18 神殺し
残虐な描写、拷問等が苦手な方及び嫌いな方は後半は避けて下さい。
「おお、神の御使いよ! 我らが神を冒涜せし者に神罰を!」
「神を冒涜せし者よ。お前の武器を捨て悔い改めよ。我に立ち向かうと言うのならば、今ここでお前を奈落へ送り届けよう」
荘厳な声が周囲に響き、火刑に処されようとしていた村人までもが恍惚とした表情を見せた。
Sもその巨人を天使と呼んだ。噂は事実だったと言うことか。
「消えたくなけりゃ、俺の前から消えろ。最下級の天使様よ」
「貴様の言葉は確かに真実だ。だが、最下級といえどお前達人間を超越した力を持っているのだ。人間に殺されることなどありえん」
「悪いが、俺は邪魔なら神だろうと殺していく。邪魔をするならお前を消す」
「武器を捨てる気はないようだな。ならば、お前の罪深きその魂を今ここで奈落へと導こう」
天使は輝く槍を構えた。それをSが止めた。
「ちょっと待った。ただやりあうだけじゃつまらねえから、お互い条件をつけないか?」
「どういう意味だ?」
「お前が俺を殺せば、ここにいる俺の仲間全員五聖教団の傘下に加わる。俺が勝てば、そこの聖職者どもには恐怖を味わってもらう、どうだ?」
「神の御使いよ。この勝負に勝ち、奇跡の力をお示し下さい! 我らは恐怖になど屈しはしません」
『天使様!』
「……よかろう。受けて立つ」
「『神殺し』の名を持つ俺の武器と、天使どちらが勝るか、見ものだな。なあ、『デイシディオ』」
今までヘラヘラと笑っていたSの目が鋭く尖った。Sのクロークは柄が鎖でつながれた2本の漆黒の大鎌へと姿を変えていく。同時に、Sの体から黒い炎のようなものが薄っすらと立ち上った。
「アイツなに勝手に決めてんのよ! 負けたらどうするつもり?」
「大丈夫ですよ。確実に。Mさん、Nさんはよく見ておいた方がいいと思います」
「え……どうして?」
「まだ武器を取ってきてませんよね? それは多分……」
Wの言葉が終わらないうちに戦闘は始まった。天使は長さ約十mの槍を軽々と振り回し、Sのいる位置に突き、足払い、打ち下ろしとすばやく攻撃をつなげていく。すばやく、と言うもののそれは目視できる速度ではなく、槍が幾筋にもわかれて見える。
Sはそれを鎌で打ち返している。
「人間を超越した力ってのはこんなもんか? これじゃあ俺が相手しなくても他のやつらで充分だが?」
その言葉で天使の攻撃がやんだ。
「どうやらお前を見くびっていたようだな。貴様にならば我が力の一片を見せても良かろう」
天使が再び槍をSに振り下ろした。Sは鎌を交差させ受けたが、地に膝をついた。
「これがお前達人間と、神より肉体を与えられし者の差だ」
「なら、俺も少し真面目にやろうか? 開放」
Sの体から黒い炎のようなものが噴出し、ゆらめいた。これもオーラなのか?
