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③王女来る、浮く

フィオナ1歳 王女来る



その日公爵家の屋敷は慌ただしかった。


普段人気の少ない離れに沢山の大人が集まっている。

多くの護衛や従者達の他に、フィオナを避けているはずの公爵である母、そして父。フィオナの兄2人と姉1人までいる。


その理由は、公爵家当主の姉である王女とその夫が訪ねてきたからだ。


フィオナを産んでから音沙汰の無かった妹を心配して、王女夫婦が会いにきてしまった。

娘の魔力が怖くて隔離していますなど口が裂けても言えない両親は、大急ぎでフィオナのいる離れのテラスで茶席を設けた。


当日、従者達は早朝から忙しく、あたふたと敷地中を移動して準備に追われている。

久しぶりに見た両親の顔だが、フィオナは親の顔を覚えていなかった。

三人の兄弟とは初めての対面だ。


「以前手紙でお伝えさせていただきましたが、娘のフィオナは産まれつき高い魔力を有してまして、魔力を制御する為に有能な魔術師が付きっ切りにならなければいけません」

公爵が王女夫婦へ説明し、魔術師ルーサーに説明をさせる。

王女から発言の許可をいただいた魔術師ルーサーは口を開いた。

「魔力の強い子供ならば魔力の暴発はよくある話ですが、フィオナお嬢様は別格です、私めより多いと見ておりますし、成長とともに更に魔力量は増え続けています、今は魔道具でなんとか抑えている状態でございます、怪我などなされては私めの首が飛びますから、どうか近づかぬようお願い申し上げます」


説明をきき王女夫婦は頷いた。

「わかった、可愛い盛りだろうに切ないな」

王女が公爵夫婦を労った。


普段の様子を知っている従者や護衛、魔術師ルーサーは余計なことは言わなかった。

いつも辺りを飛んでいる妖精たちは突然の来訪者達に警戒してなりを潜めている。



挨拶も済み、すっかり飾り付けられたテラスに、公爵夫妻と王女夫妻、フィオナの兄弟たち、フィオナと3つのテーブルをに分けて座り、紅茶やお菓子、歓談を楽しみ始めた。


フィオナは一人だけのテーブルに向かい、幼児用の椅子に座りながら小さいコップに入ったジュースをんくんくと飲んでいた。

眼前には綺麗なお皿に可愛らしいお菓子が並べられている。


と、警戒を緩めた妖精がフィオナのテーブルまで飛んできた。

普段より豪華な甘味を狙ってきたのだ。

ある妖精はフルーツの詰め合わせをとって食べ始める。

またある妖精は自分の分を確保しながらも、甘いジャムをフィオナの口端に塗り付けていってくれた。

「あーば」

フィオナもご機嫌にパンをつかんでもくもく食べた。



しばらく食べて、お腹がいっぱいになったフィオナは飽きてきた。

いつものように妖精を捕まえるごっこをしたかったが、妖精たちは好きなものを食べたらまたどこかへ隠れてしまった。

王女や子供たちは妖精たちとフィオナを見ると「珍しいわね」とほほ笑んだりもしたが、当の妖精たちは王女や兄弟のテーブルには近寄らなかったようだ。



従者にすら避けられ、メイド達は給仕やら何やらで緊張しててんやわんや。

誰もフィオナに構わない。



つまらないのでフィオナは椅子からおりて遊ぶことにした。

足元にフィオナが落とした美味しくないフルーツが転がっていたのでそれを投げてみたり、テラスの木目をなぞってみたり。

それも飽きたからアプローチの方で遊ぼうとフィオナはててててと走ってスロープをおりる。


と、スロープの途中でつんのめり、そのままの勢いでフィオナはスロープ横の石畳に顔面を打ち付けた。

ごちんと強い衝撃が走り、後から頭に激痛が走った。

「ふゃあぁ…えあああぁぁんーーーーー!!」

フィオナは絶叫した。

髪飾りの魔石がいくつか砕け、フィオナの周囲が魔力により破壊されていく。


芝は剥げて石畳は砕け、大きなクレーターを作りだす。

スロープが割れ、テラスがミシミシ音を立て始めた。

公爵夫婦は「ひぃ!」と悲鳴を上げ、王妃夫妻とフィオナの兄弟は従者に手を引かれ庭の外に避難した。


(痛い!! )

