5-1
勇者失踪事件も終えて、翌週の月曜日。
昨日の酒が若干残った重い体を半ば無理やり動かして起きる。
悔しい程にさんさんと降り注ぐ朝陽を恨みながら今日も出社をする。
今日の会社はどこか騒がしい。
会社のビル全体がバタバタしており、誰か要人でも来たのかとオフィスへ向かう。
しかしそこにいたのは、要人でもなんでもなく、大声出して騒いでいる上司と受付のお姉さんの姿だった。
「キティ! あれだけ書類の期限は守れっつったよなあ?!」
「だぁから、あたしは守ってるっての! フアンがギリギリに出してくるのを辞めてって言ってるんじゃないっ!」
またフアンさんが書類の無茶ぶりを出したのだろうか、ずっと言い合いをしている。
先輩も後輩もみんなおろおろして見守るばかりで、しばらくこの声をBGMに仕事をすることになりそうだ。
「斉藤さん、何とかしてください……。」
半泣き状態の田嶋ちゃんが縋ってきている。
だが今は相手にしている場合じゃなかった。
飛び跳ねて揺れるお姉さんの豊満な乳の方が大j――いや、仕事が最優先だからな。
「俺にどうにかできるんならやってるよ。無視して作業する方が効率的だろ。」
「でも、どうにかしないと……。」
「まあ放っておけば落ち着くだろ。」
そうして田嶋ちゃんのことでさえもほっぽって自分の作業に集中していると、一際大きな叫び声が聞こえてきた。
「「今日で辞めてやる!!」」
おい、上司だろ。
なんならもう一人はフアンさんよりも年上だろ。
作業してる間に何があったんだ。
少し見回して、げらげら笑って眺めていたマトヴェイ先輩に少し話を聞いた。
「んー、なんかプライベートで揉めてるらしいよ。」
「書類がどうとかって話じゃないんですか。」
「それはついでに日頃の鬱憤をーってやつ。なんでも、キティちゃんの見合い話をフアンさんが潰したんだとよ。」
「ええ……。」
「で、怒ったキティちゃんにフアンさんが逆ギレ。返信しなかったお前が悪いと。」
なんで朝からそんな話を、と言いかけて言葉を飲み込んだ。
マトヴェイ先輩はにやにやと意地悪な笑顔を浮かべている。
「アタリ。二人とも昨日の夜から飲んでるよ。」
んなもん、会社でやんなよ。
もう帰れよ。
まだ出社して間もないというのに、頭が痛くなってきた。