プロローグ
俺はテンプレ異世界転生チートハーレム小説、いわゆる異世界チーレムが嫌いだ。
まず、タイトルが長い。長いだけならいいが要素が多過ぎる。絞れ。どうしたいんだ。
特にタイトルで勝負する気が全くない、ただ中身を説明しただけのアレ。つい敬遠してしまう。
突然始まるしょーもない自分語り。
毎度おなじみ転生トラック。
謎の空間。
やたらノリが軽い神様、のうっかりミス。
X倍になるステータス。
うんざりだ。
イキり散らかす兄。
やたら若い美形の父母。
幼馴染み、は女の子だった!?
月日が飛んで学生編。
首席入学とゴミのような挨拶。
やたら突っかかる生徒会長。
「あんたの実力試させてもらうわ!」
うんざりだ。
復活する魔王。
に遭遇、ワンパン。
「俺、なにかやっちゃった?」
もううんざりだ。
ダラダラと盛り上がりも失敗もしないヌルゲーを延々と見せられる。地獄だ。
こんなしょうもないもの見るくらいならカメの交尾でも見てる方がよっぽど面白い。
……それは少し言い過ぎたかもしれない。
何にせよ、このくだらないテンプレなろう小説ブームはいつになれば終わるのか。
2020年4月20日現在、未だに新たなクソ小説が生まれている。
と、まぁこんなこと思いながらも今日も書店で品定めをしているわけだが。
いやだって表紙買いとかあるじゃん。書籍版で別ルート見れるとか買っちゃうじゃん。おまけ書かれたら読まなきゃいけないじゃん。
店舗別特典で小冊子出すなんて!なんて極悪なんだ、テンプレなろう小説!
これは買わねば、買わねばならない。うごごごご。
染み付いた性はどれだけ毛嫌いしていようとも発揮される。
……最早これは業のような気もするが。
「あ、カバー付けてもらっていいですか」
ドンッ。
重くなったカバンを抱えて信号を待つ俺の背中に衝撃が。
「あだっ」
特典や書き下ろしに思いを馳せ、ついホクホクと浮かれていた俺は荷物を持つ手を滑らせた。
当然買い物袋は落下。買いたての小説達が地面に散らばる。
「うわわわわ」
「あああああごめんなさい、すいません」
焦った俺よりも早く、ぶつかった当人と思われる男性がしゃがんで拾う。
すみません、すみませんと繰り返しながら。
大丈夫ですよ、と声をかけながら俺も足元の本を拾う。
正直最初は一瞬ぶっ殺してやろうかと思ったが、カバーをしていたので助かった。偉いぞさっきの俺。あと雨でもないことも良かった。
彼は弁償を申し出たが、ご覧の通り折れてもないし傷もないので心配ご無用。
この間、俺は、俺たちは周りの状況を理解できていなかった。
それでもと引かない彼に何度も大丈夫だと言い、その場を去ろうと立ち上がった時だった。
交差点を曲がる大型トラックが、曲がりきれずにバランスを崩し始めていた。