「びゃあぁぁああぁー!! 」


(すごく痛い!! それに何かの泣き声がする! 体中響いてうるさい! 一体何なの? 誰かうるさいの止めて、いった~いい!! )

「びやゃああああ~ん!! 」


「フィオナお嬢様、失礼します」

魔術師ルーサーがフィオナへ手をかざした。

「治れ」

血がにじむおでこや、鼻の出血が止まる。

剥けた皮膚もあっという間に塞がった。


フィオナはヘアピンを髪やら服やらに数本刺された後、駆け付けた侍女に抱き抱えられぽんぽん背中を叩かれた。


「ぶぇ…ぶえぇえぇ…」

フィオナは抱っこされて次第に気持ちが落ち着いていき、同時に周囲への影響も静まっていく。

「よしよし、よしよし」

いつもの顰め面のままルーサーはフィオナをあやし続けた。

完全に落ち着くころにはフィオナは疲れて眠くなっていた。


「…」

「念のため医者をよんでくれ」

「…は、はい! 」

ルーサーが近くにいた使用人に声をかける。

事態を見て絶句していた大人達が、我に返る。

優秀な王付きの護衛達は既に女王夫婦を本邸へ避難させている所だった。


それを追って公爵一家もフィオナを残してそそくさと本邸へ戻り、庭での歓談は打ち切られた。


***


翌日、一泊した王女夫婦一行は無事王都へ帰った。


魔術師ルーサーは替えがいないので減給処分のみであるが、

王女を危険にさらしたフィオナ担当の護衛や侍女はクビとなった。

離れに空いた大きなクレーターと割れたスロープは後日業者を呼んで修理する事に。


フィオナはというと、庭で大泣きしたその後、高熱を出して寝込んでしまった。


事件の後医者はすぐにかけつけフィオナを診てくれた。

怪我や損傷は綺麗に治っており、

脳の影響を心配されたがそれは日々様子を見て確認する事になった。


寝込んでいる間は悪夢を見た。




悪夢の内容は白ハゲのおじいさんが出てきて「好きでしょ? なろう系」と言ってきたり、トラックに轢かれたり、

手を繋いで歩く大事な親友と離れ離れになったり…とにかく悪夢だった。


意識が浮上すれば、見慣れている筈のベットや部屋を見て(私何でここにいるんだ?)等と次々疑問が湧き、高熱と頭痛に苦しんだ。


フィオナは、日本人であった前世の記憶を思い出しつつ、同時に幼児フィオナとしての記憶も並行して存在する為、すり合わせに苦労して発熱したのだった。




熱が引いて起き上がれる頃には1週間が経過していた。


フィオナは自室を見回しながら自分の状態を整理していった。

自分は一度死んで、ここに転生した事。

どうやら今の肉体はかなり幼い事。

(乳歯生えそろってないじゃん)

今の名前はフィオナ・アヌ公爵令嬢。


「ちんじられにゃいけど、じじちゅみたいね (信じられないけど、事実みたいね)」

日本語を発してみたがフィオナはちゃんと喋る事が出来なくて恥ずかしくなる。


(今私がここにいるという事は、親友もこの世界に飛ばされたって事だよね…私が赤ちゃんってことは親友も赤ちゃんのはず…ああ、どうか無事でいて! )

フィオナは離れ離れになった親友の無事を祈った。


(今は赤ちゃんでどうしようもないけど、知識をつけて大きくなったら必ず親友を探しに行くぞ! )


