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⑭遺跡調査

⑭遺跡調査


後日、パイン館の受付にコイフ宛の手紙が届いた。

差出人はリンツ・ショコラだ。

決行の日は決まった、コイフはフィオナに手紙を見せると、すぐにフィオナは病院から外出許可をもらった。




魔法学校の鐘が鳴り、正午を知らせる。

待ち合わせ場所に指定されている図書塔にコイフとフィオナは完全装備で現れた。


コイフはお気に入りのブラウスワンピースに学校指定のローブと三角帽子にうさぎを模したアミュレット。

それにお弁当も忘れていない! 今日は痛まないようにお弁当箱をしっかりお酢で拭いて除菌魔法もかけてきた。

梅干しのおにぎりを除菌の魔織布の手袋で握った、気を付けた逸品だ。

生野菜は避けて炒めた野菜を入れたし、卵焼きだって今日の分はシソを巻いた抗菌仕様の物だ、しっかりばっちり火を通した。

ヘドロ鶏のから揚げを詰めて湯気を飛ばして冷やしたし、水筒だって『世界魔道具堂』で新しい『魔法瓶』(字面通りの魔法の瓶で温度を逃がさず冷たい物は冷たいまま、暖かい物は暖かいままという前世どおりの代物だ)を購入して暖かいお茶を入れてきた。ピクニックシートだって持って来たので完璧だ!

薬師道具は即効性に欠けるものの、一応一式が入った行李を背負って来た。


フィオナは一度オリーブ館に戻って綿のシャツに綿のパンツ、皮鎧(皮のワンピース)に膝までの皮のブーツに着替えた。

リュックにロープと水筒、買っておいた食べかけの干し肉一袋、各種常備薬を入れている。



閉鎖中の図書塔入口に着くと、4つの影が待っていた。

リンツ・ショコラ、リンツの使用人、高価そうなアミュレットをふたつも頭に装着した男性、そして。

「クロード殿下なのよ⁉ 」

「え、なに? 一緒に行く約束じゃなかったの? 」

驚くコイフにフィオナが聞く。

そんなコイフの様子を見て、リンツがふふふといたずらっ子の顔で笑った。


「コイフさんフィオナさん来てくれてありがとう、驚かせちゃった? 」

「ショコラ殿、クロード殿下とお友達でしたの? 」

クロード王子はすこしバツの悪そうな顔をする。

「ああ、留学直前から面識がある……共に玄室に行きたい友人というはこのふたりだったのか……」

「ええ、実技と筆記、合わせて主席のふたりなら安心でしょう? 」

クロード王子の問いにリンツが笑って答える。

「合わせて主席? 」

フィオナが首を捻る。

「まぁ言ってしまっても構わないだろう、私が主席で取った同点の成績を、実技でフィオナ嬢が、筆記でコイフ王女が取っているんだよ」

クロード王子は少し困ったように眉根を寄せた。

「まぁ! やっぱりフィーたんは次席だったのね! すごいのよ! 」

「それならコイフだって次席じゃん、すごいよ! それで、私達だと何か問題が? 」


クロード王子は一瞬言葉に詰まり、リンツはにんまり笑った。

「クロード王子はね、魔導王国からひとりで来た僕を気遣って約束してくれたのさ、『個人的に困ったことがあるなら手を貸す』ってね、だから僕は『監査官を連れずに、玄室に友人を連れて行きたい』とお願いしたのさ」

