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⑯コイフの計画

投稿が遅れてすいませんでした。

⑯コイフの計画


早朝、昨日に引き続き今日も豪雨だ。

コイフはいつものルーティーンを済ませると、机に向かって手紙を書いた。

便箋を封筒に入れて蜜蝋で印をする。

その後台所でお弁当を作った、コイフとフィオナの分だ。

昨夜買い出しをしておいた、ちょっとお高めなパンで作ったバケットサンドにポタージュと、サラダだ。

コイフはいつもどおりお弁当をバスケットに詰めると、防水魔法を身にかけてからお気に入りの傘を差して、図書塔に向かって飛び立った。




図書塔に着いたコイフは真っ直ぐ研究所の受付へ向かう。


「コイフ・東兎人国ひがしうさひとくにです、フィオナの面会に来ました」

「はい、伺っておりますよ、どうぞこれを、気を付けて」

受付の警備員に釘を刺されれ、予備の紐つなぎの玉を受け取った。

「わかりました」

コイフは淑女然として言った。

これがあればコイフ単体で玄室の結界内に入る事が出来る。

帰るときに帰せばいいそうだ。



「おはようございます魔王様」

『魔王』デルレイ・ショコラはソファに横になって泰然と論文を読んでいた。

着心地の良い白とピンクのシフォンドレスを着て黄金の髪を美しい髪飾りでひとまとめにしている。

その表情と声は、やはりコイフの知っているフィオナのものでは無かった。


「おお、早いなコイフ王女」

「朝食は摂られましたか? よろしければ食事をお持ちしました」

「ふむ、馳走になってやろう」

『魔王』デルレイ・ショコラはコイフの方に視線を向けて、ソファから下りると急遽用意されたミニテーブルの前にどかりと座った。

結界の中を見渡せば、絨毯にソファ、トイレ用の壺に衝立が設置されていて、コイフは(フィーたんの尊厳は守られたのよ)とほっとした。


「案ずるな」

「え? 」

『魔王』デルレイ・ショコラはにやりとフィオナの顔を蠱惑的に歪めた。

「あのメニードの息子が傍使いの女を用意してくれた、着替えなどの際は全てかの者らに任せておる、今の所至れり尽くせりだ」

「そ、そうでございましたか……」

コイフの親友の体が丁重に扱われているのはコイフとしても喜ばしい事だ。

それでも知らない者にフィオナを任せるのはやはり心配が残るのだが。


「魔王様、ご本はいかがでした? 」

「ふむ、なかなか暇を潰せた、しかし我が王朝……今は王国か、魔導王国が僻地に追いやられているのは気に入らんな」

「そうよね、みんなで仲良く暮らせたらそれが一番なのに……」

「王女のくせに理想論を言うではないか、どれ、いただこうか」

コイフは並べた食事をトレーに乗せて結界側に押した。それを『魔王』デルレイ・ショコラが受け取る。

「昨日の米料理は無いのだな」

「お米料理お好きなのですか? 」

「もっと細長い米をよく食っていた」

(インディカ米のことね)とコイフは思う。

「今度売っていないか穀物屋さんに探しに行ってみますわ」

『魔王』デルレイ・ショコラは「いただきます」に似た何かをした後食べ始めた。(あまりに自然で早くてコイフにはわからなかった)


