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月夜譚 【No.101~No.200】

記憶の中の香り 【月夜譚No.128】

作者: 夏月七葉

 この甘い香りは、香水だろうか。

 ふわりと香った匂いに、彼は振り返った。しかし、その香りの主は雑踏に紛れて、もう姿が見えない。

 覚えのある香りだった。心の底からほっと安心できる――そう思える香りだ。

 だが、どうしてこの香りを知っているのか、何故安心できるのか、その理由は判らない。遥か昔のことだとは思うのだが、ぼんやりとした記憶は輪郭も判らず、ただ香りだけが鮮明に思い返される。

 昔、ということは子どもの頃のことなのだろうか。しかし、どういうわけかそうではないと、自分の中の何かが訴えかけてくる。

 不意に痛み出した頭を手で押さえたその時、彼の視線の先から髪の長い女性が駆けてきた。何かを思い出したように、少し焦った様子で真っ直ぐに彼の前にやってくる。

 彼女は肩で息をして、そのビー玉のように綺麗な瞳を彼に向けた。

 その瞬間、彼の脳裏に様々な映像が甦った。現代日本とは違う、西洋の街並み。色とりどりのドレスと、シックな色調の燕尾服。――そして、甘い香りを纏わせた、目の前にいる彼女と同じ雰囲気の、美しい女性。

 途端、両目から涙が零れ落ちた。思い出したのだ、全てを。

 目の前の彼女が表情を綻ばせると、彼は堪らなくなってその細い身体を抱き寄せた。

 自分はずっと探していたのだ。遥か昔に愛し、今は姿を変えた彼女のことを――。

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