19 戦士
血が出ます。と、書いておきますが全然ですのでご安心を。
「なんで私たちまで歩かなきゃならないのよ!」
村人たちが歩いていく横をSたちもまた歩いていた。
「なに言ってんだ。このためにお前らを連れてきたんだぜ。護衛のために」
バイクですぐに帰ろうとした紅蓮のメンバーは、他のメンバーと共にSに歩かされていた。
もともとSは他のメンバーを護衛として連れてきていたらしい。配置は適当なようだが。Wは先に帰った。食事の用意をするためだそうだ。
「重いのに……」
「『鉄腕』がバイク押してる程度でごちゃごちゃいうな。まあ、それはいいとして、おーい、M、Nちょっとこっち来ーい」
近寄ってきた2人の顔はわずかに青ざめているが、あの光景を見たものの中ではかなりましと言える。
「お前らは俺がやったことを見てどう思った? やっぱり、狂ってると思ったか?」
「……何か……あったのかなって」
「まあ、ありまくりなんだが、ああした理由のひとつとしてお前らに戦い、ってのを知って欲しかったんだ。お前らはなんとなく戦いに向いてなさそうだって思ったんでね。要は、お前らもああなる可能性があるってことだ」
「…………」
「だから、戦いってやつを、負けたやつの行き先を見てからお前達に武器を渡したかった。俺達は悪魔に狙われやすい。だから、武器を持たないわけにはいかない。だから、せめて本質を見てから参加して欲しかった。ここから先はお前達が選べ。自分の一部としての武器を扱うか、それともただ護身用のやつを持つか」
その場は沈黙した。その部分だけ時が止まったかのごとく。周囲の談笑が異様に大きく耳に響く。
「…………」
「ま、どっちにしろまだ急ぐ必要はないんだけどな。まだ、な……。」
◆
翌日
「持てないってことは、お前らが実際は武器を手にしたいって思ってないってことだ」
「でも……」
「まあ、じっくり待つさ」
「おーい方向音痴、済んだなら行こうぜ。」
「うるせえ、つかT、なんでお前ついて来てんだ?俺は呼んでねぇぞ」
「お前がその2人襲わないように監視に決まってんだろ?」
「死ね、くそったれ」
◆
翌日
「カスミがいなくなったぁ!?」
「今朝食堂に案内しようと思って部屋にいったらこれが」
Wが一枚の紙を見せた。
枷となるならば、我霞のごとく消えん。
「あいつなにを……! あれか……?」
Sが額に手を当てた。
「とりあえず捜すぞ。ジャック、T、Fは森の東、W、M、Nは森の南、俺は西だ。ここの森は深いから気をつけろ。ジャックの部隊はフェザーを連れて村、荒野の方面だ。紅蓮のメンバーは昨日一晩中バイクを運転してたから休んでろ。もし、カスミが帰ってきたら花火で知らせろ」
*
探索メンバーが全員森に入って1時間後
ジャック、T、F
「全く、隠れるには申し分ない場所なんだがな……」
「そういやSってかなり方向音痴だよな?迷ってんじゃねえか?」
「ここの森はあいつの庭みたいなもんだろ……たぶん」
S
「やべ、帰り道さがさないと」
「ほんに、おぬしというやつは……」
S、現在南へ進行中。
W、M、N
「昨日の晩はいたんでそんなに遠くへは行ってないと思うんですが……」
「でも、なんで出て行ったんだろうね?なにかあったのかな?」
当然の疑問を口にするNだが、そのときMが声を上げた。
「ねえ、あれ……」
そこで森が切れており、中央の池を囲うように空間が広がっている。そこにカスミはいた。
膝を抱えて座り、池の中を見つめている。
「カスミさーん!」
駆け寄るWを振り向いたその顔は相変わらず無表情だが、その頬には水滴を流したようなあとがある。
「帰りませんか?多分誤解してるんだと思いますよ?」
「なに「ハァ!」!?」
「を?」とカスミが問いかける寸前、Wが後方に回し蹴りを放った。
「グオオオォォォォオオ‼」
「獣型……なんでここに……?」
Wに襲いかかった何かは、吹き飛ばされ近くの木に激突した。その木にとまっていた鳥が夕空に羽音を響かせ飛んでいく。木の根元から起き上がったのは獣型の悪魔だった。約二mの全身にこげ茶の毛が生えており顔が長く、歯は外側に向かって生えているている。手足に鋭い爪をもち、両足で立ち、目は赤い光を発している。
そのとき、樹上から次々と咆哮が上がった。
見上げた先には、葉の間からのぞく無数の赤い光。
「MさんとNさんはカスミさんと一緒に私の後ろへ!いざとなったら池に飛び込んでください。私も獣型をこの数、誰かを守りながらはきついですから。ハァアア!」
