暇
さて、帰路についたはいいが俺はやる事が無くなった。
車の戦場はルディの小型ボディと、ノイマンが操作するドローンがやってくれる。
せいぜいがホワイトロマノフの中で警戒を続けるくらいだが、遠くからこちらを覗いている連中が何人かいる程度だ。
理由はまだクライアントのレナを狙っているが、小惑星諸共議会を壊滅させたのでどうしたらいいかわからないと言った所か。
更に言うなら小惑星消し飛ばす事ができる相手に喧嘩売るような装備を持っていないともいえる。
実際量産品の偵察機ばかりだ。
チャフだのジャマ―だの使わなくても向こうから見えなくする程度は余裕といっていい。
所詮店売りで改造もしていない機体なんてワンオフ機に比べたら天と地、月とスッポンほどの差がある。
具体的に言うなら最大船側でぶっ飛ばせば並大抵の機体じゃ追いつけないだろうし、本気のステルスを発揮したら接触するまで気付けないだろう。
あえてそうしていないのは宇宙国際法に則って行動しているからに過ぎない。
速度制限なんかは特定地域のみだが、ステルスに関しては問答無用で撃墜されてもおかしくないラインというのがあるからな。
センサーからもカメラからも消えるというのは完全にアウトラインだからやっていないだけだ。
やろうと思えば相手の機体にウィルス流してこちらを視認できなくしたり、そもそも背景と一体化してセンサー類を誤認させるシステムも持っている。
持っているが……ぶっちゃけこのシステムはノリで乗せただけなんだよな。
もともとホワイトロマノフのコンセプトは反物質炉を最大限生かす、撃ち合い前提の機体だ。
隠れて暗殺というのは目的外と言っていい。
それに対人戦になるとステルスする暇があるなら遠距離からぶっ放せが基本だしな。
サーチアンドデストロイ、戦場の基本だがそれができるセンサーと装備の二つが必要という事を除けば大抵の相手はこれで沈む。
沈まなかったら……どっちが先に落ちるかの勝負だな。
「なー、メリナ。なんか面白い話ないか?」
「白い犬がいます」
「尾も白いってか?」
「落ちを先に言わないでください」
……さっきからカタカタとキーボード叩いているが何しているんだこいつ。
「よしっ、データ復元完了!」
「なにサルベージしてたんだ?」
「消滅させた小惑星からクラウドにアップされたデータを盗み出しました。入口だけ厳重で、あとはザルでしたね。なかなか面白そうな研究データに、いくつかの国の機密情報も抜けました」
さらっとやべー事やってんな……。
「大丈夫なのかそれ」
「ばれたら不味いですけど、ホワイトロマノフとルディの性能ならまずばれないです。それに機密と言っても大した内容の物じゃないですよ? たとえばこれ」
メリナがスクリーンに映し出したのは禿げたおっさんの映像。
「これ、レッドカラーズのトップのシークレット写真です。普段はカツラを使ってハゲを隠していますが、実はこの通りという国家機密です」
「……くだらないが喧嘩を売るにも、国を揺るがすにも結構働いてくれそうな情報だな」
「あとレッドカラーズが試作している新兵器ですが、正直この船の主砲の方が百倍強くて千倍効率的です。ルディのシールドでも耐えられますし、そもそも一撃でルディのボディを全損させないと修復の方がリチャージより早いので」
「あぁ、そりゃ産業廃棄物だな」
そういえばあの国は反物質が特産品だから国として成り立っているんだったな。
だったらそういう兵器を考えてもおかしくないが……ミサイルにするとか、その辺にばらまいて利用するならともかく砲撃として打ち出すというのはそれなりに難しい。
なにせ砲塔まで消滅させかねないし、チャージ中は近づけないからな。
ホワイトロマノフはその辺炉と砲を直結させたりという工夫をしているから問題ないし、耐反物質装甲で固めた砲塔だ。
何なら機体そのものにその手の塗装を施しているので撃たれても数発は耐えられる。
ゲームでは反物質対策と、核対策の二つは必須だった。
対人戦場ともなれば毎秒核爆発と反物質爆発が発生するから、たまに間違えて入り込んだり、何も知らずに対人エリアに入り込んだ新規プレイヤーが蒸発するというのが日常だった。
そういう被害者救済をメインにしているクランとかもあったけど、俺はその辺ソロプレイしてたな。
配信がメインだったのもあるが、それ以上に配信許可を取るのが面倒くさかったのである。
「なんか暇つぶしのネタになりそうな情報は?」
「これなんかどうです? 各国で発禁になった書籍の一覧表。密輸すればそこそこの値段になりますよ」
「ほう……なかなか面白そうなタイトルが揃っているじゃないか」
エログロ思想、色々な観点から発禁になっている書籍のタイトルを眺めながら今度本屋に寄ってみようと考えた。
うん、個人的にこの「海賊国家の歴史」っていう本は気になる。
あと「おっぱい哲学」なる本も。




