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女将さんからいくつか聞いた後は、他にも被害がないか片っ端から聞き込みをした。
想定していた以上に悪い事態に、俺は後悔が腹の底に溜まっていくのを感じた。
一人じゃ判断できないため、携帯を取り出しひとまず上司に相談することにした。
「…………はああい。」
「お疲れ様です。斉藤です。フアンさんのお電話ですか。」
「違いますねえ。」
「ああ゛?」
呑気なくそ上司の対応にイライラして、本来の要件が吹っ飛びかけた。
「こほん。えっと、フアンさん。例の案件なんですけど想像以上に面倒なことになってまして。」
「面倒なこと……?」
「はい。勇者職を途中放棄し、詐欺師に転職しています。」
「なんだそんなことか。」
「そんな簡単じゃないんですよ。詐欺師に転職しているんですが、勇者の名は騙ったままで……。」
「それなら別に……。」
「住民から金を巻き上げて生活しているんですよ。今度、その詐欺が発覚したので、村の住民が戦争をしかけることになったそうです。」
フアンさんから応答が消えた。
遠くで田嶋ちゃんがコケたであろう音が聞こえる。
「斉藤君。今すぐ捻り潰してこい。」
「了解でーす。」
その言葉を聞けて、俺は電話を切った。
そして、自称・勇者サマの経歴証明書に書き加える。
勇者に転生希望 田中風太郎
年齢:23歳
職業:無職 → 勇者 → 現在詐欺師、自称・勇者
動機
世界を救いたい。
今の世界に絶望した。
俺ならもっと簡単に世界を救えるはず。
必須条件
過去にプレイしたことのあるゲームの中に入りたい。
追記、備考など
規約違反者
内容:職務放棄、詐欺、紛争の誘導、命令無視による暴走行為
通信機の破壊等の器物破損、無許可営業
六件にわたる違反疑いアリ、更なる余罪の可能性アリ
くそニート野郎から転生したことで、何かしらの気が大きくなったらしい彼、風太郎。
現・プータロー。
奴は、勇者の職を放棄し詐欺を横行。
「俺は勇者で最強、いずれは世界を救う。だから投資しろ。」
「仲間になればこの場は助ける。仲間にならないなら身ぐるみ剥いで殺す。」
等々の甘言・恫喝によって、村から様々な物資と人質を要求。
奴は何かと勘違いしているが、村からしたらただの大犯罪者の他ならない。
上司の許可がなければ、俺たち部下は直接制裁を下すことはできない。
反対に、許可さえ出れば部下でも直接制裁を下すことができる。
「あの女将さん、娘さんが攫われたらしいしなあ。仕方ないよなあ。あーー心が痛い心が痛い。」
あいつらの言う神って奴が、|World Worldの社員《俺たち》だってことよく言って聞かせないと。
だってそれが俺の仕事だから。
世界の神が誰なのか、底辺ゴミ野郎に教えてあげないとなあ。