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③頑張ると約束する、はじめての街

次回更新は1月8日の土曜日です

フィオナ 2歳 夏 ③頑張ると約束する


学校にも慣れてきた、今日は中庭で自由に運動だ。


皆が遊具やおもちゃで好きに遊んでいるなか、フィオナはあるものをじっと見つめていた。

それは…猫獣人のレオ君だ。


見た目は二足歩行する猫である。

装飾と、部分部分に衣をまとっている。


レオくんは全身和毛のふわふわで、オレンジに濃いしまが入った毛並みをしている。

お目目がブルーのくりくりで、尻尾が長くて、チマチマ動いて、元気いっぱいでよく高い声でおしゃべりして…


(かっぁぁわいいいいいいいいいいいいいい‼‼‼‼ )

若猫になる前の子猫である。

フィオナよりよっぽど運動神経がよく動くものを追っかけるのが大好き。

ヒトと犬獣人が半々に混ざった見た目の、犬耳トム君とじゃれている。


「へい! れおくん、とむくん! 」

フィオナは、遊ぼうぜ! とばかりに、枝にタオルをまきつけた物をふりまわした。

最初はレオ君とトム君は夢中でタオルを追いかけまわしてくれた。

…が、フィオナの運動神経で振り回されるタオルでは速さが足りなかった。

追うのをやめてフィオナに冷めた視線を二人は送ってきた。


(ものたりないって? そうかそうか)

フィオナは枝からタオルを取り外し、魔法で宙に浮かせた。

からの高速移動!宙を飛び回るタオル。


びゅんびゅん


ぴょーん!

すごい跳躍力でレオ君がタオルをキャッチした。

切ってあるもののするどい爪がタオルを掴んだ。


「がう! ぐるる」

そのタオルをトム君が噛んで引っ張った。

2人がフィオナの前でもみくちゃしている。


(かあああああああああわいいいいいいいいいいいい‼ )

フィオナは顔面が笑顔のまま垂れた。


興奮しているレオ君の尻尾がフィオナの顔をかすった。

「ふへ」

フィオナはその尻尾を掴んでほおずりした。

すりすり

「かわいい、ふわふわ」


「にぎゃあああああああああああああああああ!!!!! 」


急にレオ君が絶叫して飛び上がり、高い場所に移動してしまった。

「なにすんの? 」といった表情で目をかっぴらいてフィオナを凝視している。


「はいはい、どうしたのー? 」

ロヴお兄さんが事態を聞きつけてすぐやってきた。


***


「はい、フィオナちゃん、レオ君にごめんなさい出来るかな? 」

「ごめんなしゃい…」


「…」

「レオ君、フィオナちゃんはもうしないって約束してくれたから、フィオナちゃんを許してくれるかい? 」

「うん…」

レオ君がうなずいた。

「良かった、はい、仲直りの握手しようね」

ロヴお兄さんは、フィオナとレオ君の手を掴んで握手させた。


「ほんとうに、ごめんなさい、れおくん」

フィオナが謝った。

レオ君はは鼻を引くつかせ、尻尾を一回うねらせた後、広場に駆けて行ってしまった。

話は終わり、レオ君はまた遊びに行ってしまった。

そしてロブお兄さんにフィオナはこってり怒られてしまったのだった。


「フィオナちゃん、相手の許可なく人の体にさわってはいけません、レオ君嫌がってたでしょ」

「はい…もうしません」


フィオナは深く反省した。


相手は地球にいた猫ではなく人なのだ。

他人に勝手に触れたり過度な接触はしてはいけない。

(前世の感覚で身を滅ぼさないようホント気を付けよう…)


以降フィオナはレオ君を切なそうな目で見つめるのだった。

勿論彼に気づかれない様こっそりと。

(もふりたい…我慢)





フィオナにとってダナン幼児学校に通う事は退屈で苦痛なものだ。

もともとフィオナは共同作業が苦手だった。

この星では産まれてこの方ずっと一人だったし、前世も社交的な方ではなかった。

そのうえ意思疎通がとれない幼児達と、一日中一緒にいなければいけない。


午前中は運動、昼食後に昼寝、午後は何かしらの製作や共同作業。


(あぁ~家でのんびり遊んでいたいよ~)

フィオナはうんざりしながら子供騙しの遊戯に付き合っていた。


(そういえば前世保育園にいた時も子供騙しだと思ってたわ)

どうやら幼児でも適当なものでは誤魔化せないようだ。

(ということはクラスメイトもつまんないとおもってんじゃね? )


フィオナは辺りを見回した。

各々が自分のペースで作業をしている。

中には何故か大泣きして保育士を煩わせている子もいた。


「うぇえぇ~んうぇえ~え~ん」

(そういえば2歳は前世ではいやいや期とかいってたな)

フィオナは耳の回りにほどよく防音魔法をかけるのが日課になっていた。

保育士の声が聞き取りずらくなるが毎日子供達の泣き声を聞き続けなくて済む。


クラスメイトの猫の獣人君が耳をペタンとさせて泣き声に辛そうにしていた。

長い尻尾はイライラしてシッタンシッタンと地面を叩いている。


(あー動物系の子は更に辛いかもね)

フィオナは辛そうなクラスメイト達に同じように弱い防音魔法をかけてあげた。


耳が楽になった事に気付いて不思議そうにしていたが、クラスメイト達はいつも通りマイペースな作業に戻って行った。

因みにその子自身がぐずり出したらフィオナは魔法を解くつもりだ。




まるっこい獣人の子供は見た目が可愛い。

フィオナにとって癒しだ。


初めの頃フィオナは失礼とは知らずに猫獣人のレオ君の毛並みを撫でたり、尻尾をすりすりしたら、嫌がって高い所に逃げてしまった。


そのあとすぐ保育士の先生に「相手の許可なく触ってはいけない」とこってり怒られてしまった。

以来獣人の子に「なでてもいい」か許可をとるようにしてるのだが、だれもかれも「いや」と断られっぱなしだ。


もふもふのぬいぐるみを撫でるのもフィオナの日課になってしまった。

(もふ禁長過ぎてペットほしくなるわ、ヴェラママに頼んでみようかな…)






(ヴェラママ、ペットとか買わないの? )

家に帰りヴェラに早速聞いてみた。


「フィーちゃん、ペットって何かしら? 」

不思議そうに聞かれた。


「…」

フィオナはペットの説明について考えた。

(あれ!? ペットって何て説明したら良いんだろ、人間意外の家族? 触れ合える生き物? あれ、ペットの定義って何だ? 犬とか飼うの夢だったんだけどな~う~ん…飼うってなんだ? 飼う…しつける? 人間意外の同じ家に住む生き物…人間が仲良くしたくて…食用じゃなくて…)

「あっ! 」

フィオナは閃いた。


(私をここにつれてきたお馬さんみたいなのの事だよ! )

「お馬さん? 昔はいたんだけどもう育てていないわねぇ」

そういえば家の庭に古い馬小屋があることをフィオナは思い出した。


「家族でも家畜でもない別の種族を家に招き入れる風習は確かにあるわね、あれって良く解らないのよね」

ヴェラは小首をかしげた。


「寒さに強いお馬さんじゃないと冬越せないから、頑丈な子に家に来てもらえないか説得してみましょうか」

(え? 馬はいらないよ)