「まさかレディーふたりだとは思わなかったんだ」

「そうだったのですね、驚きましたわ」

コイフは淑女の皮を被る。


「私は遺跡内に入ってみたかったんです、ところでもうひとりの方は? 」

フィオナは3人目のアミュレットを2つ頭に装着した男性に目を向ける。

魔術師らしくローブを身にまとった男性だ。

ローブは黄色に紋章がついている事から王都メニードの公務員である事がうかがえた。


「彼はキリィ侯爵、玄室の結界を管理している結界師だよ、彼の案内でないと目的の場所へたどり着けないんだ」

「へぇー私はフィオナです、よろしくお願いします」

「東兎人国王女コイフです、よろしくお願いいたします」

「初めまして、ブライド・キリィ侯爵です、遺跡内は危険ですので私が先導します、よろしくおねがいしますね」


その場にいるものは皆自己紹介を済ませた。

そしてクロード王子は口を開く。

「すまないが僕はここまでだ、あまり公に協力できなくてすまない、キリィ卿、くれぐれも頼んだよ」

「はい、クロード王子承りました」


そうして準備を終えたリンツ、リンツの使用人、フィオナ、コイフ、キリィ侯爵一行は図書塔の入口をあけ中へ入って行くのであった。



図書塔の中は消灯されて暗かった。

先陣を切る結界師のキリィ侯爵は魔法で光の玉を発現させ周囲を明るく照らす。

「ここから火気厳禁でおねがいしますね」

「わかりました、キリィ卿」

図書塔を通り抜け、『この先研究室、遺跡見学ツアーは現在行っておりません』とかかれた看板の横を通る。

コンクリート造りの白い回廊は研究員が使用しているであろう部屋の扉から明かりが漏れていた。


「研究所はまだ使われているんですか? 」

フィオナがキリィ侯爵に尋ねる。

「はい、最低限ですが」


廊下を抜けると螺旋階段がある。

階段の真ん中に強固な太い支柱が立っていて、螺旋階段を地下4階まで下りて行く。

本来更に下の階に続いていたであろう螺旋階段はコンクリートが流され途中で封鎖されていた。



4階に着くとすぐ床に看板が立っており、『この先関係者以外立ち入り禁止』と書かれていた。

壁や床は改築した後があり整備されて歩きやすかった。

壁には古い地図や歴史物が展示されている。


フィオナは遺跡がダンジョンのような古くてモンスターがはびこるイメージを期待していたのでちょっぴりがっかりした。

「なんだか想像と違うのよ」

「ねー、なんか拍子抜け」

コイフとフィオナは感想を言い合う。

「以前までは見学ツアーもやっていましたからね、我々結界師も常駐していますし」

結界師のキリィ侯爵が答える、王子直々の命令での内密な同行であるので丁寧な姿勢を心がけてくれている。

「こちらです」

少し行った先の扉に案内される。

それは金属制の頑丈な扉だった。


「この先は必ず私から離れないでください、それからこれも手から離さないでくださいね、ここは幻惑魔法がかかっていて危ないんです」

キリィ侯爵は紐つなぎの玉を懐から出した。

玉は精神魔法阻害のアミュレットだ。

紐の端をキリィ侯爵が持ち、間隔を空けて紐に結ばれた球をそれぞれリンツ、リンツの従者、コイフ、フィオナの順番でキリィ侯爵から持たされた。


扉の鍵を開けキリィ侯爵が室内の明かりをつけてくれる、魔導灯と呼ばれる魔力で動く明かりである。

青白い明りが灯り部屋を照らすと、部屋の中は少し広めの横長の部屋が奥に伸びている事が見て取れる。


部屋に入って傍にある木の台座の上に、四角い魔道具が置かれ、上部に丸い宝石(魔石ではない)が差し込まれている。宝石は輝きを放ち続け、魔道具が起動していることがわかる。

他にも教会にあるような神棚が置かれている。



「部屋の物に触らないでくださいね」

キリィ侯爵が注意する。


「ふたりとも、あれだよ」

入口から離れた部屋の真ん中に何か大きなものが横たわっているのが見える。

コイフとフィオナは少し緊張した。


一同が進んで近づくと、それはとても古い棺であるとわかった。

黒く着色された木造の棺は経年劣化で所々風化している。

角は崩れ粉っぽい。

棺の傍らには先程見た様に台座の上に四角い魔道具があり、これにも丸い宝石が差し込まれて輝いていた。


(これが古の魔王の棺? )なのよ……)

