灯を断つ白刃
ここは、夜な夜なおもちゃたちが動き出す世界。私たちの規定世界とはちょっぴり異なる場所の物語です。
今日はクリスマス・イブ。良い子たちは早々に床に就き、サンタクロースの来訪を待ちます。そして、大人たちは合体をする。
時刻は深夜。黒い空からこんこんと雪は降り積もり、街灯に照らされ白く輝いています。こんな風に凍てつく夜は、路上生活者の中に幾人かの死人が出るでしょう。
しかし、そんな寒さも世帯年収2千万円を超える家族の家では無縁です。暖房の効いた子供部屋。肌や頭髪に手入れの行き届いた男の子が、ふかふかのベッドの上ですやすやと寝息をたてています。枕元には大きな赤い靴下。そして、手紙とクッキーが数枚。サンタクロース宛てのメッセージとプレゼントです。
子供部屋に突如、大柄な人影が現れました。それは筋骨隆々の男でした。上下赤色のスノーウェアに身を包み、白いバックパックを背負っています。彼がサンタクロースです。
サンタクロースは白いバックパックの中からぬいぐるみを取り出しました。それは魚のぬいぐるみ、ミツクリエナガチョウチンアンコウのぬいぐるみです。
「おはよう、ミツクリエナガチョウチンアンコウ君」
サンタクロースがミツクリエナガチョウチンアンコウのぬいぐるみに挨拶をすると、ミツクリエナガチョウチンアンコウのぬいぐるみはぱっちりと目を開けて、
「おはようございます! サンタさん」
と答えました。
「いいかい、ミツクリエナガチョウチンアンコウ君。今日からこの男の子が君の所有者だ。いい子にするんだよ」
「はい! サンタさん」
サンタクロースは男の子の枕元にあった手紙とクッキーをよけて、そこへミツクリエナガチョウチンアンコウのぬいぐるみを置きました。
サンタクロースはクッキーを握りつぶし、それを口の中に放りました。そして咀嚼することなく飲み込みます。サンタクロース続いて男の子からの手紙を開きました。書かれていたのはこのような文章です。
『今年のプレゼントはニンテンドースイッチがいいです』
サンタクロースは手紙を握りつぶし、それを口の中に放りました。そして咀嚼することなく飲み込みます。
サンタクロースは来た時と同様に、突然子供部屋から姿を消しました。
間もなくして、一匹のフクロウが男の子の家に飛んできました。フクロウは子供部屋のベランダの柵に止まります。
「次の家に着いたぜ。くま吉」
そう声を掛けられて、一つのぬいぐるみがフクロウの背中からベランダへ飛び下りました。
それはくまのぬいぐるみです。汚れがひどく、ほつれています。くま吉と呼ばれたぬいぐるみは背中に大きなハサミを背負っていました。ぼろぼろのくま吉とは対照的に、ハサミの刃は手入れが行き届き、街灯の光を受けてギラリと輝きます。
くま吉はベランダの引き戸を開けました。普段ここの引き戸には鍵が掛けられていません。くま吉は事前の調べでそれを知っていました。
子供部屋に忍び込み、男の子の枕元へと近づきます。
くま吉が男の子のベッドによじ登ったところで、ミツクリエナガチョウチンアンコウのぬいぐるみがくま吉に気づきました。
「こんにちわ! くまのぬいぐるみさん。君も僕と同じクリスマスプレゼントかい?」
「…………」
くま吉は何も答えません。
代わりに、大きなハサミを静かに構えました。
そして無言のまま、流れるような所作で相手のチョウチンを切り落とします。
「び、!」
相手がひるんだ隙に、そのギラギラしたハサミの刃がアンコウの腹を掻っ捌きました。
お腹からは白い綿がもこもこと出てきます。
「あ、あ、」
アンコウはその眼球をぎりぎりと少年の方に向けて、口をぱくぱくとさせたのち、ぬい生を終えました。
くま吉はハサミを閉じて、背中に担ぎなおします。ベッドから飛び降り、子供部屋を後にしました。
ベランダに出ると、雪の混じった風がくま吉に吹き付けます。くま吉の体からは糸くずが舞いました。
「待たせたな、ホー太郎」
ホー太郎とは、くま吉をこの家まで運んできたフクロウの名前です。
「なに、毛づくろいする暇もなかったさ。流石の手際だ」
「……そんなことはない。このままのペースでは予定の半分も回れそうにない。……明日も頼めるか?」
「報酬は?」
「問題ない。今日と同じ量を念を入れてとってある」
「……悪いな。俺にも養う家族がいるんだ。義理だけで仕事は出来ねぇ」
「次の家に行こう。飛んでくれ」
ホー太郎はその鋭い両脚でくま吉のふわふわした肩を握ると、雪の降る夜空へと羽ばたいて行きました。
こういう企画ってよぉ
はじめてつつくし、勝手もいまいちわかっちゃいねーが
期間内に完結させりゃいいんだろーがよ!
……無理ぽよ。