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➄稼げるようになる、学友

次回は1月14日に更新します

フィオナ➄ 3歳 稼げるようになる


(ヴェラママ、レギパパ、今日は聞いて欲しいお話があります)

「なあにフィーちゃん」

「相談事? 」

レギアスとヴェラが作業の手を止めて、ダイニングテーブルにつかまり立ちするフィオナを見つめた。

フィオナは深刻そうな表情だ。



(兎になった親友を探したいんだけど、手掛かりが一切ない! )

「うーん、野生の兎ではないだろうね、野生の兎だったらとっくに死んでると思うよ! 」

(えっ野生の兎の寿命ってそんなに短いの…? )

「寿命と言うか、食物連鎖ピラミッドの下の方だから食べられて死んじゃうというか…」

レギアスはフィオナの剣幕にシュンとする。


「その間ぐるぐる兎に転生できるとは思えないわよねぇ」

ヴェラも申し訳なさそうに言う。

(親友は飼い兎が大好きで、でも病気で飼えなくって…、あの子自身は歌や踊りが好き! それからオムライス…卵料理なんだけどそれが好きで、可愛い物が好きでそれから…)

思った以上に親友の特徴が思い浮かばないことに悲しくなってくる。

今の観察眼が前世あったなら、もっとあの子の事、わかってあげられたのかな…?



「逆に向こうがフィーたんの事で知ってることは無いのかい? 」

(え? )

フィオナは戸惑った、考えた事も無かったからだ。


(えっと、転生の時に言ったのは、美少女で、金持ちの貴族で、魔力がいっぱいあって、魔法が使えて、恨まれなくって、あとドラゴンを食べたい…とかかな)

ロード夫妻は爆笑した。

「ド、ドラゴンをた、食べたい、っひひ、お腹痛い、フィーたんは本当に規格外だね、ひっひっ」

「んンふ、ふふ、ドラゴ…ああだめ改めて聞くと面白くって笑っちゃう、うふふ、きっと叶うわよフィーちゃんだもの」

(ちょっと! 笑わないで! 恥ずかしいんだから、あの時はまだ何もわかって無かったの! )



ロード夫妻はひとしきり身悶えたあと、息を整えるためにお茶を飲みながら言う。

「ということは、だ、フィーたんの親友は、フィーたんが『ヒト族の貴族の美しきご令嬢になっている』と考えているわけだ」

(? なんで? )

「金持ち貴族っていうのはね、ヒト族と魔族にしか居ないからだよ、更に魔族はドラゴンを食べない! 」

レギアスは言った端からまた笑い出した。

聞きながらニコニコしていたヴェラも言う。

「それにフィーちゃんの世界にはヒト族しか居なかったんでしょう? 必然的にそう考えると思うわ」



親友が野生の兎になっていたとしたら友達にはなれないし、出会う前に死んでいる可能性が高いから、そしたらあのうさんくさい神様の約束破りだ。

もしあの神様が自分と同じように彼女の願いも全部叶えているとしたら…。

(健康な兎人になってる可能性が高いって事? )


「そう! ついでに僕はアントノフカにあった『雪兎人国ゆきうさひとくに大使館』から資料を取り寄せました~! 」

じゃ~ん! とレギアスが書類の束を取り出した。

(ええ! なにそれ)

「昨日届いたんだけど見てよ」

レギアスが広げたそれを、ヴェラが順に読み上げる。

「どれどれ? 雪兎人族ゆきうさひとぞくは白い毛並みを持った神秘的な美しい一族です、ですって、ダッチ柄は居ないのね」

大兎人族おおうさひとぞくは逞しく凛々しい一族で、暑い国に住んでいます」

兎人族うさひとぞくは特に優れた所はないものの、皆可愛らしく、楽しい一族です」

(…)

「…」

「兎人族なんじゃないかしら? そう仮定した方が早そうよ? 」

頬に手を当てて、首を傾げながらヴェラが言う。



レギアスが椅子から立ち上がった。

「よし、仮にフィーたんの親友が兎人族だったと仮定しよう! きっと彼女もフィーたんを探しているだろうね! 」

「そして彼女は、フィーたんが『強い魔力を持った』『ヒト族の貴族の美しきご令嬢』になっていると考えるわけだ、さぁ彼女はどうするだろう? 」

変なポーズをしながらフィオナをビシッと指さす。

(あ、私と一緒だ! 人族の国に行こうと思うよ! きっと! )

「そうね、私もそう思うわぁ」

とヴェラが相槌を打つ。


「まぁ何兎人族でもいいけど、ヒト族の、魔力の強い貴族の子供が集まる場所は決まってるんだ」

(えぇ! それどこ⁉ 教えてレギパパ! )

「ふっふーん、人族領で王様が住む国、王都『メニード』の城下町にある『魔法学校』だよ」

「前にフィーちゃんが住んでた町ねぇ」

レギアスが壮大にドヤった。


(えー! そうだったの⁉ 前住んでいた町の方が近いわ学校はあるわで……まって、もしあの神が約束を守れるように私達を配置するとしたら…)