Wの周囲に山吹色のオーラが現れる。それを合図としたかのように樹上の赤い光が下方へ線を引き、続いて響く無数の落下音。
Wが肘から手の甲をなぞると、その手には先ほどまではなかった棘の突き出た鉄甲が手につけられており、腕も籠手が覆っている。
唸りながらゆっくりとWを半円形に覆う赤い光、その中の二つが急激に接近した。
Wが上段への蹴りで吹き飛ばすと、その後ろから六の赤い光。
Wの踵が鋭く落ち、一匹の頭蓋を砕き、同時に右の裏拳がもう一匹の顔を消滅させた。正確には、Wの拳の当たった位置が爆発し顔を吹き飛ばした、と言ったほうがいいだろう。
頭部を失った体は首から血煙を上げながら地面に倒れた。
Wの上を一匹が飛び越え、そのままカスミ達へと飛びかかったが、背で何かが爆発し勢い余って池まで吹き飛ばされた。Wの放った直径五cmほどの球体が原因のようだ。
流れるような動作で襲い来る悪魔を弾き飛ばしていく。
だが、徐々にW達を囲う半円が小さくなっていき、それに合わせてWも後退していく。手足を失っても次々と襲い来る大量の悪魔と、後ろの三人を守りながらのWでは差が出るのも当然だろう。
突然囲いの最後尾から悲鳴が聞こえた。
「だーーー! 邪魔だ!」
「あれ、Sも来てら。俺はあんまり近接戦闘得意じゃないから頼んだぞー。俺は最後にフッフッフ(ニヤッ)」
「てめえ、なに考えてやがる!? MとNには手ぇ出すんじゃねえぞ!」
「師匠!早く加勢してくださいよ! かなりヤバイ状況なんですよこっちは!」
Wがそう叫ぶのとほぼ同時に、血煙を撒き散らしながらSが囲いに穴を開けた。
「もうしてる」
Sが持っている武器は、以前天使を殺したときの鎌が柄の部分でつながったものだった。それを凄まじい速度で回転させ、振り回している。どのような速度で回転させているのか、鎌は円にしか見えない。
「お前はそいつらを守れ、暇があったら爆弾飛ばして近くにいるやつらを倒せ。T、F聞こえるな? お前らは囲いの最後尾で不意打ちしまくれ! 頭を攻撃しないと殺せないからな! ジャック、お前もそこらの死体に糸つないで少しは戦え!」
Sは言い終わると回転している鎌を空中高く放り投げ、銃を抜くと悪魔の集団の上へ跳んだ。空中で逆立ちしたような姿勢へ移行すると、回転しながら銃を連射した。マシンガン並みの連射により多くの悪魔が頭蓋を砕かれ倒れた。だが、生き残った悪魔は落下してくるSへ飛びかかる。Sは何かを引くような動作をし、姿勢を正常に戻すと向かってくる悪魔を迎撃し、異常な速度で落ちてくる鎌を受け止めた。
「全員伏せろ!」
Wは他の三人の頭を抑え慌てて伏せた。
Sは確認せずに頭上で鎌を一,二度振り回すと、それを悪魔の集団へ投げ込んだ。それに触れた悪魔は体を切断され血を撒き散らしながら地面に落ちる。Sがさらに手を大きく一回転させるとその動きにから少し遅れて鎌も同じ軌道をたどった。
鎌がSの手元に戻ったときそこにあったのは累々たる死体の山と、血の海だけだった。
「(ペッペッ)てめー何しやがんだ! こいつらの血飲んじまったじゃねーか!」
「へーきへーき。第一俺達は血飲めるだろ? そっちは生きてるか~?」
「一応平気ですけど……」
「血まみれ……」
「おーい、カスミー。お前もしかしておれが『あのばばあおぼえてろよ』って言ったのに反応したのか?」
「…………」
頷いた。といっても顔を上げずにうつむいたままだ。
「あれはお前が邪魔だって意味じゃなくてな、ほれ、見てみな」
Sは懐から紙を取り出しカスミに渡した。
それはシエラからの手紙。事の発端だ。文面は以前と全く変わりない。
「裏だ、裏」
カスミが紙をひっくり返した。
追伸 あの挑戦者はわらわがサクラとして呼び寄せた者じゃ。おぬしの腰は重いのでな。
「あいつは子守をして欲しいって言ったんじゃおれが来ないとふんでわざわざサクラ用意したんだよ。お前らは知らないと思うが、別の依頼もしてきやがったしな」
「じゃあ……」
「そう。お前を押し付けられたと思ったからじゃなくて、いいように使われたから悪態ついただけ」
肩をすくめながら解説するSの横でジャックが吹き出した。
「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハ! お前また利用されたのか!」
「だまれ変態が! お前は俺以上に女でひどい目にあってるだろうが!」
「ふっ、愛の『行くぞー』力が、って、おーい」
*
「よかったな。カスミのことがきっかけになったんじゃないか?まあ、これでお前達も仲間の足手まといにはならないさ」
次回はかなりのんびりした説明調です。