コイフとフィオナはお互いの顔をみあわせた。


「コイフさん、フィオナさんここまで付き合ってくれてありがとね、君たちも僕のご先祖様のお墓参りしてってよ」

そう言ってリンツは棺の前でしゃがみ込み祈りを上げ始める、続いてリンツの従者が棺の前にしゃがみ込んだ。

よく見れば最近供えられたであろう花が置かれていた。

リンツに続いてコイフもフィオナもまず祈る事にした。



しばらくして祈りは終わりリンツは立ち上がる。

「皆ありがとう、そろそろ本題に入ろうか」

とリンツが言う。

コイフは立ち上がり服についた汚れをはたく。

フィオナも立ち上がって歩き出そうとした。

「あ”? 」


べしゃあ


フィオナはつんのめって転んでしまった。

「フィーたん⁉ 」

「あ……何かにつまずいた……っ⁉ 」

つまずいた足の方をフィオナがみると、黒い人間の手が床から生えていてフィオナの片足を握っていた。

急いで上半身を起こすとフィオナは自分の握っていた玉が手から離れていることに気づく。


コイフは事態に驚き狼狽える。

フィオナの足を掴んでいる黒い手の辺りから空間が歪み別の光景が見えた。

「霧の中に、建物? 」

焦るフィオナはそういうとあっという間にその光景の中へ引き込まれ、姿を消してしまった。



「フィーっ!⁉ 」

コイフがかすれた悲鳴を上げる。

ピキピキッ

音の方を見ると、入口にある魔道具の丸い宝石が割れていた。


「一つ目の結界が破れています! 皆さん離れましょう! 」

「嫌! フィーたんが……っ! 彼女はどうなったの⁉ 」

コイフはキリィ侯爵が持つ紐つなぎの玉を離さない。


「壊れたのは1つ目の結界だけです、封印を張りなおしますから皆さんこの部屋から出て入らないでください! 」

キリィ侯爵は強制的にコイフとリンツ達を部屋から追い出す。

「コイフさん……! 」

リンツが心配してコイフに声をかける。

コイフは顔面蒼白で口に手を当てている。


「結界は二重になっています、中にいる魔王の魂を迷わせて外に向かわないようにする為のものですが、フィオナさんはアミュレットから手を放してしまったのでおそらく、2つ目の結界の影響で迷っていると思われます」

キリィ侯爵が部屋の外に出てコイフ達に説明する。


「こうなったのは彼女を連れてきた僕のせいだ、彼女を見つけ出す協力をさせてほしい」

リンツが頼み込む。

「棺の横にあったひとつ目の結界は魔王の魂そのものをここに縛るものだったのですが、それが壊れた以上フィオナさんと魔王はふたつ目の結界内のどこかにいるでしょう」

結界師のキリィ侯爵は続けて言う。

「一つ目の結界を張り直すには周囲から棺にむかって結界で囲んでいく必要があります」


「私も手伝うのよ! 」

「危険な作業なので、ひとまず3階にいる他の結界師を協力に呼んできます、その間リンツ王子とコイフ王女は部屋に入らないで、他の誰も部屋に入れないようお願いして良いですか? 」

「わかった、まかせて」

コイフとリンツは頷いて部屋の外に出た。

キリィ侯爵は急いで螺旋階段から上へ走って行った。


「フィーたん……」

コイフは玄室の外から誰もいない室内を見つめていた。


キリィ侯爵と応援の結界師達はそう時間がかからず戻って来た。

それから神官服を着たものが2人。

「用心に神聖魔法で身を守ってから作業を始めます」

神官達はその場にいる全員に身を守る『祝福』をかけていく。


「奥から2人、こちらから2人、四方を囲うように進んでいきます、これは私達結界師に任せてください」

結界師の制服を着たものが壁の角に向かう。

部屋の四方の角に全員が着くと、結界師達は持っていた魔道具を発動する。

四方の魔道具に魔法の壁が展開して繋がり合う。



そうして少しずつ魔王の棺に近づいていく。

四方の結界師が中央の棺へほとんど近づいた頃、


ドサッ


と音がして何もない空間からフィオナが現れ倒れた。

「フィーたん‼ 」

「フィオナさんを保護します」

ひとつ目の結界を張りなおしている4人の結界師達とは別で、キリィ侯爵は神官2人を連れてフィオナの傍へ向かう。

コイフは気を引き締めなおして玄室の外から室内を覗いている。


「……うっ! コイフ王女、申し訳ありませんがやはりフィオナさんにまだ触れる事はできません! まずは神官にみてもらう必要があります! 」

キリィ侯爵の言葉にコイフはフィオナをよくよくみると、以前見た様な黒い靄が大量にフィオナの体を覆っている事に気付いた。

フィオナは眠っているのかピクリとも動かず玄室の床に横たわっている。

(禍々しいのよ……フィーたんどうしちゃったの……? )

コイフはそう感じた。



「穢れが強すぎて……やはり私では手に負えません」

その後フィオナを近くで確認した神官の判断で一同はまた部屋の外へ引き返して青ざめた表情で言った。

神官の唇は紫色に代わり、体はガタガタ震えている。

「浄化には更に力の強い神官でなければ……」

その言葉にはっとしてコイフは言う。

「アユリさん! 聖女アユリさんなら! 神聖魔法を強化する事が出来ますわ! アユリさんの寮ならわかるわ! 呼んで来る! 」

言うや否やコイフはそう言うと全力で走り出した。

(アユリさんとお友達で良かったわ、彼女の力なら、きっと……! )

走りながらコイフは祈った。

(お願い、無事でいて、フィーたん‼ )