「そう? 村の中には荷運びしてもらうために、大山羊と一緒に暮らしてる人もいるから、詳しく教えてもらったらどうかしら」


(ううん、やっぱりペットは良いや、何か大変そうだし)

「そうなのね、また何かあれば頼ってね」

「ありがとうヴェラママ」


フィオナは、自分が『家畜』と『ペット』の違いを全く説明出来ていなかったことに気が付かないまま、溜息を吐くのだった。





フィオナは、平日はダナン幼児学校に通わなければならない。

そのため、今日もフィオナは粛々と学校に通っていた。 


フィオナ達クラスメイトは保育士に連れられ午前中に街中をよく散歩をする。

その際歩きながら街の歴史や観光地の話を聞かせてもらえる。

おかげでダナン幼児学校がある町の名前がアントノフカという事を知った。


連れられたクラスメイト達は勝手に何処かに行ってしまう事もなく、意外とちゃんと集まって行動している。

他の子が遅れたりはぐれないようにフィオナは最後尾で歩いているが、保育士的にはフィオナが歩くのがおそくて遅れている状況だ。


今日は街の公園で近所のおじいさんから昔話を聴かせてもらえるらしい。




公園につくと、植木や大樹のそばなど、あちこちに妖精達が飛んでいた。

フィオナ達に気付くと近づいて周りを飛び回りはじめた。


この公園に沢山いるのは青白く光る雪の妖精だ。

この世界には緑の葉の妖精や赤い火の妖精など多数存在している。

自然や子供や魔力やお菓子、そしていたずらが好きなのだそうだ。



「かわいい子達ですね」

杖を持ったおじいさんが話しかけてきた。

「はい、今日はよろしくお願いします」

おじいさんとパルお姉さんがやりとりしている。


ミレーヌお姉さんとロブお兄さんの誘導でクラスメイト達とベンチとテーブルが並んでいる一角に座った。

おじいさんは向かい合った場所に座って話を始めた。


その間妖精は近所で実った赤い果実や白いお花を子供たちにプレゼントしてくれた。

飛びながら手や頭の上に置いて行くのだ。

フィオナは気に入られたのか沢山もらったので、クラスメイト達に分けた。



おじいさんの話はこうだ。

極寒のこの街が出来るまでには苦労が多く、いろんな人種の助けを借りて出来たのだという。

地球で言う所のデフォルト人間は毛量が少なくて寒さに弱い。

そこで毛量の多い人種から布を貰ったり生活の知恵や建造技術を教わって、協力して出来たのがアントノフカなのだと。

今でこそ交流地点としていろんな場所から人や物が行き買う大きな街になったが、昔は食べ物や住む場所を用意するのに必死だったそうだ。


話の中に出てきた『兎人族うさひとぞく』という人種がフィオナは気になった。


アントノフカでは犬と人が混じった見た目の人種や、鳥と人が混じった見た目の人種などいろんな人とすれ違う。

そんな感じで『兎人族』は兎と人間が混じった姿をしているらしい。


(離れ離れになった親友のあの子は兎になりたいと神様にお願いしてた…もしかして? )




この日学校が終わったらすぐレギアスに『兎人族』の事を聞いた。

「あぁ~いるよね、ぽわんぽわんして可愛らしい人達だよ」

(例の親友かもしれないの詳しく教えて)

「そうだね~写真とかみた方が早いかも、本屋よってこっか」

「ほんや⁉ いきたい! 」

知識とは娯楽なり。フィオナはついでにいろんな本を見て行こうと思った。


以前祭りで立ち寄ったアントノフカの商店街に向かった。

相変わらず敷き詰められた煉瓦が渋い、シックな通りだ。

(でも煉瓦道って幼児には歩きづらい~誰か端っこにバリアフリー歩道作って欲しい)

「そうね、意見箱に投函してみようか、よっこいしょっと」

ぼやいてるフィオナをレギアスはおんぶしてくれた。


「ありがと~」

足がクッタクタのフィオナはお礼を言った。

「どういたしまして」


本屋に到着し、図鑑のコーナーへ向かう。


生物図鑑を探し当てた。

レギアスがペラペラとお目当てのページを探して開いてくれた。

フィオナはお礼を言い図鑑の写真やレギアスから読み上げてもらった内容を聞く。


『兎人族』とは他の種族が呼ぶ通称で、さらに細かくいろんな人種が存在しており、民族によって名乗る名前は別にあるらしい。

凝った刺繍のワンピースを着て何か作業をしている兎人属女性の写真があった。

全身フワフワの毛に包まれており、体型も丸みがかっていて、地球で言うデフォルト人間と言うより二足歩行する大きなカイウサギに見える。


(か、可愛い…本当にこういう人達がいるんだ…)


兎人族が服や道具を使っている写真もあった。

大柄の野うさぎのような猛々しい民族から、ネザーランドドワーフのような小柄で可憐な民族もいるらしい。

大きさも様々だ。


彼らは同族で集まって暮らす習性があり、『兎人族』がまとめる町や村が決まった場所にあるそうだ。


(あの子は兎ではなく兎人族になった可能性がある…? )


神様に約束した以上いつか出会えると確信はしていた。

しかし今まで手がかりがなかったのだ。

家の近所でとれる魔物の兎は喋らないし狂暴で、何より見た目が可愛くないので友人が転生した種族ではないとわかりきっていた。


(友人はきっと彼女好みの可愛い兎になって幸せ兎生活を堪能しているはずだ)

この『兎人族』は十分彼女の好みにはまっていた。


「一番近くにある『兎人族』の町はここだね、かなり遠いよ、てか、フィーたんが前に住んでた町のが近かったんだね」

「え、ほんと! 」


地図を指し示してもらう。

何と。産まれ故郷の近くにあったとは。


(私ここ見に行きたい! )

「良いけど、遠すぎて長旅になるよ」


あの子にあえるかもしれない期待でフィオナはドキドキした。




家に帰りヴェラにもその事を話した。

すると話を聞いていた彼女はうーむと少し首を傾け頬に手を当てた。


「フィーちゃん、その町には沢山『兎人族』さんがいるんでしょ? その中からどうやって親友を見つけ出すの? 」


「「あ」」

レギアスとフィオナは同時に気付いた。


「それに見つけ出せるとして、探し当てるのに数日じゃ終わらないんじゃないかしら? 」

(でも、私と同じ年の女の子で、転生の記憶がある子だよ⁉ きっと魔法が使えたりして、目立っているかも)

フィオナはヴェラが座っている隣の椅子によじ登って食い下がる。

ヴェラは困った顔で言う

「もしそうだとして、聞き込みで探すの? どうして?って怪しまれてしまうんじゃないかしら? 」

(だけど、親友は転生の時に私ほど神に注文を付けてなかったの! もしかしたら大変な状況にいるかもしれない…)

フィオナは勢い余って浮き上がる。

「たくさんの『兎人族』の中からたった一匹を探すのは簡単じゃないわ、まず私達が信頼されないといけない、長期間その土地に根を下ろして探す必要があるわよ? 」

(だって…! いるかもしれないんだよ⁉ )


