トップにして中間管理職
「ところでずっと私をクライアントとしか呼んでないが、名前覚えてるか?」
「忘れた。自己紹介の時それどころじゃなかったからな」
「まぁ……だよな。もう一度言っておくがレナだ。覚えろよ?」
「気が向いたら」
クライアントことレナの意見を聞いておくが今はそれどころじゃない。
要約目的地に到着したのはいいが、船を停めるのにルディが不安を抱いたため俺が代わりに操舵している。
ホワイトロマノフはまぁ小型艦に分類されるが、ルディはがっつり大型艦……とまでは言わなくとも、そこまで成長する可能性が高い。
なんならアトラス級とかそういうサイズになる事だってありうるわけで、あえて広めの停泊所を手配したは良いが鼠の巣穴にそこまで上等な物があるわけでもなし。
ちょっとくらい成長しても問題ないかな程度の所をギリギリ借りる事ができたので数mm単位の操舵をしているのだ。
どうしてこう間が悪いかね、このクライアント様は……。
「っし、こんな感じだ。お手本としては十分だったと思うがどうだ」
「精密な操舵……姿勢制御スラスターをメインにしつつエネルギー供給は別。覚えたよ艦長!」
「それは良かった。ちなみにこのスラスターへのエネルギー供給の方法次第では急旋回とかできるから応用を考えてシミュレーターを走らせてみるといい。もしかしたら俺じゃ想像できないような動きができるようになるかもしれないぞ」
「了解! あと指示通りしばらく船の成長を止めておくね」
「頼む。最悪の場合停泊所から出られる程度に抑えてくれれば十分だ」
「わかった!」
うむ、なんというかルディは素直でかわいいな。
いや、みんな素直なんだけどひねくれてる所あるからさ。
まぁ一番のひねくれものは俺かもしれんけど。
「それで、あとは目的地に送り届けて終わりか?」
「いいえ、ちゃんと護衛もしてもらうわよ。そういう契約だからね」
「……荷運びだと思っていたんだが?」
「だから荷物の護衛よ。つまりは私の護衛でもあるわけ!」
「お荷物の護衛ね……まぁ最悪インプラントだけ残ればいいから心臓ぶち抜いて取引相手にさしだせばいいんだろうけど」
「……やらないわよね?」
「やらない、面倒くさい事になるから」
契約違反ではなくとも、それなりに上から怒られることになるのでやらない。
たまにいるんだよ、仕事が終わったらクライアント殺す傭兵。
どういう意図があってなのかは知らんけど、そういう性癖って言われたらまだ納得できる。
むしろ変な倫理観とか思想から来る物でない事を祈るばかりだが、そういうのは基本的に指名手配されるまでガセットだ。
今回は依頼の中での話だからこそお咎めはないが、繰り返すと資格剝奪からの収監も十分にあり得るからな。
「で、今回はどういう相手と取引を」
「故人じゃなく組織ね。この鼠の巣穴、ブルーラットの住民に私の新技術のお披露目ということ」
「なるほど、それで向こうが刺激を受ければ新たなインプラント開発に着手、興味がなければ規格そのものが潰されるだけと……帰りの料金は別だが大丈夫か?」
「潰れる前提で話さないで! まぁ一応用意はしてあるわ」
キランと光る白銀のカード、それは一括で惑星そのものを購入できるクレジットカードである。
つまり金持ちの道楽というわけだ。
「それがあるなら最悪支払いだけはしてもらえるんだな」
「驚かないのね」
「……実を言うとメリナが持ってる」
あいつあれで元国の重鎮の手駒って言う微妙な立ち位置だけど、その分給料はいいし立場も身分もそれなりにあった。
だからこそこの手の支払い系は十分な余裕があったのだが……更に言うなら俺にもカード会員にならないかというお誘いはあった。
別にそれほどの資産を持っているわけじゃないといったらホワイトロマノフと、倉庫にあるブラックボックスだけでお釣りがくると言われて辞退した。
船とやべー兵器を担保にするのは流石にな……。
「それに口座の金額を増やすだけならメリナじゃなくて俺でもできるし」
ハッキングとクラッキングは最近勉強している分野だ。
ただまだまだ三流、普通にバレるのでやれない。
メリナみたいに一流になれば痕跡も消せるんだけど、雪道の上を歩いて足跡消しなさいって言われても困るわけで……。
そんなメリナでも口座の額を動かしたりするとバレるリスクが高い。
だがそれ以上にやべー奴がうちにいて、ノイマンなら痕跡も一切残さず、更には複数の口座やらサイトやらを経由して金の流れも痕跡も辿れなくすることができる。
秒で。
つまり法的な問題さえ無視すれば莫大な金を手に入れられるわけだ。
やらないけどな。
「ま、見た目で舐められないようにコンバットスーツとライフルくらいは持っていくか」
「そうしてもらえると助かるわ」
やれやれ、なんかどんどん俺の仕事増えてるよなぁ。
まぁ現場責任者だし仕方ないか。




