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⑰真実の愛

投稿遅れてすみません

⑰真実の愛




「……むっ⁉ コイフに今何か悲しい事が起きてる気がする⁉ 」

幻覚世界でフィオナは第6感を働かせた。

『まぁここに囚われてから1日経ってるしの』

「……は、1日? 4、5時間くらいじゃないの⁉ 」

肉体から抜け出ているフィオナは時間の感覚がバグっていた。


「あ”ー‼‼ 絶対私の事心配してるじゃん! 可哀そうだよコイフ~! 早く、早く体に戻らなきゃ‼ 」

フィオナはいたたまれなさで身が張り裂けそうになった。

『ふむ、穢れもすっかり綺麗になったしな、……よっこいしょっと』

「えっ! うえぇ⁉ 」

竜は金色の翼を羽ばたかせフィオナに突撃してきた。


竜はフィオナの体内に水面のように入り込み、何かをずるぅりと足で掴んでまた出てきた。


「な、何、ですか……⁉ 」

『これはフィオナと混ざりかけていたあの男の一片、そしてあの男にとってのこの世の執着そのもだ』

「えええ……」

竜に手渡されたそれは小さな金の輪であった。魔力の鎖ががっちりからまっている。


『それを破壊すればあの男は自らの存在を維持する事が出来ず瓦解するだろう……だがそれをすれば』

「魔王の魂を壊す……殺してしまうという事ですね」

『そうだ』

「……ふむふむ」

以前養父レギアスからフィオナは聞かされていた。

人間の霊は魔力の核、この世界でいう所の魂を破壊すれば存在は消滅し二度と生まれ変わる事も出来ないという。



耳を澄ませば金の輪からは「故郷に帰りたい……愛する人の傍に帰りたい……」とか細い声が聞こえてくる。

こちらが声をかけても反応はなく声は同じことを繰り返すのみだ。



(故郷に帰りたいか……)

フィオナにとっての故郷はコイフの傍だ。

前世暮らした地球にも戻りたい場所などない、昔はあったがそこはもう無くなってしまった。

(魔王にとっての故郷も好きな人もとっくに無くなってるんだろうなぁ、凄い昔の人らしいし)

共感出来てしまいフィオナは悲しくなった。


幻覚世界には魔王の家族らしき者達もいるが、それでは心の慰めにならなかったようだ。

「……人殺しなんて後味悪い事しませんよ、……この、からまってる魔力の鎖をどうにかすれば魔王は解放されてリンツの目的も解決するのでは? 」

フィオナは金の輪に絡まった魔力の鎖をちまちまつまんで軽く引っ張ってみる。

「神様、魔王は解放されたら本当にメニード国にとっての脅威になるんでしょうか?」

『それは人同士の問題だ、私が関わる事では無い、故にフィオナに教える事も出来ない』

竜はつんと顔をそむけた。

「そうですか……」

フィオナは見放された子犬の様な顔でしょんぼりとした。



(とりあえずこの魔力の鎖を調べてみようか……)

