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⑧山菜

⑧山菜


「おはようございます、コイフさん、フィオナさん、ピノ」

「おはようなのよミリー嬢」

「おはようございますミリー様」

「おはよーミリーサマぁ」

今朝も今朝とてコイフとフィオナ、そしてピノとミリー公爵令嬢が合流する。

そうなると付いてくるのがクロード王子とその取り巻き達だ。

「おはよう、仲が良くていいね」

その言葉にミリー公爵令嬢がほほ笑んだ。

「ピノ、昨日の落とし前、高くつきましてよ」

「ごめ~ん、なにすればいぃのぉ? 」

その様子を見てクロード王子は首を傾げる。

「仲良し……じゃないのかな……? 」

「女性には、殿方にとって少しだけわかりずらい友情があるのですわ」

とコイフがころころ笑う。

「まぁ今回は完全にピノが悪いんですけどね」

へへ、と乾いた笑いをフィオナが漏らす。

「? そうなのか……? 」

クロード王子はなんとなく「わからないけどわかった」という顔をして笑った。


コイフ達は喋りながら教室に向かって歩いていく。


「ピノ、コイフさん、フィオナさん、今日のお昼にお時間いただけまして? 」

「今日のお昼は食堂の予定だけど……」

フィオナはそう答えた後「ねぇ」とコイフに振る。

コイフも「なのよ」と肯定する。

「食堂に『部屋』を取りますわ、そこでピノの話を聞きましょう」

ミリー公爵令嬢が言う。

「食堂にぃ『部屋』? 」

ピノが、「およ? 」とか言いながら首を傾げる。

「貴族用に個室を予約出来るんですの、私が部屋をとりますわ」

「「「へぇ~! 」」」

全員が感心した。


「ってあれ?コイフはなんで知らないの? 」

とフィオナが聞く。

「国からは食券……、基、食堂チケット代しか送られて来てないのよ、個室利用なんてそういえばパンフレットに書いてあったかしら程度の記憶なのよ……」

コイフの答えに、クロード王子とミリー公爵令嬢はお互いの顔を見やった。


「書類に誤りがあったのかもしれませんね、ともかく、貴族であるコイフさんも事前に申請手続きを踏めば、個室を借りることが出来ますわ」


「コイフ、故郷の人になんかされてる? 私がガツンとやる? 」

フィオナが胸の前で拳を握る。

「やらないなのよ! 心配いらないの! 」

コイフはコホン、と咳払いして外面を整える。


「私には、権利も義務も与えられております、ですが継承位は低いのです、わが国では妥当……いえ好待遇を受けている方ですわ」

「なるほど、東兎人国ひがしうさひとくには教育に力を入れている国と聞いていたが、内情はもっと複雑そうだね」

「うふふ、愉快で気持ちのいい国でしてよ」

クロード王子の含みのある言葉にコイフはニコニコと含み無く笑う。

だって国費のほとんどを教育と福祉につぎ込んでいるからただ貧乏なだけの小さい国なのだ。

クロード王子の利になる情報など残念ながらありはしない。

ただ一つあるとしたらそれは……。


「我が国では魔術師の移住を誘致する予定ですの! 」

『貧民街』に魔術師を誘致する事をコイフは諦めていない。

学校を見るに、堅牢な建物と沢山の草花、安心して魔術研究に励める環境があれば良いのではないかとコイフは楽観視しているし、今度研究生のクローブお兄様にも聞いてみようと思っている。