「美味いな、昨今の王女は料理も嗜むのか? 」

「いいえ、わたくしの料理は趣味ですわ」

「趣味でこの腕前なら良かろう」

「お褒めに預かり光栄です」

『魔王』デルレイ・ショコラとののんびりとした朝食は静かに続き、静かに終わった。

「毎朝フィーとやらに食事を持ってくるのか? 王女が食事を運ぶなぞ、いったいこの娘は何者だ? 」

「フィーはただのフィーよ、わたしの親友です」

「ふむ、摩訶不思議な関係もあるものだ」

『魔王』デルレイ・ショコラは「ごちそうさま」に当たる動作はしなかった。

コイフは今度リンツに聞こうと思いながら、食事を終えて玄室を出た。


その後朝食を運んで来た王家の侍女が「もう食った」と言われ驚くなど一波乱起きたわけだが……。




「やぁコイフ! 訪ねて来てくれるなんてうれしいよ! 」

コイフは朝の常識的な時間に大使館のヴィタお兄様を訪ねた。

ちゃんとパイン館の通信魔法機を借りて、アポイントメントも取ったのでヴィタお兄様は嬉しそうである。

ヴィタお兄様はフォーンのロップイヤー、大使館の制服である背広と灰色のベスト、ズボンを着ている。ループタイがチャームポイントだ。


「ヴィタお兄様、今日は相談があって来たのですわ」

「うんうん、いいよ、聞きましょう」




ふたりは一番手前の会議室に入った。

会議室は柔らかい色合いの木で作られていて、削って作られた椅子にふかふかのクッション、木のテーブルの向こうは大きな窓があって庭の美しい緑が見える。

「さ、座って」

「はい、失礼します」


ノックと共にぎぃとドアが開く。

部屋に入って来たのは、東兎人国で格式高いメイド服を上品に着た夫人、大きなベレー帽を被っていて、ミニロップ種で背が高く耳が垂れている。上品なトータスカラーの毛並み、婦長のイライザであった。

「イライザ! 久しぶりね! 」

婦長のイライザがわざわざお茶を入れに来てくれたのである、コイフはとっても嬉しくなった。

「コイフ様、ご無沙汰しております」

「受験前はとってもお世話になったわ、受験の日のお弁当、本当に美味しかった! ありがとうなのよ」

「お褒めの言葉ありがたく頂戴いたします」


お茶は来客用の紅茶ではなく、職員用の東兎人国ひがしうさひとくに原産の雑穀茶だった。

「わぁ! このお茶とっても久しぶりなの、うれしいわ! 」

「イライザはとっても気が回るんだ、僕なんかまだまだだと思わされるよ」

ヴィタお兄様も褒める。

「恐縮です」と婦長のイライザは頭を下げて出て行った。



「さてコイフ王女、用件は何でしょう? 」

ヴィタお兄様が外行きの顔をする。

「えぇ、『物産展』を開催したいと思って! 」

「ブッサンテン? 」

東兎人国ひがしうさひとくにを紹介してお土産や食品を売る催し物よ」

「そのような催し物があるのですね、今までにない良いアイデアだと思われます、規模や日時はもうお考えで? 」

「規模は小劇団とダンス、それを取り巻くように屋台を立てて、そうね、中央広場でやりたいわ」

「では中央広場を抑えましょう、お日にちはいつになさいますか? 」

「来週がいいわ! 」


ヴィタお兄様は飲んでいたお茶を吹き出した。

「来週は早すぎるよコイフ! 」

ヴィタお兄様はあわてて髭についたお茶をハンカチでふきとる。

「お兄様、わたし人国の議会に出たいの、そのためには早く実績を詰まないといけないのよ」

「人国の議会だって⁉ 」

「人国の国王様とお話しないといけないご用事が出来てしまったのよ」

「国王陛下と⁉ 」


ヴィタお兄様はごほんと咳払いした。

「いいかいコイフ、本来こういう大きな催し物はね、何年も前から決めておくものなんだよ」

「大きくないわ、小さいのよ、この部屋くらいの規模でやりたいのよ」

コイフは手を広げて見せた。

「サイズの問題じゃないんだコイフ、外交の話でね……」

「広場の使用許可が下りたら内内で準備するのよ、大丈夫なのよ」

「そりゃあ使用許可は取れそうだけど、入国証とかの準備がね……」

「メンバーが決まったらすぐお兄様にお知らせするわ、無茶の無い範囲でお願いさせてもらうけどよろしいかしら」


ヴィタお兄様は天を仰いだ、まっしろい喉元のふわふわが露になる。

「よろしくはないんだよコイフ……」

「平民なら身分証だけで入国できるでしょう? 」

「それは、そうだけど平民? 学生時代の友達かい? 」

「えぇ、人脈をフルに使うのよ! 」

コイフもドヤッと胸を反らせてマフを胸元から覗かせる。


今朝書いたタナお姉さま宛の手紙とポコお兄様宛の手紙、クロエ宛の手紙とクロエの叔母キリエ宛の手紙、薬局『満月堂』宛の手紙、そしてキリエに送る宛先無しの手紙を鞄から取り出してヴィタお兄様に渡した。