そうフィオナは考えた。


魔力の鎖の付け根は絡まってるだけでなく、端がねじの様な杭になっていて地面に深く突き刺さっている事がわかる。

「なるほど、この杭で魔王の魔体の核が縛り付けられているわけか……う~ん、そもそもこの鎖は壊せるのかな」

フィオナは絡まりをほぐした端から魔力の鎖の部分を熱魔法で溶かそうと試みるが表面が少し溶けただけだった。

魔力の鎖はとても頑丈そうだが、あちこち傷ついて大分痛んでいる。

フィオナは次に魔力の鎖の反対の端をたどって確認してみる。

金の輪は魔力の鎖とくっついて一体化してしまっていた。


「えっ、神様! これ、魔王の魔体の核と魔力の鎖がくっついちゃってるように見えるのですが……⁉ 」

狼狽えながらフィオナが尋ねる。

『その魔力の鎖は、とある太古の技術でつくられている、その為長い年月で混ざりあってしまったようだな』

「ひぃ⁉ え、でもこの魔力の鎖、だいぶ老朽化してるんですが、この鎖が壊れたら……」

『さきほども言ったが、魔体の核が傷つけば、それはその男の死となる』

「ひぃい……怖っ‼ 」

フィオナは手にしていた金の輪と魔力の鎖をそっと床に置いた。


「……えっ? は? これどうすれば? 魔力の鎖が経年劣化で完全に駄目になったら魔王も同時にいずれ死んじゃうって事? 」

『このまま封印されつづければその可能性もあるだろう』

竜は解決法までは教えてくれなかった。



フィオナは今まで授業で習った情報を元に推理していく。

(うまい事一体化していない魔力の鎖の部分だけ綺麗に分離できればワンチャン? この鎖の状態、かなり昔にかけられた魔法なのは確実だろう、この世界の魔法は基本的に時間経過で薄れていく、効いても人間が発動した魔法で約200年が歴史の記録上最長だ、だからきっとこの魔力の鎖は魔道具由来の物、でも魔王の棺の横にあった魔道具は新しいものだったから、他にも古い魔道具があったのか……魔道具なら燃料の魔石を外しちゃえば? でもそれで魔力の鎖と杭が外れる保証は無いから危険か……魔道具には大抵停止機能があるもの、正しく停止なり解除なりすれば良いかも? )

結界の情報をキリィ侯爵は全て説明してくれていた訳ではなかった、あるいはキリィ侯爵も知らなかったのか。

なんにせよここから出たらキリィ侯爵に問い詰めてみようとフィオナは思った。


フィオナはぶつぶつ呟いて打開策を考え始めた。

「ともかくここから出なきゃ……結界……私はあの紐つなぎの玉を離してしまったからこの結界の中にいるんだよね? この鎖を壊す以外に結界から脱出する方法は無いかな……? 」

『結界を壊せば出られるぞ』

と竜が言う。

「そんな、魔王も壊せない結界を私が壊せるんですか? 」

『ふむ』と言って金の竜は頷いた。

『魔王は年々力を付けても理性は失われておったしの、今のフィオナなら今閉じ込められている結界を壊せるんじゃないか? フィオナが幼い頃だって魔術師数名で張った結界を壊していただろう、やってみてはどうだ』

「本当ですか? やってみます! 」


フィオナは集中して魔力を練る。

(魔体の核を捉えている結界は物理攻撃より魔力を練ってぶつけた方が良いだろう……ぶっ壊す為の、硬いイメージ……)



「そらーー!! 」

フィオナは手のひらサイズの魔力を濃縮した丸い球を作り出し、目の前の景色にぶつけた。

魔力の球は何もない空間にぶつかり、そこにひびができた。

ひびから魔力由来の光が漏れ出ている。

「良いぞ! 壊せる! 」


ひびは少しずつ修復されていくが、追い打ちで同じ場所にもう一投くりだす。


バーンとガラスが割れるような音が鳴り、ひびは更に広がった。

周囲の景色もすこし歪にみえる。

『やるではないか、フィオナが開けてくれたら後は私が体へ導いてやろう』

「本当ですか⁉ 帰れる! やった! 」


フィオナは喜び、ふとある事を思い出す。

「神様、魔王の棺に真実の愛って書かれた文章があったそうなんですが、ご存じですか? 」


『メニードの人間達は語り継ぐ事を止めてしまったようだな……これは教えても良いか、どうするかはお前たち人間が決めろ』

「はい! 」

竜は語り出す。

『魔王の棺に彫ってあった文字はこうだ、<正体不明の魔が現れる時、世界は黒き靄に覆われる、其を打ち破るは光、そして真実の愛を持つ者の手によって退けられる>、と』

金色の竜はさもなさげに言う。

「棺に書いてあったっていう怪文書‼ 全文はそんななんですね‼ 」

フィオナは驚いた。

「真実の愛を持つ者云々は語り継がれてるんですけど、結局真実の愛ってなんなんですか? 」

金の竜は大きく溜息を吐くと、真っすぐフィオナを見つめて言った。

『真実の愛というのはな……』




「……なるほどですね、教えて下さりありがとうございます! これは帰って伝えなきゃまずいなぁ」

真実を知ったフィオナは天井を見上げ考える。

相変わらず幻の魔王邸の木の天井は高く、透かし彫りなどがあり気品に溢れている。


「私に魔王を助ける義理はないけど、これ以上被害が広まるのを放っておくのも後味悪いもんね! 」

(それに故郷に帰りたいって気持ちを個人的には叶えてあげたいし)