「フィーたんの親友は『東兎人国ひがしうさひとくに』にいる可能性が高いわねぇ」

ヴェラが資料の束を淡々と捲る。


「東兎人国から王都までは2日かかるかかからないかの距離よ、それにここを読んでレギアス」

「なんだいヴェラ? えーっと……兎人は例外なく1歳から8歳までは義務教育で教育施設の寮内で育てられます…だって」

(つまり8歳までは町中も歩き回らないってこと⁉ )

「そういうことみたいだねぇ」


フィオナはへなへなとその場に座り込んだ。

(じゃあまだあの子は学校の寮にいて、どこにも行かないんだ…よかったぁ…! )


兎人うさひとの成人は10歳って書いてあるわ、もしフィーたんと同じ考えなら、働いてお金を貯めて王都に行こうと考えるんじゃないかしら」

「もし魔法が得意でなくても、魔法学校に行けば貴族の噂くらいは手に入るだろうしねぇ、僕なら魔法学校に就職しちゃうなぁ」

ふたりはフィオナにお茶やおやつを渡して、背中を撫でてくれる。

フィオナは泣きたいくらい安心する。


「逆に言えば、東兎人国にいなかったとしても、10歳以後に居もしない『フィーたん貴族令嬢』を探して魔法学校に来る可能性が高いって事だ」

「まぁ! よかったわねフィーちゃん、魔法学校の入学資格も就職資格も11歳以上よ」

(11歳までは猶予がある…? )

「そう思うわぁ」

ヴェラがにっこり微笑んだ。



(でも、でも、もし兎人じゃなかったら⁉ 野生の可愛い兎だったり、飼い兎だったら⁉ 学校に行く前に死んじゃうよ⁉ もしあの神様が約束を破ってたら⁉ どうやって出会えばいいの? )


「フィーたんが魔法使いになって探しに行くしかないじゃない」

レギアスが、さも当然と言わんばかりに言った。

「フィーたん、何も始める前から不可能な理由を探すのは悲しい事だよ、たしかにそのカミサマ? ってやつは滅茶苦茶怪しいけどね」


「そもそも野生の兎や飼育? されている兎さんだったら会うのは無理って最初に仮定したでしょう? 」

ヴェラがフィオナの髪を撫でながら言う。

「フィーちゃんはその神様にお願いした通りに産まれて来られたんでしょう? ならその子だって約束通りに産まれてきている可能性が高いじゃない」

「それならきっと、フィーちゃんはその子に出会えるはずだわぁ」


ヴェラにぽんぽんと抱き締められて、フィオナはポロポロ涙をこぼした。

(本当にそうかなぁ…本当にそう思う? )


「そう思うよ」

「えぇ、きっと会えるわ」

「そしたら家に連れておいで、4人でパーティーしようよ! お酒とお菓子とお茶とご飯と…えーっとおむらいおす? だっけ? 」

レギアスが言う

「それは良いわね、賛成だわレギアス、フィーちゃんはおむらいうすの作り方教えてね」

フィオナは泣きながら笑った。

(オムライスだよ、レギパパ、ヴェラママ! ありがとう! )



フィオナは何かを決意したように両の掌を握った。

(よーし! 私王都の魔法学校目指します! )


***



親友のあの子はきっと11歳で王都の魔法学校にくる!


目標がはっきりしたフィオナは気持ちが晴れやかになり、毎日が生き生きしだした。


(目標は11歳で王都の入学試験に受かる !)

やるべき事わかってれば後はそれに向かうだけだ!


フィオナはノルに連れられて、双子コーデでミアと一緒に元気に幼児学校に登校していった。




その後のロード家にて。

「フィーちゃん最近行き詰まってた感じだったけど、元気になってよかったわね…」


「そうだねぇ…でもそうすると…フィーたんが家から出ていっちゃうよう! 」


レギアスがぶわっと綺麗な涙を流し出した。

ヴェラも涙をハンカチで拭う。


「うっ…寂しいけど、また帰って来るわよ…」

ヴェラがレギアスをハグした。


「ヴェラ~寂しいね~」

「ほんとね…っこれが子供が旅立つ親の気持ちなのかしら…」

「きっとそうだよ~わぁ~ん」


涙を止めない大の大人が2人してメソメソ泣いた。


その日世界中に昼夜雨がふりつづけたのだった…。


***


フィオナは毎日魔法の目で自分を見る訓練を続けていた。


結果、魔法の天才として造られたフィオナは、魔力と魔体の見分けが付くようになった!


それは寝る前に魔法の目で自分を見た時の事だった。

(今日は疲れたなぁ、めっちゃ眠…でも訓練しないと…)

半分眠りかけながら魔法の目で自分をぼ~と見た時の事だった。


にゅっ



(ん~? )

フィオナの肉体から魔体が抜け出た気がした。

(いやいや肉体から魔体は切り離せないし…)


にゅ~ん

(んん~? )


やっぱり肉体から魔体が伸びている。

魔体は一部が伸びた餅みたいに伸びていってる。


(やっぱ伸びてるなぁ…そっか、千切れないけど、魔体って伸びるんだなぁ…)

(良かった、ついに見付けたぞ~…)


にっこり達成感と共にフィオナは眠りに落ちた…





その翌日。

朝フィオナはパチリと目覚めた。

(あれ夢だったのかな!? )


急いで魔法の目で魔体を確認した。

(伸びろ~伸びて~)


