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小悪魔の遊園地

作者: KsTAIN

「あれー?みんなどこー?」

少女は胸の前で手を組みながら、一歩一歩、ゆっくりと歩いていく。何回も何回も呼んでいるのに、誰も返事をしない。

少女はおかしいな、と思ってもう一回呼んでみる。

「みんなー?どこー?」

シーンとした森の中で、その言葉は木々の隙間に隠れていく。

彼女は、いかにも迷子が出そうな森の中で、友達とはぐれちゃったらしい。

どこー?どこー?と心配そうにみんなを呼んでいる。

呼びながら、彼女はだんだん山の奥へと進んでいく。しかし、友達探しに夢中になっていた彼女が、それに気づくはずもなかった。

深くなっていく木々の中、彼女の鼻声混じりの叫びが森に木霊する。反応するのは、カラスくらいしか居なかった。

風すら無い中、彼女は光を求めて闇雲に進み続ける。

だんだん日が傾いていく中、彼女の疲労は限界に達し、そろそろ倒れてしまいそうなほどであった。

少し差し込む西日が、彼女の前を照らしている。

しかし、救いか何かはわからないが、そんな彼女の目に何か怪しげな光が映った。とにかく何かに縋りたかった彼女は、思考を放棄してただただ光に向かって走り始めた。その顔には、生気が宿っている。とても可愛らしい顔だ。……可愛らしい、人の子。

そして、遂に光に辿り着く。木々の間から、彼女は笑顔で飛び出した。

すると、今まで森だったものが急に開け、辺り一帯は、まるで人の手が加わったかのように、人工光らしきもので照らされていた。少女はあまりの光景に思わず足を止めて、「わあ……」と感嘆の声を漏らす。暖色のライトが、彼女の影を地面に映し出す。後ろを振り返っても、そこには森ではなく大きな道が広がっていた。

そして、何よりも視界で存在感を放つのは……

「こんなところに、遊園地が……」

彼女が再び、感嘆の混じった呟きを放つ。目の前には、大きな観覧車が確認できる、大きな遊園地だった。観覧車が現在時刻を示しており、だいたい六時を指していた。

その見た目はまるで、お伽噺に出てくる、非現実的な遊園地のよう。

そして、この遊園地も、非現実そのものである。

突然背後からガサゴソとなにかが動く音が聞こえる。音からしてそのなにかは草木をかき分けてこちらへと進んでおり、まるで人間のような生命体なのだろうと想像できる。彼女がビクッと振り返ると、何やら一つの生命体が立っていた。全身を黒い影に覆われ、さながらムーミンのような出で立ちをしている。しかし、彼には足がない。手は指がなく、さながらドラえもんのようだ。ぴょん、ぴょんと可愛らしく跳ねて移動している。

そんな可愛らしい生命体に、彼女は反応してしまう。

「お友達とはぐれちゃったの」

すると小悪魔は少し目が笑い、不意に背中を見せる。

そして、その生命体は、遊園地の入口へと跳ねて進んでいく。少女は、疑わずについていく。

遊園地を囲む鉄柵に設置された一つのゲートを開け、小悪魔は中に進んでいく。

続いて少女が遊園地の中に入ると、そこには信じられない光景が広がっていた。

少女の目に映ったのは、外からみた遊園地とは全く別のものだった。観覧車の真ん中の時計は止まっており、緩やかに見えたジェットコースターは、見るだけで足がすくんでしまうほどとても急で、そして一番目を引くのは――奥に見える、物々しいお化け屋敷である。少女はそのお化け屋敷に視線がロックされてしまった。その場で立ち止まり、足が動かなくなってしまう。

アトラクション全体が灰色基調の、薄い灰色で塗られ、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。

そんな景色に彼女がおどおどしていると、先程まで姿を消していた小悪魔が跳ねながらこちらに戻ってきた。

その丸い手で、一つの風船を持っていた。

本当にドラえもんのようだ。まるで……可愛らしい。

小悪魔が風船を差し出す。少女が恐る恐るその風船を受け取ると、急に足を囚えていたなにかが消え、少女は動けるようになった。

次の瞬間、それまで灰色に囲まれていた遊園地が、虹色に彩られた。観覧車の時計は動き出し、一つ一つのゴンドラは違う色で埋め尽くされている。気づけば先程まで無かったメリーゴーランドが地面から生え、一番怖そうだったお化け屋敷は、立派な「お城」へと姿を変えていた。

