⑪魔結石症
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⑪魔結石症
コイフは救急馬車の中でフィオナの荷物を抱えて泣きそうだった。
フィオナを見た学校の医師が「……これは」と言って顔を曇らせてしまう。
「お医者様、フィーはどうしたのですか? 」と問えど、首を振るばかりだ、「そんな……! 」コイフは絶望で目の前が真っ暗になる、一体どんな重病だというのだろう。
フィオナは王都メニードで一番の病院に運ばれる事になったのだった。
フィオナの年齢では何をするにも親の許可が要る。
でもここに両親は居ない、そこに成人済みのコイフが付いて行くことにしたのだ。
コイフの所属する寮、パイン館の外泊許可などはマキ寮長がやってくれるという言葉にコイフは甘えて、フィオナに付き添って、駆け付けた救急馬車に乗った。
「フィー! しっかりして! 一緒に居るって約束したなのよ! 」
コイフが運ばれるフィオナに泣きつく。
「痛い、いたたた……助けて……いた……」
痛みに耐えてフィオナは青い顔でだらだら汗をかいている。
馬車は王立病院に到着した。
王立病院は真っ白い木造の建物で背が高かった。
フィオナが職員によって抱きかかえられ、建物の中に入って行く、それにコイフは走って着いて行く。
フィオナは丸まったまま痛みに呻いている。
コイフは不安で仕方なくなって今にも泣いてしまいそうだった、それでも大人として、ひとりの薬師として、必死に我慢した。
フィオナが診察室の診察台に速やかに寝かされる。
フィオナは現在変装魔法を解いている。
医師が一瞬フィオナの美しさに思考を奪われたが、さすがはプロ、すぐに平静を取り戻し患者を救うべく診察を始めた。
医師はフィオナに質問しながら魔法を使ってフィオナの体内をスキャンしていく。
「痛い、です……」
「どこが痛いですか? 」
「あ、足……! 太ももの辺り……っ」
フィオナを照らしていた魔法の光がフィオナの太腿に移動する。
「はい今見てきますねー、ああ、なるほど……」
医師がフィオナの両太ももをスキャンで確認して問題の部位を確認していく。
そばでコイフは医師の発言を緊張しながら聞いている。ごくりと生唾を飲み込んだ。
「フィオナさん、痛みが出てる太腿に私がフィオナさんの魔力を使って治癒魔法かけて行きますからね、私が魔法発動するのに合わせてフィオナさんも同じどころに魔法使ってください、使う魔法は血液が綺麗になれーとか、体の循環が上手く整えーとかイメージしてください、行きますよ⁉ 」
医師の声掛けにフィオナが必死に頷く。
「せーの! もう一度、せーの! 」
コイフはフィオナと医師が魔法発動している気配を感じる。
「次はここね、せーの! 」
「あ……、痛みが引いてきた……! 」
処置を受けだんだんとフィオナの顔色が良くなってきた。
「ふぁー……痛かった……疲れた……」
1時間ほど処置を受けて、フィオナは痛みに耐えた疲労で診察台の上でげっそりしていた。
「フィーたん大丈夫なの? もう痛くないの? 」
「うん……不思議と痛くない……心配かけてごめんね……」
フィオナとコイフが手を握り合って喜び合った。
医師が言う。
「フィオナさん、そのまま横になって聞いてくださいね、フィオナさんの足には体の不純物を取り込んだ小さな魔石があちこちに点在してました、ですのでその魔石の魔力を消費して消すために魔法を使っていました」
「ま、魔石!? 」
フィオナがギョッとする。
「はい、これが最近若者に多いんですけど、『魔結石症』という病です」
コイフとフィオナはあっけに取られて繰り返した。
「結石……? 尿結石じゃなくてなのよ……? 」
「魔結石症? 」
医師は頷き、話を続ける。