____________________________________________________


コイフ1歳 浮く



コイフ達の貴族教育が始まった。


お屋敷の一つ下の居住区にある、一番大きくて広い建物が教え処だ。


兄弟達全員えっちらおっちらと、自分のベッドを抱えて屋敷から移動する。ここで3年下宿する為、城から今まで使っていたベッドと私物を男女別の寝床に持ち込むのだ。


お妃様方は今年の子供を産み育てるので忙しくなる、だからコイフ達は屋敷の寝床を未来の弟妹達の為に明け渡す。

自分たちが兄姉にしてもらったように弟妹達にベッドを作ってあげるのが、今からとっても楽しみだ。


教え処は屋敷よりも広く、木の板で作られた堅牢で清潔な建物だった。

屋根は茅葺ではなくて木組みであったし、屋根の先端もコイフの身長では見上げても見えないほど高かった。

貴族居住区で、城に続いて一番大きな施設だとナニーのメアリから教わっている。


門の左右には石組みの塀があり、すぐ横には衛兵の詰め所がある。

今日はコイフたち兄弟の為に衛兵は全員帯刀して整列してくれている。

伝統模様の布で、人国ひとくに流の縫製で縫われた制服。

コイフには何という服なのかわからなかったけれど、頭の中に『詰襟』という単語が浮かんだ。


塀から教え処まではほんの少しの広場があって、たくさんの大きな足跡を見て、運動はここでするのだわ、とコイフは思った。



寝床を抱えて入れるくらい大きな扉は観音開きで、広い空間に泥落としの萱のマットが敷かれており、兄弟はひとりひとり、ぎゅっぎゅっと足布の裏を擦り付けてもう一枚ある観音開きの扉をくぐる。


「わぁ! 」

「広くって大きいの! 」

「てんじょうたかーいなの! 」


兄弟がわいわいとはしゃぐ。

全員が入ると、ナニー達が整列する。

「では殿下、姫様、改めまして教育係ナニー頭のメアリでございます、これから教え処での三年間、ワタクシたちが一番近くでのお世話を仰せつかっております、卒業までに立派な紳士淑女となられますよう、勉学にお励みいただきたく思います」

その言葉にタナお姉様が「心強く思います、よろしくね、みなさん」とナニー達に声をかけた。全員が頭を下げて、またタナお姉様が「早速案内してちょうだい」と言う。

頭を上げたナニー達は嬉しそうに「よくできました」の顔をしている。

タナお姉様がそっと息を吐いた。


「では、殿下はこちらの通路をまがって西棟、姫様はこちらの通路から東棟に移動していただきます。後は二歳のご兄弟の皆さまが待っておりますので、そこでお伺いください」


言われるがままコイフ達姉妹は入り口から十字になっている廊下を左へ折れた。

長い廊下の先、敷地の一番奥に寝室がある。


「よく来たね妹達、歓迎するよ」

「教え処へようこそ、部屋の使い方をおしえるのだわ」

コイフ達よりほんの少し背が高い姉妹達が甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。

ベッドは継承位順に奥から並べて、部屋の蝋燭の位置や、私物用チェストの使い方を教えてもらう。

足元は木組みで、ぐっすり眠れそうな薄暗い部屋だった。


東棟は1歳(コイフ達姉妹)の部屋、2歳の部屋、3歳の部屋。それに厠と水桶部屋。

物置も含めて計6部屋あって、兄弟たちの西棟も同じ造りであることも教えてくれた。


通り過ぎてきた寝室の手前が食堂。

そして食堂の手前が教室。

三階まであって、二階は全部が教室、三階は書庫。

医務室とお風呂は別棟にある。


そんな案内を3歳のお姉様から受けながら、しばらくの住居となる教え処を見て回った。

2歳のお兄様やお姉様も様子を見に来てくれて、コイフはとっても頼もしいわ! と喜んだ。


最後に教室に案内されて、最初の授業を受ける。

長机が四つ置かれていて、椅子は丸太のベンチだ。

兄弟が席を選び始めたのを見て、コイフは前の方の席に座った。

だって背が低いのだもの。足をぶらぶらさせて前を向く。


教室には六人の先生がいて挨拶をした。

マナーの先生が男女一人ずつ、人国の言葉の先生、国語の先生、貴族教育の先生。


一人だけ先生が残り、他の先生やお兄様お姉様方は退出する。




一番最初の授業が始まった。


貴族について、と先生が板書した。


人国ひとくには大体が王権制国家です、王様の下で貴族達が話し合って国を統治しています」

つやつやの毛並みがきれいなチョコレートレッキスの男の先生が言った。


「人国には王がいて貴族がいるのが当たり前なので、過去、我々兎人うさひと族は身分を侮られ話し合いにも応じてもらえなかった。ですから人国との対等に話し合いを求めて、王を選んで貴族を作りました。それが兎人族の貴族の始まりです」と先生が言った。


