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②別居、名付けの儀

フィオナ1歳 別居



フィオナは離れの自室にいた。

またもや髪飾りが壊れて壁を粉砕した事から、フィオナの部屋は離れに移した方が良いという采配だった。


元々この離れはゲストルームだったもので、寝室にあったベッドは取り払われて子供部屋に改造された。

フィオナの部屋は、大きな窓がある客間に繋がっており、客間からは屋敷へ続く扉と、庭のテラスへ続く窓がある。

外はスロープ付きのテラスになっていて、木造のスロープを下りると石のアプローチが続く庭となる。


朝食を済ませ午前中に魔術師ルーサーと魔力制御の練習、昼食を食べたらお昼寝して起きたらおもちゃで遊び、夕食の後入浴して就寝、というのが最近の日程だ。


今日もフィオナが朝食を食べた後に、日程どおり魔術師ルーサーがやってきた。

髪飾りの状態を確認した後、魔術師ルーサーはフィオナを抱きかかえて庭に出る。

木や花の影から妖精が数人出てきた。

アプローチを少し進んだところにある広場に着くと、侍女に命じて床にシーツを広げさせ、その上にフィオナを座らせる。


魔術師ルーサーはフィオナのヘアピンを5本抜いた。

妖精たちは少し離れたところで魔術師ルーサーとフィオナの様子を見ていた。




一般魔術師の魔力量をボトルに入ったワインだと例えるなら、フィオナの魔力量は樽に入ったワインだ。

魔術師は使いたい術に適した魔力量を用いて魔法を発動させる。

そうでなければ術に思った通りの威力や効果が出せないし、無駄に魔力を消費して使い切ると、酷い頭痛やめまい、虚脱感に見舞われて失神したり倒れてしまう。

失った魔力は食べて寝れば自然に回復するが、健康には宜しくない。


しかしフィオナの魔力は、しばしば、樽の栓を開けたまま逆さにしてワインを放流している状態になる。

魔法を使おうとして使っているわけではなく、感情とともにうっかり暴発するのだ。


幸いフィオナは周りの大人から叱られた経験から何となく自分がやってはいけない事を理解し始めていた。


魔術師ルーサーはフィオナへ今後の課題をたてた。

1、少しずつ魔力を消費する事を覚える。

2、己の魔力残量と体調の変化を覚える。

3、魔力を使い切ってはいけない事を覚える。


グラスに適量のワインを注ぐ様に、この加減を魔術師ルーサーはフィオナに教えたかった。



今日は繊細な魔法を使わせる為に魔術師ルーサーが造った魔道具を持ってきたのだ。

それは一見白い積み木だった。


「良く見てくださいお嬢様」

ルーサーは床で這いつくばるフィオナに三角形の積み木を出して見せる。

「少なく」

積み木が赤く光る。


「適に」

今度は美しい青だ。


「多く」

黄色に変わる。


「過剰に」

積み木は赤青黄色と明滅して真っ白に光った後真っ黒い色になり光らなくなった。


「あぶぶ…」

フィオナは光を楽しそうに見ていたが黒色になると残念そうな顔をした。

「光らせすぎるとこの様に壊れてしまいます、少しだけ、光らせる」


ルーサーはすかさず新しい積み木を取り出して光らせる。

青く光った積み木。しばらくすると光は消えて元の積み木の白色になった。

「放っておくと元に戻ります、やってみてください」


渡されたフィオナは嬉しそうに両手で持つ。

そしてパクリと口で吸いついた。

瞬間積み木は白く光って黒色になる。

「あヴぅっ! 」

顔をしかめた後、フィオナはべ~っと舌を出した。


ルーサーがフィオナの目の前で更に新しい積み木を青く光らせる。

その積み木をフィオナが受け取って舐める。

またも顔をしかめた後、舌を出した。




フィオナは光る積み木が気に入った様子で、午前中の時間はずっと積み木を光らせたり並べたりして遊んでいた。

魔術師ルーサーが黒くなった積み木を片付けようとしたら「ばぁーぶぁ~!! 」と不満を主張された。

なので、黒い積み木もそのままフィオナが遊んでいる。




(気に入ったようだな…まずは1歩前進だ)

