交渉
「つーわけで遅くなった、謝意は無くもない」
「私これでも結構忙しい立場なんですけどねぇ? 頼み事してきたのそちらですよねぇ?」
「いや、これに関してはマジで俺悪くないのよ……強いて言うなら間が悪かった」
「いやわかりますよ。研究が佳境って時に限って余計な横やり入るとかよくありますから。けど誠意は見せてほしいですね」
アルマの言葉がチクチクと刺さる。
まぁ正論は一番相手を追い込む方法だからな。
そして一番嫌われる方法でもある。
自分を切ら良いなってほしい相手には正論をぶつけ続けるといいぞ、十中八九嫌われるから。
たまにシンパになる奴いるけど。
「ふむ……揃って土下座でもしようか。全裸で服を畳んだうえで奇麗な土下座みせてやるぞ」
プチプチとブラウスのボタンを外していく。
「やめてください。撮影でもされてたら後でどんな風評まき散らされるかわからない」
ちっ、ばれてたか……いや、絵面的に面白いからそういうのもありだなと思ってただけだよ?
別に艦のモニターまだ動いているだけで記録が残るだけだから。
「まぁ冗談はこのくらいにして真面目な話をしよう」
俺の言葉にアルマも表情を引き締めた。
「まずヘパイストスにとっての話だ。あの鼠の巣穴はなんだかんだでそちらに繋がりがあった……といってもアロアニマメインのアルマにはあまり関りは無かっただろうけどな」
「そうですね。他の当主が何人かあそこに出資していました。隠しているようで、その実調べれば誰でも簡単にたどり着ける程度には知られていた。ほとんど陰謀論扱いされる程度の情報しか出てきませんが、少しダークウェブに潜れば証拠はじゃらじゃら出てきましたよ」
「だろうな。そもそも隠す必要性も薄かっただろうし」
お偉いさんが場末のスナックを生きつけにして、そこでちょっとアングラな人と酒飲み躱していた程度のスキャンダルでしかない。
政治家なら致命傷だけど、当主という体制を取っているこいつらにとってはダメージとしちゃだいぶ軽い。
そのくらいの、個人的な出来事として見られて終わる。
アルマの触手服を趣味と断じるのと同じ程度のダメージでしかない。
「だが責任は必要だ。今回その矛先になったのは大量の死者を出した原因であるレナ、これを指名手配する事で自分たちのかゆくもないダメージをさらに減らそうとした」
「ですね。聞いた話、臨検に関しても作為的です。確かにあの辺りは馬鹿が馬鹿な真似をしないように巡回するルートでしたが、それはアロアニマを持つ僕の配下が主だってやる事でした」
「あぁ、そもそもこの宙域ギリギリに軍艦、つーか戦艦を送り込むことがおかしいからな」
現在魔の宙域とか言われるど真ん中、マザーの内部でお話し中だが、近づくだけで危ない場所だ。
そんなところに当たり判定でかい戦艦を送り込む馬鹿がいるとはってレベルのはなし。
「続けてアルマに理のある話。今回レナを保護していることでアロアニマの内骨格やナノスキンの研究が進む可能性が大いにある。既存の義体を低コストで上回るようなの作り出した奴だ。使い道は山ほどあるだろう」
「否定はしません。実際一般的な戦艦の設計はあまり役に立たず、むしろそういう人体改造系の研究の方が役立つと実績が出ています」
まぁここ、レアメタルには困らないくらいいろんな金属あるからな。
アロアニマという、なんというか強いか弱いか絶妙な存在を強化する方法ってのは日夜研究されているだろう。
そのアプローチとして船としてと、生き物としての両方があっておかしくない。
「もう一つ、アミーゼ。レナの姉で軍人だが今回レナを見逃したことで軍法裁判くらいはかけられるだろう」
「それを助けるメリットですね。正直横紙破りするほどじゃないと思いますが」
「在野には転がっていないパイロットであり、指揮官だ。アロアニマ艦隊なんかも夢じゃないし、レナが作った新アロアニマのテストパイロットをやらせてもいい。そういうの、いないだろ?」
「……なぜそう思うんですか?」
「単純な話、アロアニマのテストパイロットを一般に募集できるわけないだろ。傭兵も含めて他言厳禁なんて人質でもいない限り無理だ」
「うわ、凄い非人道的な所から確証ついてきた……」
「外道黒帯だからな」
「くろ……おび……?」
あ、この例え通じないのか。
まぁいいや。
「裏も表も、アルマの所の研究はまともじゃない。だから普通に人が集められないのは当然。家族ぐるみで引き込むのが一番だとわかる。その上で信用信頼できる相手を見繕うとなると……他の当主の息がかかってない奴を探す方が難しい。それを横紙破り一枚で済むんだ。安いと思わないか?」
「コスト的に考えれば、その姉妹を引き抜くのは確かに安いですね。いいでしょう。こちらでもできる限りの事をします」
「助かる」
「代わりに!」
今度は俺の方が緊張するパターンか。
何を吹っかけられるやら……。
「ルディのデータください!」
「あ、うん、いいよ」
すっごい安かった。