「みなさん是非遊びにいらしてね! 」

と、コイフはピノ、ミリー公爵令嬢、クロード王子、そして取り巻き達に笑いかける。

コイフは案外ちゃっかりしているのだった。


「私は絶対行くよ! なんなら長期休みに行くよ! 」

フィオナがハイハイ! と元気よく手を挙げた。

「フィーたんうれしいのよ! 」

コイフとフィオナはハイタッチした。


「ふむ、ならコイフ嬢とは優秀な魔法師の引き抜き競争になってしまうかもね」

クロード王子は顎に手をおいて言った。

「最近は特別優秀な学生が多く入学していると聞いているんだ、無用な争いにならないよう相談出来る事なら僕や専用の窓口に相談してほしい、出来る限り協力するよ」

「ありがとうございますクロード王子」とコイフはほほ笑む。


などとわいわい話しているうちに教室に到着した。




コイフはいつものようにフィオナと一緒に前の方を陣取って、三角帽子に刺したアミュレットを帽子コイフに付けて被りなおす。

椅子に兎人族に合うようクッションを敷くのもいつもの作業だ。

机の上にはわら半紙を括ったノートと木炭にカラフルな割き布を巻いただけのペン、それから魔法筆記用の小ぶりな白い羽のついたペンとインクを用意する。


「ねぇコイフ、コイフはかわいい文房具は使わないの?」

フィオナに言われてコイフはきょとんとする。

フィオナは塾でもらった世界堂の企業マークがついた万年筆と木炭を挟んで使う木枠をそのまま利用している。

かきとめる紙は売店で買った紐で括って製本されたノートを使用している。


かわいい文房具?コイフは教室を見回す。


教室にいる生徒は少ないが、コイフの様なプリミティブな、悪く言えば原始的な文具を使っている生徒は少ない、特に貴族は……。

コイフはフィオナに向き直る。

「もしかしてわたし、浮いてるのよ……? 」

コイフは目を見開く。

「そんな事はないいけど、貴族の人達は豪華な文房具使っているみたいだから……よし! 今度かわいい文具買いに行こう! 」

「行くのよ! 」

ふたりは握りこぶしを作って「「おーーー! 」」と言った。



カランカランと棟の鐘が鳴ればディートリヒ教員が入って来て、授業が始まる。


「おはよう諸君、今日から属性魔法を学んでいく」


ディートリヒ教員が指示棒を持って黒板を指すと、勝手に文字が浮かび上がってきた。


光 『治癒魔法』『浄化魔法』

闇 『精神魔法』『付呪』『空間操作』 

火 『気温変化』『物体変化』

水 『合成魔法』『混合魔法』

土 『結界魔法』『防御魔法』

風 『感知魔法』『通信魔法』

雷 『身体強化』『身体操作』


「専攻にもよるがこれらは全て3年間で学べる魔法だ、得意属性に合わせて先に学んでしまうも良しだが……、新しい魔法を習得したら必ず教員に見せること、素人の生兵法は大怪我の基だからな」

ディートリヒ教員が釘を刺す。


生徒が板書を映し終えたのを確認するとディートリヒ教員は指示棒で黒板を2回叩いて文字を消してしまう。

「さて諸君、以上を踏まえて『黒板に文字を書く』というこの魔法は何属性の魔法だと思う? 」


教室がしんと静まる。

コイフはこの空気を知っている、進学舎であごひげ先生に散々ディベートさせられたあの空気だ。

コイフは臆さず手を挙げた。

「はい、ディートリヒ先生」

「ふむ、コイフ生徒、どう思う? 」

「はい、先生の使われる板書の魔法は『印刷魔法』に似ていると思います」


コイフは立ち上がって両手をおしとやかに胸の前でクロスさせて答える。

兎人の腕はヒト族とは形が大きく違っている。『手』として使う部分は解剖学的には『指』の部分になる。同じ『胸に手を当てる』という仕草でもヒト族とは違い、『指先を下に向けて重ねる』という仕草になる。それを見てフィオナは(めちゃくちゃ可愛いな)と真顔で思った。


コイフは続けて答える。

「『印刷魔法』は本などの印刷に使われる魔法で、インクの色と紙の色を見分けて複写を作る魔法です、『印刷魔法』と同じだとすると色の差を見分ける『光魔法』と紙に移す『火魔法』を使っているはずです」

「ほう、だが私の魔法は黒板から消すことも出来る、『印刷魔法』のように低温で焼き付けるような魔法では消えないぞ? 」

「はい、ですから文字を映し出す『火魔法』の何かが黒板の方にかかっていて、先生の使われた魔法は『黒板に文字を書く』という思念を文章化する『闇魔法』の『付呪』……いいえ『付与魔法』ではないかと考えますわ」

「ふむ、座ってよろしい」

「はい、ありがとうございます」

「他の意見は? 」

ディートリヒ教員が見回す。


コイフは席について、次の発言者の反論をワクワクと待った。

しかし手が挙がらない。

コイフは首を傾げてディートリヒ教員を見つめて、フィオナを見つめて、また首を傾げた。

フィオナもつられて首を傾けたが、質問の答えはわかっていない。


ディートリヒ教員は「はぁ」とわざとらしく溜息をつき、面倒くさそうに指示棒でひとりの生徒を指した。


「アユリ・カスタネア生徒はどう思う」

「はいっ、わ、私ですか⁉ 」

聖女アユリは転びそうになりながら立ち上がる。

「えっと、コイフさ……王女の説明だと、あの、消える……黒板の文字が消える理由がわからないので、えっと、そ、掃除魔法も使っているのかな、と思いました……」

聖女アユリはしどろもどろにでも自分の意見を述べる。

顔がほんのり赤くって可愛らしい。

「ふむ、当然の疑問だ、いいだろう座りなさい」

言われてアユリはほっとして席に着く。


すると細く白魚の様な手が見えた。

「エレノア・ツゥグー生徒」

もうひとりの聖女が挙手していた。

「はいディートリヒ先生……、私は、文字が消える理由は治癒魔法ではないかと思いました、黒板を癒しているのかしら……」

「面白い視点だ、座ってよろしい」

「はい、ありがとうございます……」

エレノアの神秘的な美しさに何人かの学生はうっとり見つめていた。


そこまで聞いてクロード王子が手を挙げた。

「はい、ディートリヒ先生」

「クロード・メニード、わかったか? 」

「わかりました、コイフ王女の言う通り、黒板は魔道具です、黒板に『付与』されているのは印刷魔法と同じ、文字を焼き付ける『火魔法』、ですが焼き付けているのではなく温度を変化させ文字を浮かび上がらせているのでしょう、ですから文字を消すために冷やす『水魔法』も組み込まれているのだと思います」

「では私は何の魔法を使っている? 」

「思考を文章化して書きだす……『闇魔法』の『精神魔法』と『付与魔法』ではないでしょうか」

「よろしい、座り給え」

「はい」

クロード王子が座った。


「まったくこれが首位教室とは情けなくなる、この程度のディベートも出来ないとは、コイフ生徒、クロード生徒、素晴らしかった、正解だ」

ディートリヒ教員は指示棒で黒板を叩く。

「私が使っている魔法は『闇魔法』の『精神魔法』と『付与魔法』、黒板に仕組まれている魔法は『光魔法』と『火魔法』の混合魔法である『印刷魔法』と、『水魔法』の『冷却』だ」

