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「だーかーら!無理ですって!」
「エージェントだかエンチャントだか知らんが、転職できるって書いてあるだろうがよ!」
「転職じゃなくて転生ですってば!見えてます?!?!」
こちらのお客様。
異世界転生希望者の山本エルヴィンさん。
年齢:67歳
職業:無職(自称農家)
動機
長年勤めていた会社を定年退職し、新たなことにチャレンジしたいと思った。
可能であれば若い人の多い職場だと嬉しい。
給料が良く、永年雇用してもらえる場所を希望。
必須条件
25歳以下の人型女性の住居に住み込み
心の底から身の程をわきまえろって言いたい。
単にバカなだけなのか、ボケてウケ狙いなのかがまったくもってわからない。
そもそも、転生には代償が必要だって言っても働くのになにが代償だとか。
転生って知ってますかと聞いてもせんべいくらい知ってるだとか。
話にならない。
もう2時間も経って、押し問答にも疲れてきた。
だれか、お願いだから帰らせてくれ。
「あのですね、山本さん!転生ってのは、い・せ・か・い・に!行くことなんです!わかってます?!」
「わからん。どうでもええじゃろ。」
「良くないんですって!」
もうだめだ。
こうなった時は…。
「じゃあ山本さん。一度雇用できる会社がないか調べてみますね。」
「今日決めてくれ。」
無理でーす。
心の中で返事をする。いちいち返していられない。
イライラは募るが、関係を悪化させてはいけないので自分を抑えるのに必死だ。
とりあえずはいくつかの企業の希望者リストを流し見る。
「えー、一応探すお手伝いはします。ただ、ここからいくつか契約があるので、ちょっと時間がかかっちゃいますね。」
「それじゃあ意味が…」
「そこで!」
俺は強気に被せた。
そして、ファイルから一枚の書類を取り出す。
「もしよかったら、こちらにも声をかけてみるといいと思います。紹介状書きますし、こちらの方が対応早いので、山本さんのご希望に合うんじゃないですかね。」
「ほお。最初から出せやあ。」
最初から出したらノルマにならないだろ…。
こんな俺の嘆きは客には関係ないのが本当に悲しい。
山本さんは書類を半ば奪い取り、ふむふむと書類を読んでいる様子。
どうだろうか、信じれないとか言われたらもう打つ手がないが。
「紹介状、書いてくれんだよなあ。」
「ええ。今すぐにでも。」
「おし、ここ全部行ってくっから紹介状書いてくれんか。」
「もちろんです!」
僕は即座にBCCメールを打った。
『山本さんという定年退職の方が職務希望です。』
紹介状は書いたぞ、これでいいだろう。
プルルルル……
「あ、もしもし。山本さんのお電話で…はい。はい。紹介状書いておきましたので、宜しくお願いします。」
今日もいい仕事したなあ。
直帰して、ビールでも飲もうかな。
翌日見たメールには心底驚いた。
捨てる神あれば拾う神ありとは、このことか。
件名:Re:転生希望者のご紹介です。
From:株式会社レジデンタルルール ビディ
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World World.inc
斉藤様
お世話になっております、レジデンタルルールのビディです。
新規転生者様のご紹介ありがとうございました。
弊社での希望に添えるかと思うのですが、ご紹介頂いた転生者様は、道端に座る賢者風な老男性として転生して頂くことは可能でしょうか。
報酬は要相談ではございますが、弊社で採用しておりました方が寿命で亡くなってしまい、勇者として転生頂く方の案内役がおりません。
条件には合うかと思いますので、是非一度ご面談できますと幸いです。
何卒宜しくお願い致します。