ルーサーは頑張った。

簡単な魔力操作法をどうにかして1歳児に理解させなければならない。

子育ての文献を読み漁り、子供のいる家庭を訪ね歩き、やっとたどり着いた方法が、この『光と色の付与』であった。


注ぐ魔力量で光る色が変わる。

魔力を注ぐのをやめるとしばらくして光るのをやめる。

そして一定量より魔力量を注ぎすぎると積み木は黒くなり光る術式も消滅する。


カラフルな積み木で遊びたければ魔力を注ぎすぎてはいけない事を遊びの中で覚え込ませるのだ。


更に、日頃ワイン樽をひっくり返しているフィオナにワイングラス一杯分の精緻な作業はまだ求められない。


赤。少なく=本来このくらいで魔法を使ってほしい

青。適量=ヘヤピンが壊れない程度

黄。多く=シャレにならないが止められはする

黒。=人や物が壊れる。使ってはいけない。警告として一瞬白く光ってから黒になる。

といった仕様である。


言葉で伝えるより体感的に、しかも楽しく魔力の使い方を学べる! 画期的な魔道具だ! と。

意気揚々と積み木の案を公爵家に雇われている子持ちの母親達に相談したところ、「絶対に誤飲に注意しろ」と何度も言われた。

試作品を見せては「角を丸くしろ」だの「小さすぎる」だのと駄目出しを受けまくった。

ルーサー自身、確かにと思った。

今までフィオナの拾い食いを何度も注意してきたので、この積み木には子供用風邪薬を塗って苦くしてある。

そして呑み込めないようにフィオナの口よりずっと大きくした。


積み木内部には『光と色の付与』それらの効果を発動させる呪文を入れたあと接合しておいた。

積み木がボロボロに破壊される前に新しい物に取り換えた方が良いだろうが当分これで遊んで学んでくれるだろう!


「…はぁ~~~~」

大変だった。今までの研究などの比ではないくらい大変な偉業だと魔術師ルーサーは己を褒め称えた。



「さあお嬢様、存分に光らせて下さい! 」

(そして操作を学んでください! 切に! )

魔術師ルーサーは大量に作ってきたストックを放出した。


フィオナは色が変わる積み木に大変興味を示してくれた。

魔術師ルーサーはほっとして、少しだけ報われた様な気持ちになった。


1歳児が離れに籠り切りで使用人としか会わないなど、不健康極まりない。

現に言葉も遅れているようだ。

積み木は手触りも良く目にも楽しい。

フィオナは積み木に夢中になった。

フィオナの寂しさを埋める一助になれば良い、と魔術師ルーサーは願った。


…数時間後。

真っ黒い積み木でいっぱいになった部屋で、フィオナは幸せそうに寝息を立てていた。

様子を見に来た魔術師ルーサーはふっと笑い、大急ぎで追加の積み木を作りに戻ったのだった。


_________________________


うさぎ姫1歳 名付けの儀




寝て食べて遊んで、時は過ぎ、雪から新芽が出る。

兎人うさひと族では新芽の時期を1年の節目の季節としている。


前年度産まれた子うさぎ達は、王、王妃、2人の妃が待つ広間へ集まった。

無事冬を越して春まで生き抜いた子供達には名が与えられる。


今日はその名付けの儀だ。


去年18人産まれた内、生き延びたのは13人。

子供たちは生まれた順に、礼をして入室し、広間の中央に整列する。



去年の春に産まれた黒毛のダッチ柄の子うさぎは、すくすくと成長していた。

元気すぎるといわれるほどに。


いつも白い布の帽子を被っていて、動くことが大好きで兄弟たちに負けずぴょんぴょん草原を走り回り、穴を掘るのも得意だ。

食べられる草と食べてはいけない草の見分けもつくようになった。

耳はプロペラを卒業して立派な立ち耳がきょろきょろと辺りの音を拾うのに活躍している。

自分より後に産まれた弟妹の面倒だってみられる。

弟妹達のベッド作りにだって何度か参加したことがあるのだ。



広間に整列した兄弟達は事前に練習した通り、膝を折り、両手を組み、頭を垂れる。

しかし好奇心や緊張で皆どうしても耳がピクピク立ってしまうのは可愛らしく、広間を囲む様に立つ大人達は微笑ましくその様子を見守っていた。



広間に一人の少年が入ってきた。

見た事もない立派な布で拵えられた真っ白いズボンの裾と、ピカピカに磨かれた革靴の先だけが見えた。


この日の為に外国から帰国した第一王子だ。王から名付け表を恭しく受け取ると、兄弟一人一人の目の前にやってきて名を授ける。

ついにダッチ柄の番がきた。

聞き慣れない足音にぴょん、と耳が跳ねてしまう。


「面を上げよ」

白いズボンの先には白いジャケットに包まれた第一王子の顔があった。

「お兄様、お会いできて光栄です」

練習通りのセリフを口にする。




第一王子ワカ様。

オレンジのダッチ柄でお耳も手足も長く、整った顔立ちで、剣が得意なのだとお母さまから聞いたことがある。


ワカお兄様はひとつ頷くと、手元の名付け表を読み上げた。

「継承権60位王女、コイフと名を与える! 」

「ありがたくちょうだいいたします」

頭を垂れるが耳は立ったままだ。


コイフとは今被っている帽子の事だ! いつもおひさまの香りが付くように被っているのだ!

