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好敵手と書いて敵と読む

 それからなんやかんやあって傭兵ギルドでの見習い講習は終了した。

 点数的なものが用意されているらしく、俺は各種目100点中90~100をキープ。

 どうにも新人に仕事を回すときはこの点数が加味されるらしい。

 講習は何度でも受けられるから「仕事がない」って新人はずっとここに通い詰める事になるのだろう。


「今日はこれで終わりだ! だが蛆虫を卒業し、カメムシも卒業し、ようやく半人前と呼べるようになったのは二人だけだ! 残りの奴らは望むならいつでも教えを請いに来るのだぞ! 無理をして死んでもそれは貴様らの責任だ! 死にたくなければ鍛錬を積め! そして強くなるのだ!」


「サー、イエスサー!」


「よろしい半人前! 貴様とそこの蛆虫卒業の半人前は共に受付で最後の講習を受けてくるがいい!」


「サー、イエスサー!」


「では解散だ!」


 最後の講習か……なにやら嫌な予感がするな。

 ただ単に今後の活動についての制約やら諸々を語るだけならこんな言い方はしない。

 それこそ説明受けて傭兵になってこいよ半人前、と言えば十分だ。

 だとすると、まぁ今回白兵戦の訓練ばかりだったという事から考えても船での戦闘に関する内容だろう。


「お前、なぜあの男の言葉に従っていた」


「ん?」


 無愛想野郎が声をかけてきた。

 随分とご機嫌斜めの様子だが、思春期か?


「そりゃまあ面倒を避けるためだな。今後の仕事によっては客を守れという護衛依頼なんかもあるだろう。その場合どこまで相手の意見に従いつつこちらの要件を飲ませられるかも重要なファクターになってくる。多分だがあの言葉遣いや態度はできるだけ面倒なキャラづくりじゃないかね」


「それを理解しているなら従う必要は無いだろう」


「それが査定に響くことだってある。時にはそういう演技も必要だってことだ」


「点数稼ぎのために従順な犬を演じるか、お前は傭兵よりも軍人向きだな」


「残念ながら突撃馬鹿の俺は……あー、私は軍人には向いてないって言われてるんだよ。誘われはしたが独立した戦力として敵陣にぶち込む鉛玉扱いだ」


 あっぶね、気を抜いてたから一人称間違えた。

 まぁそれはともかく、事実メリナなんかはそんな風に俺を評価していた。

 軍隊の中に置いていても和を乱す存在になりそう、だけど敵陣突破のための鉄砲玉なら使い道は沢山あるとかなんとか。

 それを聞いて喜んで軍人になります、なんてやつは最初からそんな評価を受けないだろうけどな。


「なるほど、上辺だけはいい子ちゃんしている輩か」


「表層すら取り繕えないガキよりはマシだろ?」


「あ?」


「お?」


 今確信に至った、俺こいつ嫌いだわ。

 相性という意味でとことん最悪、格闘技ではその手の相手というのは珍しくない。

 もとより競技、競い合いである以上相手が嫌がる戦術をとる相手もいる。

 だがそれ以上に馬が合わない相手というのが一番面倒なのだ。

 格闘というのは殴り合いだの投げ合いだのの応酬に見えるかもしれないが、その本質は対話である。

 嫌がる手段をとるにしても、お前はこうされると嫌なんだろ? という問いかけだ。

 そんなものもお構いなしにただ愚直に突っ込んでくる馬鹿なんかの相手をするならば猪との試合を望むし、こちらの対話に付き合う気のない奴なんかはシャドーしていた方が幾分か楽しい。

 こいつの場合後者だ。


 ただこちらを煽り、馬鹿にして、優越感に浸りながら自分のが格上だと誇示したいだけ。

 そういう手合いの対処法は二つ、無視するか徹底的に叩き潰すかだが……ここで殴るわけにもいくまい。

 というわけで華麗なスルー技術によって無視を決め込むことにして受付へと歩いていくとこちらを追い抜くように先へ進む無愛想、負けじと前に出ると更に速度を上げるので最後は双方全力ダッシュになった。


「「最後の講習を受けに来た!」」


 そして同時に、一言一句違えることなく同じ言葉を口にしたのである。

 ……この野郎。


「はい、ではシミュレーターにて双方に模擬戦を行っていただきます」


「模擬戦? こいつと?」


 無愛想が口の端を吊り上げて馬鹿にしたようにこちらを見てくる。

 だが無視、相手にする必要はない。


「機体は一般的に使用されているFR―967Aを使用します。武装関係だけ自由に変更していただいて構いませんが、ジェネレーターなどの交換は認められません。当然ですがシミュレーターなのでダメージはありませんよ、強いて言うならお二人の様子を見る限りプライドをかけた決闘になるかと思います」