そのオーラを目にした瞬間天使の目つきが変わった。
「そのオーラは……これは神意である。もはや手加減はせぬ。貴様をこの場で魂ごと消し去ってくれよう」
天使の体から光が発せられた。
天使はSに向かって槍を突き出した。先ほどとは比較できないほどの速度で。槍が十五,六mに伸びたようにさえ見えた。
Sは先ほどと同じように鎌ではじいた。が、Sは派手に後ろに吹き飛ばされた。天使がはじかれた槍を回転させ、石突でSを殴り飛ばしていたようだ。
Sは建物の壁を崩しながら付近の建物に飛び込んだ。
「天使様の勝利だ! 悪は滅せられた!」
『神よ。かの冒涜者をその広き懐に迎え入れ、罪を洗い流したまえ』
「その祈りは無駄であろう。あの者の魂は砕かれ、神の御許へは辿りつけない。この世に住まいし者の魂の糧となるのみなのだ。あの者は」
「勝手に殺されても困るがな」
祈りをささげていた信者が一斉にSが吹き飛ばされた方向を見つめる。
見えてきたのは血のような色の光を放つ2つの円だった。
「なぜだ……?」
「俺だって壁に叩きつけられたら死ぬだろうが、ぶつかる前に壁を切っておいたからな」
そう言いながら現れたSの周囲は黒いオーラで覆われ、姿を見ることすら出来ない。
「それにお前の攻撃だって直撃したわけじゃない。受け切れなかったから自分から後ろに跳んだんだよ。勢い流しながらな」
「…………」
「続きと行こうか?」
その声が消えたとき、すでにその場にSの姿はなかった。
断続的な音と共に天使の周りを囲うように黒い炎が現れる。そして、その炎をつなぐ血光。
「ほうっ、だがこの程度では私を殺すことは出来ぬぞ?」
天使の体のいたるところに切り傷が生じていく。しかし、天使は痛みを感じている様子すらない。
「所詮人間ではこの程度が限界。いくら力を持とうと我らを殺すことなどできん!」
天使が突き出した槍がSを捉えた。だが、Sはかろうじて鎌の鎖でその一閃を受け止めている。
「何を勘違いしてる知らねえが、お前、自分の体をよく見てみな」
天使の体には無数の亀裂が入り、それが全てつながっている。そしてその亀裂の入った胸にSの左手の銃は照準を合わせている。
「貴様! なにを!?」
「その暑苦しいもん脱がしてやるんだよ」
天使の胸で弾丸が炸裂し、上半身が砕け散った。周囲に煙が立ち込める。
「て、天使様……」
Sと話していた聖職者が膝をつく。だが、
「お、おい、あれは……」
煙が徐々に晴れ、そこに膝をついていたのは翼の生えた人間だった。
「貴様がなぜ我らの武装を知っている?」
「前にも殺したことがあるからな」
オーラがSの周囲から消えた。その顔には見た者を凍りつかせる無の表情が張り付いていた。
「なるほど、私たちは人間に対する見方を修正しなければならないようだな。(くっ、これほどまでとは。召還陣まで戻れれば……)」
そのとき、轟音と共に天使の背後で爆発が起こった。
天使は首が折れんとする勢いで振り向き、再びこちらを向いたとき、その顔にははっきりとした恐怖が縫い付けられていた。
「おっと悪い。お前を狙ったつもりだったんだけどな。これじゃあ帰れなくなっちまったな」
天使がじりじりと後退し、壁に背を預け立ち上がった。
そしてSが歩み寄る。
「な、なにを?」
震える声での問いかけにSは行動で答えた。
「ぐわぁーーーーーーーーーー!!!!!!!」
「鼻が高いだろう。お前ら天使が導く子羊たちにその人間を超越した体を見せてやれるんだからな」
Sは天使の両手首、両足、両翼をナイフで壁に縫い付けた。
「や、やめてくれぇ!!」
「やめる?遠慮するなよ。たっぷり拝んでもらいな。その神から与えられた肉体ってやつを‼」
Sは高速で様々な方向に移動しながら銃を乱射する。天使の体に無数の穴が開き、血が、臓物があふれ出す。
「すげぇぞ!!!! さすが超越者!!!! ほんとに死なねえぜ!!!!」
ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァ……
それは単一の生物が発する声と言うよりも、町全体が絶叫しているかのごとき声。
「ククク……」ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ……
絶叫と混じりながら町へと吸い込まれる笑い。再びオーラがSを包み、黒いオーラが狂気に激しくゆらめく。
「さあて、役立たずのお前に、最期に役に立ってもらおうか?」
ピクピクと痙攣する天使へSは語りかける。
「も、もう……許し……て……く……」
『Mundo』
Sが地面に鎌の上部の突起を地面に突き刺した。その部分から黒い何かが広がり、Sと天使を覆った。
「や、やめろぉ……やめてくれ。私は……「喰っちまいな」……ギャアアアアアァァァァァァァァァ…………」
絶叫と共に内部から響いてきたのは、咀嚼の音だった。
Sの姿が再び現れたとき、そこにいたのはSだけだった。
今回はSの裏、というか闇を描きました。一種の布石なんですが、あんまり上手には出来ませんでした。すみません。
残酷な描写は極力避けるようにしますので、苦手な方も安心してください。
(残酷描写が入る場合は今回同様警告を書いておきます。)