トラブル!
さてさて、こういう時ってのは面倒ごとが定番だ。
それを考えないようにしていたんだが……。
「臨検である。直ちに停止せよ」
「了解した。ドッキングポート開放して待機するのでしばし待たれよ」
ヘパイストスの軍に捕捉されてしまったのである。
まぁね、虚無の宙域とか言う自殺スポットに舵向けてる奴いたらそりゃ捕まえようとするわな。
「レナ、ルディのコックピットへ」
「え……?」
「お前一応お尋ね者だからな? かくまうにはそれ相応のやり方があるんだよ」
「わ、わかった!」
奪取するレナをよそ眼にメリナ達に視線を向ける。
「見られて困る運搬物は彼女だけですね。他の武器などは宇宙国際法に准じた物なので問題ありません。強いて言うならルディが普通じゃないということくらいですが」
「システム系統ばっちり、うちの方は違法なシステム使ってないし、先方のシステム乗っ取り準備もできているよ」
メリナとノイマンが順番に返事をくれる。
よし、これで憂いは経ったな。
「ルディ、しばらくレナを腹の中に入れておけ」
「了解。でもどうするの?」
「生きてて四肢が繋がって後遺症がなければいい」
「りょーかい!」
ルディの返答と共に悲鳴が聞こえるが無視。
「こちらルディ、並びにホワイトロマノフ。臨検に際してドッキングポートの準備が整った。参加者は船をこちらに寄せてくれ」
「了解、妙な動きをしたらわかっているな」
「妙な動きはしないが、船のシステム上そうなる事がある事を留意してくれ。ルディ、ドッキングだ」
「あいさー」
船頭とでもいうべきか、そこが四つに開き、沙羅に割れて八つになる。
まるでタコの脚だがそれらが船を掴み引き寄せる。
「おっと、エネルギー充填は待ってくれ。これがうちのドッキングなんだ」
「ひぃっ」
あー、まぁ怖いよな。
まさに捕食シーンだし、実際これで絞め潰したりビームゼロ距離ぶっぱしたりする事できるから。
とはいえ一番手っ取り早いドッキング方法でもある。
俺もホワイトロマノフでこのドッキング経験したけど、そりゃもうデカいイカに喰われる気分だったね。
「けぷっ、ドッキング完了だよ艦長。それといまドックに運んでるから」
「あいよ」
体内に取り込むという意味ではほとんど捕食と変わらんからな……。
まぁ基本的に金属質な体内だ、消化液は意図的に出さなければ俺達が解ける事も無い。
「あー、外で見てるお歴々。とりあえずこちらの状況を映像で送信するので攻撃は控えてくれ。ルディはそこまでシールド厚くないから」
装甲も脆いんだよな……いや、生肉だから致し方ないけどさ。
とはいえ肉体だからこそ再生という普通の船じゃ無理なこともできるんだけど。
即時再生なら体積を犠牲にして……つまり少し小さくなって修復する形になるし、時間をかけていいなら半壊くらいなら数日で治る。
それにしたって被弾前提ビルドで装備の付け外しの融通が利かないっていう点で使い手がほとんどいなかった船だからな。
俺も知らない事の方が多いのでダメージは受けないに越したことは無い。
「臨検に参加するヘパイストスのアミーゼ隊である……そちらはベルセルク所属の銀等級傭兵、アナスタシア艦長で相違ないか」
「恐ろしいものを見たようで申し訳ない。こちらアナスタシア、ドックに出て直にお話しした方がいいか?」
モニター越しに話しかけてきた軍服のお姉さん。
……女性軍人の多い世界だな。
あるいは地元周辺の安全確認は女性士官の方が多いのか?
男は前線に出払ってるとか。
「案内を頼みたい。全クルーでの参加を求む」
「了解した。私と、機械改造済みのオペレーターであるメリナ。電子生命体のノイマンの三名で御同道させてもらう」
「……生体反応からして二つ……いや一つ足りないようだが」
「あんたの足場になってるデカい船が生体反応の出所だよ。当主アルマに俺名義でアロアニマについて確認を取るといい」
「了解した……おい、すぐに連絡を」
対応が早いな。
それに生体反応が二つと言いかけた。
あと少し遅かったらレナの事が完全に露呈していたな。
気の抜けない相手だ。
「ではまずこちらの船から確認させてもらうがいいか」
「どうぞ、我が船ホワイトロマノフへようこそ」
「あぁ、邪魔をする」
ガチャガチャと装備を鳴らしながら軍隊が入ってくる。
一個大隊ってところか?