黒板にディートリヒ教員の言った魔法が浮き上がる。

「魔法と一言で言っても多様な属性と効果が複雑に組み合わされて発動している、この配分を決めることを『術式を組む』という」

もう一度指示棒が黒板を叩くと、続いて板書がされる。


「この話で言いたかったことは、『精神魔法』と言っても危ない物ばかりではないということ、一つの属性ですべてが決まることはないということ、それと、こういった新しい『術式を組む』のが研究生や魔道具職人だという事だ、以上を踏まえて将来を決めてほしい」


コイフはおおー! と素直に感動する、オリエンテーションが無くなった分授業でこのような学びが得られるのは嬉しいことだ。

反対にフィオナはげっそりした。

生前から意見を競わせるディベートなんて大嫌いだったし、授業で積極的に発言するのも恥ずかしいから嫌だ。

それに板書なんて「文字浮き出ろー」と魔法を使えばいいだけだ。

この形態の授業は回りくどくてフィオナには苦手な分野だった。

しかし、回りくどくとも勉強は勉強だ。

フィオナは答えを聞いて丸暗記する事にした。


「意見を競わせるのは大切な学びだ、それは意見を競わせるているだけで、本人同士が競っているわけではないからだ、負けも間違いもない、正解を出すためのディベートだ、覚えておけ」

言ってディートリヒ教員は教科書をめくる。

「貴族は間違える事が出来ないだろう、不用意に発言することも良くない、だがこの魔法学校では違う、それを肝に銘じておけ、黙って座っているだけでは座学は務まらんぞ」

と言って愉快そうに笑った。


その後は教科書の読み合わせを行って授業は平和に終わった。




昼、4人そろった食堂の個室でミリー公爵令嬢が言う。

「コイフさんはすごい度胸がありますよね……」

「……そうなの? 」

コイフは首を傾けた。

「ほんと、堂々としてるというか、真面目だなって思う」

フィオナが言う。

「えーーーミリーサマ、ですわって言わない~! それって素~? 」

ピノがスープを掬っていたスプーンでミリーを指して言う。

食事は食堂からトレーで運んで来たものだ。

「そうですけど…ゆーかピノさんの話ですよ! 」

「あ、そうなのよ! 前世の記憶があるって本当なのよ? 」

「ホントホントぉ~~~」と言ってピノがスープを飲む。


今日のメニューはクリームスープにタコのマリネサラダ、黄金眼鯛のムニエル、カササネの上カルビ炭火焼、レモンパイ、ベリーのシロップ漬けだ。

フィオナは大好物のレモンパイを二切れ貰ってご機嫌だ。

「それで、ピノの前世はどんなだったの? 」

フィオナが聞く。

「スケベコンテンツ大好きの喪女」

「「「は??? 」」」

ミリー公爵令嬢、コイフ、フィオナの3人が固まった。

「エッチなこと大好きぃなのにぃ、真面目に生きすぎちゃってぇ後悔ばっかしてぇ死んだ~」

ピノがスープを啜る。


「家族がすっごくお堅くって、隠れてエロゲとかやっててぇ、結婚もお見合いでぇ、相手もまぁ良いヒトで夫婦にはなれたんだけどぉ、夜の方が下手でぇ、あたしぃも物足りなくて、したら浮気されてぇ、離婚してぇ、あーあ気楽でいいなぁそんな簡単に他の人とセックスしちゃうんだぁって思ってぇ、アラサーでぇ、そしたら事故で死んだぁ~~ウケるっしょ? 」

「ウケない‼‼‼ 重い‼‼‼ 」

フィオナが叫んだ。

コイフは耳を後ろに畳み顔を伏せてしまった。

ミリー公爵令嬢は絶句して口を手で覆ってしまっている。


ピノは食べるのをやめて話した。

「あたしぃもぉ、前世は悲劇のヒロイン? 世界で一番不幸? って思ってたからぁ、あの白いハゲのカミサマ? にほとんど自棄で頼んだんだよねぇ『来世は気楽にセックスしまくりたい! エッロい女として生きたい』って」

「ピノもあの白ハゲ神に会ったなの? 」

「会ったよ~『間違えて殺しちゃった~ごめんなんだけど☆ ビッチ希望~? おけまる~出会い山盛りにしとくからハント頑張ってね、てか他人の意識は操れないから、そこはめちゃファイト~』って言われて、笑ったんだよねぇ~、お堅く生きてても好き放題生きてもカミサマってこんな感じなんだ~って、吹っ切れたぁっていうかぁ、後はぁ、めちゃ自分好みのエロい体にお願いしますって言って生まれてきたぁ~」

