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⑨テイマーズギルド

加筆修正しました。6月1日

⑨テイマーズギルド


喫茶店の前でヴィタお兄様と別れたコイフとフィオナは一旦空を飛んで山菜を自室に置いて下処理をし、街へ再び繰り出した。




ヴィタお兄様に教わった場所にテイマーズギルドはあった。

木の看板に狼が牙をむいた絵が描かれている。

「おおーーー」

「これがテイマーズギルド……! 」


思ったより立派な建物でなんだかお役所みたいだなぁとフィオナは思う。

赤い屋根には狼のマークが入った旗がたなびいており、建物の土台が一段高く造られている。

塗りたてなのか塗りなおしたのか真っ白い壁、グレーのタイルの階段があって、階段の先が入口だ。

ひっきりなしに人と従魔が行き来している。

「なんか……ちょっと入りづらいね」

「行ってみるのよ……! 」

コイフとフィオナは手を握ってテイマーズギルドに入って行った。




中には郵便局のような受付があり、奥に従魔と同席出来る食堂、案内板には二階は雑魚寝の簡易宿があると書かれていた。

テイマーは意外と獣人が多かった、コイフとフィオナと同じくらいの歳の獣人テイマーが多く食堂にいたので、ふたりは悪目立ちすることなく受付にてこてこと歩いていく。

「あの、テイマーのお仕事見学ツアーがあるって聞いたんですけど、ここで合ってますか? 」

フィオナが声をかける。

受付のおばさんが言った。

「やってるよ、今からだと夕方からの最終ツアーしかないから、お昼ご飯でも食べてからまたおいで」

集合時間を教えられ、「はい、じゃあまた夕方に階段の下に来てね」

と言われて、コイフとフィオナはツアー名簿に名前を書き、テイマーズギルドを出た。




「緊張したのよ」

「時間出来ちゃったね」

コイフとフィオナは街をぶらぶら歩く。

「……あ! 文房具買いに行こうよ! 」

「行くのよ! 」

フィオナが指さした先には一般的な文房具屋があった。




「これが人国の……! 可愛い文具なのよ……! 」

文具屋は土間であったが、商品台や壁や棚はしっかりした重い木を使っていて、少しだけ埃っぽかった。

王都では普通の文房具屋ではあるが、鉛筆やノート、万年筆など近代的な文具が揃っている。

コイフは衝撃を受けた。


東兎人国ひがしうさひとくにではノートは自分で括るものだったし、木炭のペンにいかにカラフルに布を巻き付けるかが『可愛い』の基準だったからだ。

「インターナショナルなのよ……」

「コイフー! 鉛筆がカラフルで可愛いよー! 」

「むむっそうなのよ、可愛いのを選ばなくっちゃ! 」

コイフは真剣な顔で文房具と向き合った。


安い値段で売っているのが、1色で塗られている鉛筆で、2色や3色でマーブリングされている鉛筆はほんのちょっと高い。

更に花や動物、植物などの絵が描いてある鉛筆は倍の値段がした。

コイフは意を決して、かわいらしいうさぎさんとミモザの花が描かれた鉛筆を手に取った。

「これにするのよ! 教室ではこれを使って、部屋では木炭を使うのよ……! 」

お小遣い程度の買い物だったがコイフには意を決した買い物だったらしい。

色違いが3本ほどコイフの小さい手に握られている。

「私も鉛筆買ってこ、木炭は粉が散らかって不便だったから助かるよ」

フィオナも3本ほど見繕って可愛い鉛筆を選んだ。

鉛筆削りは商品棚に見当たらず、代わりにミニナイフが置かれていたのでそれで削れという事だろう。

ミニナイフも1本ずつ手に取る。


次はノートだ。

本のようにかっちりと綴じられているノートは表紙も本のように厚く、カラフルな紙だったり、模様があったり、布張りだったりした。

装丁が良いものほど値段が高い。

わら半紙を丸くくくっただけの物と値段の差がすさまじい。


「わーかわいいね! わたしはどれにしようかなー」

高い棚からフィオナが1冊ずつ見せてくれる。

「わたしはこれにするのよ、かわいいのよ」

コイフは鉛筆と同じ柄の布張りのノートを選んだ。

これで何処にでもいる可愛い学生さんの完成だ!

