テクニックはプロ級
「では、アセンはこちらでいいですか?」
「えぇ、この機体で考えられる最適解です」
「俺も問題ない、考えうる限り最強の装備だ」
最強ね……それは何を考えての最強なのか。
まぁ今は何も言うまい。
「ではこれより最終講習を行います。双方用意はいいですか?」
「「いつでも」」
声が揃ったのは気にくわないが嫌だとも言っていられない、その上でやれることをやるだけだ。
どうにもきな臭いこの試験だが、とりあえずやることをやるだけだ。
「相手を宇宙海賊と考えて戦闘してください、あなた方に増援は来ません。敵を倒せば最終試験は終了です」
「敵を倒せば、ね……了解した」
セルフスキャンで各種センサー系や武装のチェックをしていく。
一つ一つ目視、そして武装は試し撃ちこそしないが砲身の動きを確認。
FR―967A、機体の型番だが正式名称はアクアリウム。
性能は良くもなく悪くもなく、ホワイトロマノフと比べれば当然格下もいいところだがゲーム時代の序盤から中盤にかけて使いやすいと言われていた機体と感覚は似ている。
まぁ外見がダサくてダンゴムシなんて愛称もついていたがそれはご愛敬、その辺りも似ているから別物と呼ぶには少々類似性が多すぎる気もするがそれはそれ。
速度よりも頑強製に重きを置いた機体であり、半円状の機体ゆえに実弾を逸らしやすく光学兵器も複層式の装甲の稼働で受け止めることができるためシールドを抜かれたとしても継続戦闘能力が高いのが特徴だ。
半面武装は貧弱、ダンゴムシの脚にあたる部分と触角部分に武装を取り付けることができるが下部はともかく頭部武装はとにかく貧弱。
武装にはクラスが設定されており最低クラスの1から通常は5、ラスプーチンのようなユニーク装備はEXとされていたがその中でも装備可能なのはクラス2。
その威力はせいぜいが採掘用の物であり、できる事と言えば小惑星を砕くことくらいだ。
下部に装備可能なのはクラス4を一つかクラス3を二つ。
合計して最大でも4つの武器であり、集団戦においては盾としての役割が大きい機体でもある。
「クラスタードリル感度良好、クラス3光学銃360度回転テスト異常無し、下方回転160度まで問題なし、シールド耐久力クラス3相当、スラスター周りの性能クラス3相当で通常運行可能。アナスタシア、発進する!」
「クラウス、出撃する」
あの無愛想、クラウスって言うのか。
まぁどうでもいいが双方の音声が聞こえる仕組みになっているのも作為的だな……うん、予想が当たりそうだこれ。
見たところあいつはクラス2の武装とクラス4の武装、合計三門の砲塔しかない。
瞬発力では向こうの方が上だが継続戦闘能力として見ると少し……いや、かなり物足りない。
一撃一撃は確かにあるかもしれないがダンゴムシに対しては過剰火力と言ってもいい。
単独戦闘ならオーバーキルほど無意味な行為は無く、無駄弾を使うのは避けたいところ。
幸いなのはあちらも光学兵器で固めているから弾切れの心配こそないが、使っている砲塔は一度焼き付くと冷却に時間がかかるタイプだ。
想定としては頭部砲塔でこちらをけん制しつつ誘導、下部のクラス4砲塔で撃ち抜く算段だな。
なんともわかりやすい手口だが有効なのは変わりない。
いかに硬いダンゴムシと言えど機動力はゴミだからその戦法されると刺さるんだよね……対処できないわけじゃないけどさ。
「さて、レーダーに機影無し……とは映っているな。光学モニターで目視可能な物も異常無し、ただこれは」
「なにをぶつぶつ言っている!」
「おっと」
横っ腹をつくようにビームが飛んできた。
シールドに阻まれて機体に届くことは無かったが威力的にはクラス2、不意打ちで下部武装ぶっぱしてれば終わってたのになぁ。
「熱源センサーをオンにしろボケナス」
「戦闘中に何を!」
「不合格になりたいなら止めないぞ、それに敵はお前じゃない」
「ふざけたことを!」
連射される低威力のビーム、しかし喰らい続ければシールドが飽和していずれ装甲にもダメージが入るようになるだろう。
致し方ないか……すでに異常は見つかっているしそっちに注意していればいい。
「おらよっ!」
近くにあった小惑星を蹴り飛ばして跳躍、ダンゴムシの特性は硬いだけでなく地上での運用が可能な数少ない機体という事にある。
