②入学準備ショッピング
ふわふわうさぎさん天国
②入学準備ショッピング
翌日、またも朝からコイフはフィオナの下宿に窓からやってきた。
コイフは昨日のワンピースを今日も着ている。
朝ごはんはラウンジから取り寄せてもらってダイニングルームで一緒に食べた。
食後にコイフはデザートとして果物の残りと冷蔵庫に入っていたボトル入りの水を飲んでいる。
「そだコイフ、今日は予定大丈夫? 私の制服を選ぶのに付き合ってほしいんだけど」
「いいなのよ、今日は一日空いてるのよー」
「やった、決まりね」
フィオナは駆け足で書斎から制服のカタログを持ってくる。
コイフとフィオナはダイニングチェアに並んで座り、制服のカタログを開いた。
制服はコイフが着ていた三角帽子にローブの王道のものから、一般的なジャケットとパンツの制服、マント、コートといろいろある。
スカートもズボンも男女決まりはないようだ。
どれも共通して王都魔法学校のカラーであるダークグレーの布を使い、慎ましやかに銀の刺繍で学校の紋章が縫われていた。
規則としては、制服の上着となるものをきちんと身に着けていればインナーや靴下小物など常識の範囲で自由だと書いてある。
「これから一年以上着るんだし、可愛くコーデしたい! 」
フィオナはうきうきとして言った。
「フィーたん、制服はいいけど服はどうするなの? 」
「可愛い服着たい! でも手間がかからないやつ! 」
「じゃあお店を見て回るのはどうかしら? 」
「うう~ん、試着は苦手……」
「相変わらずなのよ」
紙に万年筆であれこれと制服コーデのイメージ画をコイフとフィオナは描き連ねた。
「フィーたん上着はどれが好きなの?」
「……この中なら、これか、これかなぁ」
フィオナはイラストに丸を付けていく。
「そしたらこの帽子は似合わないのよ」
とコイフはバツをつける。
「シルクハットって男性用? 」
「女性でもいいらしいけど、フィーたん被りたいの? 」
「ちょっと憧れるけど、手入れが大変かな? もっとお手軽なのだと、これとかどう? 」
フィオナがイラストの横にクエッションマークを書く。
「いいじゃない! きっとかわいいわ! 」
コイフは大賛成して、椅子から跳ね下りた。
フィオナが選んだのはマント付きのコートと、帽子はモンティベレー帽だ。
夏用、冬用の制服を注文書に書きこむ。
フィオナはおしゃれは嫌いではないが、それにかける手間がそんなに好きではないので毎日自分で服を用意しなくて済むようデフォルトのブレザーを上下数着注文する事にした。
下はスカートも憧れたが、空を飛ぶのでショートパンツにした。
「書き終わった、後はこの注文書を仕立て屋さんに持ってけばいいみたい」
「私が制服を頼んだお店紹介するなのよ? 」
「え、めっちゃ高いお店じゃあないの? 」
「財布から金貨出す人なら余裕なのよ」
「そう? じゃあそこにしよう」
コイフが勢いよくクルクルと回った。
「じゃあ今日はショッピングにいくなのよ! 」
コイフは渋るフィオナの尻を叩いて外着に着替えさせた。
「服はちゃんとサイズを測って買った方がいいなの! 観念するなのよフィーたん」
「ううう仕方ない……」
フィオナはブラウスとデニムワンピースとパンツを着て、リュックに財布を突っ込んだ。
準備を終えてコイフはフィオナの腕を引っ張ってまた窓から飛び出した。
引っ張られてフィオナも空を舞う。
プロムナード1番通り。
派手に飾られた門をくぐってフィオナはコイフに案内された仕立て屋さんの前に来ていた。
「こんにちは」
コイフが普通に店内へ入っていくものだから、フィオナも内心びくびくしながら仕立て屋の敷居を跨いだ。
「これは東兎人国大使館の王女様、本日はどうなさいました? 」
すぐコイフに気付いた店員が伺いに来る。
「友人に制服を作っていただきたいのよ」
「ご紹介ですか、……ですがうちは平民向けの店では……」
店員はフィオナの服装を見て恐縮そうに小声で言った。
コイフはニヤリと笑って言う。
「彼女はフィオナ、ポケットからおこづかいの金貨を出すの」
「こんくらい持ってきてます」
フィオナは財布から金貨を鷲掴み取り出した。
店員は目を見開き手のひらを反す。
「失礼いたしました、フィオナ様! どうぞこちらへ! まずは採寸いたしましょう」
店員に連れられコイフとフィオナはフィッティングルームに向かった。
フィッティングルームは広くて、見本の制服やドレスなど豪華な衣類が展示されており、照明もキラキラして高級感がある。
フィオナは少し気おくれした。
店員はその中から魔法学校の制服を並べてある一角に案内してくれた。
「どの形になさいますか? 」
と店員に尋ねられ、フィオナは注文書を手渡した。
「なるほど、では試着しましょう」
注文書を確認した店員はマント付きのコートとモンティベレー帽を持ってきた。
フィオナはそれを受け取り順に袖を通す。
「着てみたけど、どうかな……? 」
フィオナが見本を試着した瞬間コイフが叫んだ。
