⑩生徒会
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⑩生徒会
一波乱あって翌日、この日は急遽服を買いに行くことにした。
といってもコイフは朝からバイトなので仕事が終わった夜に待ち合わせだ。
「女将さん、旦那様、お疲れ様でしたなのよ! 」
コイフは今日はいつもの普段着ではなくカジュアルワンピースを着ている。
「今日も助かったよコイフちゃん」
「次もよろしくね」
「はい、ありがとうございますなのよ! 」
『蔦薬局』でのアルバイトを終える、コイフとフィオナは『蔦薬局』に一番近いカフェで待ち合わせをしていた。
「おつかれーコイフ! 」
「お待たせなのよフィーたん」
フィオナはすでにカフェに到着してコーヒーを飲んでいた。
待ち合わせに使ったカフェは庶民向けの店だ。
シンプルながら清潔感のある木造の店で、客はのんびり落ち着いて食事をしている。
メニューによると甘味はケーキが少な目で焼き菓子が多いようだ。
それからスープやサンドイッチなどの簡単な軽食が注文できる。
コイフは軽食にマフィンとお茶を頼んだ。
「フィーたんは昼間は何をしていたの? 」
コイフが聞くと、フィオナは「よくぞ聞いてくれました! 」と言わんばかりの顔で前のめりに喋り出した。
「図書館に行っていたよ! あわよくば下の遺跡階層に入れないかと思ったんだけど、駄目だった! むしろ前行った時より立ち入れるエリアが減ってたよ……でも、その代わりいっぱい面白い本が読めたよ」
フィオナはやんちゃな顔で笑った。
「健全で何よりなのよ、安心したわ」
コイフもニコニコ笑った。
頼んでいたマフィンとお茶が届いたのでコイフは小さな手でマフィンを割って小さな口で食べ始める。
「それ何味? 」
「チーズとベーコンなのよ、あーん」
コイフがちぎったひとかけらをフィオナの口に放り込む。
「ありがと、おいひい」
フィオナは手で口元を隠しながらお礼を言った。
「フィーたんはもう夕飯食べたの? 」
「早めについて軽くパンを食べたよ」
フィオナは残っていたコーヒーを飲みほした。
コイフもすぐにマフィンを食べ終わり、紅茶を飲み干して出発することにした。
「バイト中に女将さんに聞いたのだけど、中央通りに大きな布屋さんがあるそうなの、わたしはそこに行きたいのよ」
「服屋さんじゃなくって? 」
「ドレスを買えるほどお金は貯まっていないし、普段着が欲しいのよ、兎人は伝統的に自分で縫ってしまうから、布の方が安く上がるのよ」
「ほへーそうなんだね! 私の分も縫ってよ! なーんて」
「フィーたんはお金もサイズも既製品があるでしょ、贅沢言わないなのよ! 」
「はーい」
コイフは学校で女性の先生に聞いたのだが、共用の織機は置いておらず、織機のほとんどが業務用だと聞いて文化の違いに愕然としたのだった。
「じゃあその中央通りに行こう! 」
「歩いてすぐらしいのよ、お散歩しましょう」
ふたりは日暮れ前の住宅街を歩いて、教えてもらった中央通りを目指した。
住宅街は異国情緒を漂わせて、ご婦人方が洗濯物を取り込んでいた。
小道を抜ければ大通りだ。
舗装されていない道は轍が深く刻み込まれ、そこを馬車が走っていく。
そしてやっぱり大通りは馬糞臭い。
これも王都の文化なのだから慣れなければとコイフが思う一方で、フィオナがすぐに消臭魔法をかけてくれた。
フィオナはちょっと過保護だと思うが、子供になった親友に甘いのはコイフも一緒なので「ありがとなのよ」とお礼を言った。
「ここが布屋さん」
コイフとフィオナは目的の布屋を見つけることが出来た。
コイフは布屋と言えばくるくる巻いてある布が棚に並べられているのを想像していた、多少の違いはあれ、コイフの故郷、東兎人国でもそうだったからだ。
しかし王都の布屋は違うらしい。
天井に向かって立てられた筒に布が巻かれ垂らされている、カラフルなシーツおばけみたいだ。
「おおーこんな風に売ってるんだ」
「なのよ……」
コイフのドレスは現在5着しかない。