「上等だ、すぐに案内してくれ」


「一人で行ってこい馬鹿。私は少し準備がある」


「はっ、逃げる気か?」


「格下相手に逃げる意味ってあるのか? 女は準備が多いんだ、お前みたいな童貞にはわからないだろうけどな」


 小さく鼻で笑ってやるとこめかみを引きつらせる無愛想、ふっ……勝った。


「で、とりあえず飯食いたいんだがここでも食えたよな。何がある」


「メニューはこちらですね」


 受付に設置された機械からホログラムでメニュー一覧が表示されるがいまいち内容がわからない。

 だが半年学んでこの辺りの事は大体理解している。

 メニュー画面で気になった料理名をダブルタップすると映像が出てくる仕組みになっているのでいくつか確認……ふむ、このラーメンみたいなの美味そうだな。


「ヌードルと焼きミールワーム、それとドリンクにフレッシュボールビネガーを頼む」


「はい、承りました」


 メニューから直に注文することもできるが、口頭で伝えても問題はない。

 むしろ受付で見せてもらったならコミュニケーションの一環としてそうする方がいいと教わったのである。

 席についてからならメニューから頼む方が好ましいらしいけどな。


「人工肉ヌードル大盛、焼きミルワーム量増し、フレッシュボールビネガーサイズLをくれ」


 この野郎……こっちのメニューにかぶせたうえにグレード上げやがった!

 だが無理をしてもコンディションに関わる……ならばこちらがやることは一つ。


「追加でデザートの衝動飢餓でも大満足ハニーフラッペDXパフェスーパーEXドラゴンも頼むよ」


「こっちもデザート追加だ、成人男性致死量カロリーのハイパープリンを頼む」


 ビキビキッ……。


「育ち盛りのお子様にはちょうどいい量だなおい」


「体付きだけは立派な女だけあってよく食うな」


「ドリンクあるだけ持ってきてくれ!」


「サイドメニュー全種だ!」


「かしこまりました。ただいま混み合っていますのであちらの席で相席してお待ちください」


「なっ」


「ふざっ」


「これ以上受付前で喧嘩するようならまとめて蜂の巣にしますよー」


 受付の下から大型スプリッター出されてリロードまでされては逆らえない。

 くそっ、ここでこれ以上争うのは得策ではないか……仕方ない。


「まぁ、大人の余裕を見せるところかね」


「女には花を持たせてやるか」


「あん?」


「おん?」


「はい?」


「あ、すぐに行きますね」


「騒がせた」


 ガシャコンって音が本当に怖い……あのまま喧嘩再開してたらぶち抜かれてたわ。

 うん、とりあえずここは三十六計逃げるに如かず、大人しく席に着こう。


「…………………………」


「……………………なんだよ」


「いや、よく見たらお前かなり痩せてるな。もっと肉付けろよ」


 無愛想の身体をじっくり観察してみればかなりの瘦躯であることがわかる。

 服で隠れているものの鎖骨の辺りなどはかなり肉が薄く、またシャツはサイズが大きいのもあって気付くのが遅れたが座った際に胸元が開けて胸骨が浮いているのが見えてしまった。


「金持ちが傭兵なんかやるか」


「金持ちでも仕事を選べない時はやるもんだ」


「ちっ、道楽家が」


「道楽じゃない、真剣にやっていくつもりだ。なにより仕事をしないといずれ飢える」


「ならばこの後の模擬戦でその真意を確かめさせてもらう」


「望むところだ」


「だがその前に一つ、難題がある」


「難題?」


「あぁ、まずは……」


 配膳用ロボットに運ばれてくる大量の料理とドリンク、そしてその背後でスプリッターを抱えながらにっこりこちらを見ている受付嬢。

 なるほど……。


「サイドメニュー、半分貰うぞ」


「ドリンク、手伝ってやる」


 少々謎の友情が芽生えた気がしたがシミュレーターのコックピットに入るころには立つこともままならないほど腹が膨れてしまっていた。

 まぁしばらく休憩したから大丈夫だけど、食ってすぐだったら間違いなく吐いてたなこれ。

 あの野郎が調子に乗って大盛りだのサイドメニュー全種だの言いだしやがったのが悪いな、うん、やはり友情なんかなかったわ、ぶっ飛ばす。



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