「かわいいのよ! 」
「そ、そう? 良かった私もこれ気に入ったよ」
照れながらもフィオナは姿見の前でポーズを取って自分の姿を確認した。
「とてもよくお似合いです! 」
店員も頷いた。
そのままの流れで採寸を済ませ、フィオナは制服を寮部屋へ届くよう手配してもらった。
疲れてくたくたになりながらフィオナは支払いをする。
それを見てコイフは悪戯っ子の様にクスクス笑った。
(フィーたん昔もこんな風にお店で消耗してたのよ)とコイフは思った。
「ご利用ありがとうございました! 」
店員から見送られコイフとフィオナは店から出た。
「あーめっちゃ気疲れしたー! でも終わって良かったよ」
肩と腕のストレッチをしながらフィオナが言う。
「お疲れ様フィーたん、ちょっと休憩しましょうか、その後フィーたんに似合うブラウスを買いに行きましょう、真っ白なやつ、それにタイも! きっと似合うのよ! 」
コイフが楽しそうに夢想して跳ねる。
「コーディネートしてくれるの? やった! よろしくおねがいしまーす」
なんだかんだ世話されるのが好きなフィオナはコイフについて行った。
貴族も利用するおしゃれなカフェで2人はお茶と軽食をつまみ休憩をした。
やたら手間のかかった見た目のケーキが出てきた時はコイフもフィオナもテンションが上がった。
プロムナード5番街。
この辺りまで来ると店構えも庶民寄りになって来る。
「フィーたんは派手なのは苦手だと思うのよ、この辺りでちゃんとしたブラウスを作ってもらいましょう」
「また採寸~? それにお高いんでしょう? 」
「なんと! ざっくり銀貨1枚で二着なのよ! 」
「作ってもらう! 」
素朴なテーラーのドアを潜ると小奇麗な紳士とお針子の女性に出迎えられた。
「いらっしゃいませ」
「まぁ! ウサヒトさんがいらっしゃるなんてめずらしいわ」
「こんにちは! わたしと友達にブラウスを作ってほしいのよ」
コイフがふんわりと人国流の礼をする。
「入って入って~、まずは選びましょう~! 」
お針子の女性にフランクに導かれて工房にお邪魔する。
「ぷああ、すてきなのよ……! 」
「うん、すごいね! 」
正面の壁には、襟の一覧、袖の一覧、袖口の一覧、と見本が所狭しと展示されていた。
「見て―これ可愛い! こんな長い袖の種類があるんだね! このフリル付きの襟と合わせたら可愛くない? 」
「素敵なのよ! わたしはあの襟なんて似合うと思うのよ! 」
コイフとフィオナはあれやこれや言い合ってブラウスを決めていく。
フィオナはスタンダードカラ―と、フリルの付いたスタンドカラ―で。
コイフはスタンダードカラーで。
バルーンスリーブでロングカフスの白いブラウスを作ってもらう事にした。
「あとこのデザインもお願いします」
と言ってフィオナは半袖のボックス襟でパフスリーブのブラウスワンピースも夏用に注文した。
「フィーたん、夏用も買うなの……⁉ わたしも買うなの‼ 」
コイフは追加でドルマンスリーブのブラウスをもう一枚注文した。
フィオナは注文した服を全てオリーブ館に送ってもらうよう支払いと手続きをする。
これで一枚銀貨半分はお安すぎる、とふたりはかわいい服にうっとりしながら、テーラーのリピートを決めたのだった。
「お店の名前は『ミエール』ね、覚えとかないと」
店から出てフィオナは看板を確認した。
「わたしも、絶対また来るなのよ」
5番街を歩いてウインドウショッピングしていると、ある店の前でフィオナが足を止めた。
「あ、このお店は何? 」
赤茶けたレンガと少し曇ったガラスのショウウィンドウに数枚の服が飾られている。
店舗は二階らしい。石の階段で二階に上がった先にも服が飾られていた。
「アンティークショップって書いてあるのよ? 」
「でも服ばっかり」
「入ってみましょう、探検みたいで面白そうなのよ! 」
中に入ると古い服の匂いがした、けれど不思議と臭くない。
「布が清潔なのね! 」
「それにお店も涼しい」
はしゃぐ二人に店員が声をかける。
「ウサヒトさん用は申し訳ないですが在庫がありません、でも鞄やアクセサリーなんかは豊富にありますよ、そこのお嬢ちゃん用は手前一列くらいかな、見て行ってください」
「ありがとうございます」
フィオナが店員さんにお礼を言った。
店内は少し薄暗かったが、天窓から射す光が綺麗だった。
定期的に空気を入れ替えたり虫干しもしているのだろうことが伺える。
店内は中古品の服が所狭しと吊るされていて、床は埃が立たない様にわざわざ魔織布のグレーのカーペットが敷かれている。
「フィーたんドレスがたくさんあるのよ! 」
「そうだった! 入学式のあとにパーティーがあるんだよね? ドレス絶対着てみたい! 」
フィオナは生前、ドレスに憧れていたけれど着られなかった事を未練に思っていた。
「それなら一緒に選ぶのよ」
「ありがと! でもコイフの分は? 」
「わたしのはもうあるのよ」
フィオナとコイフは身長150センチ代の棚のドレスを見繕い始める。