ヴェラは悲しそうな顔をして、それからフィオナを抱きしめた。

「フィーちゃん、よく考えて、頭ごなしに否定しているんじゃないの、まずフィーちゃんは赤ちゃんじゃない? 」

(そう…だけど…)

「健康と発育の為に、体を鍛える約束をして、ダナン幼児学校に入学したばかりじゃない? 数日旅行で行く分には良いけど、そうじゃないならまず決めた約束を果たしましょ」


(仰るとおりです…)

フィオナの体はまだまだ未熟だ。

そんな状況で長期旅行など無茶な話だったと落胆した。



「わ~! フィーたん、期待させてごめんね、何か、いけばなんとかなると思ってた! 」

「レギアス…」

謝るレギアス。それを呆れてみつめるヴェラ。


フィオナは目的は出来たけど、それにはもっともっと大人になる必要があると痛感したのだった。


(すぐ迎えに行けなくてごめんね。私頑張るから…)

フィオナはその夜2人が見てないところでメソメソ泣いた。

ロード夫妻にはバレバレだったが、フィオナをそっと一人にしてくれた。


フィオナはいっそう日常訓練に励んだ。

勿論、無理をしないよう大人が見ている所で。





頑張ると決めた日から、フィオナは学校にもアントノフカにもだいぶ慣れた。


ダナン幼児学校が終わった後に、レギアスといろんなお店を見て回る気持ちの余裕もできてきた。

学校の散歩で、顔見知りの町の人が増えたし、よく挨拶や雑談をしてくれるのが嬉しい。

昼間学校の催しで、教会に遊びに行った時は、神父さんがいろんな話を聞かせてくれた。

昔話や、民話や説法。フィオナはこれらのファンタジーなお話が大好きだ。


学校終了後にレギアスが遅れたり、すぐに来られない日は、それらの人達が近くの露店でお菓子を買ってくれたりした。


前世、人の優しさに触れる機会の少なかったフィオナは、親切な人の多いアントノフカの事が好きになった。




今日は休日。ダナン幼児学校はお休みの日だ。

そんな日は決まってミアとノルが家にやってくる。


「フィオナちゃん、あそぼ」

「すいません、何日も前からフィオナちゃんに会いたいって言ってきかなくって…」

毎週くる2人のセリフも決まってきた。


レギアスとヴェラは特に気にした風も無く、「遊びたい盛りだもんね」等と言っている。


(私魔法とか勉強とかしたいんだけど…)

一応ダナン幼児学校で魔法を使った遊びや簡単なお勉強もするが、フィオナがやりたいのはもっとつっこんだ将来役に立ちそうな勉強なのだ。


(1週間ずっと幼児のお世話じゃん、私は思いっきり自分の時間も欲しいのですが)

「たまには息抜きに変わった事しようか、森にピクニックにいく? 」

フィオナの文句を聞いていたレギアスが提案した。


「えっ」

「森に…!? 」


驚くノルと喜ぶフィオナ。

山の谷間村は森に囲まれているが、フィオナは森探索をしたことが無い。

なぜなら魔物除けが村では効いているが、村から離れると当たり前のように獰猛な大型魔物が襲ってくるからだ。


狂暴な魔物と厳しい冬、そして超の付く山奥の中であることが、この村に人を寄せ付けない主な理由だ。

(あ、でも私も危ないのは反対だよ、ミア達の前じゃヘアピン外せないし、私戦闘訓練まだ積んでないもの)

まだ、と言い切るフィオナは将来有能な冒険者になる願望があるからだ。


「だいじょーぶ、ピクニックはここのすぐ裏手の森なんだ、家を増築しようと思って切り開いてる所なの、魔物除けも張り終わってるから」

「そうなんですね、安心しました」

ノルがほっとする。



(確かに最近裏手を切り開いてるって言ってたなぁ、庭や畑を拡張するのかな? )

ぼんやりとフィオナは思った。

「それに何か来ても僕とヴェラが守っちゃうから安心して! 」

バチコーンとレギアスはウィンクした。


「急に決めちゃうんだから、でもいいアイデアね、レギアス」

ヴェラがパンと野菜とハムを魔法でスライスして調味料を振りかけてすばやく容器につめた。

大きなバスケットと冷やして置いたハーブティー、それから大きな布が飛んできて、全部バスケットに納まった。

「さ、行きましょうか」

(準備はやー! )

ぽかーんとしているミアの手をひっぱって一行は家の裏手に向かった。




可愛らしい庭には奥に続く新しい小道が出来ており、道なりに切り株がてんてんと残されている。

「この小道に木板を並べるかレンガを敷こうか悩んでいるのよね。木板が可愛いけど雨で腐ったら悲しいし…」

等と道すがら話している。

「ほら、ここら辺は野苺が生えているんだよ、摘んでこうね」

といって空の編みかごに苺を摘みいれて行った。

これだけでミアは割と楽しそうだ。フィオナも初めて訪れる場所を楽しんでいる。




数分も歩かないうちに開けた場所は行き止まりになった。

ヴェラは大きくちょうどいい切り株に食材とハーブティを並べ、草むらに大きな布を敷いて皆で座れるようにしてくれた。

(大きな布を敷くのも風をおこしてあっという間なんだから魔法って便利だよなー)

とフィオナは思った。


苺はレギアスが近くにある山の湧き水で洗ってくれた。

「さ、サンドイッチ食べましょう、パンに好きな具材を挟んでねー」

とヴェラは言った。

先ほど家でスライスした野菜やハムが並んでいる。


レギアスとフィオナはハム多めのサンドイッチを作った。

ヴェラはバランスよく見た目も美しいサンドイッチを。

ノルは野菜が好きなようだ。

ミアはなんと摘んだ野苺をサンドイッチに入れて食べている。


「ミアそれおいしい? 」

「おいひい」

あむあむと嬉しそうにミアは食べていた。

真似して食べたら意外といけた。




帰宅後。

ミアと魔法書や文字の教科書を一緒に読んでみた。


ミアには難しいかなと思い避けていたのだが、これが案外ちゃんとミアは付き合ってくれた。


フィオナがミアに合わせて教えれば、ミアが理解し覚えてくれるのは喜びがあった。

それにミアが賢い子だという事もわかった。


これにはフィオナも味をしめた。

またミアが遊びに来たら勉強に巻き込んでしまえばいいのだ。


将来の為に勉強する時間もなんとか手に入れたフィオナは一層健康な赤ちゃんに近づきつつあった。






学校も町も休日も満喫し始めたある日。

珍しく休日にノルとミアが来なかった。


久しぶりにのびのびと羽を伸ばしていたフィオナに、ロード夫妻が真面目な顔で声をかけてきた。

「大事な話がある」との事で、3人は居間のチェアに腰掛けた。




「フィーたん、今日は変装魔法を教えるよ」

「え? うれしいけど、なんで? 」

魔法を教わるなんて初めてだ。



「フィーたん自覚ないけど、なんども誘拐されそうになってるから」

「え? …え? 」

寝耳に水。


「ゆうかい? 」

(なにそれ、どこで? いつ? 心当たりがないんですけど)


