虚無の宙域
「さて、と」
「あれ、パイロットシートに座るなんて珍しい」
「おいレナ、俺はこれでも艦長だぞ? そんでもってパイロットで、傭兵だ。これから危険な所に行くなら私がここにいなくてどうする」
とはいえホワイトロマノフのパイロットシートなのだが。
まぁここからルディに指示だししたり、操縦したりもできるように神経接続とやらをしているんだけどな。
俺のじゃなくてルディの神経をホワイトロマノフに移植して繋げたり外したりしている感じ。
ちなみに遠距離でも多少は動かせるし、意思疎通は通信より早いので万が一の場合は遠隔操作のルディを動かしつつ回避や砲撃をできる仕組みになっているのだ。
反物質系の武装は持っていないが、そもそもの巨体で戦艦以上の火力を持っているルディで敵を追い込んだり集めたりしてホワイトロマノフで一掃。
あるいはその逆ができたりする。
「え、危険って……」
「これから向かう待ち合わせ宙域。ルディがいれば問題ないが……流石に少しばかり気を張っておかないといけない場所だからな」
そう、あの宙域はやばい。
控えめに言ってやばいのであって、普通に表現するなら危険以外の何物でもない。
そこら辺で植物が光合成する感覚で核融合や核分裂、超新星爆発並みの高エネルギーの発生や急激な温度変化、極小のブラックホールが発生しているので部屋でくつろげる状態ではない。
もうちょい言うなら急にそういう類のものが眼前、運が悪ければ艦内に発生する可能性だってある。
そういう危険なルートを極力避けたうえでマザーのいる中心部に辿り着くのは……まぁアロアニマを持っていない普通の傭兵からしたら死ねと言われているのと同じだ。
最低でも案内人がいなければ無理だし、こうしてルディというアロアニマの中にいてなお備えが欲しくなる程度には。
「ちょっと! 危険ってどういう事!? 私聞いてない!」
「そりゃお尋ね者を裏で取引するとなれば相応の場所が必要になるからな。相手はヘパイストスのお偉いさんだが伝手があるし、悪いようにはしないだろう。ただその待ち合わせ場所が極秘であり、本来なら近づくことすら忌避されるくらいやばい場所ってだけで」
「ヤバい場所!?」
「具体的に言うと逃げそうだからなぁ……よし、想像しうる限りの危ない場所を考えてみろ」
「え? えーと……機械のトラブルで身動きも取れず宇宙海賊多発地域で残りの酸素も少なくなってきた救助艇!」
「なるほど、そりゃ絶望的だな。だが今回行く宙域に比べたら天国だ」
生き残れる可能性も救助が間に合う可能性もある。
アンドロイドや、メリナみたいに無呼吸で数カ月過ごせて生身で宇宙空間に出られるやつとかもいるからな。
だが今回は文字通りの意味で一歩間違えたら死ぬのだ。
うん、一歩横に逸れたら次の瞬間消滅している。
死んだことにすら気付けないままに。
「え……」
「あぁ、デブリとかは無いぞ。そんなものが残る余地がない場所だから」
「それって……」
「確かヘパイストスだとこう呼ばれてたな。虚無の宙域」
「いやああああああああああああああ!」
近づくな危険、デブリすら残らず消滅する宙域、チキンレースで消滅者多数として有名だったはず。
いやぁ、ヘパイストスの新聞って一番信憑性あるからな。
あと時間に正確。
ベルセルクの方は司法取引とかバカスカやってるから内容は信じられないし、時間も結構適当だ。
そりゃまあどこにいるともわからない傭兵に向けて情報発信しているし、それを傍受される可能性も考慮してあやふやな無いようにする事もあるからな。
だからこそ、そういうのどうでもいい技術者連中の巣窟であるヘパイストスが発信する情報が一番わかりやすく、そして内容の審議も見極めやすい。
少なくとも渦中の人物なら「あぁ、ここフェイクだわ」で済ませられる程度には優しい内容になっている。
アルマが当主就任になった時の兄妹の話も事故で死亡程度にしか書かれてなかったからな。
うむ、あれは実に見事な情報操作だった。
まぁそんな感じで経緯はともかく結果は正しいので基本的に信じてもいい。
ただ鵜吞みにするなよという程度のものなので情報を仕入れるのにはちょうどいいのだ。
で、もう面倒になったのか「今週の虚無の宙域犠牲者」という一覧が作られている程度には危険な宙域なのだ。
そこを待ち合わせに使うとはだれも思うまいて。
「安心しろ。俺なら抜けられる」
「その根拠は!」
「二回通り抜けた」
アルマの護衛の時と、帰りルディに乗った時にな。
ホワイトロマノフだけだったら間違いなく爆散してたけど!




