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⑥入試

次回は3月1日から連載再会します。本当は二月中には投稿したいのですが、早まる場合Twitterでご報告します→ https://twitter.com/usagihimeha

⑥入試

 

月日が経つのは早いもので、ついに魔法学校の入試の日を迎えた。



コイフは、メイドのブランシェと赤毛のダニエルと、それから外交官のスチュアートと3人で馬車に乗って魔法学校を目指している。

試験は正午からなのに、もの凄い量の馬車と人の列だ。


人族の最高学府なのだから当たり前の光景なのかもしれないが、コイフは人波に圧倒されてしまった。

「こ、こんなに人がいるなの? わたし合格しても学校から溢れちゃうんじゃないかしら? 」


メイドのブランシェが朗らかに笑いながら言う。

「大丈夫ですよコイフ様、毎年名物の光景ですし、魔法学校はそんなに簡単に入学出来る学校じゃないですから」

「コイフ様の成績なら問題は無いかと、赤本? と言ったでしょうか? あれの成績も見せていただきましたがなに、すばらしい得点でしたよ」

「そうですよ、さ、馬車はゆっくりしか進みませんから早お昼にしちゃいましょうよう」


メイドのブランシェが大使館から持ってきたバスケットを開く。中には野菜のサンドイッチが詰まっていた。

「ミルクもありますよ、ブランチとか言いましたかな、頂きましょう」

外交官のスチュアートも仕事を片付けて食事モードだ。

それを見てコイフは少しホッとする。


「そうね、食べなきゃ何にも始まらないのよ! あ、ダニエルの分はちゃんとあるのかしら?」

御者席から「ありますよコイフ様! 」と赤毛のダニエルの元気な声が聞こえてきた。


「ではいただきましょう、んむ、はむ、美味しいのよ! 」

「ご一緒に失礼します、ふむ、美味しい、コックが張り切ったと見ますな」

「うふふ、今日はなんと婦長がつくられたんですよ!」

ブランシェが秘密を打ち明けるみたいに楽しそうに言う。

「なんとめずらしい! 」

「そうなのね、うれしいわ! 」

スチュアートは驚いて耳が上がってしまっている。


コイフはなんだかんだ叱られるけれど婦長のイライザが好きだった。

(だって間違ったことに怒ったことは一回も無いのだもの、あの人こそ満点の成績なのだわ! )とコイフは思った。

そして満点の婦長にあやかろうと思ってサンドイッチを噛み締めた。



ブランチを終えて、メイドのブランシェが注いでくれたミルクを飲み終わった頃、馬車がのろのろと動き出した。

「門が開きましたわコイフ様」

「もん? 」

コイフが聞き返す。

「魔法学校の門ですな、一般入り口と貴族入り口、一般の乗り物入り口に貴族の馬車入り口と4つの入り口を用意しなければならないので、学校側が外門を閉じてしまうのです」

「だからこの行列だったのね」

コイフは先の見えない行列の前後を見渡す。

「心配無用ですコイフ様、門が開けばあとは早いですよ、正午には絶対に間に合います」

「ありがとうスチュアート、そうね、のんびりお話しましょうか、合格したらもう大使館を出ないといけないのだし」

コイフは数日の間だが良くしてくれた大使館の人達に感謝をしていた。


(本当にありがたいのよ、まともにドレスも持っていないから、いらないカーテンを分けて貰って1着作ったわ…)

色合わせがどうこう、重ねがどうこう言いながらメイド達とお裁縫したのは楽しかった思い出だ。

今日着ているのがそのドレスである。

肘まで覆う長いケープとインナースカートは白いカーテン、胸の部分と繋がったワンピースは碧色で、黄色い小花柄のカーテンだ。

(フィーたんは大丈夫かしら、きっと会場で会えるわよね)

コイフは気持ちを切り替えて、3人で楽しく話しをした。




フィオナはいつもの服装にコートを羽織って、一般列の乗合馬車の中でお弁当のバケットサンドをかじっていた。

水筒には温かいコンソメスープ。

(まさか寮から学校まで乗合馬車が出るとは…、しかもお弁当付き、この水筒も新作の魔道具なんだなぁ)

他の寮生も同じように食べている。

必死で赤本を読み込む生徒もいるが、そのクソ本はもうフィオナには必要ない。

(いままでやってきたことを一生懸命やろう! )