懇親会で着た一番格式の高い伝統衣装のドレス。
成人式と入学式に来た東兎人国で作ってもらったドレス。
一目ぼれした店で作ってもらったブラウスワンピースのドレスに、そこでおまけしてもらったカジュアルワンピースドレス。
そして受験の時に着た、手作りのカーテンドレスだ。
そろそろ着まわすのも苦しくなってきたころだったので、学校用のカジュアルドレスと休日用の普段着を作ろうと思って来たのだ。
「いらっしゃい、何をお探し? 」
店員のおばあさんがひょこひょこと出てきた。
「カジュアルドレスを作ろうと思って、硬めの生地と柔らかい生地を使い分けたいの」
コイフは布の事はわからない。
何故なら今まで自分で織って来たからだ。
「この辺りなんてどうでしょう」
「触ってもよろしい? 」
「ええどうぞ」
コイフは布に詳しくない、だが今まで織って来た経験がある。
触ればどんな生地かはわかるのだ。
「もう少し通気性がいいものがいいわ、暖かくなる季節ですもの」
「ではこのあたりはいかがです? 」
おばあちゃんの店員さんは別の一角を指し示す。
暖かい季節の花が描かれた布やさわやかな青色の布等が立てかけられている。
「……そうね、このくらいがいいです、これのオレンジ色はありますか? 」
「はい、こちらです」
「素敵な色ね……こちらをこのくらいの長さ頂きたいの」
コイフは両手を前に出し長さを説明する。
「はい、よろしいですよ」
と言って店員のおばあさんはピザカッターのような魔道具を手に持ち、縦に置かれたロール状の布の端をつまんでひっぱり出す。
魔道具を布に当てたかと思うと、布はシュッと一瞬でまっすぐ裁断された。
「「えっ」」
コイフとフィオナは切れた布を凝視する。
「凄い、布をまっすぐ支えてたわけでもないのになんで垂直に綺麗に切れてるんだ? 」
「ほんとになのよ、魔道具が見えない刃を出しているのかしら? 」
コイフとフィオナが驚いていると、おかしなものを見たみたいに店員のおばあさんはけらけら笑った。
「おや、お嬢ちゃん達布屋さんは初めてかい? 」
「はい」
「初めてなのよ」
コイフとフィオナは素直に答えた。
「これは布屋に革新をもたらした『柔らかい物を垂直に切る』魔道具ですよ」
「他に使い道が思い浮かばないのよ」
「お餅屋さんなんかも重宝しているらしいですよ」
「お餅屋さんがあるなの⁉ 」
「南通りの穀物屋さんの隣にあるわよ、穀物屋さんから米を仕入れて突いてるのよ」
コイフとフィオナは顔を見合わせた
「「白米が食べられる!? 」なのよ!? 」
おばあちゃんの店員さんは「あらぁ、白米好きなの」とにこにこ見守ってくれている。
人好きする人物のようだ。
「早く服を買って帰るのよ! 」
「うん! 白いご飯! 白いご飯! これは確認しなくっちゃ! 」
コイフは魔物の糸で出来た透け感のある白い刺繍と、黄色麻の布、柔らかいベビーピンクの布を合計6メートルほど買ってナップザックに詰め込んだ。
全ての布をしまうとナップザックはもうパンパンだ。
「大丈夫? コイフ、重くない? 送ったら? 」
「だーいじょうぶなの、重い物は薬師行脚で慣れてるのよ」
「薬師行脚? まぁ、無理しないでね」
フィオナとコイフは店員さんに見送られて布屋さんから出るとふわりと飛び上がった。
おばあちゃんの店員さんから教えてもらった穀物屋さんは南通りにあるそうだ。
そこまで特急で飛んでいくと、目当ての穀物屋さんは閉店の準備をしていた。
「あーーー待ってくださいなのー!!! 」
「わー‼‼‼ 白米くださーい‼‼ 」
「うわ! なんだいお嬢ちゃんが飛んで来た⁉ 」
コイフとフィオナは空から突撃して、店員さんを驚かせた。
幸い店員さんは気の良い人で、事情を説明すると快くコイフとフィオナを店内に案内してくれた。
「閉店間際なのにありがとうございますなのよ」
「本当ありがとうございます、お米凄く嬉しいです」
コイフとフィオナは深く親切な店員さんにお礼をする。
そうして無事生米を入手できたのだった!