昨夜の状態を再現するように務めた。


(何か眠すぎてトランス状態みたいになってたよね、頭をぼんやりさせて…あんま力まないで~)


にゅっ


昨日ほどではないが、ちょっと魔体が伸びた。


(出たーーーーーーー!!!!!!!!!!!! )


にょ~ん

長さ80cm幅30cmほどの魔体が餅のように伸びている。

わずかにフィオナの意思にそって伸びてくれているようだ。


(…右)

右へにょ~ん


(左)

左へにょ~ん


動きはつたなく少しその方向へ触手は向かおうとしていた。


(これ…魔体、魔体だ…)


触手や伸びてきた場所からは魔力である力が湧きでているのを感じる。


体中を流れる霧のような水ような魔力と違い、それが湧き出す魔体は確かに命の源然としていた。

(凄いエネルギーを感じる、動物みたいに生きてるみたいで意識がありそう)


魔体は何重にも膜で覆われ、その中央で眩く光っている場所こそ精神の核である事が分った。




にょ~んと伸びるのはあくまで魔体の層の部分だけのようだ。

精神の核は肉体から決して離れないように結びついているようだ。


腕近くの層の部分をみると針でさした痕のように少し解れていた。

表面は塞がっているのが解る。

レギアスが治療してくれたからだろう。


そして…魔力とは別の何かで出来たものが、精神の核と混ざりあっていた。




「レギパパヴェラママー! 」

その頃には自室で1人寝出きるようになっていたのでフィオナは自室から出て夫妻の寝室へドタタタと向かった。


ドアをノックして「おきてる? 」と声をかけた。


「起きてるわよ~フィーちゃんこっち」

台所からヴェラの声がする。


「ヴェラママはやいね! おはよう! 」

「はい、おはようフィーちゃん」

ヴェラは朝ごはんの仕度をしていた。


「フィーたんおはよう~」

外物置からレギアスがやってきた。

「レギパパおはよう! 」


「ねぇふたりともちょっとこれみて! 」

フィオナがにょ~んをみせた。


「あら~フィーちゃん器用ねえ」

「わーうにょうにょしてて面白い」


「これ! またいのそうだよね! 」

「だねー! フィーたんわかったの? 」


(わかった、どっちも魔力で出来てるけど、性質が全然違う! あとここの光ってるとこ! これが魔体の核っていうの? 一番大事な所だよね? )


「わーそこまで解るようになったの? 成長はやいねぇ! 」

レギアスは驚き嬉しそうだ。


「ちがいがわかったら、まえよりよくみえるようになったよ」

この世界の不思議にふれてフィオナは興奮している。


「そう、それが一番大事な所だからね、間違っても攻撃したり外そうとしちゃ駄目だよ」

レギアスが、かがんでフィオナに説明した。

「しない! ぜったいしない! 」

フィオナは大きく頷いた。


(でさ、この核のとこ、何か混じってるよね? ヤマネちゃんにはなかったから、病気かなぁ? )


「フィーたん、病気じゃないよ」


レギアスがうーんと悩んで

「それは、多分フィーたんの前の世界の命だねぇ」


「まえのせかい」


「前の世界には魔力がなかったんでしょ? でもこの世界の人間は魔力がないと生きていけないから」


「あーだからまたいの、いのちとまじってるかんじなんだ」

「そういう事だねー」



(はーなるほど…)

フィオナは府に落ちた。

(良かった病気じゃなくて)


おそらくこの世界に転生させる為に、あのうさんくさい神様がこれしてあれしたわけなんだなとフィオナは思った。


「フィーたん訓練頑張ったし、これプレゼントね」

レギアスが包みをフィオナに渡した。

「デザインは私が考えたのよーブレスレットよ♪」

ヴェラが微笑む。


「ブレスレット? 」

幅2cmほどのリング部分は布とゴムのような伸び縮みする不思議な素材で出来ており、素朴なクリーム色で大抵の服に合いそうだ。


ブレスレットはフィオナの左手首にぴったり収まった。

窮屈な感じはしない。それに軽くて付けてることを忘れそうだ。


リングの一部に飾りが縫い込まれており、手の甲の真下に位置を調整した。


飾りは金属の窪みに平たく丸い宝石が三つ並んで嵌め込まれており、そのまわりにも布を絞った素朴な飾りが付いている。

うっかりブレスレットを壁にぶつけてもなかなか壊れないだろう。


「身に付けとけば何処でも良いんだけどね」

レギアスが言った。


「その宝石今は黄緑色でしょう? 魔力に反応する素材なんだよ」


フィオナがみると確かに淡く健康的な黄緑色をしている。


「装備してる人が体調不良になるほど魔力が枯渇すると赤くなってくるから、お守りとして使ってよ」


「…わかった、ありがとう! 」

自分の為に作ってくれたブレスレットは素敵で、フィオナは嬉しかった。



***



学校から帰ったきた夜。

魔体と魔力の違いが解ったフィオナは、さっそく魔石作りの練習を再開した。


(ようは魔体を傷付けないように魔力だけ取り出すのよね、そして魔力は肉体の生命維持にも使ってるから、余ってる分だけしか手を付けないように気を付ける)