フィオナは動き出した乗合馬車の先を睨むように見つめて気合いを入れた。




中央の長方形の建物に、とんがり屋根の太い円柱状の塔がくっついていて、反対には渡り廊下で繋がった小さい長方形の建物がある。

どれがどの建物かわからないくらいに沢山の建物がくっつき合っていて、離れたところにいくつかの寮棟が見え、それを門付きの城壁が覆っている。

中央の建物や寮棟は新しい白い建物なので、灰色の石組みで出来ている塔が一番アンティークに見る。

古い建物と新しい建物が雑多にくっついているように見えた。



城壁の外に、箱状の新しい建物がいくつもくっついている。

背は高くなく、二階建て程度に見える。

馬車の先頭の動きを見るに、どうやら試験はそこでやるらしかった。



たくさんの豪華な馬車がひしめく臨時駐車場に、コイフ達の乗る馬車も止まった。

窓から眺めると何人ものメイドや執事を引き連れた貴族や、早馬で来たのだろう、小さい馬車から御者に手を引かれて降りる貴族が居た。

「本人以外ここから入れないのに、たくさん連れてきている人もいるのね」

「家の格がありますからな」

スチュアートが言う。

「コイフ様! お待たせしました、お手を! 」

赤毛のダニエルに手を乗せて、高い段差の馬車のステップを降りる。

買ったばかりの靴が石畳を、こつんと叩いた。

「合格、お祈りしております! 」

「ありがとうダニエル、世話になったわ」


メイドのブランシェと外交官のスチュアートも降りて見送ってくれる。

「コイフ様、合格を信じておりますわ」

「コイフ様、ご健勝をお祈りしておりますぞ」

「ありがとうブランシェ、スチュアート、元気でね」


何故ここで別れの言葉なのか。


外交官のスチュアートは、もう既に合格した旨が書かれた手紙を持っているし、コイフの荷物も行李ごと馬車に積まれている。

つまり合格になったら手紙だけがワイバーン便に載せられ、不合格になったらコイフがワイバーン便に載せられるのだ!