「僕たちも初めはそれが誘拐だなんて気付かなかったけどね」

レギアスは溜息をついた。隣のヴェラは少し悲しそうだ。


「僕はねフィーたん、お迎えが遅くなった事なんて一度も無いんだよ」

レギアスの衝撃発言に、フィオナの頭は真っ白になる。




フィオナは忘れているが、転生前に言った『ぶっ壊れ性能でハイエンドな美少女になりたい』という希望を神はきちんと叶えていた。

そのとおりにフィオナは成長するにつれて人として規格外な美しさが際立つようになってきた。

フィオナの容姿は常人の理解を越えている、人目見れば目を奪われ脳が理解できず一瞬停止する。



そんなフィオナにやがて信仰の対象として崇めたり、匿ってあげたいと異常な過保護性をだすものが現れだしたのだ。



フィオナがアントノフカの街に通うようになり、そこで見知った人間や知り合いも増えていく。

今までフィオナに良くしてくれていた夫人がそのままのノリで自宅に連れ込もうとしたり、いつも遠くからフィオナを見守っていた知らない人が連れ去ろうとしたり、いつもフィオナに善意でお菓子やおもちゃをくれた老人が薬物を混入させたものを食べさせようとしたりする。


そのつど未然にロード夫妻が防いでいた。

問い詰めると我に返り、私は何て事をと泣きながら謝罪してくれて大抵悪意がないのが厄介であった。





(え、え、えー本当に気付かなかった…親切してくれる人ばっかりだったし…)

フィオナは街の人の親切が誘拐だったと知ってショックだった。


「フィーちゃん誤解しないで欲しいんだけれど、一部の人だけよ、ただの親切な人もいっぱいいるわ」

ヴェラがフィオナを抱きしめてよしよしとなだめた。


「うん、僕たちもフィーたんに怯えて欲しくないし、自衛出来るようになってから伝える予定だったんだ」


ロード夫妻はフィオナを守る為、フィオナと自分達に魔法をかけていた。

それは端からみると全く別人に見える魔法だ。

それによりフィオナが誘拐される事がぴたりとなくなった。




「そういう訳だから、フィーたんもこの魔法を使えるようになってください」

「フィーちゃんとても可愛いのに残念だわ、でも、心配だから、お願いフィーちゃん」

ロード夫妻に懇願される。


(自分の見た目そんな事になってたんだ…むしろ、なんかごめんなさい、私の為に迷惑かけました)

「迷惑はいいのよ、今回の事は謝らないで、フィーちゃん」

「僕たちに守られる時は守られててよ、フィーたん」

夫妻はフィオナをよしよしと励ましてくれた。


フィオナは二人の優しさに心が温かくなった。

(わかった、魔法おしえて)


***


「フィーたんに教えるのは、自分の回りに偽りの姿の幻を移す魔法だよ」

レギアスが説明する

「近くにいる人でも気付かないように精密に自分の回りにはるんだよ」


レギアスが自分の顔半分に別の人の顔を移した。

横をむいても立体的に頭部をつつんでいるのがわかる。


レギアスはあっかんべーをした。顔の造形が違うから指が頬に貫通してみえたりする。

それに首の境い目も違う人の肌の色だから違和感がある。


(ちゃんと見えたり変に見えたりして、頭が混乱する…)

「おかしくみえるでしょ、こんな風に全身にはらないと変な感じになるよ」


つぎにレギアスは全身に幻をはった。

あっかんべーは頬を貫通しないし、全く別の人間がそこにいた。


「凄いね! 」

フィオナは感動して素直に褒めた。

それにレギアスはにっこり嬉しそうだ。

「でっしょ」



「で、フィーたんと僕とヴェラのまわりに幻をはると、僕たち3人からは幻が見えなくなります」

レギアスはいつもの姿に戻った。

「今もはってるの? 」

「はってるよ」

(言われてみれば微かに魔力の流れを感じるような…いや気のせいか? )


「何で普通にみえるの? 」

「幻には裏と表を作っているからだよ」

「裏と表? 」


「外から見たら幻の姿に見えるけど、内側からは幻を透かして外が見えるようにしてあるよ」

フィオナは頭が『?』でいっぱいになった。

「まぁそういう感じにしてるよ」


「この魔法の注意点として、魔法発動者より認識が強い人や、真実を見ようとする気概がある人にはきかない事もあるよ、でも通りすがりの人に急に強い興味をもつ事なんてどうないから、始めから疑われてない限りまずばれないよ」


(わかったようなわからないような)

「そういう物だと思ってやってみたら良いよ、この世界の全ては魔法で出来ているんだ、やって出来ないことはない! 」



こうしてフィオナはレギアスによる理屈より感性! な脳筋授業がはじまったのだった。


因みにヴェラは途中から夕飯をつくりに出ていった。




その夜。

フィオナは姿見で自分の姿を眺めてみた。


王族の血筋が入った本来のフィオナは金髪に青い目だったのだが、最近は髪や目や爪が魔石にような青紫色が薄く入るようになった。


ハイエンドなフィオナが人間限界の魔力に耐え切れず人間をやめ始めているのだがそんな事フィオナはこれっぽちも気付いでいない。


フィオナの外見は頭の先から爪の先まできめ細かく造士が深い。

生命を賛美するかのような突き抜けた健康的な美しさと、神に造られたかのような非現実な神秘性を併せ持っている。


肌は程よく白く健康できめ細かく、どういうわけかシミや黒子が一つも無い。

美しく灯りを反射して輝いているような気さえする。


瞳はどこまでも魅力的で、目が合えば離すことが難しいほどだ。

髪は艶やかに煌めき、風にゆれれば見た物の意識を飛ばしてしまいそうな美しさ。


顔が左右対称など当たり前の事。

他に類をみない顔なのに、想像していた理想の顔を思わせる。

それでいてどこまでも非現実な美しさを突き付けて来るアンビバレンスな顔をしている。


体の未発達な部分はこれから健やかに育つ事を思い、涙を誘う。


声は美しく命を、神を、世界を、何かとても尊い者を象徴させる音色をしていた。




(可愛いていうより、綺麗系な見た目をしてるかな、前世よりフリルやレースとかいろんな服が似合う体になったの嬉しいな)

フィオナ的には見慣れてるので鏡を見て失神などしない。


(あの神はちゃんと要望を叶えて素敵な体を作ってくれたようだ、それがやりすぎて今回変な事になっちゃったわけね)

フィオナは極めて冷静に判断した。

(知ってる大人にも、知らない大人にもついて行かない様にしよう、窮屈だけどレギアスが来るまで学校の教室から出ないようにして…私赤ちゃんなんだから…)

前世の記憶があるせいで、妙に冷静なお子様のフィオナはうんうんと納得したように頷いた。






変装魔法の特訓が始まってから数日が過ぎた夜。

ロード家は夕飯を終え、各々が好きな作業をしていた。


フィオナは暖炉そばの椅子に腰掛けている。

レギアスは木工を、ヴェラは入浴の支度をしている。


ロード夫妻は疲れ知らずというか、夢中になると夜も寝ずに作業が出来る。

夜に趣味の作業をして、フィオナが眠ると眠り、朝が来たらいつもの農作業に戻っていく。

(まるで私にあわせて夜眠ってくれてるみたい)とフィオナは思った。


居間にはこの星の時計の魔道具がある。

これで今日が何日の何時かわかるのだ。

音はなく静かに時間と日付の針が動いている。




フィオナは熊のぬいぐるみに幻をおおって変装魔法の訓練をしていた。

(幻…幻)

