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アディオス  作者: 渡り烏
11/40

11  日常(朝)

 新たな仲間を迎える祝宴は深夜を過ぎても続けられた。日付けが変わり三時間が経過した頃、店主に追い出される形で終わりを迎えるまで。新たな仲間を迎え入れた器はその古めかしい姿を昇り始めた朝日に照らされ、その中にいる者たちの安眠を守っている。しかし、その守りは城の外側からの干渉に対してのみであり、内側での出来事には全く意味を成さない。


「そろそろですから耳はふさいでおいた方が良いと思いますよ」


 Wはそう言って両手で耳をふさいだ。彼女の目の前にいた半分寝かけているFを除くM、N、TはWの言葉に耳をふさぐ。

 その数秒後、城に鐘の音が響き渡る。その音はおそらくこの城が全く見えない位置にいたとしても聞こえるだろう。Fは不意打ちを食らってひっくり返った。


「びっくりしたー。なんだよ今の音?」

「今のは師匠が朝を告げるために鳴らす鐘です。というより、皆さんの目覚ましに近いですけどね」


 それから数分後、食堂に集まってきた者は皆目の下に隈をおいている。時たま頭のこぶをおさえながら来るものもいる。


「まったく、Wのときは部屋まで来て起こしてくれたのに~」

「あまったれるな。自分で起きりゃいいだろ」


 会話を交わしながらSが食堂へと入る。一緒に入って来たのは昨夜Sに襲いかかっていた赤い眼を持つ少女だった。


「そういやお前も覚醒が近いみたいだな。腕の文字も徐々にはっきりしてきてるしな」

「電話で言おうとしたんだけど?」


 最後の言葉には棘が含まれていた。気に留めた風も無くTの隣に腰を下ろす。


「W、お前みんなに配らなくていいのか?餓死しそうな顔しているやつもいるぞ」

「あ!忘れてました」


 Sの言葉にWは駆けていく。数秒後、大量の皿を乗せたワゴンを押してWが戻って来た。


「みなさーん! 自分の分を取ってくださーい」


 各自が皿を一枚づつ取っていく。Sも7人分の皿を取り、持ってくる。乗っているのはホットドッグだった。S、F、W、赤眼の少女は早速かぶりつくが、M、N、Tはためらっている。迷っているようだ。なぜなら、ソーセージに見覚えがあったからだ。Fは半分寝ているため気づいていないようだが、それは Sが食べていた芋虫に酷似している。


「W、これは?」


 N(だと思われる)が不安そうにWに聞いた。Wは不思議そうな顔をして首をかしげた。


「ソーセージですけど。どうかしたんですか?」


 Nは幾度か小さく顔を縦に揺らし、了解の意を示す。

 それを確認してT、Mも食べ始める。


「上品な食べ方するのね」


 赤い眼の少女が感心したように言う。M、Nはパンをちぎって口に運んでいる。


「お前ら放火軍団とは違うな」

「紅蓮よ!」


 少女が弧を描くように放った裏拳をSがかわしたため、その軌道上にいた私の額に裏拳がめり込む。私の体は空中で二回転して地に落ちた。


「おい、大丈夫か?」


 赤眼の少女は口をムズムズと動かすと「ゴメンナサイ」と謝罪を口にする。片言ではあったが。

 我々は痛みを感じることは無い。しかし、空中で二回転するだけの攻撃を食らえばそれなりに命の危険を感じる。


「大丈夫そうだからいいか。そういや、レディお前も自己紹介しとけよ」


 Sの言葉に、気まずそうにしていた少女も逃げ道を見つけたとばかりに飛びつく。しかし、私は大丈夫ではない。


「えーっと、みんなからはレディって呼ばれているけど、本名はL。この中の紅蓮って言う部隊を率いてるの」

「レディって柄じゃあないが、そいつの渾名が『鉄腕のレディ』だったからな」


 Lの自己紹介にSが付け足す。実際あの腕力なら『鉄腕』と言うのもまんざらではない。


「紅茶淹れるから、あそこのやつらで飲む人数確認してきてくれ」

「あんたが行けばいいでしょ!私はレモンティーね」

「そんな言い方しても全然かわいくねぇ」


 殴りかかろうとするLをWが必死に止めている。Sが少女のグループに声をかける。


「おーい、そっちの放火軍団。紅茶いるか?」


 Sに殺気のこもった7組の視線が集中する。が、


「ピーチ」

「アップル」

「ローズヒップ」

「グレープ」

「ミント」

「チェリー」

「ストロベリー」


 次の瞬間には7種類の答えが連続して返ってきた。

 Sは額に手を当ててため息をつく。


「面倒だから全員ストレートで」

「やだ」


 Sの面倒くさそうな言葉を八つの声が一蹴。

 聞かなきゃ良かった、と呟きながらSは奥の扉へと姿を消した。

 数分後、一抱えはありそうな盆を持ってSが戻った。八種類の注文と、牛乳、砂糖を乗せ、さらにT、F、M、N、Wの分、さらになぜか私の分もある。記録用に飲んでおけ、と言って私にカップを押し付けた。飲むと、単純に美味しい。渋みがほとんど無いが、味は濃く出ている。


「ドライフルーツじゃなくて、ちゃんと作ってよ」

「いいだろ、ドライフルーツの薄切りでも香りは出るんだからよ」


 そのような会話を交わしながら和やかな時間をすごしているSはあの闘技場での姿からは想像できないほど穏やかだった。


 食堂を出る寸前、Sは事実をT、M、Nに告げた。


「一応教えとくけどな、ドッグパンに挟んであったのはソーセージって別名の芋虫だからな」


 知らぬが仏。

ここらから少し城内での日常に触れます。やたらつまらない場合も見捨てないで下さい。


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