「ええ~まじかぁ~……」

フィオナは倫理感の崩壊にドン引きしている。

ミリー公爵令嬢もかける言葉を探している。

コイフだけが「ふむふむなのよ! 」と言った。

「みんな無言なのなんでぇ? あたしぃ自由に生きてるよぉ、すっごい楽しいしぃ~! ほら、このスレンダーな腰とかめちゃドエロっしょ~⁉ 」

ピノは体のラインを強調させるポーズを見せつけた。



「じゃあ全員事故で死んだのよ? 」

とコイフが言った。

「あっ! 本当だ! 」

フィオナが言う。

「フィオナさん達も事故だったんですか? 」

「そうなのよ、わたしたち前世で親友だったのよ、ふたりで外出したら事故にあって、11年かけて再会したのよ! 」

コイフが端折ってコイフとフィオナの転生のあらましを話した。

フィオナも自分の身分を隠してる事まで話す気はない。


「それはそれですごいですね……前世親友の知り合いで、11年ぶりに再会……あれ、コイフさん人間だったんですか? 」

ミリー公爵令嬢が言った。

「なのよ~可愛いうさぎさんになりたいってお願いしたのよ……あふっ」

コイフはタコのマリネを幸せそうに頬張った。


「なんか……変だよなぁ」

フィオナがスープに手を付けながら言う。

「日本で事故死した人はみーんなこの国に転生してきてるのかしら? 」

コイフも小さい口で一生懸命スープを飲む。

「私、事故死の半分は高齢者って聞いたことありますよ」

ミリー公爵令嬢が言う

「たしか二千と何百人が事故死者でぇそのうち半分が高齢者ぁ」

ピノが諳んじる。

「みんなは高齢者だったなの? 」

コイフの言葉にミリー公爵令嬢とピノは首を横に振る。

「それなら高齢者の転生者と会う方が確立高いってことなのに私たちはそうじゃない……あの白ハゲ、ほんとに間違って殺してるのか? 狙ってやってるんじゃないのか? 」

フィオナがプンプン怒りながらカササネの上カルビ(タレ)にかぶりついた。


「……」

誰も否定できなかった。

「もしそうなら……、なんだかすっごく怖いのよ……! 」

コイフは自分の身を抱いて恐怖した。

「あ……、ごめん、怖い事言って……」

フィオナはシュンとなった。


4人の食事会はモヤモヤする結果に終わったが、重要なことがわかった。

白ハゲ神はただの好意で異世界に人を転生させているわけでは無いという事だ。

気に入らないな、とフィオナは思った。





「フィーたん明日は空いてるなのよ? 」

教室で教科書を鞄に詰めながらコイフがフィオナの声をかけた。

「空いてるよ? どうしたの? 」

明日は魔法学校の休日だ。


コイフは満面の笑みで「わたしに付き合って欲しいなのよ」と言った。

あまりにも楽しそうに笑うのでフィオナもなんだか楽しくなってしまう。

「いいよー! せっかくのお休みだけどコイフの為に使っちゃう! 」

「うれしいのよ! これで百人力なのよ! 」

コイフは嬉しそうに小さく跳ねた。

「寮門のところで待ち合わせなのよ! 動きやすくって汚れても良い恰好で、学生証も持ってきて欲しいのよ」

「学生証? オッケーわかった」

と話しながらこの日は寮に帰った。




翌朝、早くから、ふたりは門に集合した。黄色麻のワンピース姿に普段使いの帽子コイフを被ったコイフと、麻のシャツに綿パンツのフィオナが合流した。

「この格好、再会した時を思い出すねぇ」

「なのよー」

違うのは何故かコイフが行李を背負っていることだ。

「その大きな背負い鞄? 重くないの? 」

「平気なのよ! 薬師たるものこれで音を上げてなんていられないのよ」

コイフは自信満々に鼻息を荒くした。

「うふふ、お鼻上下して可愛いー」

フィオナはコイフのお鼻をつんつんした。

「さぁ、時間がおしいなの、いくのよー」

ふたりは手を繋いで浮き上がり、コイフの指さす先に向かって飛んで行った。




王都を囲む大きな城壁、そこから出る城門はあらゆる車種の車や人で混雑していた。


「ここって王都から外に出る門じゃん」

「ふっふっふ、フィーたん、今はとっても暖かい季節なのよ! 」

「そうだね、春だね」

「美味しい山菜の季節なのよー! 」

「山菜! 」

山菜はフィオナの前世からの好物だ。実家にいた時もたくさん食べさせてもらっていた。

「ってことは山菜取り⁉ 」

「正解なのよ! 薬局の女将さんのおつかいで薬草を買いに行くときに聞いたのよ、ここからすこし歩いた山が薬草や山菜の宝庫らしいのよ」

「うわー! 楽しそう! あちこちに春の植物が咲いてて気になってたんだよねー」

「なのよ、道端に咲くタンポポが毎日わたしを誘惑してたのよ……だから今日沢山採取して思う存分食べるのよー! 」

「やったー! 沢山とるぞー! 」

コイフとフィオナのテンションが上がっていく。




ふたりは門の外に出るための行列に並んだ。

馬糞くさいのでフィオナが防臭魔法をかける。

門の外にはフィオナが王都に来たばかりの時に見た検問所や、馬車の事務所、車を引く動物を休ませておく大きな厩、上下左右大きく伸びた道路が続いている。特に馬糞臭い場所であった。



すぐに順番がきて門番のおじさんに身分証として学生証を提示する。

「魔法学校の学生さんだね、どこに行くんだい? 」

「山に山菜を取りに行くのよ」

「子供ふたりでかい? 冒険者ってわけでもないんだろう? それはちょっと……んん??? 」

門番のおじさんは「ちょっと待ってね」と言ってフィオナとコイフを門に併設されている塔の中に案内した。



『待合室』と書かれた部屋で、フィオナとコイフはお茶を出されて待たされた。

他にも荷車の点検や、迎えの馬車を待っている人達がいて、ふたりは何がなんだかさっぱりのまま、出されたぬるいお茶を飲んで20分程ぼーっと待った。



「……なんか時間かかってない? 」

「なのよ……? 早く山に行きたいのに! 」

コイフとフィオナは訝しんだが、かといって待つしかなかった。



しばらくすると馬の嘶きと、馬車が轍を踏んでそこそこの速度で向かって来る音がした。

それが近くに止まったのが音でわかった。


そして突然待合室の扉が開かれた。

「コイフー! 駄目じゃないかー! 」

そこにいたのは白いシャツと白い帽子にグレーとブルーのベスト、グレーのパンツを穿いたロップ耳でフォーンの兎人族うさひとぞく、コイフの兄で外交官見習いのヴィタお兄様だった。