子供向けのデザインが多くてフィオナの趣味に合うものを探すのは一苦労だった。
「あ、これかわいいな~」
フィオナはハンガーにかけられた服の群れから青いドレスを手に取る。
「試着しなくちゃ合うかわからないわ、どんどん試着しましょう! 」
ドレスとフィオナを一瞥してコイフはフィオナを試着室へ引っ張っていく。
「わわ、待ってコイフ、私試着苦手~! 」
「知ってるのよ~」
フィオナはコイフに試着室に突っ込まれて次々着せ替えられる。
フィオナの見た目は可愛らしい少女なのだ。
子供向けでもなんでも可愛い物は良く似合う。
コイフはここぞとばかりにフィオナに似合う服や小物をあれこれ試着室に突っ込んでいく。
「え、これも着るの⁉ 」
うろたえるフィオナ。
「これも着るのよ、ドレス以外いつも通りは変なのよ、上着や靴や髪飾り、バックも合わせないとなのよ」
「た、確かに……あ、可愛いねこれ」
「フィーたんは可愛いからよく似合うのよ、これも合うと思うなの! 」
コイフはフィオナを誉めそやしてメンタルバランスを図る。
フィオナはあれこれ試着して目が回り、変身魔法まで解けてしまうんじゃないかと思った。
「ねぇコイフ、これ着たら一回休憩したい……」
「フィーたん! シンデレラフィットなのよ……! 似合うのよ! 可愛くって凛々しいのよ~! 」
「はへ……? 本当? 」
フィオナは鏡をまじまじ見る。
スワンネックの花びらの様なケープ、闇色のリボンタイの中心に銀細工の花のブローチ。
空色の刺繍編みに白の刺繍編み、透け感のある白い布の下からノースリーブのアンダードレスの水色が透けて見えてかわいらしい。
明るい灰みの黄色で編まれた刺繍編みの花の髪飾りが髪色にも合って似合っている。
「妖精さんみたいに可愛らしいのよ! 」
「妖精っぽいかはともかく、このドレスは可愛い! 」
奇跡の一枚を手に入れたフィオナは、髪飾りと同じ色の靴もこの店で揃えた。
その後もコイフとフィオナは面白い物はないか物色していると、突然コイフが奇声をあげた。
「かわいいのよかわいいのよ絶対これがいいわ! これでなきゃいやだわ! 」
「どしたの? コイフ」
フィオナが訊ねる。
「これがほしいなの! 」
コイフはレザーリュックが気に入ったようだった。
「良いんじゃない? 」
「なのよ! 」
コイフは大きくうなずいて、まっすぐレジに向かい支払いをした。
こうして今日の買い物を終えたのだった。
帰りにリストランテに寄って満腹になるまでピザを食べた。
その後コイフとフィオナは、フィオナの下宿へ帰った。
塾に着くとコイフは先回りしてフィオナの部屋の窓へ向かう。
「はぁーただいまぁ……疲れたぁ……」
「ありがとフィーたん、買った買ったなのよ! 楽しかったぁ! 」
フィオナはコイフを窓から招き入れた後、ヘロヘロと応接室のソファーに座り込む。
コイフは早速買った鞄を背負ってご機嫌にクルクル回った。
「やっぱりとっても可愛いなの! 頑丈そうだしこれに教科書をいれて学校に通うのよ! 」
「良いと思うよ(レザーリュック背負ううさぎさん可愛い……)」
買い物で気疲れしたフィオナはコイフの可愛らしさで心を癒す。
「そういえば、フィーたんはいつ寮に越してくるの? 」
姿見の前で鞄を満喫した後に、コイフがフィオナの傍に来て訊ねた。
「具体的にはまだ決めてない、ギリギリまでここの下宿に居ようとは思ってるけど」
コイフの質問にソファーに横になりながらフィオナが答えた。
「じゃあこれ、ちょっと早いけど引っ越しのプレゼントなのよ」
コイフが紙袋を手渡した。
フィオナの掌に納まるくらいの紙袋だ。
「え、ありがと、開けても良い? 」
「見てみて! 」
フィオナは袋を開ける。
中には赤紫のベルベットで作られたアンティークリボンのタイが入っていた。
両端に金色の金属の飾りが付いていた。
「あ、可愛い! 」
フィオナが目を見開く。
「ブラウスに合うと思って買っておいたのよ、制服につけて欲しいのよ」
「コイフぅ~! ありがとー‼ 」
フィオナは感動してコイフに抱き着いた。
「大事にするぅ~‼ 」
「そんなに喜んでもらえるととっても嬉しいなのよ」
コイフはそんなフィオナの頭を、前世の様に撫でた。
フィオナは素直に甘えた。
その後コイフは掃き出し窓からお別れの挨拶をして『パイン館』に帰って行った。
(コイフ……もしかして寂しいから、早く寮に引っ越して欲しいのかな? )
とフィオナは考え、予定より引っ越し日時を早めるために荷造りに精を出した。
______
朝、コイフは朝日と共に目覚める。
兎人国での生活習慣は失われておらず、「くああ」と大きく口を開けてあくびをする。
コイフは洗面台に、前の日に汲んでおいた水差しから水を注いで顔を洗う、しっかりタオルで拭いたら次は濡らしたタオルで耳の中を洗うみたいに拭いていく。
最後にしっかり歯を磨いてうがいをして終わりである。