どきどきしてわくわくする。

コイフ。 コイフ! 今日からわたしの名前!


わたし今日からコイフなのだわ!


コイフは飛び回ってはしゃぎたいのを必死に我慢して、名付けの儀が終わるまで淑女のふりをした。


王からお言葉を賜り(お父様からのお祝いだ)、練習通りに全員が立って「国の為に励みます」と礼をした。



退場して、控えの間に入った瞬間兄弟はワァ! と、はしゃぎ始める。

名前をもらうという事は一人の人として扱われるという事。権利があって義務もあって、何よりもう「子供達」と十把一絡げにされずに済むのだ!


ある者は近しい兄弟と名を呼び合い、ある者は緊張した胸にいっぱい空気も吸って、毛づくろいをしてしまう。

コイフはずっと口の中で自分の名前を唱えていた。

「わたしはコイフ、うふ、コイフですわ、なんて」

うれしくてぴょんぴょん部屋中跳ねまわる。

兄妹達は「コイフがまた跳ねまわってる! 」と指を刺して笑うから「コイフになって跳ねたのは今がはじめてなのよ! 」と笑って返す。


そこにノックが響き、コイフ含め兄弟は一列に並ぶ。

一番年長のブロークンブルーで立ち耳のお姉さま(タナという名前を頂戴していた)がノックに返事をする。

「どうぞ、お入りになって」

鯱張った声、王族になった証。

王族の部屋には許可なく入ってはいけないから許可を与えるのだ。


「失礼いたします」

と、入ってきたのは教育係ナニーのメアリだ。長い垂れ耳のブロークンブラック。

今まではこの様に礼をされた事も無かった。緊張する。


「姫様、殿下、この度は名付けの儀の無事の終了をお喜びいたします」

「ありがとうございますメアリ、貴方の働きのおかげです」

と、タナお姉さまが畏まって言う。

「お言葉感謝致します」

メアリは礼をしたままで、タナお姉さまが大慌てで「楽にして頂戴」と言う。

メアリはいつものように立つと「よくできました」と言う時の顔をした。

むずがゆくなってしまってコイフは耳を洗ってしまう。


「さて、タナ様、振舞い大変立派でございました、それからコイフ様…話を聞く時に耳を洗わない!  儀の最中も耳が立ちっぱなしでございました、みっともないと申し上げたはずです」

コイフはびっくりして飛び上がってしまう。

「メアリ、ごめんなさい…だってうれしくって…」

メアリは、耳をぎゅうと掴むコイフを見てクスリと笑うと、兄弟達に視線を戻して継承位順に一人ずつ褒め始めた。


(そんなにみっともなかったのかしら…わたしの事も呼んでくれるかしら…)

どんどん不安になって耳をぎゅうと掴んでしまう。


「さてコイフ様、式の終わりまで淑女としてよく振舞いました」

二コリと褒められて、やっぱりコイフは飛び上がって喜び、また兄弟達に笑われてしまったのだった。


ナニーのメアリが全員に言う

「明日から王族教育が始まります。マナー、言葉遣い、それから人国の言葉のお勉強は全員共通です。秋から殿下方は剣を、姫様方は機織りを学んでいただきます。」

「はい! 」と兄弟が答えた、コイフも答えた。


「剣は狩りに必要です、機織りは着るものに必要です」

言われて兄弟は自分の服を見る。

全員がお母様に織って頂いたワンピースだ。


王妃の子は王妃の実家の色組み。

第二妃の子はその実家の、第三妃の子はその実家の。

兄弟全員『伝統』のお揃いのデザイン。


姉妹達はお互いに顔を見合わせて、服を見て「うん」と頷く。だって可愛い服が着たいもの。やりたいわ。とコイフも頷く。

「では明日からもワタクシ、メアリ率いるナニーが、引き続き皆様のお世話を致します、変わらず学ばれるようお願いいたします」

全員が明日からもメアリは変わらずビシバシ教育してくれるのだなと安心して、それからうんざりしたりもする。


「では、本日は正午からお妃様方にご挨拶を。その後ベッドを子供部屋の寝床から王族居住区の教え処に移します、身辺の整理をなさいませ」

その言葉に「はい! 」と元気よく返事をして、メアリが下がると皆一斉に寝床に駆け出した。

宝物のどんぐりや花冠をしっかり片づけなくっちゃ! なんて兄弟で笑い合いながら。

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