「ヴィタお兄様? どうなされましたの? 」

コイフはびっくりして耳をぴーんと立てながら言う。


(大使館にいるはずのヴィタお兄様が何故こんな所に来たのかしら? )

と思いコイフはフィオナと顔を見合わせる。

「ここの門番から通信魔法が来たんだよ、『東兎人国ひがしうさひとくに』って名前の女の子が門から出ようとしているって! 」

東兎人国が苗字なのは東兎人国の貴族だけだ。

「そうなのよ! 山菜採りに行くのよ! 」

「駄目だよ、コイフは魔法が使えるかもしれないけど、冒険者ギルドに登録しているわけでもない、お姫様なんだから! 門の外なんて危ない所には出てはいけません! 」


11歳の成人兎人女性が15歳の社会人のお兄様に叱られている。

それだけ見れば愛らしいもふもふうさぎさん空間だが、ヴィタお兄様は本当に焦っているらしく、毛を逆立てて、出来るだけ穏やかに伝えようと頑張っている。


「お久しぶりです、山って危ないんですか? 」

フィオナが会釈しながら聞く。

「やぁフィオナさんも来ていたんだね、うちの妹が申し訳ない……危なくない山なんて、ウチの王族の山くらいだよ、普通の山や門の外には凶暴な魔物だって出るかもしれない」

ヴィタお兄様が言うとコイフが反論する。

「ヴィタお兄様、わたしちゃんと聞いたのよ、山に入って薬草を採取してくるのは10代の駆け出しの冒険者で、わたしたちくらいの年齢が多いって! 」

コイフはヴィタお兄様の手を取って更に切々と訴えかける。


「山にはたんぽぽや野草、山菜も沢山生えていて山の麓でも売っているって、わたし学校でお医者様に兎人の食事をしないと不正咬合になるって言われてしまったのよ、だから山菜が食べたいのよ! たんぽぽだって、花壇の物を見るだけなんてつらすぎるのよ……山に行きたいの、お願いヴィタお兄様……! 」

切々と語りすぎて、コイフは目に涙を浮かべている。

(それ山菜採りに行く言い訳としては弱くないか? )と横で聞いてるフィオナは心配した。


ヴィタお兄様は「うっ」と喉に何かつっかえた様な声を漏らして考え込んでしまった。


「お兄さん、わたし強いですよ! コイフのこと守ります! 」

フィオナはガッツポーズして見せた。

フィオナは魔物を退治したことが無い。多分いけるという自信のみである。


「山の山菜を思うまま食べたいんだねコイフ……わかるよ兄妹だからね」

「ヴィタお兄様……」

「わかったよ! 狼車を用意しよう、僕も付いて行くよ、危ないことがあったらすぐに逃げるからね? 」

「お兄様! うれしいのよ! ありがとうございますなのよ! 」

ヴィタお兄様は年下の妹のおねだり攻撃に負けてしまった。



待合室に置いてある箱をなにやら操作して、コップ型の筒に声をかけている。

「はい、今狼車を呼んだからね、すぐに来るから準備して」

「ろーしゃってなんですか? 」

コイフの涙を拭いながらフィオナが聞く。

「狼の乗り物だよ、とても早いんだ、ああ、僕も付いてきてもらったダニエルに声をかけなきゃ」

「ダニエルが来ているなの? 」

コイフが大使館にいた間、身辺警備をしてくれた騎士、ことお守りのダニエルだ。


ヴィタお兄様が出て行ってすぐに赤毛のトリアンタの騎士ダニエルが長い耳を揺らしながら入って来た。

「コイフ様、お久しぶりです、今回の件は肝が冷えました」

「……ごめんなさいダニエル、ヴィタお兄様」

「大使館にはちゃんと連絡しておいたよ、王都で硬い干し草が買える店も教えてあげるから、これっきりにするんだよ、今後は外出の申請をきちんとだして、護衛も十分連れていくんだよ! 」