フィオナはプレゼントされた左手首のブレスレットを見た。宝石は黄緑色だ。

そして魔法を使う時の感覚を研ぎ澄ませた。


体中の魔力が血流のようにめぐっていて、有り余ってるのがわかる。


一部を開けて宝石の回りに結界を作る。

空いた所に魔力だけ通すよう念じてつくったフィルターを付ける。


そこにフィオナは直接触れながら魔力を流し出した。

(変に念を入れて魔力ガスが混じらない様にしなくちゃ)


以前よりずっとスムーズに魔力を注ぐ事が出来た。


「できた! れぎぱぱ! 」

「どーれみせてー」


フィオナは以前より圧倒的に効率よく魔力を注ぐ事が出来るようになっていた。


「これなら人口魔石作り始めて問題なさそうだね、さっそくやってみる? 」

「もちろん! りえきたくさんだしたいなー! 」


フィオナは目をキラキラさせながらレギアスから人口魔石の容器を受け取った。

「容量は宝石の時とほとんど変わらないからやってみて」

「はい! 」


フィオナは幼い体で休み休み頑張った。

一度に20分くらい集中して休憩、また作業開始する。



最終的にフィオナは1時間に8個人口魔石を作りことに成功した。


「良いね、人口魔石の容器の値段を引いて8割利益が出るよ」


「じんこうませきのようきはどうしてるの? 」

「魔道具専門の雑貨屋で買ってるよ」


(ほうほう! 8割利益が出るんだね、相場を聞いて計算すると日本円で2,000円の利益! 8個作ったから16,000円の利益…)

フィオナは金勘定してテンションが上がってきた。


(これ毎日やれば暮らしに困らないんじゃない? )

フィオナはレギアスに聞いた。

「そこそこ良いと思うけど、生活で一番使われてるのはこっちの、倍の大きさの魔石の方なんだ」

レギアスが10センチ大の魔石の容器を取り出してきた。


「次回からこっちに挑戦してみるかい? やる事は一緒だけど手間と魔力量も倍かかるよ」

「ねだんは? 」

「倍に少し色が付いたくらい」

「やります! 」


こうしてフィオナはお金を稼げるようになった。

名義はロード家として売りに出し、フィオナが魔石で稼いだ利益はロード家の貯蓄に入れてもらうようレギアスに頼んだ。

「お小遣いにしてもいいのよ? 」

ヴェラが言う。

(普段からお世話になってるし。独り立ちして稼ぎが出たらその分は自分のお金にするよ)


産まれて初めてお金になる作業が出来て、フィオナはクスクスご機嫌になった。

(自分で稼げるって嬉しいー! )