お店の人に商品を渡して、お金を手渡す。

『蔦薬局』で日払いでもらったお給料だ。 


コイフは買った文具を宝物みたいに、行李の代わりに背負ってきたナップザックに詰めた。

フィオナも同じように会計を済ませてコイフの元に戻ってきた。



時間も良い頃合いになり、ふたり連れ立ってテイマーズギルドに戻ると、他のツアー客もぼちぼち集まっていた。


「これからテイマーズツアーに参りまーす! 」

と言って狼の旗を持っているのはテイマーズギルドの制服らしいものを着た職員だ。

ツアー参加者は旗を持った職員に参加費の銅貨を1枚渡して、職員は名簿にチェックを入れる。


「皆さん本日はテイマーのお仕事見学ツアー、テイマーズツアーにご参加ありがとうございますー! 」

コイフとフィオナはわくわくした。


制服を着た職員が参加者に向き直って言う。

「まずテイマーとは何か説明しますね、テイマーとは魔物との意思疎通をする魔法と技術を持った職業です」

コイフとフィオナはふんふんと聞き入る

(自分と違う種族と話して勧誘するんだから、すごい技術だよなぁ)

とフィオナは思った。

(魔物さんとお話しするなんて楽しそうな魔法なのよ! )

とコイフは思った。

「翻訳魔法を使って言葉を持たない生き物に意思を伝えます! ただし知能の高い生き物しかテイム出来ないという制約もあります、それではこれからテイムされた従魔と、それをどう育てるかを見ていきましょう」

と言って制服の職員が先導して歩き出す。

コイフとフィオナはワクワクしながら職員の後に着いて行った。





「まずはこちらです」

と職員が案内した建物はコンクリート造りのしっかりした四角い建物だった。

木製のドアを開けると鉄格子があり、奥に丸いトンネルが掘られている。

「くちゃいのよ……」

コイフは鼻を手で覆った。

フィオナもわずかに顔をしかめる。

「なんか生臭い? 」

「今日は獣人のお客様が居るんでしたー、手早く説明しますね」

職員はトンネルを指して言う。


「このトンネルは町中の下水道に繋がっていまーす、お嬢さん達くらいの見習いテイマーはまずスライムをテイムして、ここから中に放します」

フィオナは「げっ」という顔をした。

「この様なトンネルは街に何か所もあり、王都の下水はスライム達によって処理されます、下水処理の仕事でスライムを大きく育てたテイマーは、小さい魔物を狩る仕事を受けられるようになります」

職員は客を全員出してから木製のドアを閉じた。




それからテイマーズギルドの裏に回る、綺麗な役所から一転、卸売り市場みたいな様相で、木箱いっぱいの藁や骨、従魔の餌だろう物が置かれており、解体されたヘドロ鶏やジャッカロープが吊られている。

制服の職員はまだ解体されていないヘドロ鶏とジャッカロープを指して言う。

「ここはテイムした従魔で食用の魔物や小型の害獣、害魔獣を狩って解体する場所です、解体した素材をテイマーズギルド等で売ってお金を貯めます、この様な小さな魔物でも魔石を持っていたりしますからね、ヘドロ鶏なら羽が、ジャッカロープなら角が高く売れますね」


ツアー客は辺りをしげしげと見る。

「うちの実家では近所の魔物を狩ってお肉にする為にこんな風に吊るしてたけど、コイフはこういうの見て大丈夫なの? 」

フィオナはコイフに聞く。

「教え処で動物を解体したのよ、へっちゃらなのよ」


説明もそこそこに解体場を離れ、向かう先はテイマーズギルドの駐車場だ。



「次に紹介するのは馬繋場です、こちらをごらんください」

案内された駐車場は舗装されてだだっぴろく、木造の屋根が雨風を凌げるようになっている。

頑丈な鉄の杭が地面に打ち込まれてそこに何頭か馬(従魔)が繋がれている。


ほかには馬車が何台も並んでいるが、馬車に繋がれているほどんどが馬ではなく従魔であった。

大きなトカゲや大きなネズミ、大きな鳥や小型の恐竜の様なものまで居る、今日乗った狼車も多くあった。

「お金を貯めたテイマーはこのように荷車や馬車を購入し、大型の魔物をテイムして、運搬か送迎の仕事を始めます、ここまで来れたら一人前ですね、他の街でも問題なく依頼が受けられるでしょう! 」

職員はテイマーズギルドの入口に戻りながら話す。


「王都は頑張ればテイマーが一人前になれる街なのです、そして皆さんはテイマーを育てる事に間接的に協力してくださっているのです、『間接的に協力』とは排泄もそのとおりですが、物流や送迎なども意味していまーす」




