12 シルビナ
T、F、M、Nは顔がわずかに青い。芋虫を食べたことを気にしているのだろうか。
「そう落ち込むなって。あいつは消化しやすいから昨日みたいに暴食した後にはいいんだよ。えーっと、今日はWと組み手か。だけど、レディとの約束はすっぽかしたしな」
顎に手を当てて首を傾げているSにWが助け舟を出す。
「シルビナさんでも私はかまいませんよ」
「こいつか?」
Sが背負っている刀に触れる。気のせいか嫌そうな表情をしている。
「まあ、仕方ないか」
話しているうちに外へと出る。
「Wの相手、頼んだぞ」
Sは二振りの刀を地面の上に置くと言った。
その言葉が終わらぬうちに刀が形を変え始め、少女の姿に変わる。銀髪に銀に近い灰色の眼をしている。前髪は額を覆う程度で群青のヘアバンドをしてる。また、左右が緩やかなカーブを描いており耳にはかかっていない。そして、後ろは背中の中ほどまでの長さの髪が中央に集まり、三角形に近い形になっている。
「ふむ。まったく、おぬしは人使いがあらいのう」
「今は武器だろうが。それになんでお前は毎度同じ服装なんだよ」
古風なしゃべり方での文句に言葉を返し、Sが指摘した。
シルビナ(だと思われる)は白い胸元を強調するようなデザインのブラウスに、群青と薄紫の二枚の布から成るマントを羽織っており、ひだのあるライトグレーのひざ上までのスカートで、白い膝頭までの靴下に群青の靴を履いている。これは数千年前に見られた服装であるはずだ。後日文献と照合する必要あり。
「何を白々しい」
「まあとりあえず準備運動から始めて、今回は格闘で。シルビナ、能力は使うな。レディ、お前はどこでやる?」
「森がいい」
「はい、ここで」
レディは要望を無視され、額に青筋を浮き上がらせながら拳を腰の位置に構えた。
「じゃあ開始の合図は花火でぐっ……」
レディのストレートがSのわき腹にめりこんだ。前のめりに倒れたSの足を持つとレディは森の方へと引きずっていく。
森まで残り五mほどのところでひゅるるるるるる~、と間の抜けた音が響き、数秒後破裂音と共に空に火の花が咲いた。
その瞬間Sの足がレディの腕に絡みつき、投げ飛ばす。その付近にWもバックステップで着地する。こちらもシルビナから攻撃をくらったようだ。
「兵は詭道なり、ってな」
「油断大敵じゃぞ」
Sの言い方からすれば狙っていたということか。
数瞬後レディとWが同時に動いた。左右に広がり弧を描くように距離をつめる。体を回転させSの背後を取ると、まわし蹴り、肘打ち、裏拳を流れるように様々な技がレディから繰り出される。Wは足技を主体として技を繰り出している。おそらく通常のヴァンパイアではろくに反応も出来ないだろうが、Sとシルビナはかわしきっている。
「そろそろ本気出してもいいぜ」
Sの言葉を境にレディとWの動きが急激に速度を増した。もはや攻撃を目で追うことすら出来ない。
記録不可
約三十分後空に再び花が咲いた。レディとWが攻撃を止め、汗をぬぐった。シルビナは小さく欠伸をしている。あれだけの動きを続けていたにもかかわらず息が乱れていない。
Sだけが肩で息をしている。
「アンタもっと体力つけなさいよ」
「なーに言ってんだ。その体力不足のやつに一発も食らわせられなかったくせによ。っにしてもすこしは手加減しろよ」
Sはわき腹を押さえている。先ほど倒れたのはまんざらでもなかったらしい。
思い出したようにシルビナのほうへ振り向き、手を上げた。
「ありがとよ。もう戻ってもいいや」
「おんし、わらわに礼の一つもせずに帰れと言うのかえ?」
Sがため息をつく。こうなることは予想済みだったらしい。
「二十分の一のサイズになればそのままでもいいぜ。その代わりまた組み手の相手してもらうけどな。それとちゃんとあまりは刀にしてくれよ。」
「おぬし、礼をする気はあるかの?」
Sはタバコを吸う仕草をしている。
「まったく勝手なやつじゃのう」
そう言いながらもシルビナの形が崩れ、その場に刀が現れる。それをSが背に担ぐと刀からなにかがSの肩に飛び移った。
小さくなっているが、先ほどのシルビナと寸分たがわぬ姿をしている。始終を見ていたTが当然の疑問を投げかけた。
「お前の武器はどうなってんだ?」
「俺の武器は特定の形なくてな、基本どんな形にも変えられる。だから、中に魂を入れておけばこいつみたいに自立して行動することも出来る。入れるやつ間違え気がするけどな」
「おんしが自ら望んだことであろうに。大体おぬしは……」
「W、昼飯にしようぜ」
「おんし聞いてのおるのか?」
わかりました、と返事をしてWが駆けていった。
Sとシルビナが言い合う姿を見つめている5人の目に、Sの笑みが映っている。
更新が遅れすみません。もし待っていてくださった方がおりましたら重ね重ね申し訳ありません。文化祭のため馬車馬のごとくこき使われておりました。
しかも終わったと思えばつぎは期末が・・・