王女たるもの身だしなみをしっかり整えるのも仕事の内なのだ。
全身を濡れタオルで拭いたら、寝癖をブラシで解かしていく。
ブラシは木製で、椿オイルに付け込んだお手製だ。
オイルの力で毛艶を良くし、寝癖を直す。
人国式のベッドは変な寝癖がついてしまうのだ。
全身綺麗に出来たら部屋の隅の抜け毛用桶に抜け毛を集める。
越してきたばかりなのでまだそんなに集まっていないが、抜け毛が溜まったら綺麗に洗って叩いてフェルトにして、かわいい人形を作ろうと思っている。
お気に入りのブラウスワンピースに袖を通すと、コイフは鞄に手作りの薬を詰めていく。
胃薬に目薬、風邪薬に傷薬。これは御土産である。
実は魔法学校には3年生と研究生に兄がいる。
王都には更に5人の兄がいる。
3年生の兄からは、受験をすると決まった時にお古の教科書が送られて来ていた。
コイフは毎朝、その教科書を使って予習をする。
そして今日はその兄達に合う日なのだ。
コイフはしっかり見出しなみを整えると、鍵を持って外に出る。
ガチャリと回すタイプの鍵ではなく、カード式だ。
前世の電車のカードみたいにタッチするだけで開閉が出来る、本物の魔法のカードだ。
(フィオナが『パインカード』と呼んだのでコイフも何となくそう呼んでいる)
使い終わった洗面タライを持ってコイフは水場に行く。
初日は新入生のヒト族の貴族にコイフが従者を連れていない事を驚かれたものだが、幾人もの他種族が従者を連れていない様などを見るようになってから何も反応されなくなった。
そしてコイフは代わりに各家の従者と水場で仲良くなったのだった。
「コイフ王女、おはようございます」
「おはようなのエバ、ライナ、今朝も一番乗りね」
どこぞかの家に使えるエバとライナの姉妹は朝が早い。
主人が『朝風呂』の習慣があるとかで、朝から水を運んでは湯を沸かしている。
コイフは洗面タライを排水すると綺麗な水でタオルを洗って絞る。
「兎人の貴族は、自分の事を自分でやってもいいのですか? 」
ライナが不思議そうに聞いてくる。
「王宮に残った兄弟はそうもいかないだろうけれど、わたしみたいに継承位の低い者は自分でやらないとならないのよ」
とコイフは笑って答えた。
エバとライナ姉妹と別れて部屋に戻れば朝ごはんにちょうどいい時間だ。
部屋を見渡す。
10畳というところだろうか。
今は備え付けの家具しかないので広く、がらんとしている。
おまけに従者用の部屋もあるのだ、従者のいないコイフは、いずれ素敵に部屋を飾ってフィオナ用にしようと考えている。
カーペットや調剤机や棚も欲しいけれど、必要になったら揃うのだから急がなくっていいとコイフは思う。
コイフはタオルを干すと、朝の運動変わりにストレッチを少ししてから、鞄を背負って外に出た。
そのまま寮を出て、貴族寮門外を目指す。
季節の庭を騎士科の生徒が走っていったり、夜勤の用務員さんが帰宅して行ったりしている。
コイフは門を出るとふわりと浮き上がった。
コイフが一番大切にしている事は、スカート周りの重力だ。
どんなときも綺麗なおわん型になるよう重力魔法をかけ、スカートの中に入って来る光を調整して中を暗くしている。この為だけに遮光魔法を必死になって会得したのだ。
コイフは空を飛んで、今日もフィオナの下宿先に行く。
塾に着くと入り口には向かわずそのままフィオナ自室のベランダへ向かう。
(入り口から入ると「写真を! フィオナさんのお写真を! 」と、とっても面倒くさいのだもの)とコイフは今日も空を飛ぶのだった。
コイフはベランダから窓をコンコンとノックした。
「ふぁい…、おはよぉコイフ」
「フィーたんおはようなの」
しばらくして出迎えにパジャマ姿のフィオナがやって来て、窓の内鍵を開けコイフを招き入れた。
フィオナは親友だ。
前世からの親友で最近ようやく再会できた。
再会した親友は小さな女の子になっていて、その容姿も相まって必要以上にコイフはフィオナを構ってしまう。
「朝ごはんにしーましょ、なのよ! 」
フィオナの下宿で、フィオナは食事が無料だと聞いた。
ならばどんどん使うべきだ、とコイフは毎朝フィオナと朝食を共にしている。
(正確にはもろもろの費用をロード夫妻が一括で前払いしている)
コイフの方も入試に合格して追加予算が出たとはいえ自由に使えるわけではない。
好きな物を好きなだけ食べられるフィオナの下宿は楽園とも思えた。
「今日はコイフどこかに行くの? 」
朝食のトーストをかじりながらフィオナに聞かれた。
「そうなの、今日は王都にいる兄達に会いに行くのよ! フィーたんも一緒に行く? 」
「え!コイフのご兄弟⁉ 行く行く! もふもふパラダイス! 」
不穏な単語は聞き流して、ふたりで出かけることになった。
フィオナは前世でいう所の『獣人』に対して、いまいち前世の感覚が抜けていないように思う、きっとヒト族しかいない場所で育ったのだろう。
「一応王族の集まりだからフィーたんもちゃんとしてね」