「速達で届けて欲しいのよ! 」

ヴィタお兄様はジト目でその手紙の束を受け取る。

「速達料金は出せるのかい? その計画だと国から予算は下りないよ……」

「速達料金は手持ちでなんとかなるわ、お金は借金することにしたのよ! 」


「王女が借金⁉ どこから借りる気なんだい? この計画にまともな金貸しは金を出さないぞ⁉ 危険だよコイフ! 」


ヴィタお兄様は焦って言う、が、コイフは兎人うさひと流の綺麗な淑女の礼をして言った。

「ヴィタお兄様、お金を貸してくださいませ、無理のない範囲でよろしいのよ」


ヴィタお兄様は椅子から転げ落ちた。

「僕から⁉ そんなに貯金は無いよ! 」

「大丈夫よ、この後カシュウお兄様やアルモンドお兄様の所に行くから、トウィィノお兄様やアルマンお兄様ならきっとたくさんお給料をもらっているわ! 」

「こ、コイフ~~! いつからそんなにちゃっかりした子になったんだい! 」


コイフは真剣そのものの顔をして言う。

「これは人国王家の問題が関わっているから詳しくは言えないのだけど、大急ぎでやらないといけないことなのよ、わたしはなりふり構っていられないのよ」

ヴィタお兄様も椅子に座りなおしてお茶を飲んで一息吐いた。

「本気でやるつもりなんだねコイフ? 」

「はい、ヴィタお兄様、わたくしは本気です」

コイフは耳も立てず毛も逆立てず、淑女然として言った。

「わかったよコイフ、でも大使館としては許可できない、トウィィノお兄様とアルマンお兄様を説得したら、速達の手紙と広場の使用許可を取ってあげる」

ヴィタお兄様は懐から小切手を取り出して金額を書き込み、コイフに渡した。

「ありがとうございますヴィタお兄様、必ず説得してみせますわ」

コイフは兎人うさひと流の淑女の礼をしてお礼を言った。




さぁ大急ぎだ、屋台のレンタルに舞台作り、ビラ作りに宣伝、仕事は山の様にある。

広場さえ押さえてもらえればこっちの物だ。

コイフは大使館を駆け出して他の兄たちの元に向かった。



商会勤めのカシュウお兄様からは「軌道に乗ったら商会からも金を貸せるぞ」とこっそり言われ少額小切手を渡された、ワイバーン便に努めているアルモンドお兄様には「お前は本当にコイフだよ」と苦笑され、財布を丸々投げ渡された。

魔法学校閉鎖で暇を持て余していたマルセルお兄様とクローブお兄様は「金は無いが、楽しそうだから手は貸せる」と協力を取り付け、ついにメニードの王宮までコイフはやって来た。




アポイントメントの時間まで少しある、コイフは身分証の提示とボディチェックを受けて、見た事もないくらい豪華な控室に通された。


厚手でつやつやした布張りのソファが三つもある、フッドレストというのだろうか?足置き台まであって、テーブルは重厚な2段テーブルだ。調度品や絵が飾られ、窓からは夜の王都が見える。魔石によって間接照明の置かれた棚の薄明りで壁が金色に光っているように見える。


いつものドレスが貧相に見える部屋でコイフはフィオナの事を思ってぎゅっとスカートを握った。

(フィーたんきっと怖い目にあってるに違いないわ……)とコイフは思う。

フィオナの為なら多少の無茶もすると決めたのだ、コイフは手を震わせて応接室の一番手前の椅子に掛けて兄たちを待つ。

(とっても緊張するのよ)

金の無心をして回るなんて産まれて初めての事だった、緊張しないわけがない。今日だって一日中緊張していたのだ。

(これで最後なのよ、どうにかトウィィノお兄様とアルマンお兄様を説得するのよ)



