宇宙は広い
そもそもの星系連合の成り立ちとは一つの惑星が基となる。
その惑星、もう少し大きな規模で言うなら恒星系には寿命が迫っていたのだ。
つまるところ、太陽の寿命でありその肥大化、爆発の前兆が観測されるようになった。
ゆったりとした速度ではあるが10世代ももたないとわかった瞬間彼らは母星を捨てる決意をした。
そして惑星内のみならず同じ恒星系にある全ての資源をかき集め、そして巨大な移民船を作った。
それが現在でも星系連合の首都と呼ばれるエキュメノポリス、人工惑星アウロラである。
合金で作られたその惑星の中で人々は宇宙を旅しながら世代を重ね、技術力を向上させ、そうしてついに見つけた新天地へと降り立った。
それが現在の連合議会場として利用されるようになって数世紀、その間も新たな技術を求めて日夜研究を進めていた科学者達はついに神にも匹敵する御業を会得した。
テラフォーミングである。
これにより数多の惑星を開拓し、そして人口を増やしていったのだが問題が発生した。
反乱である。
アウロラに近い星系ほどその恩恵を受けやすく、遠ければ見下されるという状況が発生し反乱は火種となり、小火となり、最後には戦争という大火事に発展した結果一度連合はバラバラになったのである。
それを収めたのもまた人だったが、星系連合の外側からの攻撃でもあった。
銀河帝国、違う星系に存在しながら同じような進化を辿り人の姿となった者達、彼らの技術は当時戦争中だった銀河連合全体に危機感を与えた。
与するならばよし、さもなくば殲滅するという宣言の通り人工惑星アウロラから離れた星系から順に滅ぼされていった。
結果として強大な敵に立ち向かうために一丸となったはいいが、誰が代表になるかという議論は続くこととなり、結果としてアウロラを独立惑星として扱いながら各星系の代表者による議会制を取り入れる事となった。
こうして無事戦力と、皮肉なことに戦争で底上げされた技術力の結晶ともいえる兵器、そして戦場で鍛え上げられた兵士達の功績によって帝国の進撃を阻止。
停戦に持ち込みながらも睨み合いを続けているという事である。
「なんとも、ありがちな話だな」
「ありがちですが人間は愚かです。だから何度も同じことを繰り返す」
率直な感想に返答したのはメリナではない。
彼女は自分の職務に戻り、代わりにと置いていったのが彼女の腹心であり、そしてこの連合国家でも最も信頼されつつ最も厳重な管理が施された強化人間、名をクインという。
「クインさんよぉ、もうちょっと面白い話ないのか? 連合の成り立ち聞かされてもそーですかという感想以外出てこないんだ」
「貴方は不真面目なんですね」
「違う。あんただって今いるこのコロニーがどうやってできたかとか順繰り聞かされてもなんとも思わんだろ? 要するにそういう歴史的な話ではなく今、そして今後役に立つ話をしてほしいと言っているんだ」
「前提を教えなければ二度手間になりますから」
「融通が利かないな……都度注釈でもいれればいい。例えばそうだな、今停戦中の帝国のおかげで仲間割れしてた連合は一つになりました。とかこんなもんで大体想像できるだろ?」
「間違ってはいませんがテストならば60点というところでしょうか。流石に説明が不足しています」
「全てにおいて100点をとろうとするとどこかで綻びが出るもんだ。だったら重要なポイントだけ抑えておけばいい」
これは持論だけどな、毎回最高のパフォーマンスを求められても不可能だしあらゆる面で誰からも好印象を持たれるのも不可能。
人間なんてのは結局どこか欠けているものだし、その習性はテストだろうがなんだろうが出てくるのだ。
万能の才人なんてのは歴史上数人出てくるが、それだって怪しい物である。
なんなら常識という重要な部分を欠如させていたからこそそれ以外では万能でいられたなんて可能性もあるのだからな。
「まぁせっかくなので為になるお話をしましょうか」
「待ってました」
「現在我々星系連合と交流のある国家は7つ、その他に大小さまざまな組織が無数にあります。一つが先に挙げた停戦中の銀河帝国です。技術力も兵士の士気も戦闘力も高く交渉も上手い、合同訓練の際にはその能力を遺憾なく周囲に見せつけてきています」
「シンプルに強いやつだな」
「えぇ、ただはっきり言ってしまえば政治は下手です。だからこそ初手で戦争を選び、我々を結託させたという前歴があるわけですが」
「という事はあれか、弱点を突くとするなら無能な政治家の点数稼ぎだな」
「何か立案が?」