「わかった! でもマナーとか大丈夫かな、コイフのご兄弟なんだから失礼の無いようにしなくっちゃ! 着替えて来る! 」
「食べ終わってからね、落ち着くのよ」
フィオナは手早く食事を済ませるとウォークインクローゼットへ向かっていった。
その間コイフは流し場で湯を沸かし珈琲を煎れる。
(それにしてもこの下宿のミルクは美味しいのよ)
きっと高い物なんだろうな、とコイフは珈琲に少しミルクを足して残りを最後の一滴まで飲み干したのだった。
しばらくして白い膝上丈ブラウスワンピースとパンツ姿のフィオナがダイニングルームに戻ってきた。
首元にコイフからもらったリボンタイを巻いている。
「今持ってるもので一番こじゃれた格好がこれなんだけど……どうっすか? 」
「かわいいのよ、でもこの前買ったドレスがあるじゃないなの」
「あれで良いの? わかった」
フィオナは水色のドレスと一緒に合わせて買った髪飾り、バック、靴を身に着けた。
「うん、やっぱり可愛いなの、妖精さんみたいなの」
「ありがとう……じゃあ、行こうか」
フィオナは緊張した面持ちだ。
コイフとフィオナは窓から飛び出し王都の空を飛んだ。
(朝の空気が清々しいし、馬糞臭さも軽減される、空! 素晴らしいのよ! )
コイフはハァと息を吐き出した。
それを見てフィオナが
「コイフ、防臭魔法かけてあげるよ」
とコイフの周りに魔法をかけた。
コイフは馬糞臭さが全く気にならなくなった。
「すごいのよ、ありがとうフィーたん! 」
地図を見ながらスーっと飛んでいく。
王都は賽の目状に道が整備されていてわかりやすい。
「あったわ、あそこのレストランよ、少し前で降りていくのよ」
「どうして? 」
「王女がスカートで空を飛ぶなんてはしたない! とか言われたらやーなのよ」
「納得、王女って大変だね」
1ブロック手前の角で、整備された白いセメントの道に下り立つ。
コイフは未だに靴が「こつん」と音を立てるのに慣れないし、楽しいと思う。
コイフとフィオナはスカートの裾を直して、お互いに襟が歪んでいないかチェックし合ってから歩き出した。
「コイフのお兄さんってどんな人? 」
「1人は魔法学校の3年生なのよ、教え処で面識があったマルセルお兄様、もう1人クローブお兄様という方が研究生をしていらっしゃるそうだけど、まだお会いした事は無いのよ」
「ええ、めっちゃ敬語つかうじゃん……、そっちの方が驚きなんだけど」
「さっきも言ったけど一応王族の集いなのよ」
「私ドレスコード大丈夫かなぁ」
「いざとなったら変身魔法でドレスアップ! すればいいのよ、変身魔法、憧れるのよ! 魔法少女アニメみたいなのよ! 」
「コイフも変装魔法使ってみたいの? 」
「使いたいのよ! 」
レストランまでの道のりでフィオナはコイフに変装魔法を学ぶ過程を話していく。
「……で、幻を操れるようになったら見本になる人間を用意しないとなんだ、その過程で変身使用料を支払ったり手続きとかしたよ、それから私は見本になってくれたミアって子の姿の観察をさせてもらって訓練してたよ」
「ええー! 変身使用料……そうよね姿を借りるんですもの、すっごく大変な魔法なのよ……憧れの魔法少女、わたしには難しそうなのよ……」
「学校の授業でやってくれたらいいのにね変装魔法」
「貴族の多い学校よ? きっとやらないのよ……無用の混乱を生むのよ」
「勝手に姿を借りて好き勝手な行動したら問題だもんね」
フィオナはミアの迷惑にならないよう改めて行動に気を付けなければと気を引き締めた。
そんな事を話していたらあっという間に着いてしまった。
「大きいレストランなのよー」
「すごい高そうなレストランだ! まじでドレス着てきて良かった…」
赤レンガの階段に黒のセメントの土台、黒い木でアーチが作られ、鉄柵の扉が内側に大きく開かれている。
鉄柵は頭上にも張り巡らされ、ぶどうかなにかの蔓植物が生い茂っている。
ドアは赤い木で作られており、ガラス張りで店内から見たら解放感がありそうだ。
扉には客を迎えるボディーガードが立っている。
「きれいな所なのよ」
「そうだね、緊張するよ」
フィオナも頷く。
ボディーガードはこちらを見たようだが何事も無くコイフとフィオナは横を通る事が出来た。
ふたりで階段を上り、中二階になっている店のドアをドアマンが挨拶をした後開けてくれた。
「ようこそいらっしゃいませ」
ドアマンにフロントに通される。
その時も、ふっかふかの踏み台を自然に出してくれた、高級レストラン恐るべしである。
「アルマン・東兎人国で予約しているのですが」
「アルマン様ですね、伺っております、お席にご案内させていただきます」
「友人を連れてきたの、席が足りると良いのだけど」
「かしこまりました」
すぐさまウェイターが飛んできてコイフとフィオナは案内される。
「こちらでございます」
とウェイターがドアを開けた先は広い個室だった。
「コイフ、こっち」
「マルセルお兄様」
コイフとフィオナが部屋に入ると既に席についていた兎人族の男性が声をかけてきた。
