるだけ無駄だよな。

 それに気づかない馬鹿もいたみたいだが、片腕が皮膚だけでかろうじて繋がっているような状態で連行されたおっさんはその事に気づかなかったようだ。

 というかこんな所で武器抜こうとしたらそりゃねえ……警察署で強盗しようとするようなものだぞ?


「まぁ気長に待って、金を貯めておけば同じような船を手に入れる事もできるだろうさ」


「そんなもんか?」


「そんなもんだ、今国のお偉いさん主導で解析続けているみたいだしおおよそのデータは取得できてる頃だろ。となればあとは作れるかどうかを検証して、実際に運用した場合どうなるかを確認、最後にコストの問題で買い手が付けば受注生産でも始めるんじゃねえか?」


「オーダーメイドか……」


「だから金を貯めろと言っている。つっても兵器の開発なんざ日進月歩、死なないように新しい装備も用意していかないと金が無駄になるからな。気をつけろよ?」


「肝に銘じよう」


「っと、お呼びだ。さくっと次のアレコレ済ませてこんな物騒なところとはおさらばして帰って寝たい。手早く終わらせるぞ」


 実のところ回避運動しながら適度に攻撃して電子戦もするというのはかなり疲れた。

 チェスボクシングだっけか、あれやらされた時と同じ気分だよくそが。


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