「『魔結石』は本来、老齢で高名な魔術師がかかる病でした……、体の中で魔力が滞り、魔石化する病です、普通なら全身の循環が良く行われるよう毎日適度に運動して生活していればかからない病気なのですが、フィオナさんは特別魔力量が多くてそれでは間に合わず全身の魔力に滞りがあったようですね」
「滞り……治ったんですか? 」
フィオナの問いに医師が言う。
「ひとまず応急処置をしましたが、すぐ入院しましょう、全身に魔結石が出来てないか確認する必要があります、フィオナさんはすでに髪や爪、瞳も魔結石化の症状が出ています、治っても再発しないようリハビリや工夫が必要になってくるでしょう、こちら書類です」
医師はフィオナに入院手続きの書類を渡した。
「入院……」
フィオナは渡された書類を確認する。
医師が言う。
「この症状なら患者さんのご負担はありません、国の福祉で賄えるのでそれらの書類と入院の同意書にサインしていただく事になります」
「つまり、無料⁉ 」
フィオナは福利厚生の厚さに驚いた。
「はい、入院して医療を受ける意思決定権はフィオナさんにありますが、再発の可能性が高いので私としては入院をおすすめします」
「します! 入院します! 」
「入院患者のくせに元気すぎるのよ……」
即決したフィオナにコイフはあきれ顔で言った。
「だって無料だよ⁉ 凄いよ異世界! 」
フィオナは感動に胸が震え涙がこぼれた。
そうしてフィオナは急遽入院する事になった。
同意書にはフィオナだけでなく成人の署名もいるので、そこはコイフが名前を書いた。
「お姫様にサインしてもらって良いのかな? 」
「フィーたんの健康がかかってるの! 問題ないのよ」
診察を終えフィオナはミアの姿に戻る。
医師から容体にいち早く気付くために入院中はなるべく変装魔法を使わないでほしいが、病棟までは変装魔法を使った方が良いだろうと配慮してもらえたのだ。
因みに無料で使える病室は相部屋だが、容姿に問題があるうえに、共同暮らしが大の苦手なフィオナはわざわざ追加料金を払って個室の病室にしてもらう事にした。
病院の看護師さんに手伝ってもらい入院の手続きを済ませた。
「ではフィオナさんの病室に案内しますね、歩けますか? 」
「あ、はい歩けそうです」
「車椅子の貸し出しも行ってますので遠慮なくご利用くださいね、ではこちらへどうぞ」
フィオナの病室は三階にあった。
看護師によると、最近あまりにも患者が多くて新設した魔結石症専用の病棟だそうだ。
階段沿いの白地の廊下に木製の車いすが壁に沿って停められていて、廊下は掃除のしやすい撥水魔法がかけてある床だ。
(共同暮らしなんて気が重いけど、無料で治療してもらえるし仕方ない、勉強で時間を潰して過ごそう)
ぼんやりと考えていたフィオナだったが、看護師に病棟を案内され大部屋を通った時、コイフとフィオナは驚きで目を丸くする。
「これは……! どういうことなのよ……? 」
そこには先程のフィオナと同じように呻いている若者たちが沢山寝かされていた。
「ここに居る患者さんは、全員フィオナさんと同じような若年性の『魔結石症』患者さんです」と付き添いの看護師が言う。
医師によると『魔力量の多い老人の病』のはずなのに、なぜ若者がこんなに患っているのか、医者も首を傾げているそうだ。
手前のベッドで寝ている少女は皮膚が紫色に輝いて痛々しかった。
(私より幼い子なのに、私より症状が深刻そう……どういうこと? )
フィオナは悲しい顔になった。
先程病名の説明を受けて魔結石の発生する部位によっては死ぬ事もある病気だと先程医師から説明があった。
コイフとフィオナは不安になって顔を見合わせた。
「あ……! 」
「まぁ! クラスメイトの……! 」
「え? フィオナさんとコイフさん? 」
先日授業中に搬送された巨大火球ドヤ顔男子のコーデリア・ローマンと病棟の廊下ですれ違った。
