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アディオス  作者: 渡り烏
16/40

16  天国と地獄

今回はいつもに比べると少し長めです。

「だめだ、起きねえ!」


 酒場の地下にあった建造物はデビルハンターの本部だけあり、休息を取るための施設も設けられていた。T、FがSと同じ部屋に泊まり、Sを起こそうと必死になっていた。

 Sは毛布をはがされ、ベッドから体が落ちるほど激しくゆすられ、水をかけられでもなお眠り続けている。服装もそのままで全く動かずに眠っている様子はまるで死んでいるようだ。T、Fも始めに心臓の音を確認していた。


「師匠起きました~?」


 ノックをした後部屋に入ってきたのはW、そして、


「ふむ、相変わらずのようじゃの。どれ、わらわが起こしてやろう」


 シエラが右手を上げた。その瞬間手から雷光が周囲の空気を裂き、Sへと向かう。

 雷がベッドを炭に変える。


「お前は俺を永眠させる気か!」


 炭の中からSが立ち上がった。黒くなっているが特に傷などは見受けられない。髪が乱れているが、寝癖だろう。


「ほほっ、このような乙女に起こしてもらったのじゃぞ? 少しは喜んだどうじゃ?」

「いい年してなにが乙女だ。この妖怪ばばあが!」


 先ほどの雷より数倍強力な雷が部屋を駆け巡った。

 雷光が閃く瞬間、Sは『開放』し戸口に避難した。


「じゃあ、先食堂行ってるからなー」


(Sが食堂に着いたのは一番最後だった。)




                        ■




「で、ここか?」


 食事を終え、町を出てから徒歩でおよそ30分。目的地は目の前にあった。


「ふむ、どうやらそのようじゃの」

「遊ぶための施設、って言うよりもはや町だろこれ?」


 そこは円形のドームで覆われた土地だった。先ほどの町とほとんど同じ広さがある。建物の前には長い列が出来ている。


「こちらで武器をお預け下さーい。この内部は悪魔に侵入されないよう万全の対策が施されています。皆様に快適にお過ごしいただくために、ご協力下さい」

「万全の対策ねえ。こんなんじゃ邪教を忍び込ませるまでもなく、素直に天井破壊して入って来ると思うがな。入り口とか」

「……でもあれ」


 Nの視線の先はドーム型の天井に向けられている。そこは無数のスパイクによって埋め尽くされており、さらに入り口付近には憲兵らしき姿と多数の砲口、さらに厚さ一m近いであろうハッチが見える。


「確かにレベル三までの剣士型、格闘型の悪魔は防げるだろうが、所詮は気休めだよ。そろそろ順番か。シルビナ、クロークに変わってくれ」


 Sの声に反応し、二振りの刀はマントのような形状に変わった。


「便利だな。俺達はどうしようか?」


 T、Fは間違えようもない武器を持っている。


「素直に預けちまえ。いざとなったら取りに来ればいい。レディ、なに必死に隠そうとしてるんだ?あきらめろ」

「だって武器がないと落ち着かないじゃない!」

「そういや、お前のはまだお前専用じゃなかったな?じゃあ貸せ。」


 Sは剣を受け取るとクロークの中にしまった。


「次の方どうぞ」


 声がかかり、T、Fは武器を預け、Sを残して通った。Sはクロークの内側を見せ、そしてそのまま通り抜けた。


「なんで、ばれなかったんだ?」


 レディの剣のことを言っているのだろう。さらにはSが腰に下げている、銃もあるはずだ。


「俺達に限らず、他種族で特殊能力を持つやつは周囲のエネルギーを吸収してん、そいつを変換して使う。で、俺はその能力を少し強めに使ったんだよ。だから、この中は真っ暗闇にしか見えなかったはずだ。光も吸収してるからな。って言っても普段は微量だから周囲に外見として現れるほどじゃないけどな」

「じゃあ、俺達の武器も……」

「確かに出来ないことはないけどよ、専用のは持ち主以外からすれば重いんだよ、かなり。だから。じゃあ、好きに行動していいぜ。あんまり離れるなよ。集めんのが面倒だから」

「イヤッホーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 Sの言葉を聞いた瞬間、レディは凄まじい速度で離れていった。それに合わせ順々にメンバーが散っていく。残ったのはW、T、F、M、Nの五人とS、シエラと少女の計八人。