「別に案ってほどじゃないさ、勝ってると思わせつつこっちの被害は最小限にしていらない星系をくれてやる。それで調子に乗ったところを挟撃して追い返す。するとどうなると思う?」
「……おそらく、失態を取り戻そうと躍起になるでしょう。それこそ手段を選ばなくなるほどに」
「そうだな、そこを逆手にとって無人で爆弾満載した船をオートパイロットで戦地に送り込めばいい。そしたら相手は手段を選ばず、士気の高い兵士だろうと使いつぶして特攻だろうが禁止兵器だろうが使ってくるだろう。けどこっちは無傷で、映像データだけ衛星なりなんなりを介して送信させ続ければあっという間に世界の敵の出来上がり。こっちが失うのは骨董品の船と新品に見せるための塗料、あとは多少の爆薬だな」
「面白い案ですが、所詮は素人の浅知恵ですね。そこまで愚かな政治家などいませんよ」
「まぁ好きに評価してくれ。机上の空論だからな。それよりも続きだ」
実際この手の話は結構あるんだけどね。
戦争中頭に血が上った上官ほど厄介なものはいないといわれる。
現代じゃ無能な働き者なんて呼び方もするが、そういう手合いが上にいるというのは歴史に学んだ。
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「帝国の次に険悪な間柄なのは宇宙海賊国家レッドカラーズです」
「待て、宇宙海賊国家?」
「はい、文字通り宇宙海賊が集まって星系を支配して国家を名乗ってます」
「宇宙海賊より仲が悪い帝国って……」
「それはまぁ、停戦中なので互いに競い合ってますからね。コンペティションとかでどっちが上だと毎回殴り合いになるような間柄です」
それ、一周回って仲いいだろ。
喧嘩するほどってやつで、ある程度対等に付き合えているからこその仲の悪さだと思うぞ。
それよりもだ。
「それ、認められてるのか?」
「彼らの拠点にしている星系が反物質の採掘地なのです」
「……わかった、理解した」
要するにホワイトロマノフのデカいバージョンだ。
そしてデカいイコール強いだ。
人が生活できる、一軒家サイズの船に積めるジェネレーターで銀河が吹っ飛ぶ威力の自爆ができる。
じゃあそれが詰まってる惑星が吹っ飛んだらどうなるかといえば、たぶん帝国も連合もまとめて消滅だろう。
そしてそんな採掘地を抑えている以上ある程度穏便に対応しないとシールド突き抜けて装甲剥がして中にいる人間も機械もすべて消滅させるような反応弾ぶっ放してくるとなればそれは怖い。
怖いが、逆に上手く取引できるなら反物質や反応弾を売ってくれる商売相手である。
「ブツの値段は適正なのか?」
「気持ち安めです。彼らの手中にある恒星系全てが採掘地なので帝国と連合が10回滅びるだけの戦争をしてもまだ余る量を持っていますので。ちなみに成り立ちが宇宙海賊の集まりというだけで現在は海賊稼業はしていないようです。ただ領内への無断侵入などに対しては相応の措置をとるようで……」
「近づくと危険だが刺激しなきゃいい取引先なんだな」
「えぇ、兵士の練度も士気も高くはありませんし一般的に流通している機体も2世代ほど前の代物ですが積んでいる武器が凶悪なので手を出しません」
だろうなぁ。
現代で例えるなら戦闘機はゼロ戦だがその全てが核なり水爆なりを搭載しているとなればまともに戦おうとは思わない。
下手な倒し方したら巻き込まれるとなればなおさらである。
まぁ攻め込んできた場合はその限りではないがな。
「この二つが少々険悪だったり事情があったりという間柄で他は比較的温厚な付き合いですね。貿易なんかもしていますし、交換留学なども盛んです」
「ほう?」
「宗教星系アルテミス、バイオニクスにもサイバネティクスにも頼らない身体強化が可能な種族で構成された単一星系国家です。サイオニクスという、語弊を恐れず言うなら魔法を用いた戦いをすることで有名ですね」
「魔法ねぇ、どんな攻撃してくるんだ? 見た目は人間か?」
「見た目は耳が長いという点を除けば人間です。ですが美形が多く、また寿命も我々よりはるかに長いのが特徴でしょうか」
エルフじゃねえか……すげぇな宇宙、エルフがガチで存在するのかよ。
「戦闘に関してはデータが少ないのですが帝国との戦争では生身で宇宙空間に飛び出し、艦船に乗り込んで白兵戦に持ち込みます。その際に炎や雷といった現象を道具を介さず使用した事、身体強化した兵士を生身で殴り殺したことなどが記録に残っています。ちなみにこれが当時の映像です」
「わぁ……」
エルフじゃなかった、リトルグレイだこれ!
いや確かに耳が長いが……あぁ、テレパシーがどうのって記述があったりしたっけ?