ヴィタお兄様は顔を少し近づけてしっかり言いつけた。

「わかりましたわお兄様! 」

コイフは可愛らしく淑女の礼をしてほほ笑んだ。

フィオナは(え、申請してなかったの? )とここで事態を始めて理解した。

「うちの妹が可愛いぃ‼ 」

とコイフの笑顔を見たヴィタお兄様は悶絶した。



コイフ達は話しながら待合室のある棟を出ると、大きな狼が4頭こちらに向かってくるのが見えた。

『ぶおぉぉ』と大きな音が鳴る。

すると狼達はコイフ達がいる目の前で立ち止まった。

ハフハフと口で息をしている。


「まぁ! 大きな狼さん! 」

コイフは生前犬も大好きだった、故郷の兎人国では馬車ではなく犬車が主流であることも相まってとても喜んだ。


大型車くらいありそうな大きな狼だ。

よく見ると鞍が狼の背中にくくりつけてある。

先頭を進んでいた狼から人が下りてきてコイフ達にお辞儀をした。


「東兎人国ヴィタ様ご一行でよろしいでしょうか? 」

「ああ、僕達がそうだ、よろしくお願いするよ」

ヴィタお兄様が答える。


「初めまして、私は狼車を操縦するテイマーのミルと申します! 本日はよろしくお願い致します、では! さっそくご乗車のご案内をさせていただきます! 」

ミルははきはきとした好印象の青年だった。


「僕と彼は自分で乗れるから、妹たちを手伝ってやってくれ」

とヴィタお兄様が言って、鞍からぶら下がっている足場をトトトンッと軽く跳ねてあっという間に狼の背に乗ってしまった。

護衛のダニエルも同じようにして飛び乗る。


「はぇー兎人のジャンプ力って凄いんだね」

フィオナが感歎の声をあげる。 

それを見たコイフが「わたしも出来そうなの! 見ててなのフィーたん! 」と言って駆け出す。

コイフは勢いよくジャンプして3段くらい上の足場に着地し、そのまま勢いで更に数段上の足場に飛び乗ろうとする。

が、着地を失敗してコイフは足を滑らした。

「なのよ! 」


かぷっ


落下するコイフを別の狼が素早く口でキャッチし、くわえたまま鞍にコイフを置いてくれた。


「あ、ありがとうなの、狼さん」

コイフはびっくりした。そして狼の涎が少しついた。

「コイフーびっくりしたーーー‼‼ やめてよねーーもう! 」

フィオナは真っ青になって叫んだ。

「ごめーんなのー! 」


フィオナは大人しくテイマーのミルの手をとって狼の背に乗った。

「おおぅ……でっかい狼だなぁ」

狼の背からの光景は迫力があった。

狼がハッハと呼吸する振動が伝わってくる。

フィオナはうっかり落下しないように、鞍についてるシートベルトをしっかりつけた。

「足場邪魔になっちゃうのでしまっておきますねー」

「これしまえるんだ」

足場はたたまれて鞍の横に引っ掛けられた。


乗客を乗せ終わり、テイマーのミルは騎士のダニエルが乗っている先頭の狼に戻った。

「では出発致します! 」

テイマーのミルは笛を口にくわえ鳴らす。

ぶぉぉと大きな音が鳴ると狼はテイマーのミルを先頭に歩き出し、門前の車用の行列へ並んだ。


「ああ、連絡してよかった、いってらっしゃいお嬢さん達」

門番のおじさんが門を空けたくれた。

「行ってきますなのよ! ありがとう門番さん! 」

コイフが手を振って、4台の狼車は出発した。




山道までの道は舗装はされていないが整備された歩きやすい道だった。

人の往来も少なくない。

それこそ薬草採取帰りの駆け出し冒険者に、荷を乗せた商人、野菜をたっぷり積んだ馬車、そういった者達とコイフ達狼車はすれ違った。


うららかな陽気である。

びゅんびゅん駆ける狼車の背は風が心地いい。

「気持ちいいねコイフ! 」

「なのよー! 早いのよー! 爽快なのよー! 」


狼車は足場の悪い整備されてない道も素早く駆けていく。

高低のある場所も飛び越えて進んでいくのでジェットコースターのような乗り心地だ。


「これなら馬車より早くつきそう、あとでヴィタお兄さんにお礼しないとだ」

フィオナは感謝した。

当のヴィタお兄様と騎士のダニエルは、車酔いをしていたのだった……。




一時間もせずに目的の山についた。

「到着でございます! ご乗車ありがとうございました! 」

テイマーのミルがピシッと礼の姿勢をとり、乗客をおろした狼たちは綺麗にお座りをした。

「ああ……どうもありがとう……帰りは昼過ぎになりそうです……」

ぐったりしながらヴィタお兄様は礼を言い待機代を払った。


「では昼過ぎにこちらの登山道入り口にてお待ちしております、さぁお前たち! しゅっぱーつ! ひゃっほぉ~い‼‼ 」

行きよりも凄い速さで狼車は走り去っていった。

テイマーのミルはスピード狂だった。




コイフはフィオナの手を取って山道を登っていく。

「ほら見てフィーたん! トウ立ちしたフキノトウがあるわ! たんぽぽもこんなにたくさん! 」

「育ったフキノトウって食べられるの? 」

「茎が一番おいしい季節なのよ! 」

「そうなんだ! 沢山とるぞー」


コイフは山道から少し逸れると、行李から出したハサミでちょんちょんとフキノトウを取っていく。

フィオナは辺りを見回した。

「魔物は……いないみたいだね」


ヴィタお兄様と騎士のダニエルがようやく追いついた。

「コイフ、少し登ると開けた場所があるからそこに行こう」

「わかりましたわお兄様! 」

コイフはわんさか取ったフキノトウを行李に入れて、フィオナの手を握ると、登山ルートに戻って来た。


「あ、タラの芽がある」