_________

コイフ6歳 ⑤学友



夏が来た。


舎生活にもすっかり慣れたコイフは、今朝も元気に同室のクロエと外に飛び出した。

時刻は日の出直前。

集合場所は全員の舎の中間地点、案内板がある桜並木の下だ。


「今日も稼ぐのねー! 」

ロビンはスカーフをキリリと頭に巻いてやる気満々だ。

「おー! なのさー! 」

クロエも手袋を付けて気合いを入れる

「やるのです…! 」

ミミはキリリと背負子を体に結い結んだ。


「あ、オオグイケムシなのよ! 二束三文だけど無いよりマシなのよ」

コイフはまだ出発もしていないのに、足元に落ちているオオグイケムシを掴み箸で大ビンに詰めていく。

桜の木を食べてしまう、大人の足程もある毛虫だ。よく見るとそこここにいる。

「コイフはよく触れるのです…ミミにはむりぃ…なのです…! 」

みんながあははと笑う。

ミミは食べられない虫が苦手なのだ。


オオグイケムシは塩ゆでして潰して粉末にすると、冬の作物の肥料になるのだ。

また、毛と皮を剥いで酒に漬ければ滋養強壮酒にもなる。

「ミミはもう茹でたやつ買うから良いのです…! それに虫酒はあんまり好きじゃないのです」

「じゃあ茹でてミミに売りつけよーなのねー! 」

オオグイケムシ採りにロビンも参加した。


現在進行形で酒造免許の資格取得の勉強をしているミミがクロエの後ろに隠れる。

「作る時は買ってあげるのです、でも今じゃないのです」

ミミが歯をいーっとして見せる、ロビンもいーっとし返して、全員で笑う。


今日の目的地は北の林エリアだ。


桜並木の始点、詰め所にいる警備員さんにクロエが一枚の布を出す。

「おはようなのさ、おっちゃん! 」

布にはしっかりノリが塗られて、厚紙に張られている。

「おはようみんな、はい、薬草学のフィールドワークね、偉いねぇ毎朝毎朝」

「楽しんでやってるのさ! 」



クロエは要領が良い。

実際薬草を取るにあたって何が起きるか。

またどんなものがどんな品質でどこに生えているか調査する、と教授に申請を出して、5人でのグループワークの認証をもぎ取ったのだ。

よってコイフ達は、この春から夏の早朝を授業として金策に使うことが出来る。


「背負子とシャベルはいつものとこな」

「はいなのさー! 行ってきまーす! 」

「「「行ってきまーす! 」」」

4人の声が合った。


全員の背負子もシャベルも瓶も摘み箸も、学舎の備品で、無料レンタル品だ。

(やり手なのよ…!)とコイフがクロエを尊敬したのは良い思い出だ。

サクサク夏草を踏んで、4半刻も立たないうちに北の林に着く。

「夏草のいい香り~! 」

草木が生い茂る瑞々しい草原、その奥に木立がある。

誰からと言うわけでもなく深呼吸をした、その足元を何かにゅるりとしたものが通り過ぎる。



「これもフィールドワークなのよ」

シャベルで一撃。

コイフは蛇を仕留める、もう慣れたものだ。


ナイフで毒腺を残して頭と胴をしっかり切り離す。

背負子に括って血抜きもする。

毒は毒で薬として売れるのだ。


「こ、こここ、怖かったのです! こわかったのです! 」

ミミがクロエにしがみついた。

「コイフはお姫様に見えないのさ」

「林の中で礼儀作法は不要なのよ」

クロエの言葉に全員で笑ってから採集を始めた。




やはりというか予想通りというか、一般的で安価な植物が多かった。

食用の植物の方が多いくらいだ。

それでも医食は同源。ずらりと並べるとなかなかの量になる。


「わぁ! シッポヤナギがあるのよ! 足元は見た? 」

シッポヤナギとは兎人の尻尾によく似たふわふわの花を咲かすヤナギで、夏が来れば散ってしまう。

今がラストシーズンの木だ。薬茶によく使われていて爽やかな香りが人気だ。


コイフの問いかけに、発見者のロビンが胸を張る。

「当然なのねー! じゃーん! 」

出てきたのはシッポヤナギに負けない程ふわふわのキノコが、きっちり布に包まれて4本。

「『淑女の手』なのさー! 」


キノコの名前は『淑女の手』、兎人うさひとの女性の手に似ているからだ。

たっぷりの胞子を出すが繁殖力が弱く、見た目の似たシッポヤナギに紛れて時折群生している。

効能は薬の防腐に、物忘れ防止、脳の活性化に、さらにスープに入れると麺みたいにほぐれて美味しい。


「高級キノコなのです…‼ 」

やったー! と四人は跳ねて、それからぐぅとお腹を鳴らす。


「おーいみんなぁー! ご飯だよー! 」

向こうから背負子を背負ったムークの姿が見えた。

「待ちくたびれたのさー! 」

クロエは転がるように跳ねて行って、また皆で笑う。


ミミは背中から木箱を取り出して、『淑女の手』を箱にしまい、ロビンに返した。

「ミミはこういう時に気が利くのねー」

「とーぜんです」

今度はミミがロビンの真似っ子をして胸を張り、また皆で笑った。



ムークが合流した。

ムークは各食堂を回って、食堂でつくってもらったご飯をお弁当箱に詰めてお昼ごはんをもって来てくれる。

最重要ポジションだ。


開けた気分のいい場所にゴザを敷いて、レポートとお弁当を広げる。

食べながらああだこうだと言い合いながら分布図を纏めていく。



「あたしばっかり簡単な仕事でいいのかなぁ」

「いいなのよ、レポートのまとめは任せているんだもの」

5人でレポートを作りながら言う。

「そうなのさ! ムークがいなきゃあーしらはどうやってご飯にありつくのさ! 」

「それに、売ってきてくれるのもムークなのです…! 」

クロエとミミの言葉に、ムークは不満そうに鼻を鳴らす。

「あたしもフィールドワークもしてみたいんだよ~だってみんな楽しそうじゃないか」

その言葉にコイフは頷いた

「なら次のお弁当係はわたしがやるのよ! 」


「えぇ⁉ コイフさん、いいの? 」

嬉しそうなムークの声音にコイフは胸を叩く。

「まかせるなのよ! 」

年上の同級生に頼られて、コイフは嬉しくって誇らしくって、思い切り張り切ってしまう。


「コイフにできるかなー」

クロエが心配そうに口元をぺろぺろと洗う。

「コイフちゃん、大丈夫なのねー? 」

ロビンも不安そうにしている。

「大丈夫なのよ! 各舎を回ってお弁当を集めるだけなのよ、わたしにだってきっとできるのよ」

コイフは満面の笑みで答えた。


日差しはぽかぽかと温かく、そろそろ換毛の時期だ。

お弁当が美味しくって、風が気持ち良い。

この後の講義の事を考えると瞼が下がりそうないい天気だ。

ふああとミミが大きなあくびをした。





元気いっぱいの平日が終わり、入浴日の午後がやってくる。

眠たい目を擦りながらコイフはひとり、貴族街へ向かう。

入り口の衛兵がコイフを見ると礼をして通してくれる。

向かうは『進学魔法塾』、ミシェル老師のお姉様が教鞭をとっている塾だ。


貴族街の一番下、半地下にわざわざ構えてある工房の、水色の木製ドアをノックする。

「ごきげんようバニラ講師」

「いらっしゃいコイフさん、今日は問題集の続きからですよ」

「はい講師、ご指導よろしくおねがい致します」


中は明るい白の漆喰と、しっかりダイアトマイトが敷かれた床だ。

半地下なのに天井に窓があり空気の循環も良い。

温かい風合いの木で組まれた床と柱が、陽光に照らされきらきらとしている。

(いい天気なのよ、今日はみんな街に糸を買いに行くって言っていたわ、フィールドワーク全日程終了のお祝いもするって…)