宇宙人とかUMAとかあまり興味ないから詳しくないけど。
「現行の技術であれば殴り合いだけなら対処可能ですが、それ以外の要因が混ざると敗色は濃厚ですね」
「囲まれたり、その雷とかの魔法ぶっぱなされたりしたら意味がないってことか」
「無論対処法はありますが研究の進んでいない分野なので万全とはいきません。ただ争いを好まない種族なので彼らの住む母星で採取できる肉や野菜は好事家の間では人気の高い品です」
「美味いのか」
「えぇ、加えて滋養強壮効果もあるという事で」
「うんわかった、それ以上はいい」
そんなん夜にハッスルするために欲しいって言ってるようなもんじゃねえか。
でも確かに伝承とかに残るエルフって性欲薄そうだし、そういう意味じゃそういう生物を狩るのも納得のいく話ではあるかもしれんな。
「ちなみに崇めているのは精霊と呼称されている、エネルギー生命体です。対話は不可能、コミュニケーションの糸口も捕らえられないままで研究者は頭を抱えていますが、彼の国で巫女と呼ばれる存在のみ対等な会話が成立すると言われていますね」
「そりゃ面白い話だが関わることはなさそうだ」
「それから国家とは違いますが、企業連合。文字通り我々の把握している対話可能な種族国家全てに属する企業の合同体です。帝国出身で連合居住の企業連合所属者なんてのもいますね」
「ややこしいが……つまり金を稼げればいいって連中だな?」
「概ね間違っていませんが、その手の発言は控えた方がよろしいかと。彼らはどこにでもいますから」
「こちらも語弊を恐れず、ってやつだよ。企業なんてのは結局のところ金を稼いでなんぼの世界、そのためだったら明らかに赤字になるプロジェクトだろうと適当なところに売り込むだろうさ」
「まぁ、その通りですが……」
「上手くすれば自爆特攻前提の無人機なんかのデータも買い取ってくれるかもな」
「持っているのですか?」
「いや? 無いけど構想くらいはある」
その手の機体に必要なのは二つ、頑丈性と速度だ。
全方面にシールドを張る必要が無いから正面のみに集中させ、同時に装甲も前面のみ。
機体はオートパイロットシステムさえあればいいからコックピットなどの余分な部位は取っ払い、その代わりに爆薬をぎっしり詰め込む。
何なら反物質詰め込んで反応弾にしてもいい。
で、あとは機体を動かすためにブースターを乗っければ完了である。
船で一番高額なのはジェネレーターであり、スラスターなどにエネルギーを供給する部位である。
それを捨ててブースター、つまりは燃焼による推進力だけで移動させるシールド付きミサイルだ。
オートパイロットの部分は途中まで航行してやればバッテリーで十分だろう。
「とはいえ、そんなもんはみんな考えているだろうけどな」
「いえ、案外外様の情報というのは馬鹿にできない点がありますから話してみるだけでもいいかと。少なくとも我々の間では火薬銃など飾り物でしかないので」
「あぁ、火薬の有用性が失われてるってことか。生産は楽だがもっと威力あるものを同じ材料から作れるからな」
具体的に言うなら硝酸である。
黒色火薬にも使われていたが、ニトログリセリンにもなる。
その威力は文字通り桁が違うし湿ったら使えない火薬よりも液体火薬とかの方が有用な事も多いのだ。
とはいえ、結局はこっちでもミサイルとか爆弾は使われているので完全に無価値な代物という扱いでもないだろうけれど。
「考えておくとして他はどんなだ?」
「はい、電子生命体です。彼らは良き隣人として私達の生活の助けとなってくれていますが、あくまでも隣人であって仲間とは言い難い相手です」
「反逆でもされたのか?」
「似たような物ですね。あなたの性格からして長く語るのもアレなので端的に言いますと、研究者と口論になった結果一部の電子生命体が仕事をボイコットしました」
「は?」
いや、100点じゃなくていいといったが流石にこれはないだろ。
30点も与えられない、明らかな赤点だぞ?
「簡単に説明しますと難問とされていた数学問題を電子生命体が解明、しかしそれに対して研究者が重箱の隅を突く様にダメ出しをするも全て論破され、そして癇癪を起こした研究者によってデータを全て削除されそうになった事が発端でインフラを除くほぼ全ての介助を放棄、結果的に事件の原因となった研究者を厳罰に処すと共に帝国と連合の重鎮が共に謝罪をした事で事態は収束しました」
「待て待て、なんでそこで帝国が出てくる」
「電子生命体はどこにでもいるのです。彼らの出自は不明ですが、インターネットの膨大な情報から産まれた生命体であり今なお増殖を続けています。結果どこの国にも属さないため帝国と連合が火花を散らす研究発表会の最中での出来事でしたので」
「もしかしてだけどさ、一番敵に回しちゃいけない相手じゃね?」
「もしかしなくてもです。彼らなら一般人を犯罪者に仕立てる事もできます。まともな倫理観を持っているのでそのような事は基本しませんし、犯罪に加担することは絶対にありませんが……」
おい、犯罪に関しては絶対と言い切った癖に一般人を犯罪者に仕立てるのは基本的にと注釈がついてたぞ?