「さて、予定外のお買い物が入ってしまったけど次はフィーたんのドレスよ! 」
「お、そうだね、なんかもう今日の目標達成した気分だよ」
コイフとフィオナは空を飛びながら話し合う。
フィオナは布袋に入った3合ほどの生米を大切そうに手で持っていた。
「既製品が売ってる店か~両親から届いたようなおしゃれ着がもう何着か欲しいよ」
「お高めのそれなりのブティックなのよ、プロムナードの3番街辺りじゃないかしら? 」
「じゃあ行こう、さっさと買おう! 」
フィオナは手に入れた生米を大切に抱えている。
なにせ白米はフィオナの前世の大好物だ。鍋で炊くのだって大得意であった。
「お米は鞄に入れていくのよ……」
コイフはお米を受け取りフィオナの背負っているリュックサックにしまった。
プロムナード3番街に到着した頃には薄昏で、地上に降り立ったふたりの影が長く伸びる。
「フィーたんの好きそうな店を探すのよ! 」
「えーと子供服、子供服……あったここでいいや」
親子連れの客がせわしく入って行く服飾店でフィオナは足を止めた。
「即決なの! まだデザインも見てないのに! 」
「それもそっか、じゃあ見ようかな」
フィオナはブティックに入って行く。
「いらっしゃいませ」と言いながら店主はふたりを値踏みした。
高そうなオーダーメイドのカジュアルワンピースを着ている兎人と、魔法学校の制服を着ているヒト族の少女だ。
学内の付き合いで急遽ドレスが必要になったのだろう、と店主は見て取った。
「そちら掛かっているドレスはお買い得品になっています」
言われてフィオナはそっちを見た。
ピンクや黄色のひらひらしたドレスで、魔法少女みたいだ。
「うーん、ちょっと趣味じゃないかな、もっとシンプルなのありますか? 」
「安っぽすぎるのよ、店主さんもう少し大人びたドレスはないかしら? 」
店主はびっくりした。
フィオナくらいの歳のお嬢さんに人気の流行のドレスだったからだ。
「う、上の階に少しございます」
「ですって」
「じゃぁ見てみようか」
コイフとフィオナは階段を上がっていく。
「……うーん……」
「……ふむ、なのよ」
一通り見て回って、結局この店にはロード夫妻から送られて来たドレスと同等の物は無かった。
悪くはないのだが、子供っぽすぎるデザインばかりなのだ。
「もう我慢してこの無難なひらひらフリフリにする! 」
「待つのよ! 自分の趣味に合わない服を買うなんて信じられないの! 」
コイフは叫んでフィオナを引きずって外に出た。
コイフとフィオナは3件目のブティックを訪れていた、そしてどの店も外れだった。
「プロムナード2番街の方が良かったかしら? 」
「両親はどこであのドレス買ったんだろ……」
プロムナード2番街は貴族御用達の店もある、平民のフィオナが着るには格が高すぎるだろう。
ロード夫妻はそのあたりの匙加減をどう上手い事やったのか、フィオナは頭を抱えていた。
「あ、あれを見てフィーたん」
コイフがショウウィンドウを指す。
プロムナードは馬車が走りやすいように賽の目状に道や区画が区切られている。
その3番街と2番街の間の店だ。
出窓のショウウィンドウに子供服が飾られていた。
「あ、かわいい」
思わず、という感じでフィオナが呟いた。
赤紫の絨毯の上にシックな赤いツーピースドレスと、傍にはお揃いのドレスを着た熊の人形が置かれている。
「入ってみましょうフィーたん! 」
「うん! 」
コイフとフィオナはその店の門をくぐった。
「わぁ! かわいいのよ! 」
「いいじゃん! 」
その店は子供服専門店だった。
子供服の為に店舗料金の高い2番街に居つけず、かといって割高な商品を扱っている為3番街にも出店しなかったのだという。
フィオナはさっそく自分の身長のコーナーを物色し始めた。
今まで覗いてきた店の子供服より、大人っぽいデザインが多い。
「わーこれ好き」
フィオナが手に取ったのはネイビーのセーラーワンピースだった。
「品もあるしなによりかわいいのなのよ! 」
「よし、一枚決定! 」
次にフィオナが選んだのは黄色いコルセット状にボーンの入ったヘムスカートのドレスだった。スカートは薄い布で二重に膨らんでいて、後ろに大きなリボンがついている。
髪飾りも付属していて、これも黄色いリボンでかわいらしい。
「とってもかわいいのよ!」
「えへへ、じゃあこれも決定ね」
最後に手に取ったのは白い立ち襟に半円状にフリルがついたパステルオレンジのドレスだった。
「わぁ! 品があるのよ」
「昔読んでたタイムリープものの漫画でヒロインが似たようなの着ていたんだ」
「あの、姉妹がめちゃくちゃ憎しみ合ってるやつなのね! 覚えてるのよ」
「じゃあこれも決定で、そろそろお会計してもらおう! 」
店主の女性が三枚を丁寧に梱包してくれる。
フィオナはリュックからいつも使っている皮の財布を出してお会計を支払う。
「あの、素敵なドレスばっかりでうれしいです! ありがとうございます」