部屋にノックの音がした、コイフは立ち上がって「お入りになって」と言ってから、兎人流の淑女の礼を取った。

「やぁ! よく来たねコイフ! 」とトウィィノお兄様が入って来た。

王宮文官の制服だろうか、白いシャツに、若草色の模様が入ったローブを羽織っている。

「コイフ! 嬉しいぞ、何の用だ? 」とアルマンお兄様が入って来る。

こちらはわかりやすく騎士隊服をきている。黒の詰襟に金の房がついている。

「トウィィノお兄様、アルマンお兄様、お久しぶりでございます」

コイフは頭を下げたまま言った。


「うん、久しぶり、さぁ座っておくれ」

「はいトウィィノお兄様」

トウィィノお兄様、アルマンお兄様の順に上座に座る。

コイフは淑女らしく振舞う。それを見てトウィィノお兄様はくすりと笑った。

「さて、改まってどうしたんだいコイフ」

「……お兄様方、お金を貸して頂きたいの」

コイフはストレートにいく事にした。


「金を使いすぎちゃったのか? 」

アルマンお兄様が聞く。

コイフは首を振る。耳も揺れた。

「東兎人国の物産展を行いたいの、でも資金が無くって」

「ブッサンテン? 」

「中央通りの広場を借り切って、歌やお芝居を見せたり、お土産物や食べ物を出したりするのよ」

「楽しそうな祭りじゃねーか! 乗ったぜ! 」

アルマンお兄様は上機嫌に懐から金貨の入った袋を取り出す。

重い物が机に置かれた音がした。

(ああ、もしかしてヴィタお兄様が連絡してくれたのかしら)とコイフは思った。

「それを来週までに開催したいのよ」


「「来週⁉ 」」

お茶を運んで来た侍女が思わず肩を跳ねさせた。

「わっはっは! そりゃぁヴィタの奴が焦って俺たちに通信魔法で伝えて来るわけだぜ! 」

「あはは、聞いてはいたけどコイフの行動力は凄いねぇ」

アルマンお兄様とトウィィノお兄様が爆笑した。

「やはりヴィタお兄様が連絡されていたのね」とコイフは頬を手で包む。


「それで、一週間で何をするつもりなのかな? 」

お茶を一口飲んでトウィィノお兄様は尋ねた。

コイフは背筋を伸ばして説明をした。

「まず、『北の盆地』地区の芸術家の皆さんから商品を集います、劇団を呼んで兎人に伝わる伝承や伝統的な踊りを演じてもらいます」

「ふんふん、それならそんなに練習時間はいらねぇな」

アルマンお兄様は兎人の伝統的な歌を歌い出す。


実際の所芸術家たちは1週間以内に品を仕上げなければいけないし、兎人の伝統を知らない者にも見栄え良く見せる為に会場とすり合わせなどが必要になるのだが……『妹のコイフが無茶を言ってくるよ』とヴィタお兄様から聞いていたトウィィノお兄様は冷静にほほ笑みを崩さなかった。全ては可愛い妹の為である。


「友人達にお願いして手伝ってもらって草餅汁を振舞います」

「いいねぇ、久しぶりに食べたいぜ! 」

兎人餅は薬草のヨモギを混ぜ込んだいい匂いのする甘いお餅だ。

暖かいあんこ汁を注いで食べると絶品なのだ。

「美味しいのよ! 他にも出せる手配が出来れば伝統食を提供したいわ、きっと喜んでもらえるのよ! 」

記憶を取り戻したコイフにとっては『ヨモギ餅のおしるこ』であるが、兎人としては懐かしい味である。

もし薬局『満月堂』が動いてくれたらだが、「薬酒や薬膳も出せると思います」とコイフは言った。

「宣伝の張り紙を作って王都中に貼りますわ、マルセルお兄様とクローブお兄様も手伝って下さるそうです」

「今は学校も休学中だしな、マルセルとクローブの仲間の手伝いも見込めるな」

「はい」


一通り説明をしてお茶を飲んだ、流石王宮、美味しいお茶だ。

「うん、今までにない新しくて楽しそうな企画だと思う、王宮のポコもタナも賛成してくれると思うよ」

トウィィノお兄様がお茶を飲んでそう言った。

「もちろん僕も賛成だ、楽しそうだからね! でも宮廷の文官としては……諸手を上げて賛成はできないな」

コイフは緊張してトウィィノお兄様を見つめる。

「一週間は短すぎるからね、成功するかわからない企画に文官としてお金は出せない、だから僕の手伝いをしてほしい、なに一日もかからないちょっとした事だよ、そうしたら報酬をあげる、やってみるかい? 」