コイフは貴族なので塾に通う事が出来るが、平民や貧民はそうではない者が圧倒的に多い。

薬学も魔法も両方学びたいと決めたのはコイフだ。

しかし、気の良い友人たちと過ごす休日を想像するたび、コイフの白くてふわふわの胸がチクリと痛んだ。



「コイフさん? 」

バニラ講師が心配そうに見つめて来る。

「大丈夫です、立ち眩みしてしまって」

「目が慣れるまで時間がかかりますものね」

「ええ、心配をおかけしました」

真っ白なホーランドロップのバニラ講師は、ミシェル老師やクレア薬師の妹さんだ。

「では座って、今ハーブティを入れますね」

「いただきます」

広いダイニングテーブルの布張りのベンチに腰掛ける。

今日は他の塾生は誰も来ていない様だ、全員揃うと椅子が少しだけ狭くってむぎゅむぎゅになってしまうのだ。



(わたしが薬学も魔法も両方学ぶのは貴族だからなのかしら? 贅沢なのかしら? いいえ、そんなことないわ、だってわたしはこの知識で絶対にこの国を良くしてみせるし、あの子とも再会するのよ)

一緒に転生したはずの親友。

魔法が使いたい、貴族になりたいと言っていたから、きっと人国に行けば消息が知れるはずだとコイフは信じている。

(あんなにエキセントリックな親友が大人しく令嬢をやってるわけないもの)とコイフはクスリと笑った。


理不尽に未来を奪われた、けれどコイフはここで生きてる。


(みんなとだって遊びたいけど、それは平日にもできるのよ)

コイフは気合いを入れ直し、先輩たちの置き土産、過去問題集を開いた。

(待っててなのよ、わたしも一生懸命勉強して絶対に会いに行くのよ! )



「それでは、今日はここまで」

「はいありがとうございましたバニラ講師」

「暗くなる前に帰るのですよ、お気をつけて」

「はい、バニラ講師、ごきげんよう」

コイフは耳の動かない淑女の礼をとって、進学魔法塾を後にした。

空はまだ薄明るく、夕日の姿は見えない。

ぽてぽてと歩いて、衛兵さんに礼をすると門を出る。


「出てきたのです」

「怒られないかな、門の外だもんね」

「よーし、いくのねー」


聞きたいと思っていた声が聞こえた気がした。


コイフはその方向に顔を向ける。

「コイフーー!! 遊ぼうなのさーーーー!! 」


コイフは耳もシッポも思いっきり動かしてしまう!

「クロエ! ミミ、ムーク、ロビン! 」

4人は糸の詰まったナップザックを背負っている。

建物の陰から飛び出してきて、コイフはうれしくって飛び跳ねてしまう!

「みんな、どうしたなの? 」


「見てよコイフさん! あたし達糸が買えたんだ! 」

ムークがその場でふわりと回る。

「早く服を作るのです! 楽しみで仕方ないのです! 」

ミミもはしゃいでいる様だ、ぴょんぴょんとステップを踏んでいる。

「もう待ち遠しくって迎えに来ちゃったのねー」

ロビンに至っては糸玉に顎すりをしてしまっている。

「早くコイフにも見せたかったのさ! 」

クロエの言葉に、コイフの白くてふわふわの胸がじんわり温かくなる。

「そうね、はやく機織り機の使用許可を取らなくっちゃ」

コイフがそう返すと、クロエは「ち、ち、ち、」と指を振る。

「そーいう真面目ちゃんなヤツじゃないのさ、ふっふっふっ、なんとーーーー」


「お祝いに、余ったお金でおやつを買い食いするのさー! 」

「か、買い食いーー⁉ 」

初めての経験にコイフは小躍りする。


買い食いといえば、よく親友がガッコウ帰りにやっていたやつだ。

ドーナツ屋さんのドーナツを駅のホームで一緒に食べた。

あの買い食いだ!