少女は、まるで夢を見ているようだった。うっとりしてしまっている少女に、思わず顔がニヤけてしまう。

小悪魔は自分についてこいと言わんばかりに歩き出した。完全な遊園地に安心しきった少女は、小悪魔の隣まで走っていって、一緒に前へ進んでいく。

最初に乗ったのは観覧車。高さ自体はそこまでなく、子供が乗ってもあまり怖がらない程度のものである。

小悪魔と少女がゴンドラに乗り込む。すると、観覧車はひとりでに動き出した。

一番上まで行くと、周りは深い森ではなく、ライトアップされた住宅街のようなものが、山肌に沿ってそびえ立っていた。外壁が淡い茶色で塗られた無垢材でできた、まるでファンタジーのような家々に、少女は視線を奪われてしまう。小悪魔は、そんな少女をじっと観ていた。たまに、風船をチラ見している。

ゴンドラが一周して地面に戻り、外に出ると、今度は小悪魔はさながらタワー・オブ・テラーのような絶叫マシンへと案内した。といっても、大きな塔に長椅子が設置されている、簡素な絶叫マシンであり、ディズニー・シーにあるような豪華なホテルの中に、絶叫エレベーターみたいな広いものがあるわけではない。しかし長椅子はまるで玉座に使われているかのような良質なシートで表面を覆われている。座り心地は、計り知れないだろう。

底しれぬ好奇心が、彼女を刺激する。

小悪魔が誘導するよりも先に、彼女は塔へと走り寄る。小悪魔は少し困ったような顔をしつつも、椅子の目の前まで来た彼女に向かって跳ねて追いつく。

安全バーを小悪魔が持ち上げ、少女と共に乗り込む。安全バーを静かに閉め、小悪魔は手を安全バーの上に置く。少女は風船を持ってない手のみで安全バーを掴んだ。

すると、またもやひとりでにアトラクションが動き出す。ゆっくり、ゆっくりと頂上まで登っていき、その後地面に向かって重量に従って、急降下していく。キャー!!と初々しくも力強い悲鳴を上げる少女。相変わらず小悪魔は黙って少女を見つめている。

椅子は地面までは数秒もかからずに落下した。少女は笑顔で「ねえ、次は何処へ行くの?」とはしゃぐ。小悪魔も、笑顔で――黙ったままではいるが――少女をたくさんのアトラクションに連れて行った。

ジェットコースター、お化け屋敷、コーヒーカップ、メリーゴーランド。色んなところで、少女と小悪魔はたくさん遊んだ。そのたびに少女は笑顔になり、その度に小悪魔は少女を見つめていた。

気づけば遊園地の最奥まで来ていて、設置されてある椅子にちょこんと座る少女の目の前には立派なお城がそびえ立っていた。どこからともなく小悪魔が現れ、今度は手に一つのアイスクリームを持っている。小悪魔はそれを少女に渡す。少女は輝いた表情でそれを受け取り、その瞬間に食べ始める。小悪魔はその様子を少し見た後、ふらっと何処かへ消えてしまった。少女は、また小悪魔が戻ってきて案内してくれるんだろうと思っているため、くつろいでアイスクリームを舐めている。

次第に雲行きが若干怪しくなり、視界が段々と暗くなっていく。

ふと観覧車の時計を見ると、九時半と表示されており、デジタルから放たれる眩い光は、既に夜を示していた。

スピーカーからは短調のピアノの曲が流れており、自分の内側から不安を煽ってくる。しかし少女は小悪魔を信じ切っていたので、恐怖はあまり感じていない。むしろ、好奇心の方が、彼女を支配していた。

さらに辺りが暗くなる。

少女がアイスを食べ終わっても、小悪魔は戻ってこなかった。遅いなあと少女は感じながら、目の前にある立派なお城に目が釘付けになっていた。

外装は黒塗りで、屋敷の上にたくさんの塔がくっついていて、窓が一つ一つの塔の下に設置されている。たまに塔と塔の間に橋のような通路が架かっている。ドアはオレンジ色に光っており、少し不気味さを醸し出している。