マジで敵に回しちゃいけない連中じゃねえか!
……いやまぁ、俺の船にもいるからそこは盛大なバトルになりかねないか?
あるいは彼らの機嫌を損ねるとなるとクルーの電子生命体も敵に回るような発言をするとかか?
どちらにせよ、おざなりな扱いはしない方がよさそうだ……。
「それから工学技術連合国家ヘパイストス、これは帝国と連合の境界線上から外れた位置にある星系国家ですがほぼ全ての銀河系で最高峰の技術を持っています。そして電子生命体や企業連合と仲がいいです」
「おい」
「彼らの作る製品は高額で取引され、相性さえよければ電子生命体が専属で着いてきてくれたりするので彼らの商品を求めるものは後を絶ちません」
「待て」
「なお戦闘力ですがインターネット内のどこかにあるとされるコアを破壊しないと無傷同然の電子生命体が操縦する最高品質の機体で飽和攻撃を仕掛けてきます」
「ですよねぇ!」
話を聞いた瞬間から嫌な予感はしてたけどそうだよなぁ!
間違いなく相性がいいだろうと思う三つの組織が仲良くなってるんじゃねえよ!
もう帝国も連合も停戦とか言ってないで終戦にしちまえよ……お前らカンガルーの殴り合いみたいな状態になってるぞ?
「あとは傭兵です。正確に言うならば傭兵国家ベルセルク、宇宙海賊が国家を作り上げたのと同様に傭兵も独立国家を樹立しました。その際にあらゆる戦闘に加担する、ただし相応の対価は貰うという確約の元中立を名乗っています」
「名乗っていますじゃねえよ! 中立じゃなくて蝙蝠だろ!」
「そう揶揄する者もいますが、今の戦況ではこの傭兵国家を取り込んだ方が勝つといわれていますね。ちなみにあなたが就く予定の傭兵ギルドですがこの国家の庇護下に入るという意味でもあり、連合で登録した以上連合内での義務を果たす必要もあります。税金ではなく犯罪行為に手を染めないという意味で」
「あー、大体わかったが……これ交換留学できるの実質2つか?」
「主にアルテミスとヘパイストスですが、企業連合はインターンを受け入れていますしベルセルクも傭兵育成のために学校を立てて門戸を開いています。電子生命体に関しても彼らが自由に歩き回れるようにボディを作るため出向している学生なんかもいますね」
「割と均衡しているというか、綱渡りというか、どっか一個欠けたり傾いたら崩れそうなバランスの上にいるのな」
「えぇ、どこか一つがうかつな動きをするだけで世界が崩壊するかもしれないので気を付けてください。基本的に傭兵は宇宙海賊、この場合レッドカラーズではなく純粋な悪党である宇宙海賊や宇宙怪獣を相手に戦っていただいたり、軍の指揮下で動いていただいたり、あるいは適当な護衛任務でもしていてくだされば十分。腕が認められたらベルセルク本国で教鞭を振るってもいいですね」
「考えるだけ考えておく」
教えるのは苦手だから多分やらないけどね。
「他にもいくつかあるのか?」
「遠すぎて縁がない国家や、逆に未開拓ながらも文明があるので静観している惑星、大小さまざまな組織や国家が存在しますが気になるようであれば後程一覧を用意します」
「頼んだ。ちょっと補給のつもりで適当なところに降りて犯罪扱いされたらたまらんからな」
「それがいいでしょう」
こうして今日の講義は終わるのだった。
なお、この後3か月くらい常識とか諸々教わったけど大体地球にいた頃と変わらんわ。
妙な事したら逮捕されるし、その方法が鎮圧用ロボットによる全方位からの電磁波だとかそういう点以外は。
あとわりと悪人の扱いがしっかりしてた。
さんざん宇宙遊泳と言われたが実際は監獄コロニーがあってそこに放り込まれるらしい。
で、劣悪な環境ながらに衣食住を用意されて資源採掘用小惑星帯から人力で、流石につるはしじゃないが人体に危害を加えられないような道具で採掘させられるらしい。
コロニー内には区画があり仕事の内容も多義にわたるが、重い罪であれば仕事内容も厳しいものになるし、悪質であれば拷問もあるとかで宇宙海賊とかやべー組織の人とか、あとは帝国とかに情報漏洩した人間なんかも入れられてるらしい。
まぁ、監獄コロニー内は治外法権だとかで囚人同士で何があっても看守は関与しないらしいけど。
流石に獄中で殺しとかすれば刑期追加とか、宇宙遊泳になるらしいが多少のあれこれは認められるとか……近づかんとこ。