コイフは聖女アユリが住む一般寮についた。

寮スタッフにお願いして聖女アユリを呼んでもらう。

少ししてコイフの元へやってきた聖女アユリは、普段着姿で町娘の様だった。

ちょうど出かける所だったようだ。


「コイフさん⁉ 」

コイフの切迫した様子にアユリはギョッとしてかけよる。

「ううっアユリさん……! お願い、力を貸してほしいなの! 」

コイフは耳をぺたんと畳んで目には涙を溜めていた。

「フィーたんが……っ」

コイフは興奮でドキドキして、喉は震えてうまく声が出なかった。

「大丈夫、私はどうすればいいですか⁉ 」

凛とした表情で聖女アユリは聞き返した。

コイフが説明せずとも聖女アユリは手伝う気なのだ。

「こっちよ! 」

コイフは聖女アユリを抱えて魔法で空を飛んだ。




コイフはあっと言う間に魔王の玄室前へ聖女アユリを連れてきた。

「私は太陽の信徒、聖女アユリと呼ばれている者です、私の力が必要と聞きました」

コイフから下りたアユリは、キリィ侯爵達へ声をかけた。


「おお、聖女アユリ様! まさかお会いできるとは! 」

キリィ侯爵が声を上げる。


神官がすぐアユリに対応する。

「やってみます! さっそく儀式を始めましょう、場は既に出来ているようですね」

そう言って聖女アユリが周りを見渡す。

室内の神棚にはお酒や食べ物が運ばれていた。

コイフが聖女アユリを呼びに言っている間にリンツ達が手伝って運び入れたのだ。


キリィ侯爵を先頭にして神官2人と聖女アユリ、コイフはフィオナの傍まで来た。

(フィーたんのそばとても寒くなっている……)

一同の吐く息が白くなる。



その後ろに蠢くものをコイフは見て驚いた。

「なんなのよ⁉ これ……⁉ 」

蠢いていたのは黒い靄だった、二足歩行の人の姿を模倣したような這う靄はズルズルとこちらに手を伸ばして攻撃的な咆哮を上げる。


「みなさん危ない! 」

聖女アユリが声を上げる。

全員が振り返ると黒い靄がその両腕を無茶苦茶に動かしてキリィ侯爵やリンツ達を攻撃しようと向かって来ていた。

コイフが両手を振り上げる。

「フロストブリザードなーのーよーーー‼ 」

コイフの氷結の風が黒い靄を霧散させる。

しかし黒い靄は次々と集まって軍勢を成す。


キリィ侯爵が「みなさんアミュレットを手放さないでください! 」と叫ぶ。

全員が集まって黒い靄に立ち向かう。

リンツもコイフも魔法を発動させ、いつでも攻撃できるように構えている。



聖女アユリは祝詞を上げ始めた。

前回聞いたものとは違う祝詞だ。


頭上から神聖な光が下りてきて周囲に広がり出す。

フィオナの周囲の黒い靄の勢いが少し遅くなった気がした。


そして光と共に周囲が暖かくなっていく。

軍勢を成した黒い靄は一瞬で蒸発するように消えた。

「コイフ王女大丈夫⁉ 」

リンツが言う。

「ええ、光の魔法が効くのね! 」

コイフがうん、と頷いて光魔法を手に発現させる。


黒い靄は再びフィオナの体を覆っていく。

「今のうちに儀式を」

キリィ侯爵が言う、聖女アユリが頷く。



聖女アユリは神官達と一緒に祝詞を唱え始める。


聖女アユリは神官の方へ右手をあてる、力を受け取った神官が、持っていた木の枝を横たわったフィオナの上に置く。

木の枝を目標にするようにフィオナへどんどん眩い光が落ちていく。


そして神官2人は懐から聖水の瓶を取り出し、フィオナの体へ瓶の中の聖水を撒いていく。

フィオナから広がった黒い靄は、神官がまいた水に触れるとじゅうと音を鳴らしながら霧散していく。

その間聖女アユリは変わらず祝詞を唱え続け、右手はメインの神事を行っている方の神官の肩へ置き続けている。


フィオナから吹き出る黒い靄の勢いが鎮まってきた頃、神官は神聖魔法を唱えながら木の枝の葉先をフィオナの体の上の各部位にあてていく。

「……ううっ」

神聖魔法をかけていくにつれてフィオナをつつむ黒い靄は薄れていき、先程まで動く気配の無かったフィオナが苦しそうに呻きをあげた。

(フィーたん! 頑張るのよ! )