3つ上の、教科書をくれた兄マルセルだ、コイフはほっとする。
そしてマルセルお兄様の後ろに知らない男性兎人がいる事にも気が付いた。
「クローブ兄様、彼女がコイフ、優秀な妹です」
マルセルお兄様がもう一人の兎人族男性を紹介する。
「やあコイフ初めまして、ボクはクローブ、魔法学校で研究員をしているよ」
クローブの挨拶に対してコイフは兎人流の淑女の礼を取った。
「お初にお目にかかりますクローブお兄様、コイフと申します」
「コイフ、そのお嬢さんは? 」
マルセルお兄様が訊ねる。
「マルセルお兄様、クローブお兄様、親友のフィオナよ、同級生なの」
「フィオナです、初めまして、お会いできて光栄です」
フィオナは付け焼刃の淑女の礼をした。上半身の角度やら指先やら怪しい。
「もう親友が出来たのかい? フィオナさん楽しんで行っておくれ」
「ありがとうございます、お邪魔します」
「ええ、前世からの親友よ」
コイフは楽しくなってクスクス笑った。
ウェイターに椅子を引かれ、コイフもフィオナも席に着くことが出来た。
この時点でフィオナは堅苦しい店の空気から(帰りてぇな)と少し後悔した。
だが2人の兄はコイフと同じく小柄な兎人族で可愛らしかった。
3つ上のマルセルは全身真っ白の立ち耳で、丸眼鏡を鼻の上にちょこんと乗せている。
研究生のクローブはブロークンブラックのドワーフロップだ。
フィオナの印象は、マルセルは『金持ちのピーターラビット』、クローブは『クール系出来るオトコ』であった。
「やぁやぁ遅れたかい? 」
「兄さまたちごきげんよう! 妹がひとり増えたみたいだね」
1歳上で商会勤めをしているカシュゥお兄様
2歳上でワイバーン便で働いているアルモンドお兄様
カシュゥは名前の通りカシューナッツ色をした立ち耳のセーブルポイント、アルモンドはチョコレート色のダッチだ。コイフはふたりとは教え処で面識がある。
「お久しぶりなのよカシュゥお兄様、アルモンドお兄様! 」
「やあ! コイフは変わらないね」
「そのドレス用の帽子珍しくって似合っているね」
三人はハグしあって再会を喜んだ。
「揃っているね」
帽子を脱ぎながら言うのは、4歳上のヴィタお兄様。
フォーンのロップで、大使館で外交官見習いをしているそうだ。
「大使館で? わたし受験の前にお会いしなかったわ! 」
「漁都国まで行っていたんだ、とっても魚が美味しかった、でも全身の毛が潮風でべたべたになるんだ」
「ニアミスでしたのね……」
フィオナは漁都国なんて名前の国を聞いたことがないからきっと兎人の呼び名だろうと納得した。
そして全員が人国語で喋っている事にも気付いた。
「あの、私のせいで人国語を喋っているなら悪いです」
というフィオナに兄弟はにっこり笑った。
「やぁやぁ、人国のお嬢さんというのは可愛らしいね、心配しないで、その国ではその国の言葉を喋らないと、密談しているみたいじゃないか」
とカシュゥが言う。
「本当に! 人国のお嬢さんと話す機会はあまりないんだ、是非お話させておくれ」
とアルモンドが言う。
「そうでしょうお兄様たち、フィーはとっても可愛いのよ! 」
コイフはえへんと胸を張った。
(どうやらわたし、可愛がられている……? )
フィオナがコイフの兄弟を見て楽しんでいたのと同様に、フィオナも兎人族の目を楽しませていたことに気付いた。
談笑をしていると突然全員の耳がピン! と立った。
「みんな、来たみたいだ」
「お出迎えしなくてはね」
「緊張するのよ」
コイフと兄弟達は誰からともなく椅子から立ち上がった。
フィオナも周りに習って立ち上がる。
「誰が来るの? 」
周りの様子はただ事じゃないと、フィオナはコイフに尋ねた。
「王位継承順が10位以内のお兄様なのよ」
「それって次期国王ってこと? 」
「フィーたん、ここにいるみんなが王位継承権保有者なのよ」
「え、失礼しました! ……大変な所に来てしまった……」
コイフと兄弟が和んだようにクスクス笑った。
「いらっしゃるよ」
全員が兎人国流の礼をとった瞬間部屋の扉が開かれた。
「やっほー! みんな元気ー⁉ 」
「久しぶりだぜ兄弟~! 」
呑気な挨拶が部屋に響いた。
「お久しぶりです、トウィイノお兄様、アルマンお兄様」
研究生のクローブが頭を上げて言った。
継承位順に挨拶をしていく。
「はじめましてトウィイノお兄様、アルマンお兄様、コイフと申します、お会いできて光栄ですわ」
コイフが顔を上げた。
「妹だ~かわいい! 」
「ついに王都に妹が来たぜ! かわいがるぜ! 」
とトウィイノとアルマンははしゃぐ。
全員の挨拶が終わるとトウィイノが言う。
「僕はトウィイノ、王宮で文官をしているよ」
くせ毛で真っ白な立ち耳のトウィイノが言った。
「俺はアルマン、王宮で騎士隊勤めをしている! 」
とロップでブラックオターのアルマンが言った。
「ところでヒト族の愛らしいお嬢さんは、誰のゲスト? 」