コイフは笑顔でふたりに手を振ってから振り返って真顔になった。

「この試験、負けられないのよ…!」

職員達の誘導の元、コイフは魔法学校の門を潜ったのだった。




「えっと、人が多い方が一般受付、ドレスを着ている人が多い方が貴族受付…本当なのよ、ドレスに礼服なのよ…わたしカジュアルすぎたかしら? 」

カーテンドレスのコイフはとにもかくにも貴族受付であろう方に並んだ。

しばらく待って、すぐにコイフの番が来るのがコイフには驚きだった。


受付の職員が「失礼ですが身分証をご呈示ください」というと貴族のご令嬢ご令息達が不機嫌になるのもコイフには信じられなかった。

コイフは馬車の中でスチュアートに渡された本形式の身分証をそのまま渡す。

「コイフ・東兎人国ひがしうさひとくに王女様ですね、お待ちしておりました、5番の教室にお入りください」

そのまま身分証を返されるのでコイフは笑顔で言った。

「寒い中ありがとうございます、一層の励みになりますわ」

職員はぽかんと口を開いてから「あ、ありがとうご、ざいます!」と言って笑顔になった。

コイフは、やっぱり笑顔には人を笑顔にするのパワーがあるのだと思ってとてもうれしくなった。




昼の高い光が射す廊下を、身分証とクッションを片手にゆっくり歩む。


まだ試験まで時間があるし、お手洗いに行きがてら少し校内を観ようとコイフは歩いていた。

「教室は大きいのね、それに清潔だわ」

壁も窓も造りは単純でどこかにでも同じものがありそうな施工だが、廊下に敷かれた絨毯は年季が入っているのに清潔だ、コイフはとても気に入った。

「清潔なのは良い事だわ! 」

お手洗いも清潔で、というよりあまり誰も使っていない様に見えた。

東兎人国のトイレとは違い、おが屑や藁に落ちる音も匂いもしない。

不思議だわ、どうなっているのかしら?と思いながらコイフは便器の蓋を閉めた。誰かに聞いてみたいけれど誰も来ない。

「人国の貴族はお手洗いもひとりで行ってはダメなのかしら? 」

コイフは見る物も無くなったので大人しく試験の教室に入った。




試験会場を見渡す。

(やっぱりフィーとは別の会場なのね)とコイフは思った。

もう半分ほど席が埋まっていて、色々なヒトが座っていた。

もこもこに着ぶくれている鱗の人や、見た事も無いほどきれいなドレスを着ている人、蹄のある人や、体が燃えている人もいた。

その人達を見ていないふりをしながら、コイフは一番前の席に着く。だって背が低いのだ。

机の上には指定された筆記具がおかれている。(万年筆だわ! これで試験を受けるのね)コイフはちょっとカッコいいオトナアイテムに心を弾ませた。



試験会場は1人にひとつ長机が与えられ、隣や後ろとの距離が離れていた。


コイフは (受験と言ったら円状の階段みたいな部屋! )と前世の記憶で思い込んでいたが、石造りにセメントを塗った四角い広い部屋であった。

(少し冷えるのよ、なんでみんなドレスで来ているのかしら? )

コイフは自作のカーテンドレスの胸元、自分のマフに埋もれて暖を取った。



ガチャリと扉が開き、職員が室内に入って来て俄かに緊張感が増す。

時間になると扉が閉められた。

「試験を開始します」

問題が試験官によって配布される。

「はじめ! 」

コイフは思った (なんだ、満点とれちゃうのよ) と。






「一般受付はこちらです! 押さないでください! 」

とフィオナは揉みくちゃの人の列の中にいた。

(うう…満員電車みたい…暑いし臭い! )

フィオナは風魔法を使いたくなったが耐えた。

(こんな所で悪目立ちしたくない~)


受付の職員が「身分証をご呈示ください」と叫んでいる。

フィオナはゴールドパスを人込みから受付に提示した。

ポンと判子が押されて「はいどうぞ! 」と奥に流された。

(チェックがザルじゃん~…私には得だけど)

流れで門を潜り、揉みくちゃにされた服を整える。

ウールコートの下はいつもの綿シャツに厚手のパンツ、皮のワンピースだ。

(そういえば貴族の人達はこんなに寒いのにドレスだったなぁ~コイフもドレスなのかな)

フィオナは門を特に感慨も無く通った。




廊下を進むと、順に試験会場に割り振られる。

フィオナが入ったのは広い体育館の様な場所だった。

列が縄で区切られていて、どうやら並んだ順に魔法を披露する様だ。

(懐かしい、この縄TDLみたい! )とフィオナは静かに興奮する。

生前は年パス会員になりたい人生だったのだ。




奥に魔法使いの先生とみられる男性が静かに座っている。

大きな試験会場が人でいっぱいになると入り口が閉められた。

代わりに奥にいる魔法使いの先生によって出口が開けられた。


「試験を開始する、こちらに順に5人ずつ並ぶように」

奥から3人試験官が入って来て、4列が形成される。

(一気に20人か)フィオナは前の列をなんとなく見るが20人づつでもフィオナの番はまだかかりそうだった。


「魔力操作の実技試験! 炎弾を5分保ってから的に当てろ! 」

フィオナとは因縁の深い炎弾だ。

「はじめ! 」

後ろの方にいるフィオナは試験の様子を眺める事にした。




(結局こんなのはパフォーマンスですよ)

試験の順番が来たフィオナは、炎の大道芸人になったつもりで両の手に丸い炎のボールを作った。


なんかめっちゃ大きい炎の玉を作っている人がいて、「おお! 」とか「すごい魔力量だ! 」などの声が聞こえていたが、フィオナは、「あれ、大きい方が点が入るんですか? 」と思わず試験官に聞いてしまった。

「いや、合否だけだから点とかは無いけど…」と試験官の言葉に(やっぱりただの魔力量アピールか)と思ってしまったのだった。


(ならいいか、悪目立ちしたくないし)とフィオナはお礼を言ってそのまま炎弾を保ち続けた。


「放て!」

5分経って魔法の先生が許可を出したので「投げまーす」と言いながら目の前の的に当てた。

コイフのアドバイスに従って声を出してみたのだ。

例のめっちゃ大きい炎の玉の人の方からはドカーンという迷惑な騒音が聞こえた。



合格者だけが試験会場に残されて、がらんと会場が広くなる。

(えぇ~こんなに落ちるもん⁉ )フィオナはドン引きした。


「次は的当ての試験だ、一定の指示のある的が現れたら指示に従って倒せ! 」

パコ、と見本に立てられた的には、青色で「氷」と書かれていた。

(なるほど、氷で倒せって事か)