「やりますわ! 」

「おいトウィィノ兄貴、あんまり意地悪したらコイフに嫌われちゃうぜ? 」

「それは嫌だなぁ」

「嫌いになんてなりませんわ、出資してもらえるような状態じゃないってことわたしが一番わかってますもの」

「ではコイフこっちにおいで、オフィスの隣を貸してもらおうか」

「じゃあ俺は戻るぜ! コイフ、お金はちゃんと持って行けよ、応援してるぜ! 」

「はいアルマンお兄様、ありがとうございます、お兄様も壮健で」

コイフは淑女らしく丁寧に礼をしてアルマンを見送った。


「いまから王宮の文官室を案内しちゃうよ~」

「はわわ、お城の中ってすごいのよ…! 」

煌びやかな宮廷内の廊下を通る、何もかもが美しく繊細でかつ豪華でコイフはふかふかのカーペットの上を恐る恐る歩く。

「はい、こっちだよ」

華やかな扉を一つ開くと一転、その先は無骨な石の廊下だった。


あまりの変化にコイフは目を白黒させる。

「あはは、お客さんの入らない裏側なんてこんなものさ」

トウィィノお兄様はそんなコイフを面白がりながら歩いて行く、コイフは急いで後を追うのだった。



「さあ着いた、ここが僕の仕事場だよ、コイフは隣の部屋で待っておいで」

すりガラスがはまった扉の隣の、板で出来た扉を開けて中に通される。

コイフは部屋を見回す、石の壁に石の柱、縦長の窓からは日光が入りきらず薄暗い。

部屋の半分物置にされていて、雑多な物が奥に積まれている。中央には木製の長机と椅子が置かれているだけで珍しい物は何もない。

コイフは(失礼だけど魔法学校の方がお金がかかってるのよ)と思った。


「さぁお待たせ、コイフにはこれをやってもらおうか」

トウィィノお兄様は紙束と筆記具を持って戻って来た。

「それは何ですか? 」

「僕の分の仕事」

コトリ、と音を立ててトウィィノお兄様が大きな砂時計を机に置いた。

「雑務処理をこの砂時計が落ちる前に終わらせたら報酬金貨1枚、どうだい? 」

コイフはピカピカの金貨を思い浮かべて思わず耳を動かしてしまうところだった。

「やりますわ! 」

「うん、じゃあ終わったら戻って来るね」


トウィィノお兄様は「頑張ってねー」と言いながら部屋を出て行った。

コイフはふん! と鼻を鳴らして気合を入れ、腕を捲ると、紙束をめくった。




砂時計の砂が落ち切った。

しばらく待つと、トウィィノお兄様がお茶を持って戻って来た。

「お疲れー終わったかな? 」

コイフは姿勢と服装を整えてトウィィノお兄様に向かい合った。

「お兄様、これはお兄様のお仕事ではありませんね」

「うん、良くわかったね、これは文官の採用試験だよ」

トウィィノお兄様はお茶を置きながらにっこり笑って言った。

「とっても難しかったです、最後まで終わりませんでした」

コイフは頭を下げた。

「降参です、わたしくが間違っていましたわ……」

「コイフは賢いね」

「わたしは賢くなんかありません……わたし、わたし、なにも出来ませんでした」

暖かいお茶を飲みながらコイフはぽろぽろと泣き出してしまった。



フィオナが病気になった時も、フィオナが結界に捕らわれた時もコイフは何も出来なかった。

ポーションが作れるようになったら何か変わるかもしれないと思った、ミシェル老師のようにバフやデバフが使えるようになったらフィオナを助けられるかもしれないと思っていた。

王女という肩書を使えばせめて何か出来るかもしれないと思っていたのに、それも出来ない事を思い知らされてしまった。

「わたしは……わたし……フィーを結界の外に出してあげたい……だから国王陛下とお話しないと……出来るようにならないといけないのに……! 」

前世から何も変わらないわとコイフは思った。

コイフは無力でクローブお兄様に言われた通り、焦っていただけだ。


ついにコイフは、あーんと声を上げて泣き出してしまった。

「ここは淑女が泣くにはあまりに無骨すぎるからね、応接室で話を聞くよ、あっちの方が暖かい」

トウィィノお兄様は泣くコイフの背を撫でて、暖かい応接室まで手を引いて、連れて行ってくれた。




応接室で一連の理由を聞いたトウィィノお兄様は言う。

「何があったかは話せないけど、人国の議会に招致されて国王陛下と話さないとフィオナさんが死んでしまうかもしれないんだね? 」

コイフは泣き腫らした目でこくりと頷いた。

「それは最近新聞に載っていた黒い靄のことかな? 」

コイフは頷く。

「う~ん、大変だ……どうしたものか……」

トウィィノお兄様は首を傾げて考え込んでしまった。

次回は8月8日の投稿です

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