言いかえるならば足場さえあればそれを蹴ることができるのだ。
文字通りの意味で蹴り飛ばして移動できる、機体そのものは鈍足だがこの方法で回避性能の底上げはできる。
まぁ、あくまでもその場しのぎがいい所だけどな。
「ちっ、知ってたか」
「そりゃな、マニュアルにもカタログにも目を通したさ」
こちらで一般的な船という物を教わった時に一通り目を通した。
その多くがゲーム時代のそれに似通っていたが、その上で差異はあった。
更には俺の知らない機体もあったし、あり得ないほど高額な機体や欠陥機なんかも片っ端から調べるのは楽しかった。
一番面白かったのはコストの問題で生産も見送られたペーパープランだな、あれは実際に運用できるなら面白い挙動ができただろうに惜しいものだが、今はこいつだ。
硬い、遅い、狙撃が得意とわかりやすいスペックをしている。
つまりは単体の敵、特に武装もシールドも装甲も貧弱な宇宙海賊相手にはもってこいだが同性能でやりあえば泥仕合待ったなしという代物だ。
そういう機会が無いとは言い切れない以上特性を見て、弱点を探るのも必要な事。
弱点を探れば必然的に何が強いのかも見えてくるわけで、こいつの「地上行動も可能」という特性に目が行ったわけだ。
地上では高クラス武器こそ使えなくなるが大気圏内の相手なんてのは基本的にクラス1兵装でも十分対処できるからね、代わりにこいつ大気圏突破能力ないし地上用兵器として使うには高額過ぎるけど。
「さて……そろそろ仕掛けるか」
「ようやく戦う気になったか!」
「まぁな!」
小惑星を蹴りながら回避運動を続けていたがそれもそろそろ限界が近い。
ならば今のうちに動いておくべきだろう。
「行くぞ無愛想野郎!」
「来い!」
意気揚々とクラス4ビームをチャージし始めるのを見て大きく迂回しつつその背後に回る。
とはいえ、あれ普通に砲身回るから意味ないけど戦略的には重要な意味があるのだ。
チマチマと削るよりも一発ドカンといく、そういう思い切りも重要なのよね。
てなわけで、おらぁ!
「どこに撃っている!」
「敵に向かってだよ!」
無愛想とは逆方向へと積んできたミサイルをぶっ放す。
クラスターミサイル、一発一発の威力は低いが並大抵のシールドは飽和させるし、爆発だから装甲にもダメージが入る、運が良ければ回転砲塔なんかの基盤にもダメージ与えて動け無くしたりスラスターぶち壊してくれたりする便利な武器だ。
問題点を挙げるなら小惑星帯とかの入り組んだ場所じゃ使えないという事くらいだろうか。
だが今回ぶっ放したのは一見小惑星が散見しているような開けた場所、そう見えるように偽装されたエリアだ。
宇宙では有視界戦闘なんて基本出来ない。
頼りになるのはレーダーだが、欺瞞方法はいくらでもある。
その中で最も簡単なのは機体の温度を下げつつジェネレーターを一時的に落としてしまう事だ。
そうするとエネルギー反応もなく、宇宙空間を漂うデブリと呼ぶには小さすぎる物体が一個ぽつんと置かれることになる。
武器によっては目視照準の手動射撃もできるからこの手法で隠密キルする輩も少なくは無かった。
「はい、ビンゴ。お前の方にも座標送ったからそこ目がけて撃て」
「なにがどうなっているんだよ!」
「見て分かれよ、団体客のお出ましだ」
先ほどまではレーダーが空白地帯と表示していた一帯に敵機が現れる。
その数、およそ50。
「なっ……」
「絶句している暇はないぞ、上方28度7時方向の岩を蹴って後退しろ! あと3秒もしないでここは弾丸の雨にさらされる!」
叫びながら自分も近くの小惑星を蹴って移動、無愛想もどうにか間に合ったようだが実際に実弾が先ほどまでいた場所を何度も通り過ぎた。
うむ、やはり予想通りだったか。
「どうなっていやがる!」
「意地の悪いミッションってだけだ! 目標は敵の殲滅! お前はチャージ終わり次第適当に撃て! 適当にぶっ放しても当たるような配置だ!」
50前後の編成、しかし隠れるためか密集していたのが仇となり中央付近の敵は動けずにいる。
まるでイワシの群れだ、でかい機体ならあそこに突撃するだけで全滅させられるがダンゴムシじゃなあ……ま、突っ込むんだけどね!