まぁ船を調べるならそのくらいの数はいないとな。
「各自小隊単位で臨検を始める。構わないな」
「どうぞ。俺等はどうしたらいい?」
「不審物発見時に説明を求める。それといくつか聞きたい事があるのでな」
「虚無の宙域についてか。それなら簡単に話すが、さっき話に出てきたアルマと密会の約束があってな。あの宙域にはアロアニマ……まぁ単純に言うと生きている船じゃないとまともな航路がとれないようになっている。で、私はこのでかいアロアニマをアルマ経由で譲渡してもらったんだ」
かんかんと足元を蹴る。
嘘は言ってないよ嘘は。
重要な部分を全部黙ってるだけで。
「なるほど、嘘はついていないようだが……密会とは何についてだ?」
「新聞に載ってるレナ……なんちゃら? あれを鼠の巣穴に運んだのは俺だからな。今後何か起こる前に当主に報告入れて、必要なら後ろ盾になってもらう予定だったんだ」
これも嘘ではない。
はぐらかしているだけである。
というかベルセルクで表立って受けた仕事って大抵の場合こう評されてるからな。
隠したら悪印象与えかねない。
「なるほど……つかぬ事を伺うが、あの小惑星の破壊は貴殿が?」
「護衛も兼ねていたのでね。襲われて、連れ出して、今どうしてるかは知らないけど破壊までは事実だよ。ついでに言うならこれは宇宙国際法に抵触していない。護衛任務の際に反撃する事、並びに敵対者が一定以上のエネルギー反応を見せた場合即時砲撃が許可されているだろ」
「うむ、76条と97条だな。だがその後を知らないとはどういうことだ」
「別に宇宙空間に放り出したりはしていない。そんな事したら依頼失敗になるからな。文字通りの意味で今どうなっているか知らないだけだ」
やっべぇ、冷や汗が……そこ詰められると弱いんだが、下手に嘘をつくわけにもいかないし……。
「ふむ、まぁいいだろう。そもそも当事者を捕まえるのは私達の仕事ではない。この宙域に下手に近づこうとする人間を止めるのが役目だ。……失礼、どうした……なに? そうか……わかった。この船の臨検は終了だ。続けてこの大きい方を案内してもらえるだろうか」
「構わないが、部屋が多いだけで特に何もないんだ。退屈な仕事をさせる事になると思うが」
「それが仕事だ。なにより私達なんかは退屈な方が世間のためになるだろう?」
「違いない。軍人さんが忙しいってのは大問題だし、国民もいい感情を抱かないだろうからな」
互いに笑みを浮かべて歩みを進める。
と、いうところでインカムからメリナの声がした。
「ダミーの映像に引っかかりました。船内をレナさんが移動した形跡は残していません」
「助かる。そのまま痕跡は消してくれ」
「……えーと」
「何があった?」
「それが、私にもアナスタシアさんにも合わない下着が発見されてしまいまして……まだ体温残ってるような代物です」
「あの馬鹿……!」
「どうした」
「いやなんでもない」
メリナとの内緒話は聞かれていないが、それはそれとして少しマズいな。
さて、どうしたものか……。
「先ほども言ったが私達は新聞に載っていた人物の確保が目的ではない。故に違法な代物さえ持っていなければ何かをするつもりは無い」
「と、言うと?」
「もう気付いているだろう? 君の船から小柄な女性用下着が見つかった。方法は知らないがかくまっているのであれば一度合わせてほしいのだが」
「……理由による」
「ふむ、これを見てもらえればわかるかもしれないな」
そう言って差し出されたのは身分証だった。
階級は少佐……意外と若いな。
いわゆるキャリア組か、コネもちか……いやそれはどうでもいいか。
アロアニマに疑問を返してこなかったから後者だと思うが……それより問題は名前だ。
「アミーゼ・ホークマン」
「あぁ、アレの姉だ」
「メリナ、チェック頼む。ノイマンも」
「ふむ、疑り深いな」
「慎重と言ってくれ」
「だがその慎重さで『何をしているかわからない』が『どこにいるかは知っている』と証明してしまったぞ」
「これ以上何を黙って、何をカバーストーリーにすればいいか思いつかなくなってたんだ」
負け惜しみだけどな。
いや、本当にこれ以上どうにもならんかったんだよ。
頭も回ってなかったから向こうが一枚上手だった。
まさかこんな切り札持ってくるとは思わなかったしな。
「そうか、それで会わせてもらえるのだろうか」
「あぁ、コックピットからが一番近いが……ルディ」
「はーい、ペッ」
壁が不自然に形を変え、大量の職種によって押し出されるようにレナが出てきた。
白目向いて、泡吹いている……何があったかは知らんが粘液まみれで服もはだけている有様である。
「レ、レナー!」
アミーゼさんの悲鳴が艦内に響き渡ったのは言うまでもない。
アチーブメント始まったので実験更新!
明日も更新しますよ!