「本当だわヴィタお兄様、少し摘んできてもよろしい? 」

「気を付けて」

コイフとフィオナは登山ルートから駆け足で離れるとタラの木からもぎりもぎりとタラの芽を取っていく。

「とげとげ気をつけようね」

食べれるものを集めるフィオナは幸せそうだ。



「菜の花がきれいですよコイフ王女」

「本当ねダニエル、ちょっと摘んで来るわ」

菜の花畑に突っ込み花芽をちょっきんちょっきん収穫する。

「私菜の花のお浸し好きー! 」

「そうだったのよ、懐かしいのよ」

菜の花の黄色い花粉をつけながらコイフとフィオナは菜の花の蕾を収穫した。




ヴィタお兄様の提案した、開けた場所に着くまでにそれなりの量を収穫する事ができた。

開けた場所は登山道の休憩所だった、ヴィタお兄様は丸太を椅子にして座った。


「念のため、少し登山道から離れた場所を探しましょう」

「念のためって……もしかして」

「もしかしなくてもそうなのよ」

ここでトイレ休憩する冒険者もいるだろう。女性冒険者なら奥の茂みに隠れるだろう。

「うん……別の場所に行こう! 」

コイフとフィオナは少し休憩所から離れた茂みを探索し始めた。




「つくしがたくさんあるのよ! はっ! 奥にわらびもあるのよ! フィーたん行きましょ! 」

フィオナの手を引いてコイフはぴょんぴょんと跳ねて行く。

「コイフ待ってよ! 魔物がいるかも」

フィオナは辺りを警戒する。

防御魔法を展開して気休め程度に結界を張る。

「フィーたんはなんでも出来るのね、すごいのよ」

「これでいいかなぁ、さ、山菜取ろう! 」

うわーい! と二人駆けて行く。

「茎が太くって産毛がちくちくしてて緑色のやつがおいしーなのよ! 」

「わかった! こんな感じかな? コイフ薬草取りはいいの? 頼まれたりしてない? 」

「頼まれてないなの! 余裕があったらとるのよ、フィーたんこっちにこごみもあるなのよ」

「わ、頭がくるくるしているやつだ~王道! ところでコイフは何を取ってるの? 」

コイフが見慣れない植物を大量に採っているのでフィオナは聞いた。

「兎人の食用の葉っぱを取ってるのよ! 新芽は柔らかくておいし~なのよ! 」

「コイフ本音が出ているよ」

ヴィタお兄様が遠くから笑った。


楽しい楽しい山菜取りだ、ふたりとも夢中になって山菜をとる。

「おーい、コイフ、フィオナさん、もうお昼だよ」

ヴィタお兄様が休憩所から顔を出して声をかけてくれた。




コイフとフィオナは休憩所に戻る。

「お腹減ったぁ」とフィオナが言う。

「お弁当を作って来たんだけど、4人分は無いのよ……」

コイフが行李の一番奥からお弁当箱を取り出す。

「コイフは本当に自炊をしているんだね、経費申請で自炊代と書かれているのを見て驚いたよ」


コイフがぱかりと弁当箱を開けると中には硬いパンで作られたバケットサンド、紙で巻かれたタコスが入っていた。

「とうもろこし粉が売っていたから作ってみたなのよ~! 」

コイフがタコスを取り出してドヤっと胸を反らせた。

「やった、いただいきます! 」

フィオナがトマトソースとひき肉のタコスを手に取る。

コイフがひと巻きずつヴィタお兄様と騎士のダニエルに渡す。

「良いのかいコイフ? 」

「宜しいのですかコイフ様」

「ええ、みんなで食べたら美味しいのよ! 少し少ないから、帰ったらみんなで何か食べましょう」

コイフもタコスにかぶりつく。

「スパイスが不足していたから薬草で代用したけど問題なく美味しいのよ」

「薬膳? 」

「そうなるのよ」

「私薬膳好きだよ」

フィオナは嬉しそうに言ってタコスを味わう。

「良かったのよ」

コイフとフィオナはにこにこと話しているが、ヴィタお兄様と騎士のダニエルは少し咽た。

「これ、薬草が入っているのか……」

「驚きました、苦くないですね」

コイフがにこにこしたままふたりに言う。

「薬草は食材としても食べられる物がほとんどなの! もちろん苦くって薬草としてしか使われない物もあるけどこれは一般的なスパイスの範疇ですわ」

「なんの草か言わない所が怖いなぁ」

ヴィタお兄様の言葉に、全部食べ終えてしまっていたフィオナが咽た。

それを見て、いたずらっ子の顔をしたコイフがクスクスと笑った。

「フィーたん大丈夫なのよ、わたしが保証するわ」

「食べ物でいたずらはやめてくださーい」

「はーいなのよ」

安全が保障されたところでバケットサンドはコイフとフィオナが食べた。



「さぁ、そろそろ下山しないと」

ヴィタお兄様と騎士のダニエルがおやつ時だろう日の傾き具合を見て言う。

「はーい」

「はいなのよ」

コイフとフィオナは素直に従った。

たっぷり野草の入った行李を担いで、コイフとフィオナ、ヴィタお兄様、騎士のダニエルは来た道を戻る。




登山道入り口には約束通り狼車が待っていた。

「お疲れさまでした、お戻りでございますか?」

テイマーのミルが狼達を撫でながら言う。

「はい、帰りもよろしくお願いします」

ヴィタお兄様が言う。

コイフはヒト族の男性よりも大きい狼に夢中だ。

「テイマーさん、狼さんを撫でても良いのよ? 」

「ええ、どうぞ! お客様はテイマーに興味がおありですか? 」

「とっても興味深々なのよ! 」

ミルが狼を撫でさせてくれながら言う。

「王都はテイマーが一人前になれる街でございます! テイマーズギルドで街のテイマーの仕事見学ツアーもやっている程でございますよ」

「テイマーズギルド! 」

フィオナが目をキラキラさせて言う。


冒険者にテイマーにギルド!