「なにをする気だ!」
「アレを殲滅できるだけのミサイルは持ち合わせていない。それを見越してのドリルだ。突っ込まなきゃ意味がないだろ?」
「お前知ってたのか……!」
「気付いていたと言え、逆に気付かなかった自分が間抜けだと思えよ」
散々抱いていた違和感、その正体は受付嬢の言葉で徐々に確信に変わっていった。
だからこそ武装も弾切れの不安がないドリルをつけたわけだ。
まぁブレードの方が好みだったんだが、あいにくそっちはエネルギー問題があったし強度に不安もあったからな。
だから頑丈で威力が高くてエネルギー消費の少ないドリルを選んだ。
「くそ、やってやる!」
「おー、頑張れ無愛想」
適当に応援しながらミサイルをぶっ放す。
同時に次弾装填、今度は発射ではなく手動での操作を行う。
ミサイルのブースターを起動、しかし発射はせずにがっちりとホールドしたままだ。
ある種の裏技で速度の速いミサイル系統の武器を射出することなく、機体でつかんだままにすることで移動速度を一時的に上昇させることができるというものがある。
ただ手放すタイミングをしっかり見極めなければ自分も爆散することになるんだが、シミュレーターというのもあって命の心配がいらないのはいい事だ。
どちらにせよミサイル分解からクラスター散布までのタイミングは読めているし、手元にあるタイマーでタイミングもセットしているからアラートが鳴ったらボタンを押すだけの単純なお仕事だ。
それに実弾ならダンゴムシが得意とする相手、無論ビームなんかも得意だが爆発しない武器なら大丈夫だろうし、その手の先遣隊は最初のクラスターで潰したはずだ。
なによりそいつらは私よりも無愛想を狙うだろう。
だってこっちは無視してても勝手に弾切れするし武装は近づかなきゃ使えないもの、あっちは一撃で何体も屠ってくるうえに光学兵器だけあって時間を置けば冷却して何発でも撃ってくる。
となれば優先的に潰すのはどちらか、近づいてくる私も驚異かもしれんが飽和射撃で十分対処できる。
対する無愛想に関しては既に小惑星帯内に避難しているからそこを削っていかなきゃ本体に当てられんわけで、そうなると爆発って偉大なんだよねという話だ。
宇宙空間での爆発の意味というのはいくつかあるが、一つは物理的なダメージ、もう一つは衝撃、そして最後に周囲への圧力だ。
簡単に言うと爆発が起こると直撃していない物体でも揺れたり移動したりするんだなこれが。
海上で砲撃戦してる船に近いか?
当たってなくても近くに落ちた弾の影響で水面が波立ち、その影響を受けて船が揺れるのと似ている。
あるいは水中戦で爆弾で姿勢を崩すとかそういうのと同じだ。
これを繰り返すと小惑星帯にぽっかりと穴が開くことになるし、狙えるなら数発のミサイルで十分だったりする。
実際今飛んで行ったミサイルは俺じゃなくて無愛想を狙っての……あぁ、そっちか。
いや、てっきり直に無愛想を狙ってくるかと思ったら逆に包囲するように撃っている。
逃げ場をなくす方法その2だな。
足場をなくして鈍足なダンゴムシを狙い撃つか、さもなくば逆に小惑星を密接させて動けなくさせるかの二択で後者を選んだようだ。
宇宙海賊同士の戦闘なんて言ってたから出てきたのは傭兵と考えるべきか?
あるいは別働の宇宙海賊か、どちらにせよこんな大胆に金を使うような手法を迷わず選べる相手というのは手ごわい。
「無愛想! 大周りでいいからそこを離れろ! 一か所に留まると岩に押しつぶされて死ぬぞ!」
「言われなくても!」
既に爆発の合間を縫うようにして移動しているが、大丈夫か?