フィオナは空中に手をかざす。

「コイフの所に戻らないと! 」

フィオナは結界割れろ~と強く念じて、結界の穴に更に大きな魔力の球をぶつけて穴を広げていく。


美しかった魔王邸や魔王の家族たち『景色』が大きくぐにゃりと歪んで、来た時のミミズの洞窟が見え、それも歪んでいく。


「~~っ! 魔力消費量ハンパない! 」

それでもフィオナは魔力の球を投げ続け、遂に結界に穴が開いた。

揺らぐ霧の向こうに玄室が見える。

更にもう一枚結界の存在を感じ、フィオナはそれにも穴を開ける。

揺らぐ霧が晴れ、玄室の景色がはっきり見える。


『ではお別れだなフィオナ』

「はい! 神様もありがとうございました! 」

『親に連絡するんだぞ』

「はい、神様ありがとう! 」


フィオナは穴を通り抜けて玄室に向かって飛び込む。


そこには変身魔法を解いたフィオナの姿があった。

「わ、わわっ」

「帰ったか、体の主よ」

フィオナは、誰だお前は! と言おうとした。

そんな間も無くフィオナと『魔王』デルレイ・ショコラは勢いよくぶつかって、フィオナの魔体の核はフィオナの体に収まり、『魔王』デルレイ・ショコラは弾き飛ばされたのだった。





沢山泣いてすっきりしたコイフは改めて自分の出来る所から始める事にした。

つまりフィオナのお世話だ。

寮に戻ってからお弁当を作り、図書塔の地下へ向かう。

まだ雨は止んでいない。




コイフが受付に近づくと警備員が慌てた様子でコイフに対応する。

「……あっ! コイフ様! フィオナさんが……‼ 」

「えっ? 」


玄室に向かうと、ミアに変装している不機嫌そうなフィオナがいた。

そしてその横に長身の男性の幽霊が立っている。


「フィーたん……? 」

怪訝そうにコイフは近寄る。

ミア姿のフィオナは二重結界の外に出ていた。その瞳はミアの『空色』である事にコイフは気付く。


「フィーたん! フィーたんなのね⁉ 」

コイフは涙をいっぱいに溜めて言う。

「コイフ⁉ うんそうだよコイフ~~~寂しい思いさせてごめんね~‼‼‼ 」

結界から出ているフィオナは体中を数珠つなぎのアミュレットでぐるぐる巻きにされていた。

フィオナはコイフに抱き着こうとしてアミュレットに体を取られて盛大に転んだ。


「フィーたんそのぐるぐるまきはどうしたの? 」

「私が2度とうっかり離さないようにってキリィ侯爵にぐるぐるにされたぁ~」

「キリィ侯爵……以外と変わった人なのね……」


ともかくコイフとフィオナは再会の抱擁を交わした。



「ではこの幽霊の方は……」

コイフは隣の幽霊に視線を向ける。

「その通り、我がデルレイ・ショコラである、この娘が結界を乱暴に割って飛び出してきてな、我はこの娘の体から弾き出されてこうなった訳だ」


デルレイショコラは長い黒髪を高く結い上げて、右から左に長い銀の簪を通していた。

服は民族衣装なのだろうか、貝のビーズが縫い付けられた濃紺の布を頭に乗せて垂らし、全身同じ色の布を裾までたっぷりと使ったチュニックの様な物を着ている、肩には刺繍のたくさん入ったケープかマントかを羽織っている。