転生あるあるの王道中の王道だ!

コイフもワクワクする。

「今度是非そのツアーにも行きたいわ! 」

「私も行きたい! 」

コイフとフィオナは目を輝かせる。

「まだ日が高いのだし、帰ってから行けばいいよ、さぁ、良い子だから王都に帰ろうね」

ヴィタお兄様はそう言ってさっさと狼車に乗ってしまう。

コイフも真似て飛び乗り、今度は成功した。

「おおー! やったねコイフ! 」

「こんなもんなのよ! 」

コイフはドヤった。

フィオナは大人しく乗せてもらった。


「では! 出発いたします! 」

狼車は4人を乗せて風を切って走り出す。

門に着くのはあっという間だった。




「お嬢さん達、おかえりなさい」

門番さんが門を開けてくれる。

人や馬車が出入りする為の門は鉄柵で出来ていて、回転扉になっている。

受付の様なスぺースがあってそこで出入国の審査をする、コイフとフィオナは再び魔法学校の学生証を見せた。

「お兄さんが来てくれてよかったですねぇ、山菜は採れましたか? 」

コイフはお日様の笑顔で言う。

「えぇ、たっくさん採れました! 門番さんありがとうございますなのよ! 」

ヴィタお兄様が狼車の代金を支払って、テイマーのミルは「またのご利用お待ちしております! 」と言って颯爽と去っていった。

ヴィタお兄様は帰りも車酔いした。


「お昼も少なかったし、何か甘味を食べて帰ろうか」

とのヴィタお兄様の提案にコイフとフィオナは東兎人国ひがしうさひとくに大使館の馬車に乗り込んだ。

「狭い馬車ですまないね」とヴィタお兄様が言う。騎士のダニエルは御者席だ。

「いえ、全然! 大丈夫です! 」

フィオナはコイフとヴィタに挟まれ、ふわふわのもっふもふうさぎさん空間を満喫していた。




馬車が停まったのは、大使館から少し離れた『老舗』とでも言うような佇まいの喫茶店だった。

「レトロなのよ~! 」

「クラシカルですなぁ」

コイフとフィオナは店の外観を見ながら言った。

外観の赤レンガは風雨に晒されて茶け、木製の看板は磨かれて味がでている。

白いモルタルの飾り柱で黒の瓦屋根が支えられて、窓の手前には低木が植えられている。

入口に泥落としの赤いマットが敷かれていて、まるで前世の喫茶店をみている様な錯覚を起こした。


「洗練されているだろう? 僕の好きな店なんだ」

扉を開けばカランコロンとドアベルが鳴った。

騎士のダニエルは御者席でお留守番だ。


「いらっしゃいませ」と店主らしき老人が出てくる。

「店主、プリンアラモードを3つ、それと紅茶を」

というとヴィタお兄様はさっと空いてる席に座ってしまう。

「注文形式から違うのよ……! 」

「これが異世界流! 」

コイフとフィオナはこそこそ耳打ちをし合った。


先にティーポッドが出てきて、コイフがお茶を注ぐ。

本当はフィオナがやろうと思っていたが作法など何もわからないので任せてしまった。

(コイフは嫌がるかもしれないけど、これはどこかで一回習わないといけないなぁ……)と、フィオナは思った。

フィオナはコイフを甘やかしたいのだ。



それから少し待って出てきたのはガラスの器に乗った涼しげなプリンとクリーム、果物たちだった。

中でも目を引いたのは、涼しげなガラスの器だ。

前世では珍しくもないが、今世ではとんと見なかった物だから希少品なのだろう。

「きれいなのよ…! 」

ヴィタお兄様が笑う。

「このガラスの器は東兎人国で作られたんだよ」

「そうなんですか? 」

首を傾げるフィオナにヴィタお兄様は気を悪くするでもなく続けた。

「ガラス工芸は東兎人国の主要な産業の一つでね、ここ数年で輸出が伸びているんだよ、ポコ王子と、そこのコイフ王女のおかげでね」

「ポコお兄様が! 」

ポコお兄様は成人式で輸出を増やしたい旨の発表を行っていた。

「コイフもポコも海外輸出増量の提案をしたのだろう? そこにガラス職人連盟も乗ってきて、自国のガラス文化を発信したいと言い出してね、まずは器物から輸出してみたんだ」

「まぁ! 」

コイフは大層驚いた。あの緊張した成人式での発表が、成果として今目の前にあるのだから。

「とってもうれしいのよ……」

「わかんないけど、よかったねコイフ! 」

フィオナが目をキラキラ光らせているコイフに言う。

「ヴィタお兄様、このお店に連れてきてくれてありがとうございますなのよ」

ヴィタお兄様はにっこり微笑んだ。

「それにこのプリンというのはとっても美味しいお菓子なんだ! さぁ、食べよう」

ヴィタお兄様がスプーンを手に取った。

コイフとフィオナもつられてスプーンを手に取って、プリンアラモードを食べ始める。

(喫茶店のプリンだ! 少し固めで好み! )フィオナはニコニコしながらプリンを掬う。

「果物が甘ーいのよー! 」コイフはクリームと果物に夢中になる。

そんな妹たちをニコニコ見つめていたヴィタお兄様もまた、笑顔でプリンアラモードを食べ始めた。


次の更新は5月30日です

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