感動したフィオナが礼を言うと店主は嬉しそうに笑って言った。
「魔法学校の学生さんで子供服を着てくれる子がいるなんて思わなかったわ、こちらこそありがとうございます」
現在フィオナが着ている制服を見て言った。
フィオナは仕送りからではなく、今も続けている人工魔石のアルバイトで稼いだお金で、自分のドレスを支払った。
「どのTPOでどんな服を着たらいいかわからないからドレスをひと組鞄に入れて持ち歩く事にするよ」
「しわになっちゃうのよ⁉ 」
「大丈夫、私には魔法がある‼‼‼ 」
「チート乙なのよ……」
コイフとフィオナはいつも通り空を飛んでオリーブ館に帰る。
「さっそく台所の釜借りてお米炊こうよ! それでおにぎりパーティーにしよ」
「炊き立てを食べるのよ! 楽しみなの~」
コイフとフィオナはお米に想いをはせながらオリーブ館のドアをくぐった。
ざわざわと1階が騒がしい。
寮生が集まっているみたいだ。
「なんなのよ? 」
「どうしたんだろう? 」
声のする方へ行くと一枚の張り紙が張り出されていた。
『しばらくの間魔法学校は閉鎖されます』という書き出しから始まっている。
「閉鎖ぁ⁉ 」
「なのよ⁉ 授業は? 勉強はどうしたら良いなのよ⁉ 」
困惑するコイフとフィオナ。
他の学生も同じように張り紙を見て不安そうにしている。
張り紙を読んでいくと、図書館など研究棟含め学校施設が無期限で封鎖されること、その間授業が休講になること、寮での謹慎は無いことなどが書かれていた。
勉強については自宅等で自習に励むようにとのことだ。
「研究棟が閉鎖されたらクローブお兄様はどこで生活するのかしら……? 」
「さすがに貴族を外に放り出さないと思うけど、これ、昨日の黒い靄が関係してるよね……?」
「そうだと思うのよ……」
これ以上のことはここに居てもわかりそうにない。
とりあえずふたりはその場を離れ、台所を借りて米を炊くことにした。
「炊飯器無いから鍋で私が炊いちゃっていいよね」
「なのよ、おまかせするなの、そうだ! 卵があるから私は卵焼きを作っちゃうのよ」
「いいね卵焼き! よろー! 」
数10分でお米が炊きあがれば次は握る作業だ。
「うあー私綺麗に三角形のおにぎり握れない! コイフ握って~! 」
フィオナは楕円の歪なおにぎりを握って泣き言を言い出す。
「でも私が握ると小さいおにぎりになっちゃうのよ? 」
「小さくても良い! 私コイフの握ったおにぎりがまた食べた~い! 」
「綺麗な三角じゃなくても良いじゃない、一緒に握りたいのよ」
「うう……わかったぁ」
おにぎりの具材は米と一緒に衝動的に買った梅干しと食用菊の塩漬け、そしてコイフ特製甘い卵焼きだ。
海苔ももちろん買ってある。
「梅味とー、菊の混ぜおにぎりとー、卵焼き! 完成! 」
「なのよ! 」
小さな三角おにぎりと大きく歪なおにぎりがトレーに並ぶ。
沢山のおにぎりを持って二人は勇み足で2階のフィオナの部屋に駆け上がる。
11年ぶりの白米だ。
「ほいひぃ……! 」
「おいひいのよぉ……! 」
おにぎりに齧り付けばふたりは懐かしさに涙を滲ませた。
「コイフ~」
「なのよ~」
「私コイフの造ってくれたご飯好きだったよ~」
フィオナはぽろぽろ涙をながしながらおにぎりを食べている。
生前一緒に食事を囲んだ事を思い出していた。
「フィーたん……ありがとうなのよ、私もフィーたんとご飯食べるの凄く好きなのよ」
コイフもぽろぽろと泣き出してしまう。
「うん……またおにぎり一緒に食べれて嬉しいね……」
ふたりは身を寄せ合っておにぎりを食べた。
とても美味しかった。
お米はあっという間に食べ終わり、夜も遅いのでコイフはパイン館へ帰った。
オリーブ館に貼られていたのと同じように、『学校閉鎖』と書かれた同じ張り紙が貼られていた。
目を通してからコイフは部屋に戻った。
翌朝の事である。
「コイフ様、朝早くからすいません、少しよろしいですか? 」
「え? どうしましたの? 珍しいですね」
コイフはいつも通り早朝の身支度を済ませ、食堂の厨房で朝ご飯をバスケットに詰めているところで、ミリー公爵令嬢の侍女から声をかけられた。
「本日の昼間のうち、主人がコイフ様にお会いしたいそうなのですが、どこかご予定が合う時間はございますか? 」
「あら、それならお昼過ぎの鐘がなった時はいかがかしら? 」
「はい、ありがとうございます、ではその時間に貴族寮区画内のカフェ『ナビア』にてお待ちしております、フィオナ様にもお声かけをしております」
「わかりました、カフェ『ナビア』ですね、ではまたその時間に」
「はい、失礼いたします」
そうして侍女は去っていった。
同じ頃フィオナの元にもミリー公爵令嬢の侍女が畏まって訪問してきた。
フィオナはなれない事にテンパりながらも承諾したのだった。
そうして昼過ぎ。
コイフや貴族達が暮らす学生寮が立ち並ぶ中、同じ敷地内にカフェ『ナビア』はある。
