君の歌は好きだったがね
「おい、銃は撃てるか!」
「う、撃てるけど当てられるかわからない!」
レナの言葉に舌打ちをしつつ、腰のホルスターから銃を手渡す。
適当にぶっ放せという合図を送ると、恐る恐るといった様子で何発か撃った。
……まぁ音からして当たっていないんだが、それはともかく今は逃げるのが先決だ。
「メリナ! 聞こえるかメリナ!」
「無理よ! ここ盗聴防止も兼ねて外部との連絡全部絶たれてるの!」
「ノイマン! 電子を繋げ!」
「あいさー」
さっきまでうなじ辺りで寝てたノイマンがポンと飛び出して回線を捜していく。
妙に時間がかかっているが、よほど外部に繋がっている回戦が少ないのだろう。
そしてその多くが何かしらのトラップが仕掛けられているのは想像できる。
俺は純粋なアタッカーキャラだから電子戦はからっきしなわけだが、逆に言えば単独での戦闘は大得意。
サポートキャラがいれば自分の得意な分野だけで戦えるという強みがある。
苦手を潰したところで器用貧乏になるだけだから、強みも弱みもはっきりさせておいた方がいい。
まぁ強いて言うならパワーイズジャスティスだと本当にどうにもならない時もあるというくらいでだな……。
流石に数tする扉を素手でこじ開けるとかは無理なんだ。
あとロボット発進用のハッチ開閉も電子系統の技能がないと無理。
船やロボ奪って逃げる系のミッションだと必ずハッチぶち破って飛び出して、セキュリティと戦ってという事になるのだ。
戦いは避けられないにせよ、無駄弾を使うという意味じゃ最初から結構痛手になるんだがな。
「よしっ、繋がったよ!」
「よくやった、そのままメリナに通信! 内容はピックアップ頼んだ!」
「了解! 座標もそのまま送っちゃう?」
「そうだな……せっかくだ、国際救難チャンネルでこの状況を全宇宙に放送してくれ」
「あいさー」
国際救難チャンネル、それはどんな陣営だろうと命の危機がある場合に使える周波数の事を指す。
探られて痛いものがなければ使いたい放題で、近隣の軍やら警備隊がすっ飛んでくる代物なので宇宙海賊とかは使わないけれど、なんかあった時にこの周波数で状況説明をするというのはまれによくある話だ。
特に傭兵がそういう使い方をするので、ベルセルクは救難チャンネルを自己正当化の武器か何かと勘違いしておられる? なんて皮肉もとびだす。
勘違いしているんじゃない、武器だと思っているんだよ。
だから平然と使い倒す。
他にチャンネル使用者がいたら譲るけど、今は問題なさそうだから使わせてもらった。
ノイマンはその辺の人の機微に疎いけど、メリナは理解しているから大丈夫だろう。
そして俺自身も俵担ぎしているレナをよそに、片手間で端末で調べたけど今そういう救難信号は出されていなかった。
つまり使っても問題ないという事だ。
「映像でるよ! 私隠れる!!」
「おう、あまり動かないでくれよ。くすぐったいから」
「あーい」
ノイマンがうなじにしがみつくと同時に端末からホログラムが投影される。
SSOSという文字が並び、まぁスペースSOSという意味を持っているのだが……ネーミングセンスよ。
ともあれ、そんな文字が表示されているのを見て追手の何人かは怖気づいた様子だ。
「今だ! 格納庫まで突っ走るぞ!」
「う、うん!」
「威嚇射撃は続けろ! このまま車に乗ったら船で拾ってもらってヘパイストスに逃げる!」
「船で追ってきたら!?」
「撃ち落とす!」
「威嚇射撃が当たっちゃったら!?」
「誤射!」
「……この小惑星が爆散したら?」
「事故!」
「……この人怖いよぉ」
そのくらいの感覚じゃないとやってられんのだよ。
傭兵なんて利用できるものはなんでも利用するのが当たり前だしな。
「素人質問で恐縮だが、自分の命と見ず知らずの連中の命。どっちに天秤が傾くのが普通だ?」
「それ言いたいだけでしょ! 死にたくない殺したくない!」
「世界は歌のように甘くはない」
「やだぁ!」
やっべ、なんか変な扉開きそう。
と思ったけど、もうその扉開いているであろうメリナを思い出してそっ閉じした。
うん、この性癖は一生開花させなくていいわ。
永遠に眠ってろ。