殴られて当然
「しょく……触手が……あばばば……」
「レナ! しっかりしてレナ!」
あー、どうやらSANチェック失敗したみたいだな。
「のどのおくにね、触手がはいってきてこわくて……あはは、あれは彗星かな、ちがうな、すいせいはもっとばーって……」
喉の奥……?
あぁ、なるほど。
ルディはなんだかんだで宇宙船だ。
だから気密性がしっかりしているわけで、人間でいう内臓の隙間に空気がないのと同じでルディもそこはしっかりと遮断されている。
つまり普通に閉じ込めるだけだと酸欠で死ぬから触手をチューブ代わりにして、艦内をボンベに見立てたんだ。
それで呼吸させていたがたぶんこいつの事だ、暴れようとして触手にがんじがらめにされたんだろう。
……そう考えるとアルマの触手服といい、アロアニマってナチュラルにエロい種族なのかもしれん。
数日突っ込んでおくとなった場合ケツから栄養と水分を補給させるとかやりかねないしな。
「説明責任!」
「拒否、アルマに聞け」
「当主様にそんな事聞けるわけないでしょ!」
「いや、むしろあいつは聞きたがると思うけど?」
性格的にそういう未知は喜んで飛びつくタイプだ。
そんで自分からアロアニマの装甲の隙間にはいるというのは考えもしないだろう。
俺等の場合は船のメンテナンスでよくやるんだが、メンテナンスフリーのアロアニマ相手には思いつかないだろうからな。
と言うか微妙に俺も気になる。
ついでに言えば触手服を常に着ているような奴だから実用性重視で、そういう普通はやらない事ってなかなか思いつかないし、思いついたとしても生身でやるタイプじゃない。
安全マージンを取ったうえで暴走する、一番厄介なタイプだ。
「とにかく! 人の妹が云々以前に対応に問題有りとしてベルセルクに苦情を入れます!」
「安全第一だぞ。問題なしだな」
「精神面の安全が保障されてません!」
「そうは言うけどなぁ……」
急に臨検となったらこうもなろう。
というか服を脱がせたわけでもないのにそこまで怒る事でもない。
ちょっと拘束されて、喉奥に触手ぶち込まれただけで……あれ、言葉として並べると結構アウトだな。
「別に危害を加えたわけじゃなく、守ろうとした結果なんだよ。言うなれば乱暴な運転で嘔吐したようなものであって」
「だとしてもこれはひどすぎます!」
まぁ粘液でドロドロになって、ぴくぴくと痙攣して支離滅裂な発言している妹を見れば致し方なし。
といってもだれの責任ってわけでもないしなぁ……今度ルディを拡張する時はパニックルームでも用意してもらうか。
海外映画とかである隠し部屋、生体反応遮断するタイプの奴。
いざとなれば脱出ポットとして使えるような設計にしてもいいな。
「聞いているんですか!」
「あぁ、すまん。考え事してた」
「悠長な……とにかく、この事は抗議させてもらいますからね!」
「はいはい、そこはクライアント様のご家族の要望としておくよ。ただ、表立って文句言うと指名手配犯見つけたのにスルーしたって問題にならない?」
「うっ……」
「それを妹だからとかばったうえで、保護していた傭兵にクレームか……上がどういう反応するかな」
「ぐぬぅ……」
「ついでにアルマ当主との面会直前の臨検と、面会に行く予定の傭兵にクレーム。内容はそこの白目女の引き渡しだったのに大事にしてしまうのは問題だよなぁ」
「ぐぅ……」
「まぁ実際俺のやったことは問題だったかもしれん。ただヘパイストスにとっても秘密にしたい事情で、ベルセルクからしたらちょっとメンタルに罅はいる程度で生き残れるなら上々と判断される。どうするのが一番賢いかな」
それがとどめの一言になったのだろう。
頬に拳がめり込んだのを感じた。
「……これで手打ちとします」
「そりゃ、ペッ、どうも」
血を吐き捨てて頬をこする。
なるほど鍛えられたいい拳だ。
ナノマシン制御と義体化も一部しているからかヘビー級ボクサー以上の威力もある。
加減されていたのも、メリナとのあれこれで感じ取れる。
これだけの面倒ごとを拳一つで収めてくれるというのなら喜んで殴られよう。
というかそうしてくれと煽った甲斐があるというものだ。
「……殴っておいてなんですが、あんないい方せずとも普通に和解に持ち込めたのでは?」
「それはそれで禍根が残るだろ。だったらそちらが一番すっきりする方法でってのが俺の考えだが……間違ってる?」
「……世の中、今のがわざとやっていると理解できるような人間は少数ですよ。少なくともナノマシンに抑制の効果持たせてないと無理です」
「俺は他人を過大評価しないから」
この人なら大丈夫だろうなと思って煽った面がある。
過小評価もしないけど、と言うかどちらかというと敵対するなら高めに見積もっておくけど、そうじゃないなら過剰な評価は絶対にしない。
じゃなければ格闘家なんかやってられんかったからな。