「開始!」

と魔法の先生が言った瞬間足元に魔力の腕が現れた。

「うわぁ! 」「なんだこれ! 」などと悲鳴が聞こえる。

瞬間パコ、と遠くに的が現れる。

黄色で「雷」と書かれていた。

「投げまーす」とフィオナは足元の手を避けて雷の槍を投げつけた。

こんなもの魔力の目で見れば問題無く避けられるのに、受験者の一部は大騒ぎだ。

またパコと的が上がった。

次は茶色で「泥」である。

「投げまーす」


フィオナは難なく合格した。


また試験会場から人が減った。

フィオナは本気でドン引きし始めた。

(えぇ~だって、自転車免許くらいのストレステストだったよ? こんなに落ちるもの? )


「最後の試験だ! 光を灯し続けろ! 」

先生が言うとすべての窓が閉ざされ試験会場が真っ暗になった。

「初め! 」

(わー真っ暗! さっきの炎は持久力の試験じゃなかったんだ)とフィオナは思った。

残った受験者は「光よ! 」とか「ライト! 」とかいって手元や己を光らせ始めている。

(やっぱり何か言わなきゃいけないんだな…しゃーなし)と無詠唱派のフィオナは諦めた。

「灯しまーす」と言って光を灯した。

いやまさかこの試験が1時間かかるなど思いもせずに。


最終的に試験会場に残ったのは60人程度だった。


「次は筆記試験になる! 」と試験官の先生が合格者を集めた。

(よーし! 受かるぞ! )フィオナは気合を入れた。






「そこまで! 」

といわれてコイフはペンを置いた。

見直しも解き直しもバッチリである、コイフは自信満々で試験を回収された。

(とってもよくできたのよ! きっと合格点だわ! )

コイフはハラハラしながらも確信もしていた。

試験官の先生が何かの魔法を使って一瞬で試験の丸付けをした。

「全員合格! 次は実技です! 」

コイフ達は試験官の後に続いて教室を出た。


実技で合格者が3割にまで減らされるとはこの時のコイフは想像してもいなかった。






「試験終了! 最後は面談です! 」

コイフもフィオナもぐったりしていた。

コイフは実技試験の慌ただしさに、フィオナは筆記試験の難しさに、だ。

お互いにお互いを探して部屋を見渡すが居ない。

それもそのはずで、貴族と一般は部屋が完全に分けられているからなのであった。


最後は10人ずつに分かれてのグループ面接だ。

種族や出身は出来る限りバラバラにしてある。

なので話したこともない種族と一緒になったコイフは楽しみでわくわくしていたし、反対に人見知りのフィオナはげんなりとしていた。


面談では『言葉が通じて、一般的な受け答えが出来るかどうか』を見るだけの様だった。

それこそ名前や自己紹介、出身地、志望動機などが聞かれた。

コイフはグループの話を楽しそうにキラキラした瞳で聞いていたし、森の谷間村とアントノフカしか知らないフィオナも、思ったより楽しんで他国の話を聞いた。



「面接番号10番、何故君は変装魔法を用いているのか」

面接官が聞いてきた。

10番とはフィオナの事だ。


(やっぱ気付いたか)