「コーデリア・ローマンくんなのよ? 」
「名前知ってたんですか……? 」
「ええ、ピノに聞いたのよ、具合はどうなの? 」
「ピノさんに……ええと、それが……『魔結石症』で……あまり良くなくって……」
ピノと聞いてバツが悪そうにコーデリア・ローマンが頬をかく。
コイフとフィオナは顔を見合わせた、彼に聞くとやはり同じ『魔結石症』なのだそうだ。
病棟の通路を通り抜けて一番奥の部屋がフィオナに用意された病室だった。
病棟の看護師が来て挨拶ともろもろの説明をして、部屋の入口には『フィオナ』と手書きの名札を付けた。
病室にはベットの他に簡易棚、洗面所、ミニテーブルとイスがあった。
ちょっと贅沢をしたい時は料金を払うとオプションでサービスが受けられるようだ。
タオルなどいくつかは病院で無料で借りられるらしい。
入院手続きの書類には『寄付や募金受け付けてます』と書いてあった。
個室に着き、フィオナは変身を解いた。
「では診ますね、横になってください」
医師がフィオナの全身をスキャンしはじめた。
「あのー……最近多いって仰ってましたましたけれど、あんなに幼い子まで……原因はわかっていますの? 」
コイフが令嬢の皮を被って医師に聞く。
「ええ、ここ数年、異常に魔力の高い子供が多く産まれるのです、最初は医師会も魔法学校も喜んでいましたが……その子供たちが『魔結石症』を発症するようになってしまったのです」
医師は溜息を吐いた。
「恐らくは、幼い体が自身の魔力量に耐えられなかったのでしょう……」
言ってから医師は、看護師になにやら指示をした。
「フィオナさんは全身が魔石化し始めていますね」
先程聞いた、髪や爪の事だろう。
医師は続ける。
「今まで上手く魔法を使って来たのでしょう、魔力量に比べてこれは軽傷で済んでいます」
言うと医師は「ではお大事に」と言って別の患者の元に行ってしまった。
「先生もお忙しくって、何しろ魔結石の患者さんがこんなにたくさん運ばれて来るなんて異常事態なので……」
と看護師が言った。
フィオナは看護師に何やら処置をされて、看護師も病室を出て行った。
コイフとフィオナはふたりきりになった。
「フィーたんわたし心配したのよ」
コイフはフィオナの荷物を抱えたまま泣き出してしまった。
「わ、わ、コイフ、ごめん、心配させたよね? 」
「あたりまえなのよ! 」
「ありがとうコイフ」
「わたしは大人なのよ、当然なの! 」
フィオナは自分のハンカチを差し出そうとしたが、そのまえにコイフは自分のハンカチを取り出し涙を拭った。
コイフはべそをかいたままフィオナの荷物を荷棚にしまい込む。
「ありがとう」
「タオルとか看護師さんに取ってもらうのよ、今夜は帰るのよ」
「あれ、泊まってかないの? 」
「フィーたんがすっかり顔色よくなったから帰るなの、フィーたんの分のお夕飯置いてくなのよ」
コイフは夕飯のバスケットを開いて、硬パンで作ったサンドイッチを手渡した。
「わぁ、ありがとう! コイフ気をつけて帰ってね」
「フィーたんもくれぐれも安静にするなのよ! 」
「わかったよ! おやすみコイフ」
「おやすみなさいなのよフィーたん」
コイフはフィオナの病室を出て、大きく深呼吸をしてからパイン館まで帰った。
パイン館は静まり返っていて、入口で夜勤の用務員さんに帰宅を告げて部屋に戻った。
もう夜中だ。
コイフはぺたりと床に座り、ベッドに凭れた。ずっと持っていた夕飯のバスケットを開いて、一人で硬パンのサンドイッチをかじる。
それからお風呂にも入らず、もそもそと布団に潜り込んだ。
コイフは初めてひとりぼっちになった。
東兎人国では、教え処には兄弟が、進学舎にも兄弟がいて、ビオラやダウ、友達がいた。
薬学舎では同室のクロエを筆頭にムークが、ミミが、ロビンがいた。
『満月堂』にだって、毎日共に住み、共に働く仲間がいた、メニーにサニー、ワイズ……。