「わたくしですわ、トウィイノお兄様、彼女は親友のフィオナです」
「フィオナです、はじめまして」
フィオナは緊張しながら淑女の礼をしてみる。
「うん、緊張しないでね、一応王族の集まりなんだけど堅苦しいのは最初だけだから」
「さぁー! 上手い飯を食うぜ! 」
アルマンが席に着いて、トウィイノも着くと全員が着席した。
そこから歓談が始まった。
飲めや歌えの大騒ぎ……とまではいかないが、結構な無礼講がコース料理の合間に発生している。
コイフも乾杯の音頭に故郷の歌を歌ったし、カシュゥとアルモンドは嫌いな物交換会をしている。
酒に酔った仲の良い兄弟同士はむぎゅっとふわふわの体をくっつけ合っている。
喋ったりしなければフィオナには兎人族の性別の見分けがつかなかった。
フワフワのうさぎさん天国である。
紳士淑女然とするのはコース料理が運ばれてくる時だけである。
これにはフィオナも可笑しくなってしまった。
「フィーたん、ごはんおいしいのよ! 」
「そうだねコイフ、すっごく楽しい」
『雪兎人族』(ゆきうさひとぞく)の資料に書いてあった「楽しい種族」というのは本当の様だ。
お酒をのんできゃっきゃと笑っている姿は本当に楽しく愛らしい、気持ちのいい一族だ。
楽しい食事会はあっという間に過ぎて、兄弟はお土産を交換し合う。
コイフは自作の置き薬を全員に渡した。
「いやいやたのしかったね、フィオナさんもまた来てほしいよ」
トウィイノお兄様がコイフとフィオナの頭をなでる。
「王都は男ばっかりでつまらなかったからな! 妹が二人も増えたぜ! 可愛がるぜ! 」
とアルマンお兄様が背中をぽんぽんと叩いた。
トウィイノとアルマンにはなんと従者が付いてきており、馬車が用意されていた。
これが継承位順ということなのだろう。
ヴィタお兄様にも大使館から馬車が来ていたが、小さなものだった。
「おやすみ、コイフ、フィオナ、気を付けて帰ってね」
「コイフは魔法が使えるんだ、俺たちより安心さ! 」
「お兄様たちもきちんとお家に帰るのよ! 飲みすぎてはだめよ! 」
教え処で一緒だったカシュゥとアルモンドとは気安く手を振って別れる。
コイフとフィオナ、三年生のマルセルとクローブは浮遊して帰る。
全員魔法学校の寮生なのだ。
「二人は魔法学校で何を学ぶんだい? 」とクローブに言われてコイフとフィオナは顔を見合わせた。
そういえばコイフとフィオナはお互いに会う為に入学したのだ。
それ以外の目標を聞かれて少し考えた。
「フィーたんは魔法学校に行って何がしたいなの? 」
「うーん、お金が稼げる仕事に就けるように勉強するかな、コイフは? 」
「わたしは病気やケガで死んでしまう兎人を減らしたいわ、その為に薬学を学んだの、次は魔法なのよ! ポーションを作れるようになりたいのよ! 」
「おお凄いね! 」
マルセルとクローブはうんうんと嬉しそうに頷いて、4人、しばらくの空中散歩を楽しんだ。
コイフの兄弟に会えたことはフィオナにとって緊張したけれど目が幸せで楽しかった。
_____
食事会の翌日、フィオナはプロムナードにある大型家具用品店に来ていた。
オリーブ館で使う為の物を買いに来たのだ。
「絨毯と…寝具一式と…ああ、時計も買わなきゃだ…」
店の商品棚を眺めながら注文書に買う品を書き込んでいく。
「料理や普段の洗濯も自分でやらなきゃだし、一応そろえて買っとくか…」
フィオナは考えて、自分がまだオリーブ館の調理場やリネン室を見ていない事に気付いた。
「鍋とか借りれるかもしれないし、やっぱり見てからだわ、でも自室に冷蔵庫無かったよね…冷蔵庫共有の可能性高いなぁ」
フィオナは共有冷蔵庫に自分が飲食する飲み物やデザートに『フィオナ』といちいち名前をつけるのを想像した。
「あんま個人的な飲食物を共有スペースに置いとくのやだなぁ…小さめでいいから冷蔵庫買っとくか」
キッチンエリアの商品コーナーで高さ70センチほどの冷蔵庫と冷凍庫を購入することにした。
そうしてフィオナは必要な物を書き記した注文票を会計に持って行き、一括で支払った。
支払いと注文の証明書をもらい、購入したものは全てオリーブ館の自室へ送るように手配する。
「これでひとまずよし、でもオリーブ館の厨房とリネン室見とかないと」
大型家具用品店を出てフィオナは飛んでオリーブ館に向かう。
途中学校の正門で浮遊魔法が妨害されるのが面倒に感じたが門を潜ってまた浮遊してオリーブ館に向かえばあっという間に到着だ。
厨房もリネン室も1階にある。
まずフィオナは厨房に向かう事にした。
オリーブ館入って通路を左に曲がればすぐの所に食堂がある。
広い部屋に机や椅子がいくつも並び、カウンターから料理を受け取るシステムの様だ。
壁に朝食と夕食の時間帯がかかれた紙や、メニュー等が貼られていた。
今は時間外なので誰も食堂にいない。
食堂と繋がって隣の部屋が厨房だ。
いくつも魔導コンロや大きな窯が並んでいた。
近くに鍋やフライパン等調理器具がかけられたり仕舞われたりしている。