ぬいぐるみの体にそって、可愛い熊が可愛い虎になった。


「うん、幻の創造は出来るようになったね、さすがフィーたん、次に進んで良さそうだ」


レギアスがノミを置いて声をかけてきた。

「次は自分の体の形を把握する特訓だよ、自分の魔力を神経みたいにして、全身の表面を包み込むの、手は使わないで、服の上や髪の毛1本の表面にすら神経で包んで、」


レギアスが魔力で細くて青い糸を何本も作り出した。

それがニョキニョキとレギアスの服の表面や靴先、指先とあっという間に全身を包んだ。

「見えるよう青くするとこんな感じ」


「レギパパ、ちょっとかがんであたまみせて。」


フィオナが近付いてよくみると顔の眉毛や産毛、あたまの髪の1本まで魔力で覆われている。


「凄いね」

フィオナが褒めた。

青いレギアスから笑い声が聞こえた。


「これを目指していくよ、一気に全身は難しいから、まず魔力を神経にした糸で靴をおおってみてね、五感全部入れる必要はないけど、触感がないと自分の体が把握出来ないよ、痛覚は鋭くしない方がいいよ、まぁそこら辺の調整はやれば解ってくると思う」


では頑張って! と全身の青い神経を消してレギアスは自分の作業に戻っていった。


(すっげー魔法使いって感じ! カッコいいなー! )

フィオナは感動した。


(よし! 私もあんな風にそつなくこなせるようになるぞ! )

格好いい未来の自分に想いをはせてフィオナは更にやる気がでた。





数日後、フィオナは全身を魔力で包むことがあっさり出来るようになった。


不思議だが今では目を閉じていても自分の全身を把握することが出来る。

髪1本のながれ、靴が大地と摩擦する感覚を感じる。


訓練をつめば範囲を広げて体の外の事も見ずに解るようになりそうだとフィオナは感じた。


面白くなってフィオナは目を閉じたまま生活してみようとした。

が、体の外まで集中を維持する事が出来ず、素早く動こうとすると何かにぶつかってしまった。


「フィーたん危ないよ、ストップ! 」

レギアスに捕まったらしい。

フィオナは目を閉じたままレギアスの方へ認識を広げた。


が、レギアスの形をよく捉える事が出来ない。

何となく力のかたまりがあるようだがよく解らない。


「フィーたんにはまだ早いよ、成長すればもっと複雑な魔法が使えるようになるから、焦らないで、危ないから目を開けて訓練して」


レギアスに注意されフィオナはしぶしぶ目を開けた。


「レギパパよくわからなかった! 」

「そうでしょうとも、僕はフィーたんよりずっと先輩の魔法使いだからね、簡単には見えないよ」


クスクスレギアスが笑う。


「フィーたんも後々魔法の目で見られても平気なように訓練するからね、でもまずは全身に幻をかけられるようになりましょう」

「あい! 」

フィオナは元気よく返事をした。

魔法の訓練はフィオナにとってとても楽しいものなのだ。


「じゃあ次は幻に使うモデルが必要だね」



その日の夕方。

村人達が仕事を終えて家で夕飯のしたくをしている時間だ。

この日はミア親子とロード家で食事を取る約束をしていた。


会場はロード家の居間。

倉庫から手作りのテーブルや椅子を引っ張り出して人数分用意する。

フィオナは魔法で食器の盛り付けを少し手伝った。


コンコン「こんばんは」

めったに使われないドアノックが仕事をして、ノルの声がした。

「あ、来たみたいね、フィーちゃん一緒にお向かいしましょう」

「うん」


ヴェラと一緒にフィオナは玄関に向かい、ドアを開けてミア親子を歓迎した。


「いらっしゃいノル、ミアちゃん、来てくれてありがとう」

「おじゃまします」

「おじまちます」

ミアがノルを真似て挨拶した。


「いらっしゃいませ」

フィオナも挨拶をかえした。



ノルは野菜の煮物と、山でとれた果物で作った甘いお茶を振る舞ってくれた。


ロード夫妻が焼いた雑穀パンと野菜のスープ、魔物のハムもあわせてテーブルにのせていった。

いつもよりちょっと具材や量が豪華な事にフィオナは気付いた。


子供用の椅子にミアとフィオナは座らされ、各自席に着いた。

「じゃあいただきましょうか」

食事の挨拶をして食事が始まった。

ヴェラはこういった会が出来て嬉しいと笑って言った。レギアスも嬉しそうだ。


ノルもミアも問題なく食べている。

途中で焼けた魔物の肉塊をテーブルにうつして切り分けた。


(肉うま~)