「なんて心細いのかしら……」
コイフは未だに慣れない人族の寝具の上で、毛布を手繰り寄せて丸まった。
フィオナが居たから慣れない人国でもスムーズにやって来られたのだとコイフは思った。
だって不安と心細さで泣いてしまいそうなんだもの。
「寂しいのよ……」
コイフはまん丸に丸まって眠ってしまった。
一方フィオナ。
コイフと別れた後、自室のテーブルでコイフお手製の硬パンのサンドイッチを食べた後ミアの姿になり、書いた書類をナースステーションに隣した受付に提出に行った。
ナースステーション奥には紫色に発光した幼児が積み木で遊んでいるのが見えた。
積み木はいろんな色に色を変えながらピカピカ光っている。
「なんだかあの積み木見覚えが……? 」
フィオナが幼い頃お世話になった魔術師ルーサーだが本職は医療向け魔道具を開発する技術者である。
以前開発した魔道具の積み木がこうして他の子供の役に立っていた。
フィオナ的には積み木で遊んでいたのも魔術師ルーサーに出会ったのも幼い遠い昔の事なので忘れてしまっている。
受付に当病院宛の『募金箱』が置いてあったのでフィオナは人工魔石で稼いだお金を少し入れた。
(福利厚生の厚い入院、繁栄あれ! )
フィオナは手をあわせた。
「ねぇ、君も転生者なの? 」
ふいに後ろから声をかけられた。
フィオナは後ろを振り返ると華奢なメガネの少年がいた。
「ここにくる若い人は大抵転生者なんだ、君もそうなの? 」
「それって……、どういう事? 」
フィオナは聞き返した。
「転生者って秘密にしてるの? まぁそういうやつもいるし、良かったら談話室に集まってるからおいでよ、地球出身者が沢山いるよ」
そう言って彼は談話室に向かって行ってしまった。
(転生者⁉ これは気になる……)
フィオナは彼に着いて行くことにした。
談話室には若い男女が何人も集まっていた。
フィオナより幼そうな者から10代後半くらいの者もいる。
ほとんど男子だが、2人ほど女子もいる。
「みんなー新人を連れてきたよー」
メガネ男子は言って空いた席について勝手にくつろぎ始めた。
談話室は白い内装にか細い明りだけで少しだけ薄暗い。
コの字型に古いソファが置かれていて、それぞれに小さなテーブルが備え付けられ、水差しとコップが置いてあった。
「初めまして、今日から入院する事になったフィオナです」
少しほほ笑んで簡潔に挨拶した。
各テーブルに置かれている水とお茶は病院側が用意してくれているようで、フィオナは傍のコップを取ってお茶を入れて飲んだ。
何かの草で淹れた茶のようだ。
爽やかな香りがして落ち着く。
フィオナが席に着くと周りの少年が近づいて話しかけてくる。
「じゃあ君も転生者なの? 」
おかっぱヘアーの青年が話しかけてきた。
この世界では男性でもおかっぱになる。長髪とかも普通にいる。
「そうですね、皆さんも? 」
フィオナが答える。
「やっぱだよなー! ここにいるのは皆転生者なんだ! あの白いじいさんの神様に殺されて強大な力を願って生まれてきたやつらだよ」
『白いじいさん』とはフィオナを転生させたあの白ハゲ神の事だろうとフィオナは思い至る。
「なんでこんな転生者が集まってるんですか? 」
「さぁ? 神様の考えてる事はわからないけど、俺は生まれて来る時に人類最強の魔術師になりたいって願ったんだ」
おかっぱ青年が言うと傍にいたメガネ少年が口を開く。
「確かに強い魔力を持って生まれてきたけど、おかげで幼い頃から魔結石症で苦しめられてるわけよ、ホント意味ないよねー冒険に出てモンスターを魔法でぶったおしたりしたかったなー」
「ああ、なるほど、わかってきました」
フィオナはお茶を啜った後話をまとめだす。
「あの剥げた神様に転生先の希望として高い魔力を望んで生まれてきたら、扱いきれずに魔結石症になる者が続出したわけですね」
