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アディオス  作者: 渡り烏
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17  訪問

「これは……」


 誰ともつかぬその呟きは微かに煙を上げる村へと吸い込まれていった。


「悪魔の仕業?」

「違う。悪魔は火を放つことはしない。盗賊か、どこかの軍隊か、それとも……」


 Sは何かを探すように辺りを見回しながら、村の奥へと進んでいく。そして、突然立ち止まった。


「神の試練とやらか、今回は」


 Sは一軒の焼け落ちた家の壁に近づいた。


「これは?」

「五聖教団の旗だ」


 そこには旗が打ち付けられていた。中心に十字架があり、その周囲を槍、杯、布、釘が取り巻いている。


「こいつがあるってことは村のやつらはひとまず無事だ。生きてはいる。だが、時間の問題だな……お前らはどうする? 夜どうし移動になるが、一緒に来るか? 俺は村の連中を連れ戻しに行く。お前らがもし来れば……俺の黒い部分を見ることになるな」

「?」

「!?」


 Sの言葉を聞いたときの反応は2つに分かれてた。W、ジャックのみは驚愕の色を顔に貼り付け、他は訝しげな顔をしている。


「行きますよ。でないと止められないじゃないですか。行かないわけにいきませんよ」

「そうだな。前みたいになったらマズイからな」

「そりゃどう、も。紅蓮のメンバーはバイク出して来い。他は村の外で待機だ。急げ!」





                    *





―――――数時間前 五聖教団支部


「――――よって、これらの村人を世を混乱させんと目論む邪教徒とみなし、火刑に処す。執行は明朝9時とする。閉廷」


 村人の刑罰が決定した。

 五聖教団、それは世界で最も多くの信者を傘下におく、巨大な宗教組織だ。旗印にされている5つの道具は数千年前に実在した宗教から受け継がれた思想であると言われる。

 五聖教団は旗の絵柄にちなんだ五つの騎士団を保持しており、その武力は一国に匹敵するとも言われる。また、五聖教団は独自の魔術を持っており、戦闘の際には天使を召還し、共に戦うという噂も流れている。






                     *   






「たぶん今回村に来たのは聖釘騎士団だ。旗を釘で打ちつけておくのはあそこのやり口だ」


 Sは馬で、他はバイクで荒野を疾走していく。夜通し走り続け、既に日が昇っている。


「アンタの馬どうなってんの? これだけ走ってんのに余裕じゃない」


 実際、Sが乗っている馬はあまり息が切れていない。


「さあな、こいつに聞け。見えたぞ!」


 丘を登りきると、目の前に巨大な城壁が姿を現した。悪魔からの防衛にため町などには常備されているが、ひときわ大きく、厚い。


「さて、殴りこむとしようか?」




                      ■




 町の広場に大量の薪と、十字架に縛られた人々が用意された。八時五十五分。直に火刑が始まる。


「これより、罪の浄化を始める。ここに縛られし者は神を冒涜せし者に付き従う邪教徒である。我らは神の教えに従い、慈悲をもってかの者らの罪を聖なる炎にて浄化し、神の御許へと導かん。穢されし神の子らよ、神の御許へと戻り、許しを請うのだ。放て!」


 歯を食いしばる男、うなだれる女、泣くことを必死にこらえる子供、一本の松明がその者たちの足元に用意された薪へと向かい放物線を描く。



 松明がはじけ、異様に長く感じられた一瞬は途切れた。

 聖なる炎を宿した松明は、はじかれた。

 子供の一人がはじかれた松明と逆の方向を見た。


「Sだ!」

「俺の村人を勝手に持ってかないでくれるか? 迷惑だ」




                      *




「おい! 助けなくていいのかよ? 焼かれちまうぞ!」

「ヒーローは後から登場するもんだろ?」

「そんなこと言ってる場合ですか!? 皆さんの命が危ないんですよ!」


 Sたちは少数に分かれ、家の影に身を潜めている。


「あいつらに印象づける必要があるんだよ。あいつらは偶然を神の意思だと考えるからな。直前に出た方が好都合なんだよ」


 そう言った直後、Sは家の影から飛び出ると銃弾を放った。

 呆然とする人々の中で一人の子供がこちらを向いた。


「Sだ!」

「俺の村人を勝手に持ってかないでくれるか? 迷惑だ」


 どうやら他の‘レコーダー’もいるようだ。他方向の視点を感じる。ならば、何か特殊能力を持つものが……?

 Sは広場の中央へ歩いていくと、口上を述べた聖職者と向かい合った。


「貴様がSか。神を穢せし者よ。」

「そりゃどうも。悪いが俺はお前らの神を信じちゃいない。そんな偶像を汚すほど暇じゃないね。」

「この聖都の中で天に唾吐くがごとき物言い。見逃すわけにはいかぬ。貴様の罪をこの場で浄化してくれよう。」


 その聖職者が手を上げると、鎧に身を包んだ騎士がSを取り囲んだ。


「おお、怖っ。でも、お前らじゃ俺を傷つけられないぜ?」


 首をかしげながらふざけたように言うその言葉が、騎士の槍を構えさせた。聖職者の手が下りる。Sを取り囲んでいる騎士の手からいっせいに槍が伸びた。

 Sはクロークの端を持つと、回転しながら裾を翻した。

 クロークは広がりながら槍をはじき返し、そのまま周囲の騎士を吹き飛ばした。その中の幾人かは建物の壁に激突し、崩壊させた。


「おい、ただのマントだと思わない方がいいぞ? 俺の武器を変化させたものだからな。ま、正確にはクロークだけどな」

「ぐっ、神の御使いを!」


 聖職者が叫ぶと、白いマントを身につけ、フードを深くかぶった者が先ほど壁が崩された一軒の建物へと駆け込みひざまずいた。円陣のようなものの前で何かを唱えている。

 突然、円陣が輝いた。

 そこには先ほどからもいたかのように当たり前に、全身が白く、翼を持った二メートルほどの巨人が立っていた。

 Sはその姿を見ると恭しく頭を下げ、おどけた口調で言った。


「これはこれは。天使様にお目にかかることが出来ようとは、光栄な限りでございます」

メモ レコーダー   主に特殊な能力を持つものや、歴史の移り変わりに大きな役割を果たすものの動きを記録する記録者。全員が黒いマントで体全体を覆い、フードを目深にかぶっている。基本的に意識することは難しく、目にしたとしても記憶に残らない。ただし、他種族は支障なく感知するもよう。



今回から真面目な感じになります。

次回は少し残酷な表現?(暴力)を書きます。私はぜんぜん問題ないので分からないのですが、一応苦手な方はご用心下さい。

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