職員はそう付け加えるとツアー客をテイマーズギルドの建物内に招き入れた。

「もちろん先程説明した汚水処理以外の身の立て方や従魔の育て方もあります、それが依頼受領ですね、皆さんは依頼をする側なので依頼の出し方を説明します」

依頼がたくさん貼ってあるコルクボードの前で職員が説明を始めた時、ギルド内に悲鳴が響き渡った。


「黒い靄が出た‼‼‼ 」


コイフとフィオナはびっくりして声の方に振り返った。

「魔法学校の排水管で黒い靄が出た! 従魔が暴れて手が付けられない! 魔法学校に連絡してくれ! 」

怪我をしたテイマーらしき人が叫ぶ、まだ15、6歳だろうか、腕を怪我している。

「落ち着いて、同じシフトの奴はどうした? 」

「残って見張ってくれている! 」

先輩テイマーに聞かれ怪我をしている彼はそう答えて床に座った。


直ぐに受付のおばちゃんが通信魔法のかかった箱を使って連絡をしていた、魔法学校にだろう。

救急箱を持ってきた職員は慣れない手つきで怪我を診ようとしている。

コイフが怪我人の方に飛び出した。


「わたし薬師なのよ、手伝います! 」

「た、助かります! 」

コイフは手早く処置用の手袋を着けると、消毒用の度数の高い酒を傷口にかける、清潔な布で傷口を圧迫して包帯を巻いてしまう。

「応急処置はこれでいいのよ、安静にして、お医者様を呼んで綺麗に処置してもらって欲しいのよ」

「わ、わかりました、ありがとうございます! 」

コイフは手袋を脱いで、フィオナの方に戻った。


「コイフ、また学校で黒い靄が出たって! 見に行こう! 」

「何言ってるのフィーたん危ないわ! 」

「コイフ、これはチャンスだよ! 私たちは学校内にも寮内にも居なかったから、黒い靄を見るのを誰にも咎められないし、何より学校の下水道の危機だよ! さっきテイマーズツアーで言ってたじゃん! 町中の下水道はテイマーさん達が管理してるって、もし誰もテイマーさんが来てくれなくなったらトイレが使えなくなっちゃうよ‼‼‼ 」

コイフは衝撃を受けた。

「そ、その通りなのよ、わたしぼっとん便所は嫌なのよ! 」

「だから行こう‼‼‼ 」

「待って、騙されないのよ! フィーたんは地下遺跡が見たいだけなのよ! 学校にだって今さっき連絡が行ったのだから、もう解決しているかもしれないわ」


(それに今頃リンツが呼び出されているかもしれない)とコイフは思った。

彼は秘密にしてほしそうだったし、コイフは鉢合わする事を懸念した。


「解決してるかどうかは行かなきゃわからないでしょ、こうして騒ぎになってるんだから他の学生だって見に行くと思うし、私はあわよくば遺跡が見れて、場合によっては人手がいるかもしれないしその時は役に立てば良い」

