要するに封印指定
「ぶっちゃけた話聞くけど、依頼はどこで完遂になるんだ?」
「発表会を終えたら、かしらね。場合によってはとんぼ返りなり、逃げかえるなりしないといけないから」
「えと、どういう事だ?」
「この手の新技術のお披露目会があるの。鼠の巣穴だとその研究の発展性や有用性について審議されるんだけど、意味がないと言われたらその場で終わり。研究終了で帰らなきゃいけないの」
ふむふむ、つまり論文発表と同じだな。
学生の頃にやったけど、無駄な研究と思われたら予算おりません、そこで研究を終えて次に行きましょうと慈悲の無い評価を下されてしまう事もある。
「その時は諦めて次に行くか、自費で発展させるかの二択ね。まぁここは設備が無いからヘパイストスに帰るのが一番だけど」
「逃げるって言うのは?」
「あー、何と言えばいいのかしら。人間の義体化はわかるわよね。貴女のクルーがやってるし」
「あぁ、身体の一部、あるいは大部分を機械に置き換える手術だろ」
メリナはまさに全身義体化である。
脳みそと子宮は生物らしいが、それ以外は人の手が入った代物だ。
特に骨格と筋肉はかなり上等な品を使っているらしいが……最新鋭ではないはずだ。
何度か政府側から打診が来ているらしいが断っていると聞く。
理由は教えてくれなかったけどな。
「その逆があるの。脳みそと眼球だけ取り出して、データを吸いだし続けるっていう手術」
「冒涜的とか、おぞましいとか、いあいあしてきたとでも言えばいいか?」
「最後のはよくわからないけど……研究が有用すぎると脳みそと眼球を瓶詰にされて、最新技術生産のためのパーツにされるの。流石にヘパイストスじゃ使われてないけど、ここじゃ一般的。私達フリーの科学者にとって最大の賛辞であると共に死刑宣告と同義だからまずみんな逃げるわ」
「逃がしてもらえるとは言っていない」
「そう! だからいざという時は私という荷物をヘパイストスまで往復便で運んでもらう必要があるのよ!」
……荷運び依頼、思っていた以上に面倒くさいなこれ。
まぁ塩漬け依頼だからこういう事もあるんだろうなとは思うけど、それはそれとしてルールの穴を突いてくるのは小賢しい。
面倒な仕事を受けたもんだとは思うんだけど、刺激的であるというのは変わらんからな。
何より車を購入する良い機会になったと考えておけばいいのだが……。
「で、なんで俺達は宇宙空間に出てるわけ?」
この車両は水陸両用で、更に宇宙空間にも対応している。
重力発生装置と磁力発生装置でコロニーの壁面も走れる仕様になっているし、ジェット噴射もあるから短距離なら移動できる。
ぶっちゃけるならコロニー内くらいなら飛行制限さえなければ飛ぶこともできるわけだ。
着地の衝撃が洒落にならないからやらないけれど、それでもコンバットスーツを着て宇宙空間を走らせるというのは奇妙な感覚である。
「会場が近くの小惑星にあるの。理由は色々あるんだけど、とりあえず船じゃたどり着けないようになっているわ」
「それは脱走防止や攻撃禁止が理由なのか? それともそれ以外か?」
「全部よ。外から攻撃されないように、脱走を防ぐために、情報漏洩防止に、ハッキング防止に、あとは元々宇宙海賊が資源衛星にしようとしていたのを接収したからって言うのもあるわね」
要するにデータを抜かれないようにしつつ、攻撃されても切り捨てられて尚且つ電脳化指定脱走者を逃がさないため、ついでに宇宙海賊の持ち物だったという曰くから安価で買い取ったと見るべきだな。
強いて言うならまだどこかに変な仕掛けがあるかもしれないというのと、自爆装置とか生きてたら厄介というくらいだろう。
「あの小惑星よ」
「あいよ」
コロニーの外壁を走っていた車、ちょっとした操作でタイヤを折りたたんで変形して、反重力による飛行を開始する。
まだジェットは使わないでおくが、万が一の場合俺だけでも逃げるためだ。
「今暗号コードを送るから向こうからビーコンが出るはず。それに乗って」
「……これか」
ガイドビーコンは出さず、ただナビゲーションが表示されるだけだったがそのルートに乗ると勝手に車が移動を始めた。
うむ、実に便利。
しかしこれは本当に脱走は難しいな……メリナを連れてくるべきだったか思案するところだが、あいつ一人じゃ万が一の時電子戦で勝てるかどうか怪しい面もある。
信じていないわけではなく、むしろ信頼しているから限界を知っている。
この車と手持ちの端末だけで相手からのハッキング、そしてクラッキングを逃れるのは無理だろうというのもわかってしまうくらいには頼りきりだ。
だからこそ、ノイマンを車の電脳に繋いだまま連れてきているのだが……。
「すぴー……」
今はおねむらしい。
マジでいざという時はスタンガンぶち当てて起こすか。