ケープの裾にもびっしりとビーズが縫われ刺繍が入れられ、ぺたんとした平坦な黒い靴を履いていて、腰に短刀を帯刀していた。


「私が結界に捕まっていた間の事は『魔王』さんに聞いた! コイフにもいっぱい心配かけたんだね」

『魔王』デルレイ・ショコラは嘆息した。

「根ほり葉ほり全くうるさくて敵わなんだ」

「だって大切な事だったんです! 私の体を奪ったことは怒ってるんですからね! 」

「わかった、悪かった娘よ」

フィオナが『魔王』デルレイ・ショコラを叱るから、コイフはびっくりして耳を跳ねさせてしまった。



「そうだコイフ、生徒会をまた集めて欲しいんだ」

フィオナは真剣な顔をした。

「フィーたん……結界の中で何があったの? 」

「伝えなきゃいけない事が出来たんだ……あ、そのバスケットもしかしてお弁当? 」

フィオナがコイフのバスケットに気を取られる。

「そうなのよ、でも魔王様の侍女さんからご飯も出るはずなのよ? 」

「あんな冷めている飯よりコイフ王女の温かい弁当の方が美味いぞ」

『魔王』デルレイ・ショコラも言う。

「食べるー! 食べてからじゃなきゃ話さない‼ 」

「体が無くなってしまったから馳走になれなんだ、つまらぬな」

魔王デルレイ・ショコラはコイフのお弁当が気に入っていた。


「えぇ……じゃ、じゃあ先にお弁当にするのよ……? 」

うんうんとフィオナが頷いたからコイフはピクニックシートを敷いて夕飯を並べ始めた。

3人で食事をしながら雑談を交わした。


その後コイフは寮区域をひとっ走りして生徒会メンバーを呼び集めた。




『魔王』デルレイ・ショコラはフィオナが壊したとはいえ結界の外に出ようとはしなかった。

その為魔王越しに玄室の前での話し合いになった。

玄室前の入り口に生徒会メンバーが集まる。


公爵令嬢ミリー・ドロップス

このメニード国の王子クロード・メニード

太陽の聖女アユリ・カスタネア

月の聖女エレノア・ツゥグー

そして魔導王国王子、リンツ・ショコラ


国の要人ばかりなので警備員として監査官や、護衛の兵士、結界師、神官が何人も後ろに並んでいる。

今日は聖女の後見人ふたりは来ていないようだ。もしくは入口で止められたのかもしれない。


「フィオナさん! 目を覚ましたんですね! 」

アユリが目に涙を浮かべて嬉しそうに言う。

「あ、その節はお世話になりました……太陽神様に私の保護をお願いして下さって大変助かりました……」

フィオナがモジモジしながら言う。フィオナは人見知りであった。

全員が少なからずフィオナが目覚めたことを喜んでいるようで、フィオナはなんだか尻が落ち着かない気分になる。


「それでコイフ王女、大切な話とはなんですか? 」

クロード王子が切り出した。

「ええ、それはフィーが話しますわ」

淑女の皮を被ったコイフがフィオナをみる。


紐繋ぎの玉でぐるぐる巻きにされているフィオナは、仁王立ちして言った。


「『真実の愛』の意味が解りました」


フィオナの言葉に生徒会メンバーがざわめく。

魔王の棺に刻まれていた『真実の愛を持つ者によって退けられるであろう』という言葉は前回生徒会メンバーが集まった際に出た話題だ。

また玄室を担当している結界師達もその言葉は知っている。


「結界の中で太陽の神様に聞いたことを魔王さんにも確認したんですが、間違いないそうです」

フィオナの言葉に『魔王』デルレイ・ショコラもうんうんと頷く。


「我が棺に刻まれし文字はこうだ、『正体不明の魔が現れる時、世界は黒き靄に覆われる、其を打ち破るは光、そして真実の愛を持つ者の手によって退けられる』経年で読めなくなってしまってはいるがな」