「さー串焼きリンゴの店に行くのさーー! 」

「ミミは小麦菓子がいいのです」

「あたしは揚げた小麦菓子が好きだよ」

「干し苺ならいっぱい食べられるし、良いと思うのねー! 」

全員が思い思いの甘味を上げるのがおかしくって、コイフは笑ってしまった。


仲間はコイフをお祝いの輪から外さなかったのだ、うれしくって、もう胸の痛みも熱さも飛んで行ってしまった。


そして仲間の輪に入って、言った。

「早く見に行くのよー! 」

5人はきゃいきゃい言い合いながら市場の方に向かっていった。


結局食べたのは舶来品のマンゴーの砂糖漬けで、友達と食べるおやつは美味しくって。

何度か食べたことのあるコイフなのに、ほっぺたが落っこちるかと思ったのだった。





「♪はたをぉ~織りましょ~♪タントンタントン♪兎人のはたをぉ~♪」

機織り唄を歌いながら少女達4人は機織り機で布を織っていく。


さて、兎人の機動は早い。

ものすごく早い。


難しい整経と旗揚げという経糸タテいとを張る作業さえ終わってしまえば、あとは熟練の職人と見紛うばかりだ。

緯糸ヨコいとを目にも止まらぬスピードで経糸に潜らせ、おさでトントンと整える。

その速度は電動ミシンよろしく、少女達の「♪タントンタントン♪」の唄声の間に4列が終わっているという素早さだ。

もちろんコイフも同じ速度で織れるのだが、傍から見ると異様である。


「コイフちゃん、ここから糸の色を変えたいのねー」

「はいはーい、ロビン、糸は用意してあるなの? 」

「もっちろんなのねー」

コイフは機織りの指南役として縫製室で編み物をしている、冬用のマフラーにするつもりだ。


縫製室は緑色舎の屋根裏にあった。


日当たりが良く、窓があるから明るくて、それに広い。

緑色舎は少し特殊で、結婚している夫婦が共に住んでいる舎だった。

簡単に種明かしすれば、浮気防止である。

悲しいかな、性欲の強い兎人。学びに行った伴侶が若い子に手を出してしまったなんてことになったら高等薬学舎の名折れである。



暖色の屋根の舎が男子の住む舎、寒色の屋根の舎が女子が住む舎。

中間色である緑や紫系統の舎は夫婦や、体と心の違った生徒、生活に難儀がある生徒などが暮らしている。


以上の話は、学生課に縫製室の使用許可を取りに行った時に聞かされた話だった。

ミミの容姿が可愛らしいのも女の子の格好をしているのも知っていたけど、(まさかトランスジェンダーだったとは)とミミを見ると、ミミは首を横に振った。

「ミミは違うのです、ミミは可愛くって女の子のオシャレが大好きだけど、ちゃんと性自認は男なのです、友達には絶対に手を出さないジェントルマンなだけなのです」

と否定したが、あまりにも可愛らしいため、緊急措置として黄緑色舎に入ったそうで、黄緑色舎で同室なのはミミと同じ境遇のめちゃかわ女装男子だそうだ。



なんて思い出していると、ロビンの糸の切り替えが終わった様だった。

「ロビン、洗濯すると縮むから大きめに色変えするなのよ」

「そうだったのね、忘れてたのね、ありがとーコイフちゃん! 」


「♪綺麗にぃ~織りましょ~♪タントンタントン♪私達の服をぉ~♪」

(この調子だと、秋にはお裁縫まで仕上がりそうなのね)とコイフはまたマフラーを編む作業に戻った。




そんなこんなで秋である。

エキスパートコースの課題が終わらずにヒィヒィ言っていたコイフも、ようやくひと段落し、服のお披露目会をやろうという話になった。

場所は実験棟の一室を借りて、時間は夕飯が終わってから。



「パジャマパーティーなんて楽しみなのよ! 」

「今日からあーしにもぱじゃまができるのさー! 」

寝間着のことをうっかりパジャマと呼んでしまったから、友人間はパジャマパーティーに興味深々だった。

(クロエが裁縫しているところは見ていたけど、他の皆はどうなったかしら? )とコイフも興味深々である。

ちゃんと夜通しの使用許可を取っているので堂々と玄関から出ていくコイフとクロエは、如何にも『これから実験に行きます』といった顔をして、ナップザックにこっそりお披露目する服を隠しているのである。