フィオナは謎の魔物肉を沢山食べた。

ミアとフィオナはまだ乳歯が生え揃ってないので、喉につまらないよう大人に小さく切ってよそってもらった。


「かーしゃん、おかわりとって」

「どうぞ、ミア」

見てると普段無口なミアは、母親の前では割と喋れるようだ。

ノルに秘密喋りのようにこそっと話しかけている。

「ミアちゃん、いつもフィーちゃんと仲良くしてくれてありがとうね」

レギアスがミアに言う。

「…」

顔を赤くしてミアは頷いた。

レギアスやヴェラが話題をふるとつっかえるから、人見知りなのかなとフィオナは思った。



食事が済んでノルが用意してくれた果物のお茶を飲む。

ヴェラが合わせて焼き菓子を出してくれた。


「あま~い」

お茶はほんのり甘いジュースみたいで飲みやすかった。

フィオナは美味しくて自然と笑みが溢れた。

ミアもコクコク飲んでいる。



「フィーたん、ミアちゃんにお願いがあるでしょう? 」


話の区切りでレギアスがフィオナに話しかけた。

晩餐の前に決めていた事だ。フィオナは頷いて口を拭った。


「のるでぃあなさん、みあ、おねがいがあります」


「…? 」

ミアはお菓子を頬張りながらフィオナを見た。

「何かしらフィオナさん」

ノルが訪ねる。


「わたしにみあの、すがたをつかわせてください」

フィオナは勇気を出して言った。





先日、レギアスから説明された魔法の訓練は幻のモデルを用意する事。

実在する人間をよく観察し、よく理解し覚えること。

そうしないとリアルな幻は再現出来ないのだとレギアスは説明した。


「フィーたんと体型もあまり変わらない人の方が更に望ましいんだけど、ちょうど近所にフィーたんと同い年で背格好が似ている子がいるよね? 」

「みあ! 」

「そう。ミアちゃんにモデルになって貰えないか頼んでみよう、勿論、ミアちゃんの姿を借りるんだから、変装して失礼な事に使っちゃ駄目だよ、約束してね」

「あい! しない! 」


そんなやりとりがあった。





「…」

ミアはしばし沈黙した。

フィオナは心臓がヒューと凍りつくような気分になった。



「…いぃよ」


しばらく間を置いてミアが返事をした。

フィオナは頭をあげてミアの顔を覗き込む。


「…ふぃおなちゃんわたちになる…おかねもたくさん、もらえる…」

ノルもミアの横で頷いた。

フィオナはびっくりしてロード夫妻を見上げた。


実は事前にロード夫妻とノルで話し合いを済ませていた。



フィオナが変装する必要があり、その為にミアの姿を魔法でそっくり使わせてほしいこと。

その契約料をノルの家へ支払う旨を話していた。


それに対してノルはミアに意見を聞いてから返事すると答えたのだった。



「…わたちも…じょうけんある」

「じょうけん? 」

フィオナはごくりと唾をのみこんだ。


「ふぃおなちゃん、あそぶじかんへった」

「あそぶじかん? 」


「もっと、いっしょにあそんで! 」

「…それでいいの? みあ」


「あそんで」

ミアは強く頷いた。


フィオナは平日学校に通っていたので土日しかミアは会えなくなった。

それがミアは寂しかった。


「わかった、ミアともっとあそぶよ」

フィオナは平日もミアを訪ねる事に決めた。

フィオナが言うとミアはニコッと、とても嬉しそうな顔になった。


「ありがとぉ! 」

「こちらこそ、ミア」




ミアから了承を得たのでロード夫妻とノルは話をつめて契約書づくりを始めた。

姿の使用料を払うこと、その姿で悪事やミアの不利益になる事をしない約束。契約を破った場合の措置など。


このおかげでミア親子の生計は今後かなり楽になるのであった。


(早く働けるようになって私が契約料払えるようになりたい)

フィオナは胸に誓った。



「フィオナちゃんあそぼ」

お菓子を食べ終わり大人達も難しい話し合いを始めたのでミアは席から下りてフィオナに近づいて来た。


レギアスが「遊んでおいで」と許可してくれたのでフィオナも椅子から下りおもちゃをミアととりに居間を出た。


「これからおせわになりまちゅ、みあ」

「…ん」

ミアはいつものぼんやりした様子でわかっているのかフィオナにはわからない。


(いつか断られちゃうかもな、でも今はありがたく思おう、ミアにもいっぱい良くしよう)



フィオナはいろんな人の世話になってる事を再認識した。





フィオナがダナン幼児学校からの帰り、定期的に郵便局で届け物がないか確認する。

いつもの様に受付から郵便物を確認し、レギアスが封筒を受け取った。


「ゆうびん、きょう、あるね」

フィオナが封筒の内容を見ているレギアスに聞いた。

「んー、うん、ミアちゃんの契約書が無事登録されたってさ」

読みながらレギアスが答えた。


この世界では契約書が法的な力を持つために、司法を司る機関に登録と保管をしてもらう風習がある。


これによって決まりを破れば公的に罰せられるらしい。

契約書の控えはロード家とノア家に1通ずつある。


契約書が完成して法律的な手続きを終えた。

魔法の特訓の再開だ。


「これで手続きも完了したし、修行の続きが始められるよ」

「しゅぎょう! 」





フィオナはミアの姿をよく観察するのが日課になった。

近くでじーっと眺めたり、髪の質感を見せてもらったり。


ロード夫妻が送ってくれたおかげで、フィオナと会う日はお揃いの服をミアに着てもらっている。

夜ミアに会えない時は昼間着ていた服を眺めてイメージを固めて行った。

もちろん靴や帽子も。


フィオナに眺められるとミアは照れて顔が真っ赤になってしまう。

なのでなるべくいつも通りにしてもらうように努めた。

初めは照れていても、一緒に遊んだりして慣れてもらえばいつもの調子を取り戻してくれる。


フィオナは遊び上手な方ではなかったが、ネタに困った時はダナン幼児学校で行った事をすればミアは喜んでくれた。


ミア自信もフィオナに付き合って魔法練習をしていたので上達してきた。

そよ風を起こしたり、小雨を自分の体の周囲にふらせるのが得意なようだ。


2人でドールハウスで小さな人形を動かして遊ぶのが最近のブームである。

(魔法で動かす前提だからか、この世界のお人形やおもちゃの家具は細かく動くように出来ていて凄い! )

ついついミニチュアをロード夫妻におねだりしてしまったフィオナだった。




他の村人には内緒だが、ノルを連れてミアとロード家で石板を通りアントノフカに遊びに行く頻度も増えて行った。


アントノフカは実はかなり遠くにある街なのだと、ノルに教わってフィオナはようやく知った。

一年中寒い国にある大都市だそうだ。


フィオナの勉強の為に大都市に通わせてくれた両親にフィオナは深く感謝したのであった。


_______

コイフ6歳 ③はじめての街



コイフは6歳になった。



初めて貴族居住区を出て、街の中央にある高等薬学舎に進学した。

東兎人国ひがしうさひとくにの薬学の最高学府である。


大通りに桜並木のある素敵な学舎だ。


コイフは布のナップザックを背負って、春風に帽子コイフが攫われないように頭を抑えた。

緑の良い匂いがする。


敷地内に、薬草の為の畑や温室が立ち並び、立木や低木も道を瑞々しく彩りながら圧迫感なく用途ごとに区画を分けている。

大きな建物も小さな建物も、伝統的な丸い建物もたくさんあって、コイフにはどこが自分の学び舎になるのかわからなかった。けれどきょろきょろと見て回るだけで楽しい。

学校の中だけれど、何しろ生まれて初めての下町だ。


小道に入って一番奥にあるのは寄宿舎だ。教え処よりも小さいけれど、よく似た木造の建物で、屋根が水色に塗られていた。


「わぁ~! どこもかしこも綺麗なのよ! 」

玄関を開けると三和土があり、上がり框に似た足ふき場があって、正面に小さい踊り場。

右には階段があり、踊り場から左右に続く廊下がある。

コイフは磨かれた木の階段を軽快に登って、二階の左端、事前に割り振られた部屋に入って窓を開け、空気をお腹いっぱい吸い込む。


「とってもすてき、わくわくするのよ」

兎人うさひと族の6歳は、大人と子供の間。

素敵でキュートなお姉さんの年齢だ、とコイフは思っている。


それに昨日まで、おばあちゃんのベル先生の妹さん、クレア薬師の私塾に泊まり込んで、みっちり薬学のおさらいと予習を叩き込まれていたのだから、その達成感と解放感でいっぱいだった。



寄宿舎は基本的に相部屋で、扉が開け放たれたままだったから、コイフのシェアメイトはまだ来ていない様だ。


入り口のドアは外開きで、手前に備え付けの寝床が2つ。奥には窓があってチェスト付きの勉強机が2つ。

左右対称に並んでいて、コイフの机は向かって右側と指示されている。


コイフは部屋の掃除と荷物の整理を始めた。

箒をどこから借りようか一瞬悩んだけれども、掃き出す塵もないくらい床はピカピカだった。

「すごいのよ、薬学は清潔に! ベル先生もクレア薬師も仰ってたのよ、だから清潔なのだわ、新しい服を織ってきて正解だったのよ」


入学式の為にコイフは二枚のワンピースを作って来た。

一つはお花の刺繍を入れた黄色麻のワンピース。

もう一つは、今着ている袖口に鉤編みで、春告げ花のモチーフを編み込んだ木綿のワンピース。ウエストに巻く帯も自作だ。

教え処と進学魔法学舎の5年間でせっせと織って編んだお気に入りの二枚だった。

麻の寝間着と着古した伝統模様のワンピース、足布と下着とタオルをチェストにしまう。


高等薬学舎OGのお姉様から頂いたお古の薬学辞典に教本と筆記用具の木炭に、わら半紙を紙紐で縫い留めた一般的なノートを机にしまった。


最後にコイフが火魔法で作ったモザイクの花瓶を机に置き、花を飾る。

「井戸か水瓶を探しに行くのよ」


コイフは空のナップザックを机の下に置いて前庭に出た。

階段を下りて、年期が入っているけれど、清潔に保たれた観音開きのドアを開ける。

「きっと畑の近くにあるのよ、でなくっちゃ水やりが大変なのよ」


前庭には寄宿舎の1部屋程のこじんまりとした温室があり、ブナの立木が1本と、玄関に続く小道、反対には同じくらいの大きさの畑がある。それらをつつじの低木が囲んでいる。