『魔王』デルレイ・ショコラの言にクロード王子が唇を引き結ぶ。


「正体不明の魔、というのはずっと黒い靄の事だと思っていましたが……」

「私が結界の中で出会った黒靄人の事だそうです、あ、『黒靄人』は私が命名したんです、黒い靄が人の形になって襲ってくるんです」


以前『魔王』デルレイ・ショコラはあの靄について魔王の『負』の念、封印された時に一緒に結界に閉じ込められて長い時をかけて凶化した物と説明していた。

『魔王』デルレイ・ショコラはフィオナにも世話をかけたな、と軽く謝を伝え語り出す。


「実際靄は我の暴走した意識の中力を付け続けていた、このままなら靄の力で結界が壊され、棺の文面通りに外に黒靄人が溢れ出ていただろう」


今回は運よく貴重な聖女が2人も王都に滞在していて、神聖魔法とフィオナのチート力で黒い靄を浄化する事が出来たのだった。


フィオナと『魔王』デルレイ王の言葉に静かなざわめきが走る。

「もう少し遅ければ棺の文面通り、黒い靄や黒靄人が溢れ出て世界中の脅威になっていた、ということで間違いないですね? 」

クロード王子の問いかけに「そうだな」と『魔王』デルレイ・ショコラが頷いた。


「あの……其を打ち破るは光というのは……光魔法……のことで……間違いないでしょうか……」

聖女エレノアが白魚の様な手を控えめに上げて発言する。

「そうだな、その解釈で間違っておらんだろう」

『魔王』デルレイ・ショコラは頷く。

「ということは……やはり……真実の愛は……聖女の光魔法……ということですね……? 」

聖女エレノアは嬉しそうに顔を歪め、か細い声を弾ませる。

「それは違うな、本来おいそれと聖女など現れるものではない」

『魔王』デルレイ・ショコラは悲しそうに顔を伏せた。


「魔王様、では恐れながら『真実の愛』というのはどのような意味でしょうか」

リンツの言葉に辺りは水を打ったように静かになった。

「あれは我の没後我の魔体の核を封印した当時のメニード国魔術師が記した物だ、それに生前の我の意は、今あの娘が言ってくれるのだろう」

『魔王』デルレイ・ショコラは悲し気な瞳のままフィオナを見た。


フィオナは頷くと一歩前に出て言う。


「魔王さんと魔王さんを封印した魔術師が望んでいたのは両国の平和でした、そもそも魔王さんは戦争を終わらせるために大人しく捕虜になった、その後魔王さんが無くなって幽霊となり彷徨いだした時、彼の魔体の核を封印するのに同情的だったメニード国魔術師がいたそうです、でも王命で仕方なく魔王さんを封印してこの地にしばりつける魔道具を起動したとき、その解除の条件を魔王さんの意思を組んで棺に記したんです、つまり真実の愛とは当時戦争を起こしていた国同士の親愛の事です、『真実の愛』によって魔王さんを繋ぎとめる魔導具を解除できる、具体的にはメニード国とショコラ魔導王朝の王族が、同時に解除の魔法を発動すれば魔道具は解除されます……今で言うとクロード王子やリンツ王子が適任でしょう」

クロード王子とリンツがバッと弾かれた様に顔を見合わせた。


フィオナは続けて説明する。

「魔王デルレイ・ショコラを繋ぎ止めているのは棺の中の『杭と鎖』の魔道具です、このままではデルレイ王は魔道具の影響で死んでしまいます、黒い靄も全部浄化したし、助けたいなら今しかないですよ⁉ 」

「ちなみにこのまま封印を続けても、魔王様からまた黒い靄が吐き出され続けるそうなのよ」

コイフも先ほど食事中に聞いた話を付け加える。



「私の代で決着をつけることになるとは思ってはいたが……」

クロードの言葉をリンツが続ける。

「まさか王になる前に、とはね」

リンツも苦笑いしている。


現国王が何と言うか。ふたりの王子はそれを考えていた。


リンツ・ショコラ、魔導王国側からすれば万々歳だ、永らく戦争捕虜に取られていた当時の王が帰って来る。

父である現王からデルレイ・ショコラ王の遺体を引き取ってくる様にリンツは命を受けている。なんだってしてやろうという心意気だ。


メニード王国側からすれば頭の痛い話だ。

黒い靄の事は解決したい、戦争捕虜だって正直もうどうでもいい、捕虜である『魔王』デルレイ・ショコラを帰さない方が魔導王国からの不信が生ずると言われたらその通りなのだ。

しかし恐るべきは秘術による歴代王の魔力と知識の継承。

これを行う事で魔導王国の戦闘能力が格段に上がる可能性を憂慮しない筈がない。

そもそも現国王の判断が必要だろうとクロード王子は考える。


クロード王子は一歩踏み出せないままで居た。



「魔王様は結界から出たら暴れ出しますか? 」

フィオナはあけっぴろげな質問をした。

その質問を受け『魔王』デルレイ・ショコラは一瞬呆け、すぐにクックと笑いだす。

「そうだな、ショコラ王国にメニードが戦争を起こすとなれば我もじっとしてはいられないかもな、しかし歴史書によると古の竜によって戦争は終結したのであろう? ならば我はショコラ国にとってももはや邪魔な存在であろうから、名を隠し隠居しようと思っているぞ」