フィオナは切実に事態を見守る。


神官は残った聖水をフィオナに飲ませる。

「ぐっ⁉ がはっ‼‼ ごはっ‼‼ 」

口に含んだとたんフィオナは咽た。

だが続けて聖水を飲ませる。


フィオナにとりついた邪霊の穢れを内から清めていく。

フィオナは苦しそうに顔を歪ませ体をかきむしろうとする。


その手を神官が押さえつけて神聖魔法を唱え続ける。

神官の手に触れたフィオナの腕はじゅううううと火傷の様になった。

が、神聖魔法の効果ですぐ火傷は治っていく。


「が、ごは!‼ 」

フィオナは吐いて黒いヘドロの様なものを吐き出した。

その黒いヘドロも素早く神官が浄化する。


それをピークに神官達が儀式を続けるうちフィオナの火傷も静まり、苦しむ仕草も収まっていき、次第にはフィオナは気絶した。

すぅーすぅーと呼吸音が聞こえる。



そうして儀式は終了した。


「どうでした? 」

キリィ侯爵が尋ねると神官がやり切ったのか呆けた顔をして言った。

「……びっくりするほど、上手くいったと思います、力強い祝福の力を感じました、この少女はもう大丈夫だと思います」

神官の返事に聖女アユリもうんうんと頷いた。


「ただ、私にはフィオナさんの中に別の精神体の存在を感じました、それにフィオナさんと中央のあれはまだ強く結びついているように感じます、あれって魂を閉じ込めるためのものですよね? ここからフィオナさんを無理矢理引き離すのは今はまだ危険だと思います」

聖女アユリは部屋中央の魔王の棺とそばのはりなおした魔道具の方へ指を指して言った。


「中にいるのが何者か、フィオナさんが目覚めた時わかると思います」

神官の言葉にコイフは心配そうな瞳を向ける。

「フィーたん……」




時は少し戻り、フィオナがキリィ侯爵から渡された大事な紐つなぎの玉を放して、姿が掻き消えた後の事。

フィオナの方はというとそれからすぐ目を覚ましたフィオナだが、知らない場所にいた。

「ここどこぉ? 」

フィオナは見知らぬ暗い洞窟をさまよっていた。


「寒い……」

フィオナは寒さで歯を鳴らしながら辺りを探索する。

ミミズの巣があるとしたらこんな感じだろうか、丸く彫りぬいた洞窟がうねうねと折り曲がって続いている。

光源はないはずなのに、うすぼんやりと周りを把握できる。

フィオナが目覚めた所から3つ股に洞窟は分れている。

フィオナは真ん中の方向へなんだか行きたくなる。

(こういう時ってあまり動き回らない方がいいよね? )

コイフ達はきっと自分を助けに来てくれるだろう、その時なるべく見つかりやすいようにするのが探される側の役目であろうとフィオナは考える。


だが。


がさ……ごそ……

「……」

「……」

周囲に何者かの気配がする。

それも複数。

方向はばらばらなようだ。

小さくしゃべっているのか、呼吸音なのかが聞こえる。


それに気付くとフィオナはぞっとして不安になった。

(何かいる)

フィオナは武器になる物を探す為鞄をあさった。

(ロープで叩きつけるか? てか私ロープ切る為のナイフくらい持ってくれば良かったなぁ! )

サバイバル初心者フィオナである。


(気配の正体は無害な人間か? でもこんな暗い所にまともな人はいなそう、むしろ獣の方が可能性あるか、それなら炎魔法で威嚇できるかもだけど、代わりに炎の明るさで自分の場所目立ちそうだよね)


がさ……ごそ……

フィオナが考えている間も何かの気配が近づいてくる。

「……」

「……」



フィオナは洞窟の向こうにいる者を確認する為、右の穴をこっそりと覗き込んだ。


そこにいたのは黒いもやもやとした細い人のようなものだった。

人としての形を保つ事が出来ず、体が崩れたり空気に波打ってグネグネしている。

(クリーチャー⁉ でも見覚えある、黒い靄? これは幽霊系かな)


フィオナは魔力を練って魔力の剣を創り出そうとする。

だが魔力を練っている間にクリーチャーはうねうね近づいてくる。

(これでも効くか⁉ )

魔力を練っている右手とは反対、フィオナは左手をクリーチャーにかまえる。


びゅうお”お”お”っ


フィオナは魔法で突風を作り出してクリーチャーに当てた。

クリーチャーは一瞬霧散したが、すぐ黒い靄が集まってまた歪な人型を形成しだす。

(物理はだめかもね、でも魔力の剣、完成だ! 元人だったらごめん! )