兄弟は呆気に取られた様な、また神妙な顔で、でもぽかんと口を開けて先生の話に聞き入っている。



コイフは先生のお話を聞いて、何故だか知っている事と違う様に思えて、むずむずと座りが悪くなり、首をも傾げそうになったけどこらえた。

きっと失礼な動作に見えてしまうわ。とコイフは毛の逆立ってしまったふわふわのほっぺを押さえつける。



「この王国は東兎人国ということなってはいるけれど、実際はただの集落です」

教室中から戸惑いの声が上がるも、先生は気にもせず続けた。


「兎人族の集落は世界にいくつもあるのです。各集落を『各国』に、長を『王様』にしました」先生は続ける。

「だから『王様』のお嫁さんが『お妃様』で子供たちが『貴族』。一人目の男児が『第1王子』でそのお母様が『王妃』なのです」



なんて単純なの! と思わず声に出しそうになってコイフは口を押えた。


公侯伯子男なんて物は無いのだ、ともすればわたし達子供が公爵か。

高貴な血筋などと子供達が勘違いしないよう、お妃様の位がどうのと仲違いしないよう、この授業があるのだわ。とコイフは何故か解った。


コイフはむにむにと頬を揉む。

だって何故だかわからないけど楽しくって微笑ましくって、あったかくてムズムズして、クスクスと笑ってしまいそうなのだ。



「貴方達は他種族の貴族と話をして交友を深め、時には戦争を回避するために、ここで三年間勉強をします」

戦争と聞いて何人かの兄弟が怖がって小さく跳ねた。

コイフも一転、びっくりして毛が逆立ってしまった。

その様子を見て先生が笑う。


「大丈夫、なんとでもなります。なぜなら、私も結婚する前は貴族だったのですから」

先生がそう言って左手の薬指の指輪にキスした。


キャーっと姉妹から黄色い声が上がるし、コイフも叫んでしまった。

人国式の夫婦の愛を誓いあう指輪なのだと姉妹はみんな知っていたから。

レッキス先生はとってもきれいで刺激的な先生なのだわ!