その言葉にフィオナはうんうん頷く。

そして次は「リンツは? 」とリンツに水を向ける。


「僕は、というよりショコラ魔導王国側は、この国に来るまでこんな状況になっていると知らなかった、はるか昔、敗戦の証として当時王だったデルレイ・ショコラ王の身柄をメニード国へ引き渡した、その後メニードから彼の訃報が届き、ショコラ国は遺体の引き渡しを要求したが一向に飲まれず今にいたっていた、僕がデルレイ・ショコラ王の遺体を引き取る為にこの国に来て初めて、デルレイ・ショコラ王が幽霊となって長くメニードに封印されていた事を知った、この事実はショコラ魔導王国にとって衝撃的な傷ましい話だ、帰ってなんと国に報告したものか……というか、メニード国はここまで知った僕を無事に国に返すつもりがあるんでしょうか? 」

リンツはクロード王子に目を向けた。


「陛下達の思惑全てはわからないが、僕が必ず君の身柄を無事に返すよ、……デルレイ・ショコラ王の結界から黒い靄が現れ手をこまねいていたメニード側が、何も知らないリンツ王子を利用しようとして呼んだんだ、本当にすまない」

クロード王子は深く頭を下げてリンツに謝罪した。

「別に監査官や『魔王』デルレイ・ショコラの封印を支持してるのはクロード王子ではなく歴代のメニード王と貴族院の者達でしょう? クロード王子の気持ちはよくわかりましたが、謝るなら別の者が良いですね」

とリンツは悪戯っ子のように笑った。


メニード王は世襲制ではない。

次期王に志願する者があらゆる試験を乗り越え多くの高位貴族の支持を受けて選抜される。

王太子ではないクロードにはまだそれほど力が無いのだった。


「でもクロード王子が責任取って僕とデルレイ・ショコラ王を解放してくれたら、僕だって無事に帰れますし、遺体を持ち帰る事が出来たら偉業として僕の業績になります、それなら是非僕からクロード王子の力になりますよ」

リンツはほほ笑む。



「……クロード、差し出がましいですが、おやりになるべきかと」

ミリー公爵令嬢が口を開く。

「クロードはなんの為に生徒会に聖女を入れられたのです、魔王問題を何とかする為でしたでしょう? 今解決できるものを解決せず、いつやると言うのです! 」

ミリーはコイフとフィオナが出会った時の様に強く瞳を輝かせて言った。

「何を迷う必要がございます? 言い訳などあとでいくらでも立つでしょう、デルレイ王にしてきた仕打ちはすでにショコラ王子がご存じです、これで遺体も返さない、魔体の核も滅ぼしてしまったとあらば、そちらの方がよっぽど国交に支障が出るでしょう! クロードがやらぬのならばいっそ私がやりましょう! 」


「おお、ミリー言ってやった! 良いね! 」

「ピノにワインぶっかけるだけの事はあるのよ」

フィオナとコイフはこそこそ内緒話する。


「ミリー、君にやらせるわけにはいかないよ」

「クロード王子……」

クロード王子の慈愛の籠った言葉にミリーが瞳を潤ませる。

恋愛アレルギーのフィオナは苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「言い訳ならあとでいくらでも立つ……か、そうだね、その通りかもしれない」

クロード王子はそう言ってほほ笑んだ。

その表情から彼の覚悟が決まった事が伺える。



「コイフさんはどう思う? 」

リンツから突然話を振られたコイフはほんの少しだけ考えて言った。

「魔王様、このままずっと玄室に一人ぼっちなんて寂しすぎるわ、わたしは魔王様をショコラ魔導王国できちんと供養してあげてほしいわ、そうすれば魔王様の負の念から出る黒い靄も落ち着くのでしょう? せっかくきれいなお姿なのに黒い靄に塗れてしまうのだって、お可哀そうなのよ」