それ小さなミスが一個でもあるとドカンといくぞ。
「弾幕が濃いな……」
やはり相手取っているのは傭兵とみるべきか?
装備が結構充実している。
という事はこの最終講習、こちらの判断能力と対処能力だけじゃなく謀反起こした時の危険度も図っていると見た方がいいだろう。
ならほどほどに戦ってほどほどで負けておくか?
……いや、それはそれで面白くないな。
こういう逆境での勝利っていうのは一番燃えるんだ、最後の最後まであがいて殲滅するくらいの気概じゃなけりゃこの先やっていけないだろう。
「だったら、やれるだけやってやるか!」
二回目のミサイルライド、姿勢制御用スラスターも使い弾の隙間をかいくぐりながら接近する。
これの怖い所は機体サイズを一回り大きく見ておかないとミサイル撃ち抜かれて爆散しかねないという事だ。
タイムリミットを迎えて射出したミサイルが小型爆弾へとばらけて相手の視界をふさぐ中、それでもレーダーは間違いなくこちらを認識している。
そのうえで三度目のミサイルライドでようやく相手を射程圏内にとらえることができた。
目標にしていた一個の小惑星、その近くでミサイルを切り離し姿勢制御で180度反転、急停止からのもう一度反転して小惑星を蹴り接近戦に持ち込む。
傭兵は基本的に近接戦を嫌う。
実弾兵装は近距離でこそ高い威力を発揮するし弾薬費がかかるので使う手合いは少ないが、そういった連中ですら数で囲んで叩くのが基本戦術だ。
なぜそれほどに近接での戦闘を嫌うか、理由は単純、船を傷つけられたくないからだ。
それこそカミカゼアタックなんかされた日にはシールド同士がぶつかり合い対消滅からの機体同士が接触してドカンといくことも珍しくない。
それ前提のビルドをする変態もいるくらいだが、まぁPvP以外じゃ無意味なコレクションよな。
ともあれ、無駄な修理費だとか命をかけたくない傭兵にとって近接戦は極力避けるべきものなのだ。
逆に言えば懐に入ってしまえば専用ビルドの機体には勝てない。
「ひとーつ!」
ちょうど射程内に入った機体のコックピット目がけてドリルを突き立てる。
シールドとドリルがぶつかり合い一瞬火花が散るが直後には操縦席諸共哀れな誰かをすりつぶした。
そのまま機体を盾に前進しながらそろそろ限界だろうというところで蹴り飛ばして近くの機体にぶつける。
不活性化させそう簡単には爆発しないようにしたミサイルの置き土産と共にな。
クラスターミサイルの積載量は多くないがこれはひとえに質量の問題、でかいから邪魔になるのよ。
それをぶち当てれば機体が変形してひしゃげながらも爆散しないまま、更に敵機体を押す。
無愛想にやっていたことを自分たちがやられるとは思うまい、しかも小惑星ではなくさっきまで仲間だった奴の機体でな!
「ふたつ!」
2人目にドリルを突き立てたところで視界の端にビームの光が飛び込んできた。
「遅かったじゃねえか無愛想」
「うるさい、あの爆発の中無事避難できた腕をほめるくらいはしてみせろ」
「男尊女卑か? お前よりも先に敵に気づいて攻撃加えた私に? 片腹大激痛」
「お前も撃ち抜いてやろうか」
「やってもいいがお前が蛸殴りにあって終わりだぞ」
軽口をたたきながら敵機をドリルで串刺しにしていく。
ふむ、十分足場もできたかな?
「死にたくなけりゃ間違っても当てるなよ!」
「お前こそ死にたくなければ射線に入るなよ!」
ありったけのミサイルを移動しながら捨てる、こちらから遠隔操作で爆破できるようにしてあるから足場としても使えるし最後は爆発させてもいい。
そのつもりでとにかく相手の中心を目指して敵をぶち抜いていく。
魚や鳥の群れならともかく、人間が指揮するのにちょうどいいのは全方位からの攻撃に対処できる中央だ。
指揮系統さえ潰してしまえば相手は烏合の衆、一つ一つ潰していくまでだぜ!