 Sは他の七人のメンバーと一緒に散歩をするようにふらふらと様々な店を冷やかしていった。


 およそ二時間が経過したところで、放送が響いた。

『ただいまより、イベントを開始いたします。中央の舞台にお集まり下さい』






                     ▲





『ルールは簡単。ここにある最新の戦闘訓練ゲームを行っていただき、所定の回数以内で最後までクリアすればここにあるもの全て差し上げます!参加料金は銅貨五枚です。』

『うおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーー!』


 賞品は多種多様であり、おもちゃ、武器、日常品、はては木材まである。


「なんか派手にやってるな」

「あんたも行きなさいよ。賞品独り占めに出来るわよ?」


 合流したレディがSをけしかけているが、Sは応じていない。


「あんなおもちゃで遊んでどうす……ん?」


 見るとシエラの連れている少女がSのクロークのすそを引っ張っている。


「あの中で欲しいものでもあるのか?」


 頷いた。


「じゃあ行ってくる、か」

「あそこの賞品独り占めよ!」

「これで一般人に負けるようなことがあれば、おぬしは降格じゃ」

「がんばってくださいね~」

「シクッたら笑ってやるからな~」


 様々な応援を背に受けSはため息をつきながら人ごみに消えた。





                     ●




「こんなのどうやって作ったんだろうな?」

「ふむ、かなり昔の技術であろう」


 Sは肩のシルビナと会話しており、目の前には十人ほどが順番を待っている。

 順番が来るとそれぞれが部屋に入り、その中でゲームを行う。部屋の中では悪魔の立体映像が現れ、それを倒しながら先へ進むといったものだ。内部の様子は付近の大型の画面に映し出されている。ほとんどの参加者が5分と経たずにやられている。


「かなり、本物に近いな。っにしてもどいつもすぐやられてるな。あんなんでよく生きてられたな」

「おぬしらデビルハンターと同じはずなかろう。悪魔との戦いを極力避けるのが普通じゃ。ほれ、出番じゃぞ」

『はい! 次はこの少年です! さて、どれほどの実力を見せてくれるのでしょうかーーーーーーーーーーー!?』


『あんなガキかよ』 『馬鹿だ馬鹿』 『がんばれよー』 『恥さらせーーーー』


 必要以上の大声を拡声器がさらに大きくし、声が会場を駆け巡る。それに応えるように会場から声援が届く。(声援と言うよりも野次だが。)そしてSに剣と銃が1組、さらに予備の弾薬が渡される。Sは首をかしげ、司会を振り向いた。


「もう一セット使わせてくれます?」

『え?え、ええいいですよ。なんと二刀流です!これは珍しい!』

『カッコつけてんじゃねーよ!』

「(ここにある物全部いただくか……)」

「おぬし顔に出ておるぞ」


 Sの顔に表れた意地の悪い笑みに司会は顔を引きつらせている。


「さて、ではどうぞ!」




                      ◇



「大漁だーーー!」

「さすが本職」

「ゲームなのに手加減ねーな」

「あれじゃ訓練じゃなくて遊びだな、まるっきり」

「どれもらおうかなー♪」


 それぞれ感想を述べていた。

 Sはその場の観客と司会者が予想外の出来事に硬直している間に賞品を全て奪ってそのまま脱走した。 その横では巨大な熊のぬいぐるみが例の少女を乗せて歩いている。


「良かったな、お目当ての物が手に入ってよ。それ、賞品じゃなかったけどな……」


 Sは脱走する直前、少女がぬいぐるみにしがみついているのを発見し、ぬいぐるみごと連れてきたのだった。そのぬいぐるみにジャックが糸のようなものをつなぐと、そのぬいぐるみはひとりでに歩き出した。

 そのおかしな一行は平和を満喫しながら帰路をたどった。




 Sが城へと帰る道すがら、運ばれてくる巨大な熊のぬいぐるみを発見したのは何の因果か。




「何でついてきたんだ?あそこならシエラと一緒にいられたのによ」


 Sがそう言うと少女は一枚の紙を手渡した。



 その娘はおぬしらと共に行くそうじゃ。世話をするのじゃぞ。

                             シエラ


「あのばばあ……おぼえてろよ。はぁ~、お前が選んだならそれでいいさ。よろしくなチビ」

「カスミ」

「ああ、よろしくなカスミ」









 平穏な時間はいつまでも続くものではない。それはおそらく、太古の昔からの伝統なのだろう。









 帰り着いたSたちを出迎えたのは、焼け落ちた村だった。

メモ クローク  マントとの区別はあいまいであるが、体を包み込む意味合いが強い。クロークより短く、下半身を覆わないものはケープとよばれる。


ようやくこの辺りからお遊びは一旦休止で、この世界の情勢などにも触れていこうと思っています。ここからは、少し残酷な場面が出てくると思いますが、できるだけ表現を和らげるつもりです。

感想、誤字脱字の指摘、説明が欲しい用語、単語などよろしくお願いします。一件もないとかなり寂しいので・・・・・。

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