ドーム状にガラスが張られたオリエンタルな飲食店で、大きく門構えが作られ入口のドアが開け放たれている。
貴族向けに作られた店であり、店内ではご馳走や嗜好品が窘めるそうなのだが、あいにくコイフは利用した事がなかった。
「フィーたんを連れてきて良かったのよ、ちょっと緊張するなの」
「私も緊張する、ミリーさんって今王城に住んでるんだよね? どうしてここだったんだろ? 」
ふたりは念のためドレスと制服着用でカフェに来た。
カフェの大きな入口をくぐると店内の内装が目に留まる。
「わぁ、内装素敵だね! 」
フィオナは感歎の声をあげた。
店内は船の中の用になっており、さながら大航海の客船にいるようだ。
木の大樽が飾り付けられ、アンカーが壁に飾られている。
「ようこそお嬢様、ご予約はございますか? 」
入ってすぐボーイが声をかけてくれた。
「はい、ミリー公爵令嬢とここで待ち合わせをしているのですが」
フィオナが答える。
「はい、承っております、こちらへどうぞ」
ボーイに案内されコイフとフィオナはアーチをかいた木組みの通路を抜けていく。
通路の内側は広いホールになっており、テーブルで他の客が飲食を楽しんでいるのが見て取れた。
「ここってコンセプトカフェなの? 」
フィオナはミュージアム施設に来たように楽しそうだ。
「わからないわ、始めて来たもの」
コイフも興味深そうに辺りを観察する。
そのうち扉が並ぶ通路に入った。
「こちらのお部屋にございます、ドロップス公爵令嬢様、お待ち合わせのお客様がいらっしゃいました」
(忘れがちだがミリー公爵令嬢の苗字はドロップスだ)
「どうぞ」
扉の向こうから声が聞こえ、ボーイは扉をあけてコイフとフィオナを中に促した。
扉を開けて見える室内に、ソファーとテーブルが見えて、さらに奥の部屋のソファーにミリー公爵令嬢はいた。
「ああ、コイフさん、フィオナさん、お越しいただいてありがとう存じます」
ミリー公爵令嬢は立ち上がる。
「どうぞ、こちらがコイフさん、そしてこちらがフィオナさんのお席よ」
大きな丸テーブルに食器やナプキンがセットされている。
それぞれ案内された席にコイフとフィオナ、そしてミリー公爵令嬢は座った。
ミリー公爵令嬢の後ろの方には朝訪ねてきた侍女が立っている。
窓は船室の様に丸窓で豪華な棚の上にはボトルシップが飾られている。
「こちらメニューになります、こちらは本日の日替わりメニューです」
「ありがとう」
給仕がメニューの書かれた冊子と紙を置いていく。
「なんでも好きな物を頼んでくださいね」
そうミリー公爵令嬢は言った。
ご馳走してくれるつもりのようだ。
「ミリー公爵令嬢のおすすめはありますか? 」
メニューを見てコイフが聞く。
「あいにく私も初めてここを利用するのです、ならこうしましょうか、この本日のケーキセットなんていかがかしら? 苦手な物があれば言ってくださいな」
「わたしはそれで大丈夫です、フィーは平気かしら? 」
「はい、苦手な物無いです、それでお願いします」
「ではそれを人数分お願いするわね、下がっていいわ」
「はい、畏まりました、失礼いたします」
ミリー公爵令嬢は給仕に伝え、給仕は部屋を退出していった。
「貴方達も、くつろいで」
「はい」
ミリー公爵令嬢の従者達は入ってきてすぐの部屋へ離れて行った。
(入ってすぐが従者がくつろげる部屋、奥のこの部屋が主人の食事する部屋なんだ)
ふぁーとフィオナは息をはいた。
「改めて来ていただいてありがとうございます、昨日コイフさん達が危険な目に合ったと聞いて、心配で会いに来ちゃいました」
ミリー公爵令嬢は素の言葉遣いに戻った。
「ああ、聞いたのね、わたしは全然平気なのよ、フィーたんの悪い癖で現場に突っ込んでいったのよ」
「あ、コイフ言いつけた! 」
「フィオナさん! 本当危ないんですよ、コイフさんだって危なかったのに! 」
「わぁ~ん、ごめんなさい! 」
「私が言うよりミリーが言った方が効くなの、もっと言ってあげて」
コイフがいたずらっ子のように笑った。
「……お二人ともご無事なようで、本当に良かった」
ミリー公爵令嬢は安心して困った風に笑った。
「ミリーはあの黒い靄の事知っているなの? 」
コイフが耳を揺らして聞いた。
「あ、差し障りなければ教えて欲しいだけなのよ」
「新聞には地下遺跡にある古代の魔王が原因だって書いてあったけど……」
フィオナが付け足す。
「そうですね……概ねそうです、日に日に力をつけて行って結界師が張った結界も今まで通りでは封印しきれなくなってきているそうです」
「え、やっぱりまじで……あれ、これ怖い話? 」
フィオナが前のめりに話をする態勢になる。
「そうですね、私も驚きましたけど、魔王は魂となって今も学校地下の遺跡で生きているそうです、生きてるって表現していいかわからないですけど」
「オカルトなのよ……」