出来上がった魔力の剣でクリーチャーに切りつけると、簡単に2つに切れた。

ざんっと砂利を切ったような手ごたえだ。

クリーチャーはひるんだようだが、切った端からまた人型に戻ろうとする。


がさ……ごそ……

「……」

「……」


別の洞窟からもクリーチャーが近づいてくる気配がする。

ざんっざんっとクリーチャーの上半身と下半身をぶつ切りにして、元に戻る前にフィオナは3つ股の洞窟の真ん中の方に移動した。

派手に音をたてないよう気を付けながら素早く向かう。

フィオナは真ん中の道は進むほど道が明るくなっていくような気がした。

それにやはり不思議とそちらへに向かいくなる。


しかし道を塞ぐように別のクリーチャーがいた。

先程のと同じように黒い靄で人の形をしたものだ。


(邪魔! )

魔力の壁を分厚く発動させてクリーチャーを壁に叩きつけた。

クリーチャーは綺麗に洞窟の壁に埋め込まれる。

その上からフィオナは魔力の剣で切りつけてみる。


強度は魔力の剣の方が強く創り込んであるため、押さえつけたクリーチャーに剣をつきたてると、魔力の壁にひびが入った。

そのひびから黒い靄が漏れ出てくる。

出てきた黒い靄をフィオナが切りつけると2つに分かれ、漏れ出た黒い靄と集まろうとする。


(幽霊系なら魔体の核を攻撃してる訳だし魔力の剣が全く効かない事はないと思うんだけど、切り続けたらそのうち復活できなくならないかな? )

ともかく目の前のクリーチャーが壁に埋まっている内に、フィオナはその先に進む事にした。


洞窟は更にほの明るくなっていく。

フィオナはますますそちらに向かいたくて浮足立つ。

ぼこぼこして歩きずらかった洞窟は、いつのまにか石畳で舗装された道に代わっており歩きやすくなっていた。


少し進むとまたも例のクリーチャーがいた。

(もうお前の名前は黒靄人と名付ける! )

フィオナはクリーチャーに種族名をつけた。


そしてフィオナは魔法の壁でばしんっと目の前の黒靄人を拘束する。

黒靄人は簡単に長方形の魔法の壁に閉じ込められてしまった。

(あ……これ私の体の周りを魔法の壁で囲めば直接魔力の剣で相手を攻撃出来るじゃない)

ともかくフィオナは先に進むことにした。


そうして洞窟を進んでいると、何か違和感をフィオナは感じた。

「……? 」

周りを警戒するフィオナ。

来た道を振り返ると、向こうから透けた壁が向かってくる。

それはフィオナが使う魔力の壁によく似ている。

「誰かが魔法使っているの……? えっ⁉ 」


なんとその壁は周囲の黒靄人を圧し集めながらこちらに向かって来ている。

押されて複数の黒靄人が一つにまとまりうごめきながら透けた壁と一緒にフィオナの方へ迫って来る。

「うわ、やだ、やだ! 」

怖気ながらフィオナは反対側へかけていく。


だが透けた壁はフィオナのそばまであっという間に近づいてきた。

その上透けた壁は一つでは無かった。

四方から4枚の透けた壁がどんどん迫って来る。


「ひいいいい! 」

あわててフィオナは魔力の壁を強固に自身の周りに貼る。

その間も透けた壁はあっという間にフィオナを押しつぶしていく。

「……⁉ 」

フィオナが声にならない悲鳴を上げる。

ぴし、びし、とフィオナが貼った魔力の壁にひびが入っていく。

(向こうの壁のが強度が高い⁉ )


フィオナの貼った魔力の壁とぶつかり合い透けた壁もひびが入っていく。

どちらが先に壊れるか、勝敗は透けた壁の方が若干勝ったようだ。


魔力の壁が限界を迎えた途端、気持ちの悪い黒靄人と一緒にフィオナは四方からぎゅうぎょうにつぶされていく。


(ひぃいいいっぃぃぃ‼‼‼)


透けた壁はひびが入った部分が修復されていく。


フィオナは小さく狭く潰されていくが、不思議と肉体の痛みを感じる事は無かった。

しかし強い不快感を感じる。

(気持ち……悪い……)

そしてもはや目を開けて周囲を確認する事もままならない。

(……)

フィオナはまともに考える事もできなくなって意識を離した。

次回少しお休みをいただきます

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