ふわりと蜜柑の青い匂いがして振り向くと、お目当ての物があった。


若木の蜜柑と寄宿舎の間に瓶がある。

その上に雨どいがあり雨水が貯められていた。

奥にある屋根付きのスペースは薪置き場のようだ。

コイフは、花瓶一杯に水を汲むと、くるくると踊りながら部屋に帰る。


「進学舎はとっても大変だったけど、とっても楽しかったのよ、きっとここもとっても楽しいわ! 」

気分が良くなってステップを踏む。

「けせらせら~♪わっれば♪うぃるびーうぃるび~♪ふんふん♪」

歌も歌う。

自室に入った瞬間、何かにつまずいた。


「ぷああ! 」

「ひゃあ! 」

コイフは情けなく鼻を鳴らしてしまう。

目の前の花瓶の水が半分零れた、良かった、半分残っている。

「じゃなくって! 」

明らかに誰かとぶつかった、多分同室の、うづくまっている誰かだ。



コイフは兎人の柔軟な脚力で前方に着地し、軸足を支えに振り返る。

「ごめんなさい! 大丈夫ですか? 」


「ぁ、う…いててなのさ。」

そこには生成りのワンピースを水で濡らした、ブラックオターのネザ-ランドドワーフの少女がいた。


「わたしの不注意なの、ごめんなさい、浮かれてて…今タオルをだすのよ」

「い、入り口で座ってたあーしも悪いのさ、ごめんなのさ」

コイフは彼女にタオルを渡した。


瞬間へらりと鷹揚に笑っていた少女がビクリと飛び跳ねた。


「こここっこれは! ききき貴族様とは知らずにとんだご無礼を‼ 」

少女はペタ―と平身低頭、床に突っ伏すように頭を下げる。

「ぷあ、え? な? 頭、あたま上げて欲しいのよ、とっても困るのよ! 」

それを聞いて少女は恐る恐る顔を上げる。

「こここ、こんな、ふわっふわな手ぬぐい見たこと無いのさ、きききっとあなたはお貴族様なのさ…! 」

少女はぶるぶる震えて、「へくち! 」とくしゃみをした。



コイフはようやく自分が貴族居住区を出た事を、身をもって理解した。


(貴族と言っても外交の為の役職なのだとしか思っていなかったけれど、そうか、貴族に会ったことのない者からすると、わたしは『何をするかわからない金持ちのとにかく偉い人』なのだ)と。


すとん、と理解すると同時にコイフは(そんなの嫌なのよ)と思った。


タオルを使わずぶるぶる震える彼女と同じように、コイフも膝をついて、それからタオルを奪って彼女を拭いた。

「ののの、のわーーー! もったいないのさ! あーしみたいな貧民を拭いたら手ぬぐいが汚れちまうのさ‼ 」

「風邪をひく方が駄目なのよ! それに、タオルは洗えばいいし、汚れるものなのよ」

ナニーにされたみたいにガシガシ拭く。

「乾いたのよ、お水かけてしまってごめんなさいなのよ…」

ぺこり、と頭を下げると茫然自失した少女は拭かれたままの態勢で固まっていた。


「わたしはコイフなの、あなたは同室のひと? 」

「あ、え、え? あーしはクロエ…」

コイフはクロエの手を取ってぎゅっと握る。

「よろしくなのよクロエ、はい握手、これでお友達なのよ! 」

「ととと、ともだっ、でもお貴族様では!? 」

「でも友達なのよ」

クロエは、「友達? でもお貴族様? でも友達??? 」と目を回している。


「ねぇクロエ、そろそろ入舎式なのよ、一緒に行かないかしら」

クロエはまた飛び上がる。

「ぷぁ! 入舎式⁉ わわわ忘れてたのさ! どーしよ、あーしこの1枚しか持ってないのさ! 入舎式って平民も金持ちもエラいせんせーもいるのさ? 不敬罪とかになっちゃうのさ⁉ 」

クロエがその場でびょんびょん飛び跳ねながら回転している。焦って混乱しているのだ。


ということはつまり、本当にこの1枚しか服を持っていないのかも、とコイフは思う。

「クロエ、そこに立ってほしいの、すぐ乾くのよ」

パニック状態のクロエがピン! とその場に立った。目をギュっと瞑って、もうどうにでもなれ、といった表情だ。


コイフはアスチルベットお姉様から教わった通りに温風を作り出してクロエを乾かした。

布は体よりも簡単に乾いて、その温かさにクロエもそろりと目を開ける。

「あったかいのさ」

「これ、気持ちいいなのよ」

コイフがへらり、と笑うと、クロエがようやくへらり。と広角を緩めた。

「同室のひとが、怖い人じゃなくって良かったのさ」

「わたしも同じ事考えてたのよ、さぁ乾いた、良かった染みも出来てない」

クロエはホッとしたように笑って、その場でくるりと回った。

「あーしが高等薬学舎に入学が決まった時、家族が有り金はたいて作ってくれたのさ」

生成りのワンピースに伝統帯。

「とっても素敵なのよ」


作って、とはつまり、生地を織って縫ってくれた、ということだ。

5年間かかったけれど2着も作れたコイフと、家族の全財産をはたいても1着しか作れなかったクロエ。

寝間着を持っているコイフと、持っていないクロエ。

貴族と貧民とはこういうことだ。


コイフは、(変えたいわ)と初めて国の事を思った。

(貧民でも、寝間着と普段着を持って入学出来るように、国を変えたいわ)と。


コイフはクロエの手を取る。

「さぁ入舎式に行くのよ、きっと楽しい学校生活になるのよー! 」

クロエも会った時の鷹揚な笑顔に戻って笑う。

「楽しみなのさー! 」


こうしてコイフにこの学舎で初めての友達が出来た。

「幸先がいいなのよー! 」

コイフはにっこり笑った。




コイフの高等薬学舎での生活が始まった。


入舎式は寄宿舎1階の食堂で行われる。

3年生が1年生を呼んで回り、奥に在舎生が、手前に1年生が座る。

今年の1年生は6人で、コイフとクロエは一番後ろの端だ。


食堂のドアが開いて、白衣に黒いストールを巻いた女性が入ってくる。

「私が舎長のノアです、新入生の皆さん、水色寄宿舎へようこそ」


入り口から入ってきたノア先生の見た目に、室内がざわつく。ライオンのチョコレートチンチラだ!