コイフは青い顔でプルプルした。
「わーコイフが怖がっている! そばに寄りたい! 」
ガタッと席を立ちコイフに向かおうとするフィオナ。
「大丈夫なの! 良い子でお席についてなさいなのよ! 」
「は、はい」
フィオナはしょんぼりして椅子に戻った。
「実はこの学校には彼の遠い子孫にあたる方が、お忍びで在籍しているんです、荒ぶる古代の王も、彼の声は届くようで話をすると一旦落ち着いてくれるそうなんです」
ミリー公爵令嬢の話にコイフは心当たりがあった。
「子孫……て、もしかしてリンツ・ショコラ殿? 」
コイフが訪ねると、ミリー公爵令嬢は驚く。
「え、知っていたんですか!? 」
「前から何かあると思ってたのよ、懇親会の次の日も査定員に特別呼ばれていたのを見てしまったのよ」
「……査定員は何をやってるの? 仮にも学生の身元に気を配ってないの? 」
ミリー公爵令嬢は低い声で怒った。
「リンツさんって、魔族の人なの? 」
フィオナが聞いた。
ミリー公爵令嬢は難しそうな顔をして言った。
「魔族、魔人は本来あまり良い呼び名じゃないんですよ、かつて戦争していた敵国の理解できない人々、というニュアンスが含まれているんです」
「そうなんですね……」
フィオナはミアの事を思い出した、元気でやっていてほしい。
「かの国の正式名はショコラ魔導王国、かつて私たちの祖先が袂を分かち多く流民して出来た国と聞いています」
「いつか行ってみたいな」
「そうね、フィーたん」
コイフもフィオナのモデルになっているミアという少女を思い出して頷いた。
「とうの昔に戦争は終結して、一定の間隔で交流を持っている国です、もっと仲良くできたら良いですよね」
「リンツ殿とはお話できたわ! その国の人ともきっとお話しできるのよ! お話出来たら仲良くなれるわ! 」
コイフはふこふこほっぺを手で持ち上げてもふもふさせながら笑った。
部屋がノックされる。
「ドロップス公爵令嬢、待ち合わせのお客様です」
「通して」
ミリー公爵令嬢が令嬢の皮を被る。
「やあミリー遅くなってすまないね」
「クロード、来てくれてありがとう」
扉の向こうにはクロード王子がいた。
「あ、あの、お招きありがとうございます」
「こんにちは……ドロップス公爵令嬢……」
クロードの後ろには聖女アユリと聖女エレノアがいた。
そして更にその後ろには懇親会で見た男子学生がふたりいた。
「みなさんようこそいらっしゃいましたわ、どうぞお席にお座りになって」
とミリー公爵令嬢が言う。
各自示し合わせたかのように席に座っていく。
「ミリーさん、これはどういった集まりなのかしら? 」
コイフが尋ねる。
「ええ、生徒会の会員ですわ、学校が閉鎖されても書類仕事は残っていますでしょう? それを片付ける為に集まったのですわ」
王城に持ち込みは出来ないですしとミリー公爵令嬢は言う。
「生徒会? 」
フィオナが首を傾げる。
コイフも同じく首を傾げた。
「部活動だよ」とクロード王子が着席しながら言う。
「王子は代々生徒会長にならないといけなくてね、1年の内から入部しないといけないんだ」
「王子って大変なんですね」とフィオナが言う。
それを聞いてクロードは笑う。
「じゃあ他の皆さんも生徒会なのね? 」
コイフが尋ねる。
「あ、はい、あたしは先輩に誘われて……えっと彼女はクラスメイトのコイフさんです」
アユリが後ろに控えていた赤髪の男性に声をかける、
肩に着かない程度の長髪で、前髪を後ろに流してハーフアップのように赤い髪紐で結んでいる、かなり体格のいい男子生徒だ。
制服は気崩して、ローブを肩にかけている。
「初めまして、俺は2年の戦士科所属、ハインツ・アルファルドだ、一応アルファルド子爵家の嫡男でもある」
「はじめましてアルファルド様、わたくしは東兎人国王女コイフと申します」
コイフも淑女の皮を被って挨拶をする。
(今日は制服を着て来て本当によかったのよ)とコイフは思う。
「彼女はクラスメイトでわたしの親友のフィオナよ、よろしくお願いしますわね」
「フィオナです」
コイフに紹介されて、フィオナは会釈をした。
当の戦士科のアルファルド先輩は聖女アユリを肘で突いて「おい! お姫様だって教えといてくれよ! 」と小声で文句を言っている、仲が良いのだろうやり取りをみてコイフは微笑ましく思う。
「あの……、私も紹介宜しいでしょうか……」
聖女エレノアは今日も細い声だ。
聖女エレノアの後ろにいた男子生徒が顔を出す。
狐顔に緑髪の短髪刈り上げで、高そうな装飾のついた服を着ている、こちらは一見ひょろっとして見える体格だ。
「私の後見人をしてくださっている商家のご嫡男です……」
「どうも偉い貴族様ばっかりで場違いですがボクはエーデルワイス商会の嫡男、2年普通科ローレンツ・エーデルワイスです、以後お見知りおきを」
軽薄な挨拶が続く。
聖女エレノアは顔をふせて退屈そうに聞いているので仲は良くないのかもしれない。