「わぁ! 星空がきれいなのよ! 」

「空気が涼しくって気持ち良いのさ~! 」


話ながら実験棟に着くと、何部屋かちらほらランタンの灯りが点いている。

「先輩方なのね…」

「あんまり騒がないようにしないとなのさ…」

その悲哀は数年後には自分たちも通る道という思いから、コイフとクロエは浮かれていた気持ちを落ち着けた。

静まり返る廊下からは時折(実験失敗の)悲鳴が聞こえ、コイフとクロエは粛々と歩く。


使用許可を取っていた一番奥の教室には既に灯りが灯っていて、3人の影が揺れて見えた。

「来たのさー! 」

「遅くなったのよーごめんなさいなのー」


引き戸をガラリと開くとふわん、と良い香りがする。

アルコールランプが人数分灯っていて、上にはくつくつ煮えるスープ。

「こ、これは…! 禁断のお夜食なのよ⁉ 」

「やったのさー! 」

「まだ煮えてないよー」と笑うのはムークだ。

「ムークが持ってきてくれたの? 」

「うん、夜は冷えると思ってね」

「ムーク最高なのさ! 」

瓶詰めの豆と生薬のショウガとニンニクの簡単なスープだけれど、特にニンニクのいい匂いが反則だ。

「先輩方に聞いたらみんなお夜食作ってるって言ってたから、内緒」

シーっと内緒のポーズをするムークが二人には神にも等しく見えた。


「ムークだけじゃないのねー! 」

じゃーん! とロビンがカゴを見せる。

「果物なのさー」

「もしかして温室当番だったなの? 」

コイフの問いかけにロビンが胸を張る。

「そうなのねー、うちの舎の温室は果物をいくつか貰ってもいいのね」

「それであーしたちに持って来てくれたのさ? ひとりじめせずに? ロビン良いやつなのさー! 」

「当ったり前なのね」

エッヘンとカゴを置くと今度は「さぁはやくお披露目会しましょう! 」とそわそわしはじめた。


「待つのさ、コイフが何か作ってくれるって」

クロエがナップザックから今朝の残りの堅パンを出す。

「ふっふっふっ! とくと御覧じろなのよー! 」

コイフはポケットから二つの卵を取り出す。

「卵なのね…⁉ 」

「まさか鶏舎の朝採れ即完売の…⁉ 」

「薬草で育てられた濃厚で滋養があって美味しいと評判のです…⁉ 」

ざわつく三人に今度はコイフが胸を張る。

「そうなのよ! 」


実験棚から鍋を引き出すと丁寧に灰で洗って水で流す。

陶器のパッドに卵を割り入れて、自分のナップザックから厨房の余りミルクを取り出すと卵と混ぜていく。

薬品棚から砂糖壺を出して砂糖をたっぷり拝借し、クロエが持ってきた堅パンを浸す。


同じく薬品棚から塩を頂戴するとムークが「それスープにも入れたいよ」と言い出したので一緒に使う。

ミルクのはいっている水差しに塩を入れて、ふわりと浮かべる。


ミルクが入っている水差しに蓋をするイメージで、闇魔法の重力操作で圧力をかける。

「くらえ! ダウくん直伝フロストブリザードなーーのーーよーー! 」

進学魔法舎で一緒だったフロステッドパールのダウくんの得意魔法をつかってバシャバシャと水差しを上下に振る。

「「「「おおー! 」」」」

見世物としては大いに成功しているようだ。

「まだまだなのよ! 」

吹雪に揉まれる水差しが重くなってきたら…


「ぜー…はー…バターの完成なのよ! 」

客席が沸いた。


同じ要領で鍋を浮かせて火魔法で加熱する、鍋が温まったらさっき作ったバターを敷いて、ついでに陶器製のパットから堅パンも浮かせて鍋に滑らせる。

コイフは手が2本のイメージしか持てなかったので、浮かせられるのは2つだけである、ダウくんは20個も浮かせられたのに。

それでも友人たちには楽しんでもらえているらしいマジカルクッキングは終盤を迎える。


じゅわわ、と焼き目が付いたパンを順番にひっくり返したら、砂糖壺からもう一度砂糖をたっぷりかけて…。

「フレンチトーストの完成なのよー」

お皿代わりのバランにのせて机に置く。

「わぁあ! 堅パンがふっかふかなのさー! 」

「金色のパンなのです! 」

「お砂糖が、こんなにいっぱいなのねー! 」

「ふぁぁ、バターの良い匂い…! 」

コイフは綺麗に礼をして見せて、わざとらしく言った。

「王家直伝、フレンチトーストでございます、なのよ」

拍手喝采を頂いて、(本当は前世の料理だけどきっとこの世界にもあるのよ)とコイフは思う。全員が競るように机に着いた。

「では僭越ながら…、東兎人国ひがしうさひとくに王女、コイフの名において、パジャマパーティーを開催します! 」

コップ代わりのビーカーで、ムークの作ってくれたスープで乾杯をした。


「ミミもあるのです」

ミミが果実水を別のビーカーに注いで回してくれた

「わぁ! とっても甘くて飲みやすいのよ」

「おいしい! すごいじゃないのねミミ! 」

「おかわりなのさー! 」

「んん? もしかしてこれって…? 」

ムークの言葉にミミが被せるように「早くお披露目会をしましょうなのです」と言って、ロビンが「そうなのねー! 」と一番手をかってでた。


ロビンの作ったこだわりの新しいスカーフにワンピース。

クロエの麻の寝間着と活動着のサロペット。

ムークのたっぷりと布を使ったふんわりしたスカート。

ミミの可愛らしい色組みのコクーンワンピースにみんなの端布を貰って作ったパッチワークのエプロン。

コイフは全員に手編みの毛糸のマフラーをプレゼントした。



楽しくって美味しい一夜は夢の様に早く過ぎ去り、コイフ達は…。




パジャマのまま、床で朝を迎えた。



「な…のよ…? 」

前世のコイフの勘が言っていた、二日酔いであると。



「な、なのよーーーーーー‼‼ 」

ミミが持ってきたのは果実水ではなくって果実酒だ、ミミは酒屋の息子である。

きっとこっそり漬けた自作の酒を友人たちに飲んでほしかったのだろう。


だがしかし。バレたら…むちゃくちゃな事になる案件である。



コイフは急いで全員に解毒魔法をかけてアルコールを分解する。

耐熱容器は火で洗い、汚れを炭化させて落とし、ゴミも燃やしてしまう。

窓を開けて突風を呼び込み、匂いと煙を学舎外まで吹き飛ばす。

水を桶に汲んだら水流を作り、容器やビーカーの耐久値をバフをかけて上昇させ、灰と一緒に放り込む。

全員起きた所で部屋から放り出し、風魔法と水魔法で室内を全洗浄した。


「証拠隠滅完了…なのよ…」

バタリ。

二日酔いと魔法を全力でぶっ放したせいで倒れたコイフをムークが背負い、全員逃げ出すように退散した。

コイフは高等薬学舎で平民や貧民の友達がたくさん出来た。

本当に良い友達たちで、ベッドで目覚めたコイフは幸せを噛み締めた。


(やっぱり魔法と薬学は一緒に勉強すべきなのよ、合ってたのよ)とコイフは思った。

コイフは薬学と共に、たくさんの得難い経験を得た。


ちなみにミミは翌日全員からしこたま叱られた。


結果パジャマパーティーの件はバレず、コイフ達は無事進級出来たのであった。

次回は1月14日に更新します

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