人手がいる事態……リンツがもし怪我をしていたら、とさっきのテイマーの傷を思い出してコイフは震えた。

「そうね……、確かにそうだわ、……フィーたん行ってみましょうか? 」

「おし! 行ってみよう‼ 」


コイフとフィオナは大混乱のテイマーズギルドを抜け出して、学校に向かって超特急で空を飛んだのだった。




学校敷地内に着き、フィオナとコイフは高く空に飛びながら話題の場所を探す。


「どうフィーたん? 人はいた?」

「待って……、いた、あっちにいる! テイマーズツアーで見せてもらったのと同じ下水トンネルの建物に人が集まってるよ! 」

フィオナに手を引かれて、コイフは一緒に飛んでいく。

コンクリート造りの四角い建物が見えた、魔法学校の先生と査定官が数人中に入って行くのも見える。


「さて、どうしましょうなのよ」

「とりあえず様子を見よう、コイフが怪我しないように魔法をかけるよ」

空中で留まっていても仕方がないのでコイフとフィオナは四角い建物の前におり立った。

コイフはフィオナに物理と魔法の防御魔法をかけてもらう。


コンクリート造りの四角い建物の中から、ズドンドスンという大きな音が聞こえる。


「中でスライムが暴れてるのかな……」

「テイマーさんの怪我は切り傷だったのよ……フィーたんスライムって見た事ある? 」

「無いなぁ、ドアすぐの所には何もいないみたい」

建物のドアの前には騒ぎを聞きつけた学生が数人集まって中を覗いている。その上をフィオナは浮かんで通り抜けた。


建物の中には、内側の鉄格子に体当たりするように詰まったぷるんぷるんの水まんじゅうが居た。

水まんじゅうは人ひとりくらいの大きさがあり、体の奥に茶色い煮凝りを抱擁していた。

「つまりあれが私たちの排泄物……」言いながらフィオナは嫌な顔をした。


「君! 何をしている! 」

「フィオナ生徒、なぜここに居るんだ! 」

知らない先生とディートリヒ教員が言った。

スライムを追って奥から来たようだ。


「フィーたん危ないのよ! 」

コイフが悲鳴を上げた。

「最悪のタイミングだフィオナ生徒、さがるんだ! 」

ディートリヒ教員は見慣れない杖を持っていて、それで何かの魔法をスライムに放った。


スライムはひゅんひゅんっと触手を伸ばして鉄格子越しにフィオナへ攻撃を放った。

「うぇ⁉ 」

フィオナに向かった触手を別の先生がバリアを張って全て防いだ。

よく見ればテイマーの制服を着た男が緊張した顔で部屋の壁にはりついている。

「あいつ触手伸ばすのか」

フィオナは前面にはった防御の魔法を強めながらドアの外に後退した。


そのうちにディートリヒ教員が放った魔法が効いたのか、少しずつ動きが緩慢になり、最後にはズン! と音を立てて鉄格子からはがれ落ちた。

「眠ったな……お前がこのスライムのテイマーか? もう一人はどうした? 」

鉄格子のドアを開けてディートリヒ教員はテイマーの制服を着た男に近づいて尋ねた。

「テイマーさんはテイマーズギルドにいますなのよ、深めの切り傷だったから安静にしないといけないのよ……」

「コイフ生徒、なぜ知っているんだ? 」

「なのよっ」

ディートリヒ教員にコイフは睨まれる。

うっかり素直に答えてしまった。

「……わたしたち、テイマーズギルドの見学ツアーに行っていたのですわ、そうしたら怪我をしたテイマーさんが魔法学校から逃げてきて、わたしたちなにか出来ることはないかと思って急いで帰って来たのですわ……」

コイフは耳を後ろに畳んで、シュンとしながら答えた。

ディートリヒ教員は目頭を揉む。

「……善意だったのだな? 」

「はい……」

コイフはペコリと頭を下げた。

「フィオナ生徒はどうだ? 」

「わ、私も同じです! 」

フィオナは嘘を吐いた。

「後で危ない事をした説教をするからそのつもりで、ふたりは怪我は無いか? 」

「大丈夫です」

「ごめんなさい、無事ですわ……」

ディートリヒ教員はふーと息を吐いた。


「ふたりともひどい恰好だったから心配したぞ……ほかに異常事態が起こっていないならそれでいいんだ……」

「「ひどい恰好……」なのよ……」

コイフとフィオナはショックを受けた。


確かに山に行って泥だらけだし、テイマーズギルドのツアーで臭くもなっているかもしれないが……と、お互いの服を冷静に見た。

フィオナは洗いざらしで皺のついたシャツ。コイフの服は5年も着ているから確かに擦り切れてきている。

「わたし、新しい服を作るのよ……」

「私も今時っぽい服買う……」

こうして二回目の黒い靄事件は幕を閉じた。




コイフとフィオナは緘口令を敷かれ、寮に帰された。

コイフとフィオナはそれぞれ自分の寮でしょんぼりしながらお風呂に入り、コイフはカジュアルワンピースドレスに、フィオナは魔法でアイロンがけしたシャツワンピースに着替えた。

コイフは厨房の端を借りて(もう夕飯時だ)今日採った山菜を使って天ぷらを作り、パンと麦がゆを一緒に持ってオリーブ館に向かった。




こんこんとフィオナの部屋の窓を叩く。

「フィーたんお夕飯なのよー! 」

窓から見えるフィオナは眠っているようだった。

コイフは仕方なしに玄関から入って、渡された合鍵を使い、フィオナを起こす。

「フィーたんお夕飯なのよ」

揺さぶるとフィオナはむにゃむにゃ言いながら起きた。

「お夕飯食べれるなの? 」

「食べるぅ~…」

前世もフィオナは寝起きが良かった事を思い出して、コイフはクスリと笑った。

逆に前世のコイフは寝起きがとても悪かった、今は朝日とともに気持ちよく起床できる、兎人うさひとの生活万歳だ。


フィオナが席に着いたのを見て、コイフは山菜の天ぷらをテーブルに並べる。

「うわぁ! 山菜だ! 美味しそう! 」

フィオナは大喜びだ。

「白米が無いからパンと麦がゆを持ってきたのよ」

「麦がゆって甘いやつ? 」

「鰹節がないから、ただ炊いたやつなのよ」

「へぇー! うちはミルクとチーズとはちみつの甘いやつが出たよ」

「わたしも国で食べてたのはそっちなのよ、でも天ぷらに合わせたかったから」

いただきますをして天ぷらを食べ始める。

「山菜うまー! 揚げたて最高! おいしー!」

「旬、最高なのよー! かき揚げもどうぞなのよ」

「白米が欲しいねぇ」

「なのよ」

「今日は災難だったのよ」

「これで学校のトイレの平穏は守られたね! 」

「フィーたん危なかったのよ! あとご飯の最中にトイレの話はやめるなの! 」

「ひぃ~ごめんなさいー! 」

コイフはフィオナが危ない目にあって心臓が止まるかと思ったのだ、しばらくフィオナへの説教が続いた……。


こうしてふたりの夜は更けていくのだった。


次回更新は6月6日になります

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