「はじめましてエーデルワイス様、東兎人国王女コイフと申します、こちら親友のフィオナともどもお世話になりますわ」
「フィオナです」
コイフとフィオナは続いて挨拶をする。
「はいコイフ王女……、あれェ、苗字無しって事はボクとおんなじ平民だね、よろしくフィオナちゃん」
「あ、はい」
フィオナは(なんかコイツ嫌いだな)と思った。
「生徒会というのは部活動なのですね、どのような活動内容なのですか? 」
コイフが尋ねる。
「学校の細々とした事の為に活動するんですのよ」
ミリー公爵令嬢が教えてくれた。
そして耳打ちで「前世の生徒会とほぼ同じです」と付け加えた。
コイフは面白くって笑ってしまう。
それを見たフィオナはちょっぴり嫉妬の炎を燃やした。
(私もコイフと耳元でひそひそ話したい! )
「それでどうしてわたしたちは生徒会にお呼ばれしたのかしら? 」
とコイフが部屋の面々を見回して聞く。
「黒い靄の話だよ」
とクロード王子が言った。
「君たちは先日魔法学園の下水道に出た黒い霧を見たそうじゃないか、それで話を聞きたいと思ったんだ」
コイフとフィオナは顔を見合わせた。
「わたくしたちはテイムされたスライムが凶暴化しているのを見ただけですわ」
コイフが言う。
「従魔までおかしくなるのか……」
クロード王子は深刻な顔をして指を組んだ。
「黒い靄の話はミリーさんに聞きましたわ、結界の管理まで生徒会でしていらっしゃるの? 」
コイフは首を傾げた。
「いいや、これは本当は私の個人的な問題なんだが、……今代の聖女が二人もいるのだし、協力してもらわない手はないと思ったんだ」
「あの、クロード王子、魔王が居るのがまずいんですよね? 魔族? の人達に引き取ってもらうのはダメなんですか? 」
フィオナがそろっと挙手して言う。
「そういうわけにもいかない……ここだけの話にしてほしいが構わないか? 」
「大丈夫です! 」とフィオナが答えた。
「ええ、お約束いたします」とコイフが答えた。
「では話すんだが、ショコラ魔導王国が大昔メニード王国と戦争していた話は知っているかい? 」
「はい、ちょうど先ほどミリーさんから聞かせていただきましたわ」
コイフの答えにクロード王子は頷く。
「魔王というのは当時の彼の国の王の呼び名だ、魔王は今でも代々継承され続けているのだが、彼の国は少し厄介でね、魔法がこの国よりも発達しているんだ、その中に自身の魔力量の限界を超えても体が壊れない秘術というのがあるらしいんだ」
(すごい! 知りたい! 使いたい! )とフィオナは大興奮したが、口の内側の肉をかんで真顔をキープした。
「その上その秘術を用いて、かの国の魔王は代々先王の魔力や知識、記憶を継承しているそうなんだ」
コイフは黙って頷いた。
「魔法学校の地下、玄室に居る魔王は霊となってまだ意識が残っている上に、今代の魔王がその魔力を継承したら……彼の国の魔力が今まで以上に強くなるのは明白だ、我々はそれを懸念しているんだ」
クロード王子は話し終わると、ふうと紅茶を飲んだ。
「なるほど……我々、というのは聖女様方もそうなのね」
とコイフはふたりに目を向ける。
聖女アユリが何かを言う前に、聖女エレノアが発言した。
「私たち月の教会は魔王を放置すべきではないと考えています……! 」
後ろで普通科のローレンツ先輩が「ウチは後見人なんで、金は出しますよ」と狐顔でへらへらと笑っていた。
聖女アユリは空気を読みながら発言をする。
「あたしは……せっかく生徒会に入ったんだし、クロード殿下が頼ってくれたから……その、仲間として何か出来ないかなって思ってるだけで……うちの教会としてはちっちゃいし別に……」
と申し訳なさげに言った。
後ろで戦士科のアルファルド先輩がうんうんと頷いている。
ふむ、とコイフとフィオナは顔を見合わせる。
「そのー、結界の張り直し方法とか無いんですか? それか黒い靄の倒し方とか、わたし幽霊なら倒せますよたぶん」
フィオナの発言に全員が驚く。
「幽霊って倒せるのですか……」
ミリー公爵令嬢がぽかんとした顔で聞いた。
「魔力を練れば倒せるって養父に聞きましたけど」
沈黙も保っていたクロード王子が言う。
「いや、もう大昔の大戦だ、魔王には恨みも無い、殺す理由はないよ、ただ、黒い靄を消す方法にひとつだけ心当たりがある……」
全員がクロード王子を見た。
「魔王の棺に書いてあった文言なんだ……魔王の遺書と呼ばれている、曰く『正体不明の魔が現れる』のは『世界が滅ぶ前兆』で、それは『真実の愛を持つ者によって退けられる』と……」
全員がぽかんとしてしまった。
(真実の愛ぃ~~~??? )フィオナは心の中で悪態をついた。
「真実の愛なのよ……? なにを以てして真実の愛になるのかしら? 」とコイフが首を傾げた。
聖女エレノアが「それはもちろん聖女の癒しの力以外にないのではないでしょうか……」と言った。