しかしそのドアの隙間から少しだけ漏れる光に、少女の深層意識はますます引き込まれてしまう。泥の中に足が沈んでいくように、彼女は城へと吸い寄せられる。

気がつけば、少女は椅子ごと城の目の前まで移動していた。

全く持ってわけがわからない様子の少女。しかしその足は彼女を立ち上がらせ、城の中へと誘導する。そこに恐怖という感情は、なかった。

ドアがひとりでに開き、少女の体は中に入っていく。すると薄暗く物々しい、広いロビーが少女の視界に写った。また足が彼女を勝手に動かす。彼女は、そんな自分に起きてる異常な出来事を気にもせず、運命に沿って進み続ける。

真ん中に目立つ大階段を上り二階へと進む。すると廊下にはたくさんの美術品が飾られている。ルネサンス期よりも前に描かれたであろうキリスト教美術の絵画が、壁一面にズラーっとならんでいる。

廊下に沿って進むと、二人の子供が居た。

少女は見覚えがあったのか、大きく目を見開いて近づこうとする。しかし、足がそれを許さなかった。

「カッちゃん!タンくん!」

少女が立ち止まって、二人のあだ名らしきものを叫ぶ。しかし二人は振り返らず、廊下の絵画を見続ける。

視線の先には……レオナルド・ダ・ヴィンチの、『最後の晩餐』

少女は息を呑んだ。小さいながら、その絵画の意味がわかったのかもしれない。

少女は再び二人の名前を叫ぶ。12回ほど叫んだとき、ようやく二人が振り返った。

しかしその顔には生気が無く、ただ無機質に彼女を見つめている。

そして振り返った数秒後、カッちゃんがこう言い放った。

『君が、ユダなんだね』

エコーのかかった、低い声で。

窓の向こう側で、雷が落ちた。

瞬間、二人が少女の方へ走り出す。少女は足の指示に従い、踵を返して全力で逃げ出す。城を出て、出口へと出口へと走っていく。

振り返ることは、許されない。少なくとも、本能が許していない。

走って前に進むに連れて、カラフルだったアトラクションがだんだん赤く染まっていく。彼女はそんなことを気にする余裕もなく、ただひたすらに走り続ける。

走ることに夢中になっていた彼女は、風船を途中で落としてしまった。

自分の意志に従って、走り続ける。

そして数分走っていると、入ってきたゲートとともに光が彼女の目に入ってくる。希望を見つけた彼女はさらにダッシュのアクセルを踏む。

ゲートまであとちょっとのところで、先程まで消えていた小悪魔が視界に写った。

彼女はさらなる希望を胸に小悪魔の元へと走り寄る。そして大きくジャンプし、小悪魔に抱きついた。

怖かったよお、と後ろを見もせずに言葉を発しようとする。しかしその声は空気には届かず、彼女の喉で止まってしまう。

ひゅー、ひゅーと。そんな音だけが、虚空に溶けていく。

完全に視界が真っ赤に染まった。ゲートとその向こう、そして小悪魔以外が、強い赤色に変化した。

小悪魔がその丸い手で彼女の背中を撫でる。

――もう、大丈夫だよ

そして……その時。小悪魔は。初めて、言葉を発した。

次の瞬間、二人の体は地面へと溶け始める。だんだんと、暗闇の中に、体が吸い寄せられる。しかし少女に恐怖はなかった。

小悪魔さんと一緒だから、溶けちゃっても、地面に埋まっちゃってもきっと大丈夫だろうって。

そんな安心感と小悪魔を抱きしめながら、彼女はゆっくりと沈んでいき……やがて居なくなってしまった。瞬間、先程まで彼女を追いかけていた二人が消え、小悪魔の後を追うように遊園地もパッと消えた。先程まで遊園地があった場所は、夜の暗い森に変わっていた。

気づけば、『私』の真後ろに、彼女を追いかけていたカッちゃんとタンくんが倒れていた。

『私』はフッと微笑んだ。

どうでしたか。最後まで展開が読めないように書いたつもりです。

小悪魔はいったい、なんなんでしょう。

そして、カッちゃんとタンくんは、どうなっちゃうんでしょう。

語り手は誰なのか、というのと一緒に、みなさん想像してみてください。

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