変装魔法は初めから疑っている人からはバレやすいと養父レギアスから伝えられていた。


「生まれつきの過ぎたる容姿で人様の気分をわずらわせない為です」

用意しておいた台詞を出す。

「容姿? 」

「ここでお見せしても構いません」

フィオナは同じ受験生から見えない様に後ろに立たされた。

そこで変装魔法を解いた。


「…! 」

息をのむ試験官たち。

茫然と見惚れるもの、理解が出来ず引き笑いをする者、三者三様だ。

誰もがその美しさに一時、正常な理性を保つ事が出来なかった。


数秒後試験官たちが我に返る。

「…宜しい、その姿では苦労も多いだろう、変装魔法を戻して席に着きなさい」

「はい、ありがとうございます」

言ってフィオナは席に戻り、他の者へ質問は移行していった…




最後に合格者は一堂に部屋に集められる。

そして一枚の上等な羊皮紙が配られた。


『自己責任書

本学校に入学する事は本人の意思であり、授業等でいかなる危険があろうとも、教員、職員、家族は責任を負わない』


といったとんでもない文章だった。


署名をすると、紙が青く光る者と赤く光る者がいた。

「赤く光る者は再面談とする! 青く光る者は合格! 試験官に続いて退出するように! 」

と魔法の先生が言った。

青く光る自己責任書を持ったコイフは慌てて列に並んで着いて行った。

もちろんフィオナの自己責任書も青く光った。



退出した先はやはり貴族用と一般用で分れていた。



再面談が終わるまでコイフもフィオナも大変暇だった。

再面談が終わらなければ合格発表は出ない。

その間に学校の中を散策しようと思い立ったのは偶然だったのか。

コイフは左回りに、フィオナは右回りにテラスを散策した。

中庭の緑が映えて綺麗だ、降りてみようとふたりは思った。

左右対象にある正反対の階段から庭に降りた。



吹き抜ける風が心地いい。

低木、柊や椿、見た事も無い草花、いろんなものが花壇に咲き誇っていた。

灰色の石畳をコツコツ音を立てて歩いてみる。

日は少し傾いて、プリズムが木の葉越しにきらりと見える。

朝の寒さも和らいで、試験に興奮した頭に外気が触れて気持ち良かった。



あたたかい木漏れ日に照らされて、コイフは思わず、大好きな歌を口ずさんだ。


「けせらせらー♪

わっれば、うぃるびーうぃるびー

だ、ふゅーちゃならうす、とぅしー

けせらせら♪

わっっうぃるびーうぃるびー♪」



未来はまだ、わからない。なんて受験生の身で、不吉だろうか。



ガサリ、と庭の茂みが揺れた。

コイフが振り返るとフィオナがこちらに駆け込んで来た。

「コイフ…? 」


フィオナが反対側からザクザクと芝を踏んで近づいて来る。


「フィーたんなのよ! よかった、会えたわね! 」

突然、フィオナがコイフを強く抱きしめた。

コイフの足が宙に浮く。


コイフを抱きしめるフィオナの口から、11年ぶりに聞く日本語が飛び込んできた。

コイフはそれを最初理解できなかった。

それは前世のコイフの名前だった。



コイフは意味を理解してハッとした直後。

目がうるうるとうるんで、涙が溢れて溢れて止まらなくなる。


「やっと、やっと会えたのよおぉ~!!! 」

コイフも11年ぶりに親友の名前を口に出した。


「なんだよその喋り方~! 兎違いだと思ったじゃん! 」

「こっちだってそうよ! 貴族じゃないし、魔法も特別上手くないし、世界一の美女でもないじゃない! 」

ふたりは抱き合ってわんわん泣いた。

いつまでそうしていただろう、木漏れ日は夕日になって、そうしていつの間にかふたりは笑っていた。





魔法学園の鐘が鳴る。

合格発表の鐘だ。


「見に行こフィー」

「うん行こう、コイフ」

スッキリした顔でお互いを見つめるコイフとフィオナは、あの日のように手を繋ぎ合っていた。




「合格発表まで別々なんだ、徹底してるな~」

「貴族と平民で言い聞かせる事が別なのよ、きっと、わたしも落ちてたら国に強制送還なのよ」

「ねぇ、国ってどこ? 」

東兎人国ひがしうさひとくになのよ」

「やっぱりか~! 」

「じゃあまた後でね、フィー」

「また後でコイフ、絶対合格しててよ~」

「まっかせるなのよ! 」

コイフとフィオナは廊下で正反対の方向に分かれた。

きっと受かっている、大丈夫。

だって11年間一生懸命頑張ってきた。

会うために頑張ってきた。


コイフは合格者一覧の前に立つ。

名前は当たり前のように書いてあった。

合格証書を貰って、係員にお礼を言った。


窓から手を振るとメイドのブランシェと赤毛のダニエルが、コイフの行李を寮に運ぶ為に馬車から降ろす寸前だった。

入学の手続きがあるので、貴族についてきた使用人達にもいち早く合格が伝えられるからだ。


「よかった、わたしここに居られるのよ! 寮に入って学んで! そしてフィーと! 」


「「一緒に居られる! 」」


反対の廊下から駆けてきたフィオナと抱き合って、くるくる回ってふたりは笑った!

一章終了です、次回は3月1日から連載再会します。早まる場合Twitterでご報告します→ https://twitter.com/usagihimeha

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