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始めて童話世界に来た田嶋ちゃんには難しかったらしい。
あれからしばらくきょろきょろしては絶望していた。
「ふ、あははっ……。」
「何笑ってるんですか! 助けてくださいよ!」
「いや、なんか面白くてね。」
そろそろ助けてあげるかと目の前の獣道を指す。
「よく見るとぽやぁっとした白い光がぽこぽこ出て来てるでしょ。あれを辿るとまずは中央通りに着くから、まずはそこに向かうよ。」
「本当だ…。」
こうして、俺たちは森林の大広場にやってきた。
木々に囲まれながらも、魔法に囲まれ明るくなったその大広場では、
大小様々な出店が立ち並ぶ様子を見渡す。
「先輩っ、あ、あの焼き菓子ってもしかしてクッキーですかっ?!」
「ん…‥ああ。そうだね。」
田嶋ちゃんが指しているのは、ピクシーが目の前で焼いているクッキー。
真っ赤な果実をジャムにして、クッキーに挟むジャムクッキーのようだ。
「うぅ……じゅるっ。」
めちゃくちゃ物欲しそうな顔をしている。
一応、業務中だけど仕方ないか。
「いいよ、買ってあげようか。」
「まじですか?!?! ……い、いやそんな。斉藤さんの手を煩わせられないです。」
「あ、そう? じゃあすぐそこだから仕事片づけるか。」
「やっぱ食べたいです。」
食欲がすごいな。
俺は田嶋ちゃんが希望した赤いジャムクッキーの袋と、美味しそうだった黄色いジャムクッキーの袋を2つずつ手に取って、ピクシーに見せる。
「まあ、おじさん。エージェントの方ね。」
「まだおじさんって歳じゃないよ。」
このピクシー、もう80年くらい生きてるだろうに。
童話世界の住人は基本的に失礼なやつしかいない。
「えーっと、全部で300ベリーよ。」
「30ベリーね。」
ここ。
こういうところ。
異世界から来た人間が躓く部分。
――――通貨だ。
この童話世界では物々交換が基本で、特にベリーが重宝されている。
獲れる場所が限られるため、1ベリーで大体120円くらいだ。
それを知らない、もしくは弊社からの説明を聞かない転生者はよくこうしてカモにされる。
まあ、このピクシーは社員だってわかっててやってるんだろうけどな。
「田嶋ちゃんがこっちね。」
そして、俺たちはクッキーをつまみながらクライアントの元へ向かった。
「……これ、1枚がちっちゃいですね。」
「ピクシーサイズだからな。」