「かわいそう、か……」

同情された『魔王』デルレイ・ショコラはくすりと笑う。

「いつかメニード王国と魔導王国、両国が友誼を結べなければこのまま消えてしまおうと思っていた……我には、友情は成るように見えるがな」

『魔王』デルレイ・ショコラの言葉の先にはクロード王子とリンツが居た。


「そもそも、わたしたちをこの玄室に連れて来てくれたのは、クロード王子とリンツさんの約束があったからですわ」

コイフは言う。

まだ幼いのに政治的な理由で単身他国の魔法学校に留学する事になったリンツ。そんな彼を気遣ってクロード王子がした約束。

それが無ければそもそも『真実の愛』の謎も解けなかった。



リンツは可笑しくなって、ふふっと笑う。

「クロード王子、僕達は友達になれる? 」

クロード王子は完敗だとばかりに両手を上げて言った。

「どうやらとびきり良い友達になれそうだね」



クロード王子が声を上げた。

「キリィ侯爵、その魔道具はどこに? 」

「クロード王子、しかし王命が……! 」

「構わない、私が全ての責任を取る」

ミリー公爵令嬢がクロードの手を握ってにっこりとほほ笑む。

「共に歩みましょうクロード」

クロード王子はミリー公爵令嬢に微笑んで頷く。


「魔道具の場所なら心当たりがあるぞ、我の棺を開けて見よ」

「デルレイ王、わかりました」

「開けてみよう」

「あ、これを使ってくださいませ! これがないと2つ目の結界内に入れません」

コイフは受付で渡されていた紐繋ぎの玉をクロード王子とリンツに渡す。


「お待ちください! やるなら私も付き従います! 」

キリィ侯爵が観念した顔で声を上げた。

「これ以上王子達を危険にさらさせるわけにはいきません」

「しかし、……良いのか? 」

「はい、私にも責任を取らせてください」


キリィ侯爵の指示でひとつ目とふたつ目の結界が解かれる。

そしてキリィ侯爵が玄室中央の棺の蓋を慎重に開ける。

それら全てを『魔王』デルレイ・ショコラは静かに見守っていた。



蓋を開けると中の古い空気が新鮮な外気と入れ替わるように溢れた。


棺の中は深皿が置かれその中に幾ばくかの塵や布の切れ端がある程度で何も残ってはいなかった。

棺の中央に深く刺さり立っている古びた魔道具を残しては。

「これだけの長き時間を……」

リンツが泣きそうな顔をした。



「古びた杭と鎖、この魔道具ですよね、キリィ侯爵」

一緒に見ていたフィオナがキリィ侯爵に確認する。

「はい、間違いないでしょう、この魔道具はかなり大昔のものでかろうじて機能している所を我々が定期的にメンテナンスしていました」


「これが杭……」

クロード王子とリンツが同時に杭に手をかける。

頷きあって杭を見れば、その形状はねじのようになっている。


「いくよ」

「うん」

「せーの! 」

クロード王子とリンツは同時に解除の念を込めた魔法を発動する。


瞬間、カコ、と小気味のいい音がして杭は外れた。

杭の魔力が金色の光になって霧散する。

ジャラと音がして、『魔王』デルレイ・ショコラの魔体の核に取り付けられた鎖が外れた。

鎖は塵の中の金の指輪に繋がっていた。

杭についていた鎖も外れ落ちる。


やがて杭と鎖にたまっていた魔力全てが光になり霧散して消え、棺の床には光を失った杭が落ちていた。

「ああ、あっけないな」

「ほんとうに」

クロード王子とリンツは見合って笑い合うと、硬く握手をした。


『魔王』デルレイ・ショコラの拘束は見事解かれ、「ようやく重い荷がおりた」と『魔王』だった男はひとりごちた。





それから後日、人国全土を走る新聞の一面をクロード王子とリンツが飾る事になった。

内容は『メニード国クロード王子とショコラ王国王子の友好、古代魔王の遺体返還を証明として』。

クロード王子とリンツが友好を結んでいる微笑ましい内容、そして長らく問題視されていた古代ショコラ魔導王朝時代の王の遺体は実在し、それをやっとショコラ魔導王国へ返還する決定がなされたという発表だ。

それが叶ったのもクロード王子とリンツが手を組んで協力したからだと記されている。


これを読んだ国民の反応はおおむね友好的だった。

まだ若い王子二人の可愛らしさ、そしてあまり感情を見せないといわれているショコラ魔導王国の王子はいたずらっ子のように笑う魅力的な少年だった事に意外性があった。


クロード王子とリンツの評判が向上し、ミリー公爵令嬢の手伝いもあり、リンツの身柄を丁重にあつかわなかった監査官は担当を外され新米として一から勉強と研修のしなおしとなった。


メニード国の公では『魔王』デルレイ・ショコラ王の幽霊の存在は秘匿とされた。

それは『魔王』デルレイ・ショコラ当人が希望した事で、ショコラ魔導王国でもそのように取り計らうとリンツが約束してくれた。


コイフとフィオナ達今回の事件に関わった者は秘匿契約にサインして事件内容を口外しないよう約束した。


こうしてコイフとフィオナ、ふたりの最初の大冒険は、終わりを告げたのだった。

次回は8月15日を予定しています

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