10 歓迎
その城の構造には門は無かった。入り口として小さな扉が一つのみであり、敵の侵入を最小限に留める工夫なのだろう。中は天井が高く、廊下の幅も広い。中には松明の明かりは無いものの、なにか別のもので照らされている。Sは廊下を進んで行き、大きな部屋にたどり着いた。そこは食堂なのか多くのテーブルが並べられている。Sは四人にその場で待っているように告げると、奥に進み扉をくぐった。
しばらくして、戻ってくるSと一緒に一人の少女が現れた。
「この人たちですか?」
「ああ」
「こんばんは、Wです。これからよろしくお願いします」
そう言って頭を下げたWは山吹色の道着のようなものの上からエプロンをする、といった奇妙な格好をしている。そのせいか、全員戸惑っている。
「その変な格好早くやめろ。じゃあ他のやつらに知らせてくるから先に外で待っててくれ」
Sそう言うと早足で出て行った。
「じゃあ、行きましょうか」
Wにうながされ、一同は外に出た。
「みなさんも自己紹介していただけます? 名前を早く覚えたいですから」
笑顔で聞くWに、TとFが自己紹介をする。
「TさんとFさんですね。よろしくお願いします。えーっとそちらは?」
Wがそうたずねた直後に城の壁から多くの影が飛び降りてきた。どの影もきれいに着地する。
「新しい仲間のための歓迎パーティだと、いつもと違ってみんな準備が早いですね。えーっとまだ師匠は来てないみたいですね?」
きょろきょろとあたりを見回しながら呟いた次の瞬間、一つの窓から悲鳴と共に不自然な形で一つの影が落下した。その影は空中で身を翻すと着地した。
「お前ら危ないから下がれ!」
落ちてきた直後、Sは言いながらWと少女二人を着地地点から遠ざけ、同時に自身も横に跳んだ。Sの後から一つの影が下りてきており、その影は着地地点に轟音と共に直径十cmほどのクレーターを作った。
立ち上がったのはこれもまた少女だった。赤い眼が夕闇に輝いた。
「ちょっと待て! 今から飯食いに行くときに。お前の分払ってやんねぇぞ?」
さらに飛びかかろうとした少女がぴたりと動きを止めた。しかし、Sを睨みながら何かぶつぶつと言っている。
「じゃあ、行こうぜ」
Sの言葉と共にそこに集まっていた者たちは丘を下り始めた。
町の酒場は満員になった。Sの仲間は盛大に騒いでいる。男女がほぼ同じ数おり、それぞれのグループに分かれて、食事をしながら酒を飲んでいる。皆せいぜい十五、六歳といったところだ。
Wは双子の少女と話している。
「双子だからMとNでアルファベットも隣り合ってるんですかねぇ?」
Wが首をかしげている。どうやらSの救った双子の少女はM、Nというらしい。
「そういえば、師匠と短いとはいえ一緒にいて揉め事ありませんでしたか?」
「特になかったよ」
落ち着いた声で返事をしたのがどちらなのかはわからない。
「珍しいですね。師匠は公共の場にいると必ず何かしらトラブルを引き寄せるんですけど」
「おい、人聞きの悪いこというな」
Sが自分のグラスを持ち、近づいてくる。
「でも、本当のことじゃないですか。特に酒場みたいな荒っぽい人がいるところでは、9割方騒ぎがありましたよ」
「いやー、やっぱほっとけないだろ。ああいう手合いは」
「って言ってますけど理由を聞くと、面が気に食わないとか、態度がしゃくに障った。なんてことばっかなんですよ」
Wが冗談めかしてMとNにささやく。Sが言い返そうとした瞬間、怒声が響く。入り口の方からだ。
「おい貴様! はるばる旅をしてきた者に向かって今日は満席だから帰れだと? ふざけるな!」
ひげの濃い大柄な熊のような男が店主を脅している。その後ろには三人控えており、いずれも一般人ならその容姿を見ただけで避けて通りそうだ。
「ここにいる皆さんは常連なんです。どうしてもというならあそこにいる彼と交渉してください」
店主はおびえた様子も無くSの方を指差す。店の外でお願いします、と付け加えるのも忘れない。四人はSに近づき、外に出ろとばかりに親指で出口を指す。その顔には不敵な笑みが浮かべられている。Sは立ち上がり、出口へと向かう。Wは何かを楽しみにしているような表情を浮かべている。
Sと4人組が表に出た数秒後、鈍い音が幾度か続きSが帰ってきた。それを見た一人が全体に声をかけた。
「邪魔者も消えたことだし、そろそろ乾杯といこうぜ!」
Sが自分のグラスを持ち上げたことを確認すると先ほどの声が再び響く。
「新しい仲間に乾杯!」
全員が自分のグラスを宙に掲げる。再びにぎやかさがよみがえり、店の中は騒々しさに満たされる。
「ところで師匠、さっきの四人はどうしたんですか?」
「殴りかかってきたから殴り返したら素直に帰ってくれた」
「せめて一言ぐらい交わしたらどうです? 交渉って言ってたじゃないですか」
Wが少しとがめるように言うが、口元が緩んでいる。Sも、だってよと反論する。
「あいつら、面が気に食わなかったからな」
最近実はこの小説書きながら、この小説の更新を待っている方がいらっしゃるのか不安になったりしています。どんなに人気なくても中途でやめる気はありませんけどね。