「だからそう言ってんじゃん」
メガネ少年が生意気な口をきく。
「私も同じようなお願いをしたけど、症状の度合いや年齢にばらつきがあるのは何故なんですか? 」
フィオナが尋ねる。
おかっぱ青年が少し考えた後答えた。
「うーん多分だけど、願いの度合いとか、魔力を貯めずに日頃から使いまくってたりとか、扱いがうまいとか……? 魔結石になりづらい体質もあると思うな、ローマン君は何を願ったんだっけ? 彼は今この病棟で最年長なんだ」
なんと談話室にはコーデリア・ローマンもいた。
話題を振られたローマンは答える。
「……俺はクラスで一番強くなりたいって願ったんだ、楽しい学園生活を送りたかったから……なのに、魔法学校に入学した途端入院しちまった」
ローマンは周囲の魔力をほどほどに吸収する力を持っているそうな。
神様から「強さってゆーても一くくりに決められにゃいから、周りの人間よか一番魔力保有量が多くなれるよーになろっか」と言われたそうだ。
「神様は、確かに願いを叶えてくれるんだけどさ……」
「ああ、適当だよな……それに気付けていれば……」
転生者達が口々にぼやく。
室内がどよんとした暗い空気に包まれた。
「……あ、そうだ、君もネカマなの? 」
メガネ少年が聞いてくる
「は? 」
「え? 違うの? 大抵最強を目指すのは前世男性が多いから……うそ、女性⁉ 」
「あ? なんか殴りたくなってきた、なんだ、女性である事に文句があるのか? 」
フィオナは強化した拳をつくる。
「あー、ごめんなさい、驚いただけで、なにも文句ないです」
メガネ少年はすぐ謝った。
ムカムカしながらもフィオナは拳を治め、自室に戻る事にした。
くだらない集会に参加してしまったが意義はあった。
つまりこの状況は白ハゲ神のせいだ。
フィオナは治めたはずの拳をぎゅっと握った。
日の出と共にコイフは目覚める。
寝ぐせだらけの体をすいて、身だしなみを整える。
一人で硬パンを齧った後、買ったばかりの布を引っ張り出してきて普段着をちくちくと縫い始める、が、その姿にいつもの溌剌さは無い。
「学校がないと本当にやる事が無いのよ」
コイフはぼんやりとハサミを動かしていく。
「今までずっと人国に来るのが目標だったのよ……」
コイフは無意識で兎人語でひとりごとを言った。
「死んでしまう兎人を減らしたいと思ったのよ……」
ちくちく針を動かしていく。
「でもそれだけじゃダメなんだわ……勉強しているだけじゃダメなんだわ……」
現にフィオナは入院してしまった、コイフは何もできなかった。
「わたしに何が出来るのかしら……」
コイフは一枚の服を縫い終わって、立ち上がった。学校の鐘が正午を告げる。
「クローブお兄様に会いに行くわ、わたしポーションを作るのよ! 」
コイフは今までぼんやりしていたのが嘘みたいに手早く裁縫道具を片付けると、アミュレットの付いた帽子を被って部屋を飛び出した。
パイン館の入口にある受付にコイフは声をかけた。
「あの、すみません、研究生の兄に会いに行きたいのですが、どこに行けば会えるのかしら? 」
「ああ、研究棟も今封鎖されていますからね、旧貴族寮の宿舎に全員集まっていると聞いています」
パイン館の受付職員は学校地図を取り出して、「ここですね」と場所を教えてくれた、現貴族寮の北の方だ。
「ありがとうございます、行ってみますわ」
コイフは礼を言って、旧貴族寮宿舎を目指した。
ふわりと浮かんで飛んでいくとうっそうと茂った林があった。
「あったのよ……でもオンボロなのよ……」
オバケでも出そうな古い洋館が林の中に佇んでいる。
少し開けた場所ではなぜか大規模なBBQが行われていて、大勢の人の中に見知った兎人を見つけたコイフはひらりと地上におりた。
「クローブお兄様! 」
