無くしたUSB
みなさん日々をどうお過ごしでしょうか?
突然ですが、子どものころ、宝の地図をもとに冒険した経験をお持ちの方は
どのくらいいらっしゃるのでしょうか? 楽しかったですか? きっと楽しかったですよね、はい。
その宝の地図はどうしましたか? もう捨ててしまったのか、それともどこかにしまってあるのか。
私は今、宝の地図を探しています。
その日、太陽の光が穏やかに差し込み、窓辺から漂ってくる心地よい午睡にぴったりな環境を作り出していた。
由希子はそのさなかで額に汗をかきながら、家のなかを駆け回っていた。
「一体どこにいったの、私のUSB」
USBはパソコンで使用する記録媒体で形状は様々だが、一般的に消しゴムくらいのサイズで長方形の形をしている。
「あれに全て記録してあるのに……」
由希子が普段使っているUSBには、パソコンで作られた家計簿のデータがバックアップとして入っている。
他にもお気に入りの画像や動画をいくつか。これと同じものはパソコンとスマホにもある。
そしてUSBにしか入ってないものが1つだけあった。
「−−私のへそくりの隠し場所が」
それはふとした思いつきから始まった。以前通っていたパソコン教室の演習で地図付きの案内状を作ったことがある。思いの外良い出来だったそれを見て、他にも何か作れないかと考えた時に思い浮かんだのが宝の地図だった。
子ども向けに作ってみたいと考えたが、由希子の娘は中学生だし親戚にも思い当たる子は居なかった。
しかし、由希子は宝の地図を前にワクワクする情景に強く惹かれ、どうにかならないかと模索し続けた。そこで当時、こっそり溜めていたへそくりの在り処を宝に見立てて自宅そのものを地図にしてしまおうと決めたのだった。
そこからの行動は早かった。風水やリフォームの本を買い、部屋のレイアウトを少しいじっては宝を隠すにふさわしい場所を選定し、地図に書き込んでいく。最初はパソコン内にデータを作って編集していたが、万が一、家族がパソコンに触って地図の存在に気づかれるとまずいと感じた由希子はUSBにデータを移すことにした。
そうしてへそくりの在り処は1つ2つと増えていき、各へそくりの金額に差をつけることで宝箱の絵を豪華なものとそうじゃないものに分けるなど、地図はどんどんと凝ったものに変わっていった。
「たしかにここに入れてたはずなのに」
由希子はへそくりの在り処が記されたUSBを財布のなかにしまっていた。ここなら家族がおいそれと見ることはないし、宝の地図をお金と関連づけることにも意味がある。そうやって徐々にへそくりを増やしてきたわけだが、どういうわけか、今朝、財布を覗いてみたらUSBが無くなっていたのだ。
慌てた由希子はまずUSBがどこかに落ちていないか家中をくまなく探したが見つからなかった。不安になった彼女は自分の記憶を頼りにへそくりを一旦回収することにした。無事いくつかは回収できたが調子に乗って隠し場所を増やしたせいで、隠し場所を思い出せないものがいくつか残ってしまった。
そしてまたUSBを探す羽目になったのである。
「ただいまー。わ、なにこれ」
そこへ由希子の娘、七海が帰ってきた。七海は散らかりっぱなしのリビングやキッチンを見て訝しげに由希子を見た。
「どうしたのお母さん、なにか探し物?」
「え、えぇ、ちょっとね」
「手伝おうか?」
「大丈夫大丈夫! それよりも七海、お使い頼まれてくれない? お母さん見ての通り、ちょっと手が離せなくて」
由紀子は財布から適当にお札を取り出して七海に渡した。
「悪いけどこれでお弁当でも買ってきて」
「いいけど……お金こんなに要る?」
「余ったらデザートでもなんでも好きなの買っていいから。じゃあ頼んだからね」
そう言うと由紀子は別の部屋に足早に入っていった。焦る由紀子の様子を不思議に見つめながらも七海は受け取ったお金を見て顔を綻ばせる。
「へへ、何買おうかな~」
七海は軽快な足取りで買い物に出る準備を済ませると、由紀子に一言告げてから家を出た。
由紀子から頼まれた用事はすぐ近くにある弁当屋さんで済ませることにして、まずコンビニへ向かうことにした。そしてその道すがら、七海は自分のバッグから財布を取り出した。
「いや~、縁起がいいかなと思って財布に入れてみたけど、結構効くじゃん」
七海の財布のなかに入っていたのは、由紀子が探していたUSBだった。ゴールドにコーティングされており、硬貨のシールが貼られている。
「それにしても、なんだろうこれ」