ライオンというのは獅子人ししひと族ではなくて、獅子人の男性のたてがみにそっくりな、立派なふわふわの毛をした兎人うさひとのことだ。

特にチョコレートチンチラというのは根元が茶色くて先がシルバーのグラデーションになっている毛並みを指していう。

なによりノア先生はとっても美人だった。


「ほああ…すっごい美人、女優さんみたいなのさ! 」

思わず、と言ったようにクロエが言った。

「ありがとう、よく言われます、あなた名前は? 」

舎長のノア先生が黒いストールを巻き直しながらこちらを見る。

「あーしは北の盆地地区から来ました! クロエといいます! お世話になります! 」

クロエは立ち上がり、素直に元気よく名前を名乗ってから直角にお辞儀をした。

舎長のノア先生が困ったようにチラとコイフを見た。

コイフも立ち上がる。

「はじめましてノア舎長先生、わたくしはクロエと同室のコイフと申します、本日からこちらにお世話になります、どうぞよろしくおねがいいたします」

コイフは失礼にならない程度の浅い礼をとってクロエに向き直り、小さい声で言う。

「クロエ、初対面の方の身体的特徴を殊更に言うのものではないのよ」

クロエは「あっ」と小さく言ってから耳をぺちょりと潰して「たいへん失礼しましたのさ! 」とまた元気に直角に礼をした。


舎長のノア先生は困ったように笑ってから続ける。

「皆さんがざわついたのもクロエさんと同じ理由だと思います、毎年この話からはじめることになるのですが、今年はコイフさんが言ってくれましたわ」

しんと新入生が静まり返る。

「私、とっても恥ずかしがり屋なもので、何年経っても慣れないの」

恥ずかしそうに顔を洗う舎長のノア先生を見て、何人かが安堵の息を吐いた。

その後ろでは、身に覚えのある先輩方が苦笑いをしている。


「では改めまして、ノアです、ここ水色舎と青色舎の舎長をしています。普段は青色舎の方に詰めていますけれど、なにか小さなことでも不安があったらすぐに相談にいらしてね」

「はい」と何人かが返事をした。

コイフとクロエも返事をして、椅子に座り直す。

舎長のノア先生はにっこり笑って、手元から何枚かの紙を取り出した。

「では、入舎式を始めます、お名前を呼ばれたら立って皆さんに挨拶してくださいね」


1年生の名前の確認と自己紹介、寄宿舎のルールと説明。

施設案内の後、3年生の副舎長が挨拶をして、舎長のノア先生が持っていた紙を玄関に張り出した。


「全員の名前と部屋割りね~、こっちは洗濯とか入浴とかの時間割~、これは掃除当番と~畑当番と~温室当番~、わかんない事あったら聞きに来て、あたし~3階の右端の部屋だから~」

気だるげに言うのは副舎長のユキ先輩、耳と口元だけがチョコレート色の白いホーランドロップの先輩だ。


各自洗濯室から貸し出しの布団を取って自室に戻った。




「はわ~、一時はどうなることかと思ったのさ~、助かったのさコイフ」

「いいなのよ、わたしも思ったことがそのまま出ちゃうタイプだから苦労したのよ、お互い様なのよ」

クロエは布団を抱きしめたまま寝床にダイブしてしまった。


「むむむ、思ったよりぺたんこなのよ」

コイフは寝床にセットした布団に魔法で温風を送ってふわふわにする。


教え処から使っていた寝床も布団も、もうコイフの背丈には合わなくなってしまった。

それらはお屋敷(コイフ達の生まれた、王妃様たちの住処だ)に戻されて、新しい兄弟のおねしょ用雑巾等に再利用される。



クロエの荷物や、寄宿舎からの支給品をあれこれ片づけたり仕舞ったり、話をしている内にすっかり夕暮れて、カランカランと鐘が鳴った。

初めての夕食の時間だ。

コイフは汚れても良いように着古した方のワンピースに着替えて、クロエに急かされながら1階の食堂に向かった。


舎の食堂の料理人はミニレッキスとフレンチロップのご夫婦だった。

「いっぱい食べなさいね~! 」とお皿に食事をよそってくれる。

「わわわ!タンポポなのさ! 」

クロエがうれしそうに言う。

「1年生の入学祝だよ」

コイフが見回すと、確かに先輩方のお皿にはタンポポは載っていない。

「とってもうれしいのよ! ありがとう女将さん! 」

コイフはお礼を言ってからクロエと席に着いた。


入寮式で聞いた通り、食事の時間は日の入りまでならいつ来てもいいみたいだ。

1年生から3年生の先輩まで様々いて、思ったより空いている。


「ななな? コイフ聞いても良いのさ? 」

あらかた食べ終わってミルクスープのお替りを飲んでいるクロエが、ないしょ話をするように聞いてきた。

「ないしょ話なの? 」

コイフも耳を近づける。

「コイフは魔法得意なのさ? 」

こしょこしょ吐息がかかってこそばゆい。

「とっても得意なのよ」

コイフは見栄を張った。

「コイフ寝床をふわふわにしてたのさ、あれって難しいのさ? 」

コイフはクロエが何を言いたいのかわかってしまって、うふふと笑ってしまう。

「クロエの服を乾かしたのと同じ魔法なのよ、とっても簡単なの! 」

と言うと、キラキラ瞳を輝かせたクロエが

「あーしのもやってほしいのさ! 」と言うので、部屋に戻ってからふかふかにした。




二人はふわふわのふとんに転がりながらはしゃいで、少しの間またおしゃべりをした。

「北の盆地地区ってどんなところなの? 」

「んー特になんもないのさ、不便で、日当たりが悪い分住民税が安いのさ、コイフは? お城ってどんなとこなのさ? 」

「わたしはお城に行ったことないなのよ」

「ええー⁉ お貴族様なのに? 」

「全員お屋敷から出たら教え処に行くのよ、これからもお貴族様として生きる覚悟のある兄弟だけが、お城に住むなのよ…! わたしの兄弟だとタナお姉様とポコお兄様」

「おねえさまおにいさま⁉ ホントにそんなふーに呼ぶのさ⁉ 」

「ホントなのよ~礼儀作法は息をするように躾けられるのよ~」

「じゃあコイフ、教え処みんな兄弟? 友達は? いないのさ? 」

「進学舎で一緒だった子達はみんな高等魔法学舎に行っちゃったのよ」

「なら、あーしの友達を紹介してやるのさ! 」

「やったー! ありがとうなのよクロエ! 」


二人、少しだけ離れたベッドで天井を見上げる。

知らない天井、これから毎日見る天井。


「授業、とっても楽しみなのよ」

「あーしも、すっごくわくわくしてるのさ」


クロエとコイフ、どちらともなくベッドサイドの蝋燭を消した。

真ん丸の月が明るく室内を照らしている。

コイフはお月様を見つめながら懐かしい旋律を口ずさむ。

「まんまる♪おーつきさーまー♪みてはーねーる♪」

「それなんて歌さ? 」

「忘れちゃったのよ」

「あはは、へんなのー! 」

クロエが笑ったのでコイフも笑った。

良い気分だった。


「おやすみなのさコイフ」

「おやすみなのよクロエ」

二人は明日からの授業を夢想しながら眠りについた。



次回更新は1月8日の土曜日です

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