「おひゃ、コイフひゃないか」
クローブお兄様は肉串を嚙み千切りながらコイフを視野に入れる。
「お食事中に失礼いたします」
「ああ、マナーとかはいいよ、研究生なんて大体そんなものだからね」
クローブお兄様は周りの仲間に「妹が来たからちょっと抜けるよ」と言ってコイフを旧貴族寮に招き入れた。
旧貴族寮は外観はぼろぼろだが中はしっかりとしていて綺麗だ、時代を感じさせる造りですこし隙間風を感じる。
長らく使ってなかった屋敷を急遽使えるようにしなければならず、メイドたちが慌ただしく動き回っていた。
「それで、どうしたんだい? 」
「お兄様、わたしポーションが作れるようになりたいの」
「魔法医学と薬学魔法は履修してる? 」
「してます! でもそれより早くなの……! 」
「基礎はしっかり学ぶべきだよ、ドクター・シダーは厳しいけどいい先生だ」
「フィーが入院してしまったの……」
「食事会に来たあのお嬢さんかい? それはどうして? 」
「魔結石症ですって……わたし、わたしまた何も出来なかったのよ」
「魔結石症はポーションでは治らないよ」
「でも、居ても立っても居られないんです! 」
コイフは手に力を込め大きな瞳はうるうる震えた。
「なるほど、わかったよコイフ」
クローブお兄様は泣き出してしまったコイフの肩を抱いて旧貴族寮から出た。
「ぼく達も実験道具すべて置いたままここに避難させられてしまったんだ、実験中の魔法の事を考えれば居ても立っても居られない、けれどあがいたってどうしようも無いんだ、なにせ実験道具が何も無いんだもの」
コイフはきょとんとした。
「コイフ、君は優秀だって聞いているよ、進学舎も薬学舎もストレートで卒業、私塾で学びながら薬師業をして、王宮で提言までした、きょうだい中でも飛びぬけて優秀だ、だから勉強は見てあげる、自力で初級ポーションにたどり着くのなら、作るところも見てあげるし指導もしよう、だから焦ってはいけないよ? 」
「わたしは焦っているなの……? 」
「ぼくにはそう見える、コイフは自力では出来ないことまでやろうとしているように見えるよ」
確かにそうだ、転生小説の主人公のように何でも出来るようになりたい、特別な力が欲しいと願ってしまっている、とコイフは思った。
(でもわたしが転生時に望んだ能力は『人並みの健康』だけ……)
コイフは耳を畳んでシュンとした。
「お兄様の言う通りなのよ……地道に勉強するのよ……」
「そんなに落ち込まないで、ぼくたちも、もうどうにもならないからやけっぱちで肉を焼いているんだ、一緒に食べよう」
「そうだったのね……お兄様たちも苦しいのに、ありがとうお兄様、でもやっぱりわたし何かが出来るようになりたいのよ」
「その気持ちはよくわかるよ、ぼくらも何かを形にしたくって一生懸命だ」
クローブお兄様に手を引かれ、BBQ会場、基、旧貴族寮前に戻る。
「妹も仲間に入れてやって」
クローブお兄様が笑う。
「もちろん、お嬢さん気兼ねなくお食べ」
席についていた亀獣人が皿とフォークをコイフに渡して席を進めてくれた。
「ありがとうございますわ」
コイフの瞳は泣いたせいで赤く腫れていたが、周りの研究生たちは気にしないよう努めて優しく輪に入れてくれた。
お兄様の仲間に歓迎されてコイフは肉串や野菜串を食べた、とっても美味しかった。
ポーションを作る。
これはコイフの夢だ、欠損は治らなくとも薬で治療するだけよりも早く怪我や病を治すことが出来る。
魔法使いのお医者様を東兎人国へ呼ぶこと、これはコイフ王女の目標だ。
「年単位で計画的にやってかなきゃダメなのよ……! 」
お肉やお野菜でお腹がいっぱいになったコイフは冷静に考える。
「クローブお兄様」
「何だいコイフ? 」
「研究生ってどうやったらなれるなの? 」
コイフは進路を定めた。
次の投稿は6月27日です。