この国では次代に王が変わるか、平民と結婚すれば貴族ではなくなるのだと先生は続けた。


なるほど貴族教育とはそういう事なのか、とコイフは思う。



世界には圧倒的に人国が多い。

人国の言葉を学ぶのも、貴族の勉強をするのも兎人族の処世術なんだろう、なるほど。

人国貴族の真似なのかもと思って聞いていたコイフは、俄然興味がわいてきた。


その日は名付けの儀で習った礼や動作、挨拶などを繰り返し学んだ。

姉妹は皆、ワンピースの横をつまんで膝を折ってカテーシ―。

「国王様、お初にお目にかかり光栄でございます。東兎人国第60王女コイフでございます」


なかなか良くできたんじゃないだろうかとコイフが先生を見る。

「耳が立ち上がって無ければ及第点でしたよ」

コイフは好奇心旺盛な自分の耳を、憎らし気にぎゅうと摘まんだ。





日が昇ったらカランカランと鐘が鳴る。

起きて全員で食堂でご飯を食べて、体調の悪い兄弟は居ないか常に確認をとる。


朝は人国の言葉と文字の勉強、昼は貴族のマナーや礼儀作法の勉強、夕は他の勉強をして、日が沈む前に夕飯を食べて、寝床に戻る。

週に一回、みんなでお風呂に入って、午後から授業はお休みだ。


兄弟はみんな一緒で寂しくないし、年上の兄弟達も頼りになる。ナニーのみんなもお世話をしてくれる。


跳ねて遊んで皆で勉強をして、教え合って、何か些細な事でも、わからなかったら聞きに行って良いのだそうだ。


兎人族は群れで暮らす種族なので、本能だろうか、自然と酷い落ちこぼれが出ないよう助け合っている。

難しい授業もあるけれど、訊ねれば先生も教えてくれると最初の一週間で学んだ。

コイフが一番好きになったのはダンスの授業だ。

初めての学校生活だけど、あったかくて、さみしくなくて、わくわくして楽しいな、とコイフは思った。




四つん這いで飛んだり跳ねたりしない。

廊下は走らない。

階段は飛び跳ねない。

机には突っ伏さない。

授業中にお昼寝しない。

その代わり、外では好きなふうに好きなだけ体を動かしていい。

ただし衛兵さんを困らせてはいけないし、塀より先に出たいときは外出届を提出する。


何かと細かいルールのある教え処での生活にもようやく慣れてきた。

兎人族の習性か、教え処はコイフにとって居心地の良い場所になった。




国語と人国の字と言葉で「わたしは東兎人国第60王女コイフです」が完璧になったある日、コイフに異変が起きた。



授業中に紙とペンが浮かび上がてしまった、おまけにコイフも浮くし椅子も机も、書いた文字さえ宙に浮いた。


コイフはびっくりして悲鳴をあげた。

兄弟達がコイフを見上げて唖然としている。

「なにこれ、先生! お兄様! お姉様! 怖いよう! たすけて! 」

流す涙さえ宙に浮いて、パニックになるコイフの背中はついにぴったり天井についてしまった。


跳ねてコイフを助けようとする兄弟達だが、教え処の天井は高すぎて手が届かない。

先生が急いで職員室に向かうのがコイフには見えた。


瞬間。

廊下の向こうから知らない先生が跳んで来た。


その先生は兄弟達を下がらせると、一歩も跳ねずにふわりと浮き上がって、天井から伸ばされるコイフの手を引いて、持っていた木の杖をコイフの額にそっと当てた。


すると何事も無かったかのようにコイフとそれぞれの物はゆっくり地面に降りていった。


「もう大丈夫、落ち着いてください」

知らない先生はおじいちゃんでブロークンブラウンのホーランドロップだった。

三角の帽子を被っていて、丈の長いローブを着ている。

「私は魔法教諭のミシェルです、姫様は魔法で浮いてしまったんですよ」


コイフは涙を手で擦りながらきょとんとして聞き返した。

「魔法? 」


「姫様は魔法の才能がおありのようです、この歳で発露するなら相当の魔力があるでしょうな、成人されたら王都の魔法学校に通われるのが宜しいかと」

「王都? 」

聞き返すことしか出来ない。ようやくコイフの涙が止まった。


「そうです、この東兎人国と友好を結んでいる、人族の王国があります」

先生は黒板に張り出されていた地図を杖の先で指して見せてくれた。

赤い点が東兎人国、下の隣合った青い点線が件の王国で、その真ん中の青い点が魔法学校だと言う。


「私もその魔法学校の卒業生です、このローブも帽子も学校の制服ですよ」

先生が使い古して草臥れた服を見せてくれた。



コイフは魔法云々、学校云々よりも先生の服に目を輝かせる。



自分が来ている伝統衣装のワンピースなんかより遥かにいい生地だ!

こんなに古い物なのに、しっかりしていて温かくて柔らかい!

コイフは衝撃を受けた。


兎人族にとっては大きすぎるローブ。

もしわたしが着たならば?

きっとぶかぶかの大きいサイズを胸下で絞ってドレスみたいに着るのではないかしら。

それに三角の帽子だって、鍔を切らずに耳出し穴を開けてすっぽり被ればもっと可愛いんじゃないかしら。

杖だって、ただの木の棒のままじゃなくて、小刀で削って意匠を凝らせばとっても素敵になるんじゃないかしら!


ドキドキしてワクワクする、名前をもらった時よりもずっと!

「先生! わたし王都の魔法学校に行きたいのですわ! 」

魔法使いの先生はにっこりとほほ笑んだ。

「わかりました、では教え処を優秀な成績で卒業しましょう、その三年後の進学舎で必要な事を全て教えましょう」

「三年も待たなければいけないの? 」

コイフの言葉に先生が笑う。

「二年から生活魔法の選択授業が始まりますが、もっと早くと仰るなら…」

「もっとはやくなの! だって…! 」

先生の言葉を遮ってコイフは言う。

ふわり、またワンピースの裾が浮き始めている、困っているのも本当だもの。

このままじゃまた天井まで浮き上がってしまう。


「では入浴日の午後に教えましょう、早く教えなければ姫様は頻繁に天井に張り付きそうです」

先生は愉快そうに笑って杖を揮う。

杖の先に光が集まってコイフの全身を包む。

温度はないし不快感も無い。

「先生、これは何ですか? 」

「これはデバフです。本来バフという、対象を強化する魔法があるのですが、その反対の魔法です。貴方にかけたのは魔力を制限して魔法を使えなくする『弱体化のデバフ』という魔法です」

「体に悪くは無いですか? 」

おっかなびっくり体を縮めるコイフに先生は笑う。

「体に良くは無いですが、今は魔力を制御できない方が体に悪いです。次の入浴日から魔力の使い方の勉強をしなければなりません、出来ますか? 」

コイフは「はい! できます! 」と言いながらまた浮き上がった。今度は床上5センチで済んだ。

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