設備的にはいろいろあって立派な感じがした。
『調理器具持ち出し禁止』や『火の元注意』など寮生に向けた注意書きがあちらこちらの壁に貼られていた。
シンクも横長に広く、下の収納にも調理道具がしまわれている。
壁際の食器棚には大量の食器が入っていた。
鍵がかかった方の食器棚には高そうな皿やグラスが並んでいる。
冷蔵庫は大型のものが2つあった。
片方は寮生が自由に使って良い様だ。
中に使いかけの調味料や食材、名前の張られた瓶や酒が入っている。
もう一方は料理人が使うようらしく開ける事が出来なかった。
冷凍庫は小さいのが寮生用、大型の料理人用のものがあった。
全体的に、寮生用の冷蔵&冷凍庫以外は綺麗に掃除されているようで綺麗だった。
フィオナはもっと不潔なイメージを覚悟していたから少しホッとした。
火事になると自動で天井に付いた魔道具から大量の水が出ると注意書きがある。
手動で起動しないようにとも書かれていた。
他にも注意書きによると調理して出た生ごみは蓋付きのダストシュートに入れるらしい。
蓋を開けるとトイレのように直下へ続くトンネルがあった。目をこらすと底で何かが動いてるのが見えた。生き物か何かの餌にしているんだろう。
フィオナは(なるほどなぁ)と思いつつ次にリネン室へ向かう。
リネン室は食堂をでて通路をはさんだ向かいの部屋だ。
密閉性のある金属製のドアを開けてリネン室に入る。
そこは通路にそって横に長く伸びた広い部屋だった。
大きな窓が開けられて風が部屋を通り抜けた。
部屋の一部には金属製の1メートルほどの球体が並んでいる。
この部屋にもあちこち説明書きが貼られているようだ。
「どれどれ…」
フィオナは球体横の注意書きを読んだ。
それによると、この球体は自動洗濯機らしい。
球体内に種類分けしてネットに入れた洗濯物と石鹸洗剤を入れると、自動で中を水で満たし洗濯物をかき混ぜて洗ってくれるのだそうな。
しつこい汚れは落としきれないので先に浄化魔法の魔道具で個別に汚れを落としなさいという説明まである。
確かに棚に浄化魔法用の魔道具が鎖で繋がれて置かれていた。
その横に『設備品持ち出し禁止』と張り紙がある。
他にも名前の貼られた洗濯用洗剤が何種類かおいてあった。寮生の私物なのだろう。
洗濯機が4台並び、その横に四角い機会が4台並んでいる。
こっちは自動乾燥機なのだそうだ。
説明によると洗濯物を乾燥機に入れると風魔法で中の水分を取ってくれる。
そばのカートは水気を含んだ重い洗濯物を運ぶようだとフィオナは気付いた。
壁に沿って置かれてるテーブルの上には、しわを取る為のアイロンが置かれていた。
リネン室から別の部屋へ続く大きなドアを開けると、外物置の様な場所になっていた。
ここには水道といろんな大きさのたらいが詰まれている。
ここで洗濯物の手洗いも出来るという事なのだろう。
さらに物干し台が並び立っていて、布団のシーツや大型のタオルが干されていた。
(ここに女性物の衣類を干す気にはなれないな…目隠しできる洗濯バックと、自室のベランダか風呂場に洗濯ラックを小さい物でも買った方が良いかも)
フィオナは必要な物をメモした。
フィオナは塾の下宿に帰りもうほとんど片付いた部屋で最後の荷造りをした。
玄関の近くには引っ越し荷物が入った木箱がいくつも詰まれている。
_____
今日もコイフは朝食を食べにやって来た。
「フィーたんおはようなの」
「おはよう、私もこの時間に起きるの慣れてきちゃった」
空はまだ日が上がりきっておらず薄暗い。
ダイニングルームで朝食を取りながらコイフとフィオナは雑談をする。
「そろそろ魔法学校の寮に引っ越そうと思うんだけど」
「この贅沢な時間ともお別れなのよ……でも近くに来てくれるのは嬉しいわ、引っ越し手伝うなのよ! 」
「でもそうすると、朝食どうしようか」
しばらく二人は考えこむ。
「うーん、フィーたんが嫌じゃなければわたしが作って持って行くわ! それとももう寮の食券を買ってしまったかしら? 」
「オリーブ館は食券じゃ無かったよ……? レストランみたいに食べたい物を頼むの」
「ならウチと一緒だわ! あれって後払い形式なの、知ってた? 食べた分母国に報告されるなんてやーなのよ~~! 」
「うっ、確かに嫌かも」
コイフはくるりんと回って、力強く言い放った。
「だからわたし自炊するわ! 自炊代を請求するのよ! それなら恥ずかしくないわ! 朝ごはんも厨房が使えるから作って持って行くのよ! 」
「いいの? うれしい~! 実は自分用の冷蔵庫買ったんだよね! コイフの好きなミルクや果物は私が用意するよ! 」
「えぇ! いいなの? お高いんでしょう? 」
「作ってもらうんだから、それくらいはさせてよ」
フィオナはコイフ手作りのご飯が食べれるしウィンウィンである!
「ならお言葉に甘えるのよ」
そうして二人は後何回出来るかわからない贅沢な朝食を終えて別れたのだった。
次回の投稿は3月14日です