聖女アユリが自信なさげに「本当にそうなのかな~……自信ないです」と言う。
会議は一転ポンコツ集団と化してしまった。
「幽霊になってしまう理由として考えられるのが、生前当の本人に何か心残りがあった場合と考えられているんだ、真実の愛云々は参考程度で言ったつもりだ」
クロード王子は咳払いしながら付け加えた。
話が一区切りついた頃、『コンコン』とノック音がした。
ミリーの従者が扉を開けると、料理を乗せるワゴンを押して先ほど注文を受けた給仕が入って来た。
ミリー公爵令嬢の従者がワゴンで何か作業をして、コイフ達がいる部屋までトレーを運んでくる。
「お嬢様、注文した品が出来上がりました、毒はございません」
「ありがとう」
(なんと毒のあるなしを気にするのか)とフィオナは驚いた。そしてそれを気にしなければいけない事実に少し悲しくなった。
ミリー公爵令嬢の従者はコイフとフィオナの前にケーキと珈琲を綺麗に並べてくれた。
「おや、美味しそうだね僕も何か頼もうかな、君たちもどうだい? 」
クロード王子がメニューを受け取る。
「あ……ハインツ、私達も頼みましょう、このサンドイッチなら甘くないから食べれますか? 」
聖女アユリがメニューを見て戦士科のアルファルド先輩に尋ねる。
「……アユリ、ここでその話……はい、俺はサンドイッチをいただきます」
戦士科のハインツ・アルファルド先輩は恥ずかしそうだ。
「クロード王子ありがとうございます、私は珈琲をいただきます」
「ボクも―」
エレノアと普通科のローレンツ先輩も注文をする。
「さ、私達は先にいただきましょう、コイフさんフィオナさん」
ミリー公爵令嬢がケーキをナイフとフォークで一口大に切り分け始める。
「はい、いただきますミリーさん」
「いただきます」
コイフとフィオナも食べ始める。
ケーキはスポンジの上に甘いクリームと切り分けた果物やチョコレートが優雅に飾り付けられていた。
珈琲も美味しかったが、残念ながらコイフとフィオナは落ち着いて味わう事が出来なかった。
その後は結局書類の整理を手伝って解散することになった。
途中ミリー公爵令嬢がやんわりコイフとフィオナを帰そうとしてくれたのだが、せっかくなのでコイフは手伝う事にしたのだ。
フィオナはコイフが手伝うならと一緒に残った。
貴族寮に帰るのがコイフだけだったので(戦士科のアルファルド先輩は貴族寮暮らしだが聖女アユリを送っていくそうだ)カフェ『ナビア』の前で解散した。
コイフはひとり、パイン館に向かってぽてぽてと歩いていた。
「あ」
「やぁ、コイフさん」
コイフは見知った影を捉えた。
「リンツ殿、どちらかにお出かけですの? 」
コイフはまた淑女の皮を被った。
リンツの後ろには従者と、揃いの制服の知らない男たちが居る。
「うん、査定官に呼ばれてね」
「査定官の皆様でしたか、では魔王の玄室に向かわれますのね」
査定官が狼狽える。
「……へぇ、知ってるんだ? ……じゃあぼくが何者かもわかるよね? 」
「はい、噂でお聞き申し上げました、次期魔王様だと」
「ふーん、肝が据わってるのかな? 怖いとか思わないの? 」
リンツは楽しそうに喉を鳴らした。
「わたくしとリンツ様は既知の仲ですわ、怖くなんてありません、廊下でも親切にして頂きましたもの」
「そう、きみがそう思うならそれで良いけど」
「お勤め頑張ってくださいね」
「……ふふっ、うん頑張ってくるよ、それじゃあまたね」
コイフはその後ろ姿を見送る。
(リンツ殿はぼくっ子ミステリアスキャラなのよ)と思った。
「フィーたんお夕飯持って来たのよー! 一緒に食べましょう! 」
その後コイフはパイン館の厨房で普通に夕飯を作り普通にオリーブ館に来た。
窓をこんこんとノックしてもフィオナは出てこない。
仕方なしにコイフはオリーブカードを使って普通に入った。
すると、ベッドの一角がこんもり丸くなっている。
「フィーたん寝てるなの? 」
コイフは布団をゆする、中から「ぐぅ」とか「おぇ」とかくぐもった声が聞こえる。
「フィーたん具合悪いなの? 」
コイフはフィオナの布団をはぎ取る。
フィオナが体を丸めて倒れていた。
「フィー! どうしたなの? 」
「痛い……足……いったぁ……! 」
フィオナは苦痛の表情で顔を歪めている。
顔色も悪そうでだらだら汗をかいていた。
「すぐマキ寮長を呼んでくるのよ! 」
コイフは跳ねて、来た道を戻った。
「フィオナさん! 大丈夫ですか? 」
フィオナの症状を見たマキ寮長は息を飲んだ。
「どうしたんですかマキ寮長、フィーは病気なの? 」
コイフは今にも泣きだしそうだ。
「コイフ様、フィオナさんの身支度の用意をしましょう! 」
「そ、それって……まさか……! 」
「たぶん……入院です……! 」
「フィーーーーーーーーーーーーたーーーーーーーーーん‼‼‼ 」
コイフの絶叫がオリーブ館にこだました。
来週はお休みをいただいて、次回は6月20日に更新します。




